アンタとはもう戦闘ってられんわ!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第20話(4)乱戦!準決勝Bブロック

「海江田⁉」

 

 海江田は咄嗟に機体のバランスを取り、なんとか体勢を立て直す。

 

「へえ~決まったと思ったのに……やるね~お姉さん」

 

「縮地法……古武術でよく見られる高速の移動方法か……それをロボットの戦闘において使ってくるとは! これじゃあ距離があってないようなものじゃないか!」

 

「少し落ち着け! 海江田!」

 

「! ……すまない」

 

 水狩田の言葉に海江田はすぐさま平静さを取り戻す。

 

「さて、どうする?」

 

「近距離戦ならスペックは恐らく向こうの方が上だろう……距離を取った方が良いね」

 

「しかし、縮地で距離を詰められるぞ」

 

「それなんだよね……」

 

 海江田はため息をつく。

 

「隙有り!」

 

「ちぃっ!」

 

「躱した⁉」

 

 シーサーウシュの拳が叩き付けられるが、海江田はインフィニ一号機を巧みに操縦し、その攻撃をすんでのところで躱してみせる。

 

「! 先ほどのパンチで負ったダメージで駆動系まではやられていない! 動ける! これはなんとかやれるか……? しかし、スペック差は如何ともしがたいか……」

 

「多少のスペック差は技量差で埋めればいい……」

 

 海江田の言葉に水狩田が呟く。

 

「それしかないか!」

 

 海江田は頭部のバルカンを発射し、シーサーウシュに命中させる。

 

「ぐっ!」

 

「少し離れて……ここだ!」

 

「ぬっ⁉」

 

 海江田はインフィニ一号機に鞭を振るわせ、シーサーウシュの左脚部に巻き付ける。

 

「そらっ!」

 

「うわっ⁉」

 

 インフィニ一号機は鞭を思い切り引っ張る。予期せぬ攻撃を喰らった形となったシーサーウシュは仰向けに倒れ込む。海江田が叫ぶ。

 

「水狩田!」

 

「もらった!」

 

 水狩田の駆るインフィニ二号機は倒れているシーサーウシュに対してマウントポジションを取り、右腕のクローを振り下ろす。

 

「おっと!」

 

「⁉ 逃がさん!」

 

 シーサーウシュはクローを躱すと同時に、その場から離れる。自分の機体から見て、左側に逃げようとするのを確認した水狩田はインフィニ二号機の左腕のクローを横に薙ぐ。シーサーウシュの背部を攻撃するイメージである。

 

「ほっ!」

 

「躱した⁉ どこだ⁉ 下か!」

 

「はっ!」

 

「ぐはっ! そ、そこからパンチが届くのか? い、いや、キックだと……?」

 

 水狩田は目を疑った。シーサーウシュが低い機体姿勢を保ったまま、右脚を振り上げ、インフィニ二号機の頭部を蹴りつけてきたからである。予測出来ない角度からの攻撃を受け、インフィニ二号機は倒れ込む。

 

「水狩田!」

 

「今度こそ隙有り!」

 

「! しまっ……どわっ!」

 

 シーサーウシュがあっという間にインフィニ一号機との距離を詰めた。海江田は鞭をほどいて、迎え撃とうとしたが、それよりも速く、シーサーウシュの左膝がインフィニ一号機の顔面を捉えた。インフィニ一号機も倒れ込む。

 

「わざわざ鞭で巻き付けてくれたから、今度は当てられたさ~」

 

 修羅の無邪気な言葉が響く。海江田が内心舌打ちしながら素早く考えを巡らす。

 

(ロボットパイロットとしてならキャリアの差で勝てると思ったけど……見通しが甘かった! 大星修羅、センスがずば抜けている! そして、このシーサーウシュという機体、詳細は分からないが、パイロットの動きをダイレクトに反映させることが出来る! ブレイクダンスでも踊っているような体勢からの蹴りにまさかのジャンピングニー……私たちの常識がまるで通用しない相手だ!)

