異議を握って立ち上がる
ログイン時に発生するエフェクトを後ろに、俺は脚を6本ほど
さて、今日も平和極まりない広場で俺がこの状態を維持するために使用している幾つものバグ技のうち一つのデメリットによって3秒ごとに発生する5倍に加速処理された怯みモーションをどうにか移動に利用できないか試していると、視界の中心に一人のプレイヤーが映って、
「ようサンラク、久し振りにログインしてるんだな」
と言った、彼は前述のような「顔見知り」の一人だが、その
「よう久し振りだな、ところでそれ視点とかどうなってんの?眼球がトリプルアクセルをキメたあとにすっ転んでるんだけど」
「ああ、これテクスチャはめっちゃぐわんぐわんなってるけど実態としては頭部に関するテクスチャ以外の
プレイヤーはポリゴンを顔面に張り付けたり剥がしたり1km以上先の空間に唐突に飛ばしたりしながら答えた。俺は怯みモーションを発生させつつ考察した。
「
「実はこれ発生条件わかってねーんだよなぁ……「ドッペルゲンガー」でどうにか「ヨーヨー」とキメラできないか試してたらなんかこうなったんだけど」
プレイヤーは手癖で頭を掻こうとするも頭の当たり判定を胴体に埋め込んだことを忘れていたせいでその手を空振らせて苦笑を浮かべ、その浮かべた苦笑の何かが悪かったせいでテクスチャの荒ぶりをより一層強めつつ答えた。マジかぁ……ドッペルゲンガーの開発者としてもぜひとも検証しておきたいところだなぁ……
俺は怯みモーションを発生させつつ考えた。そろそろ本題に入ろう。
「で、用件は?」
「え」
「普段のお前は知ってるプレイヤーに会っても「お、あいつか」みたいな顔をするだけでわざわざ挨拶をしに来るタイプじゃない。「ようサンラク」なんて話しかけてくるのは、何かしら用件があるからだろう……違うか?」
俺は怯みモーションをジャンプモーションでキャンセルできる可能性を検証するためジャンプしてみるもそのジャンプがまた別のバグのトリガーを引いてしまったらしく右親指のテクスチャのみを10倍ほどに肥大化させつつ言った。
「うーんその通りだ、やっぱりサンラクは流石だなぁ……クソゲーハンターを自負するだけのことはある」
「別にクソゲーとコミュニケーションは対して関係ねーだろ……よっ、と」
「ぐぇあ」
「あっすまん!!!!で、用件は?」
前に対戦したときモドルカッツォが使っていた「ショットガン」をこの親指の状態で使ったらどうなるのか検証すべく俺が放った
「大丈夫かーーー!!????、あーうん、それで用件なんだけど―――「R18触手アタック」ってあるじゃん?」
「モドルカッツォが作った奴か、あるなぁ」
「あれの名前、マズい気がするんだよ」
「へ?」
俺は逆立ちした状態なら怯みモーションを無効化できることに気付いて手を床につけつつ困惑した。なんで?別にR18でもいいじゃん。
「だってこれ全年齢ゲーだぜ?全年齢ゲーでR18触手アタックって言うのは、こう……なんかマズくないか?」
「いやでもさぁ、あれ実態としてせいぜいでPG12くらいだろPG12、たいしてヤバくはない気がするんだけど」
「でも名は体を表すっていうじゃん?作者がR18だと思ったらそれはR18な訳よ、いや例えばさぁ、「便秘」が何かの間違いで全国的漫画雑誌とかに掲載されたとするじゃん?そこでR18触手アタック、とか言ったらヤバいじゃんよ、だって全年齢だし」
「まず全国的漫画雑誌に便秘が掲載されるっていう前提がおかしいよ、何?編集部に何があったの?このデイリーログイン100人程度の新規もほとんどいないクソゲーをどうして全国的漫画雑誌に掲載するの?」
「いやとにかくさぁ、R18ってのはヤバいんだよ、R17やR16やR15には出せないヤバさがある、何なら多分このヤバさはR19とかにも出せないよ……本来上位互換なはずなのにさぁ、いやもうほんと実質『形容詞』みたいな?そういうところあるよ」
