どうしてこんなことになったのか。
サイガ-0は考えた。もっとも、もはや彼女を本来のプレイヤーネームで呼ぶものは殆どいない。この暗きに沈んだカース・オブ・エタニティにあって、彼女はもっぱらこう呼ばれる―――魔王、と。
立ち込める邪悪な
「レイさまぁ……」
「レイさま、あははっ」
「……」
サイガ-0は思案する。果たして
きっと、残っているはずがない。……「愛嬌」とはそういうパラメータだ。他の何かを実現する手段である信奉に対し、目の前の対象をただ追及する、自己目的化のパラメータ。本質的に中身が無―――。
「違う」
進みかけた思考を止める。愛に、恋に中身がないなんて認めたくはなかったから。
かつ、かつ。
足音が響く。
彼女の直前の思考を肯定するかのように。彼女の座るおどろおどろしいデザインの玉座に向けて、落とした影と共に語り掛ける者がある。
「……やあ、レイさん」
金属音が立て続けに鳴る。突如現れた侵入者に対処すべく、配下たちが各々の装備を取り出した音だ。
レイは片手を静かに上げて、彼女たちの動きを制止する。そして目の前に佇む……『サンラク』のプレイヤーネームを持つ想い人に、答えを返す。
こういうとき、どんな言葉を使えばいいのかな。
サイガ-0は考える。おはようとか、こんにちはとかは変だ。しかし、だからといって、ようこそいらっしゃいましたと言うわけにもいかない。ええと、ええと―――。
「……よ、よくぞ辿り着きましたね、サンラク君」
「ず……随分、ラスボスっぽいセリフだね」
サンラクのアバターは珍しく顔を露出したもので、その苦笑いが一目で見て取れて……サイガ-0は、自分が言葉選びを間違えたと理解した。
まずい、訂正しなくては。
「あ、ま、まちがいです!あの……待ちわびていましたよ、サンラク君!」
「それはそれでラスボスっぽいな……」
サイガ-0は顔面を両手で覆う。仮想空間にいるというのに、体温が上がりつつあるのを自覚できた。
……実際のところ。
実際、彼女はそれだけのことをしたのだ。まず一人のNPCにリソースを集中して育て上げ、既存の「信奉」ビルドプレイヤーのNPCを勧誘し、信仰対象をそのNPCに上書きして引き抜く。そして引き抜かれてきたNPCを、自分の「愛嬌」で二重に手駒にする。比較的容易な『信仰対象の上書き』と、ある程度の時間を要する『愛嬌による魅了』の合わせ技、中々に破壊力の高いコンボだ。
―――それらの一見して良く練られているように見える手が、本当はなし崩し的に打たれたこと。それを知る者は実際のところほとんどいない。
「まあ、何だ……」
サンラクはサイガ-0を見た。あるいは、サイガ-0の瞳の奥にいる斎賀玲を見ているのかもしれなくて、彼女は自分の体温がさらに上がっていることを知覚した。
やはり
「
宣戦布告した。
サイガ-0は、自分のこの体温を構成するものが、ただの恋慕ではないことを理解しつつあった。そこには、恋慕のほかに……確かな
だから、彼女は玉座から立ち上がった。謹んで「魔王」であろうと努力して、威厳を保とうと踏ん張って。そしてなるべく迫力を持たせた声色で、凶悪な外見の槍を構え、配下の者たちに『臨戦』のサインを与えると、目の前の好敵手にこう言い放った。
「望むところです、サンラク君」
それが合図だった。
二人はいよいよ激突した。デスゲーム・リベリオン・オンラインの第一シーズンは今夜終わる、それだけが一つ確かな真実として、つい数分後の未来に横たわっていた。