 

「やっぱ思っていた通り、お姉さんたち強いね~もっと楽しもうさ~」

 

「そんなことを言っている場合じゃありませんよ!」

 

 シーサーウシュからいつきの叫び声がする。

 

「うお……い、いきなりどうしたのさ山田ちゃん……」

 

「仕留められるチャンスがあるならば、そこで確実に仕留めるべきです!」

 

「え~せっかく盛り上がってきたのに~?」

 

「盛り上がる必要はどこにもないんですよ! とどめを!」

 

「や、山田ちゃん、容赦ないね……まあ、言う通りではあるね~」

 

 修羅はシーサーウシュの右腕を振り上げる。海江田は顔をしかめる。

 

「くっ! 動けん!」

 

「終わりさ~!」

 

「『旋風』!」

 

「うおっと⁉」

 

 凄まじい風が吹き、シーサーウシュが機体のバランスを崩して転がる。

 

「……そのいけ好かへんお姉さんたちはうちたちの獲物どす……」

 

「ここで風神雷神か……」

 

 海江田は苦笑する。風神から風の怒りを抑えた声が聞こえる。

 

「さっき大層な言葉をおっしゃったのはどちらさんでっしゃろ?」

 

「ああ、そっちの青白い機体」

 

 海江田は機体の指を水狩田の機体に向ける。

 

「か、海江田⁉」

 

「雷……青白の機体はうちがやる。あんたは赤白の方を始末せい」

 

「分かりました……」

 

 風神と雷神がゆっくりとインフィニ二機との距離を詰める。

 

「ちょ、ちょっと待つさ!」

 

 シーサーウシュが体勢を立て直し、四機に近づく。風がドスのきいた声で尋ねる。

 

「……なにか?」

 

「俺も混ぜるさ~!」

 

「……あんさんの相手は後でゆっくりしたるさかい、そこで待っときなはれ」

 

「いやいや、除け者扱いは寂しいさ~!」

 

 修羅はシーサーウシュに構えを取らせる。風はイライラしたように呟く。

 

「……これはこれはまるで空気の読めない殿方どすな……雷、行くで!」

 

「はい!」

 

「『竜巻』!」

 

「どわっ⁉」

 

 シーサーウシュの機体が空に舞い上がる。雷神に乗る雷が叫ぶ。

 

「『落雷』!」

 

「ぐはっ⁉」

 

 シーサーウシュに雷が落ち、シーサーウシュはそのまま地面に叩きつけられる。

 

「風神の巻き起こす風で自由を奪い、雷神が雷の鉄槌を下す……分かっていてもまず回避の不可能な連携攻撃だ……」

 

「エ、エグいな……」

 

 海江田の解説に水狩田も息を呑む。風が呼びかける。

 

「……もし良かったら、あんさんたちも記念にどうどすか?」

 

「お、お断りするよ」

 

「何の記念だ……」

 

「ふ~ん、一瞬で終わるよりも嬲られるのがご希望ですか……」

 

「な、なんでそうなる⁉」

 

「覚悟しいや!」

 

「待った!」

 

「何やと⁉」

 

 シーサーウシュがよろめきながらも立ち上がる。雷が驚く。

 

「あ、あの直撃を受けて立ち上がるやと? なんちゅう頑丈な機体や……」

 

「ふん、どうせ死に体や、もう一度行くで! 『竜巻』!」

 

「『超縮地!』」

 

「なっ⁉」

 

 シーサーウシュは竜巻を躱し、あっという間に風神と雷神の懐に入った。

 

「風よりも疾く!」

 

「どわっ!」

 

「雷よりも激しく!」

 

「がはっ!」

 

 シーサーウシュが繰り出した拳と蹴りを喰らい、風神と雷神は崩れ落ちた。

 

「風神雷神、戦闘継続不可能と判断!」

 

「ど、どうやったんですか……今の高速移動……」

 

 いつきが不思議そうに尋ねる。

 

「ん~『もっと速く動け』と思ったら出来たさ~」

 

 修羅の呑気な声が響く。

 

「くっ!」

 

「うおっ⁉」

 

 白い煙が辺り一帯に立ち込める。海江田が煙幕弾を放ったのだ。

 

「今だ、水狩田! 退くぞ!」

 

「! 了解!」

 

 インフィニ二機は、その場から急いで離脱しようとする。海江田が頭を回転させる。

 

(卓越した格闘センスに加えて、戦いの中でも成長している……! 長年の勘が告げる、こいつはヤバい相手だ! とにかく体勢を立て直して……⁉)

 

 煙の中で感じた気配に向けて海江田と水狩田はライフルを発射させるが、突如ライフルが暴発し、二機のインフィニは崩れ落ちる。

 

「なっ……⁉」

 

「エテルネル=インフィニ、戦闘継続不可能と判断! よって、準決勝Bブロック、勝者、琉球海洋大学と越前ガラス工房!」

 

「はわわっ、ま、また、か、勝ってしまいましたよ、銀くん……」

 

「そ、そうですね、金ちゃん、ライフルが暴発してしまったんですね、気の毒に……」

 

 煙を上げて倒れ込んだインフィニ二機を二機の茶色い機体が見下ろしていた。


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