プレイヤーは妙に必死な様子だ。俺の心は若干揺れ動いた。逆立ちの軸も若干揺れ動いたため倒れそうになった。俺は体勢を立て直しつつ言った。
「うーーーーんまぁ確かに全国的漫画雑誌に仮にR18触手アタックが載ってしまったとしたらマズいかもしれない、載ってしまったとしたらな?載る可能性が10のマイナス1000乗%とかでも無いとは言い切れないもんな、それに備えて何かやっておくのは悪くないかもしれない」
俺は逆立ち状態なら怯みモーションは全く起こらないことを確認して自分が完全なる勝者であることを確信したがどうも実際は怯みモーションは発生しているがその発動が逆立ち中のためいったん保留されているに過ぎないらしいことに気付き、この自分を支えている九本のか細い指(と一本のとてつもなく太い指)が限界に達したとき一気に発動する蓄積された怯みモーションによって自分の身に何が起こるのか想像して身震いしつつ言った。確かに「R18」だと使用者が認識していればそれはR18だという考え方はあるかもしれない。
「じゃあなんだ、モドルカッツォに名前を変えるよう頼むか?」
「いやそれも違うんだよね、なんつーかこう、この便秘において「製作者がつけた名前は絶対」ってのは明確なルールなわけよ、鉄の掟なのね?それを捻じ曲げるのはやっぱよくないよ、よくない」
「なるほどなぁ……うーーーんとなるとどうするよ、「R18触手アタック」って文字列を人の目に触れないようにするんだろ?無理じゃね?」
「考えがある」
ほう。俺はついに逆立ちの維持が限界に達して尻餅をついたと同時にそれまでに蓄積された莫大な量の怯みモーションが一斉に襲い掛かってきたことでギュルンギュルンとX軸回転しつつ吹っ飛びながら聞く姿勢に移った。
「新技を作るんだ」
「うがががががががが新技あああああ!!!!?!??」
「そう――――上位互換の技が存在すれば、R18触手アタックは使われなくなり、代わりにそっちが使われるようになるはずだ。これで名前を変えなくてもR18触手アタックをこのゲームから消せる」
「なるほどなあああああああぐああああああああ!!!!!!!!!」
俺は最高潮に達した運動エネルギーでそのまま地面と衝突して死んだ。
◆
リスポーンして2、3のバグを使用しつつ高速移動でさっきいた場所に戻るも、あのポリゴンを荒ぶらせていた彼はいない。どこへ行ったのかと思ったら俺の後ろにいた。おいおい怖いな…………、というか―――――
「なんでお前顔のポリゴンが正常なの?」
俺は聞いた。そう、彼の肉体は通常時の物に戻っていたのだ。
「ああ、どうせサンラクが死ぬんだったら俺も死んで肉体変化系のバグをリセットしておいた方がいいかと思ってな」
なるほど。
「あーそれでか……」
「で、どうするよ?リセットもしたところだし早速新技の開発と行くかい?」
「いいね、そうしようじゃないか」
そういうわけで、「R18触手アタックを衆目に晒さない会」が結成され、同時に活動を開始した。
◇
「いいか、「パイルバンカー」直後の腕は伸びる……この状態で腕を"引いて"しまうと長さが戻ってしまうから本来パイルバンカーを重ね掛けすることはできない。でもな」
「でも?」
「この状態で
「あああああ!!!盲点だったなぁこれ!!!!」
「で、通常は準備モーションは2段分しかできないが…………「パイルバンカー」の影響で腕が2倍に伸びてるから、パンチも一気に4段分構えられる!!!!この状態でパンチを放てば――――」
「おおー、更に二倍になった」
「この「パイルバンカー→胴体を回転→パイルバンカー」の動きを繰り返せば2倍、4倍、8倍、16倍とどんどん腕が伸ばせるぞ!!!!!」
「いやあのこれ」
「はい」
「セットアップが長すぎないか?」
「そりゃあそうだなぁ……完全な上位互換とは呼べないか」
「敵の前でぐるぐるやるのはなぁ……」
「長期戦なら触手アタックも超えるだけのポテンシャルあるはずなんだけどな、なんせ倍々ゲームだし」
「決闘だときついわなー」
◇
「まずジャンプする」
「うん」
「ジャンプした状態で
「発生してるなぁ、空中怯みモーションって頭部だけが怯み状態になるんだよな」
「お、おう……よしここ、ここで空中ガードする!!!」
「えっなんか首が伸び始めた、どうなってんだこれキモッ」
「空中では頭部だけが怯むから本来阻害されるガードも頭部以外の部位でのみ可能だ、んでガードするとある程度硬直が発生するから怯みモーションによって一部位だけ移動してる頭部と
「マジかよキメェ~~~~~~~~キモッスクショ撮っていい?」
「いいよ」
「ありがとう……実践では使えそうにもないけど相手を驚かす手段としては結構なもんだな」
「というか逆にR18の方で謎に首を伸ばしてるの何なの?あれなんか意味あるのか」
「なんかこう、視点を動かす的な?」
「はーん」
◇
「逆立ちする」
「だんだんバグがイコールで奇行みたいになってきたな」
「んで逆立ちした状態で片方の手で「パイルバンカー」、これで腕を"引く"までは伸びてる状態なはずだ」
「そうだな」
「ここで間違えて腕を"引く"事にならないように注意しつつ逆立ちを戻すと……」
「あれ?!!?!??腕の代わりに脚が伸びてる!?!?!?!?なんで!?!?!?!?」
「多分だが、逆立ち中の腕には「接地判定」みたいなのがあって「足」としての役割をある程度本来の脚から譲渡されている、だから腕を伸ばした状態で「接地判定」を脚に戻すと脚も伸びるって寸法だ」
「ああ~~なるほどな……でもそれ腕はどうやって伸ばすんだ?」
「ああ、それはまた逆立ちすればいいだけだ」
「いや逆立ちしながら戦闘するの無理では?」
「それはそう」
「ダメじゃん」
「それはそう」
◇
「まず「ドッペルゲンガー」します」
「おおー一発成功とは流石だな」
「まぁね……さて、この技を繰り出しているいわば「本体」には操作判定が存在しない、俺が入っている分身体に掠め取られてるからだ」
「ドッペルゲンガーは応用性高くて強いよなぁ」
「ところで、腕を斬り落とした時の判定ってどうなってると思う?」
「腕を……?そりゃあ別のオブジェクトとして切り離して、あとは……当たり判定や操作判定を無くす、みたいな?感じか」
「そうだ――――でもな、
「あっ…………つまりひょっとして、今本体の腕を斬り落としても
「そうさ――――まず本体の腕をこんな風に斬り落として、あとはゲージ技のモーションが終わるのを待てば
「ああっ斬り落とされた腕が動いてる!!!!!キメェ!!!!!キモ!!!!!あーーーーそっかぁ分身体に操作判定を移動しておけば斬り落とした時に失わずに済むのか……」
「どうよ、これはかなり上位互換感無いか?」
「うーん確かにこれはヤバいな、『切断』できる部位ならどこでも切り離して遠隔操作できるわけだろ?浮遊系のバグ技と組み合わせれば世界が変わるんじゃねえの?」
「どうよ、これを普及させれば触手アタックなんて見向きもされないのでは?」
「うーん……こいつでいくか?」
◇
そんな風に俺達が駄弁っていた時、前方から聞こえる声があった。
「あっサンラクさん!!!!!!このゲームではお久しぶりですね!!!!!!!!何をなさってるんですか!!!???」
視線を上げれば、そこにはバーチャル筋肉に包まれたヒゲオヤジが鎮座していた。秋津茜――もとい、ドラゴンフライ――である。俺は彼、いや彼女か?まぁ彼でいいや、彼に軽く挨拶して、事のあらましを説明してやった。
「――――でやっぱその名前はコンプライアンス的にマズくない?みたいな話になった結果、新技を考えてるところなわけよ」
「あの、それって―――」
ん?
「技名を叫ばなければ、そもそも全国的な漫画雑誌に載ることもないんじゃないですか?」
「確かに」俺とさっきまで新技開発に勤しんでいたプレイヤーが言った。
「確かに」俺は彼と顔を見合わせて言った。
確かに。