フロンティアへの幾星霜(短編集)   作:Z-LAEGA

19 / 64
最近はずっと『ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~』を書いてます
良かったら読んでください


遊戯の終わりの目前で

どうしてこんなことになったのか。

サイガ-0は考えた。もっとも、もはや彼女を本来のプレイヤーネームで呼ぶものは殆どいない。この暗きに沈んだカース・オブ・エタニティにあって、彼女はもっぱらこう呼ばれる―――魔王、と。

立ち込める邪悪な雰囲気(シェーダー)の中、いつの間にか用意されていた玉座の周囲。サイガ-0に忠誠を尽くす配下の者たちが、やけに艶めかしくこう囁く。

 

「レイさまぁ……」

 

「レイさま、あははっ」

 

「……」

 

サイガ-0は思案する。果たして彼女たち(NPC)記憶(メモリ)の中に、()()()の記憶は残っているのだろうか。かつてというのはつまり、他の集団に所属して、他のプレイヤーの従者となって、剣を振るったり、弓を引き絞ったりしていたころのことだ。

きっと、残っているはずがない。……「愛嬌」とはそういうパラメータだ。他の何かを実現する手段である信奉に対し、目の前の対象をただ追及する、自己目的化のパラメータ。本質的に中身が無―――。

 

「違う」

 

進みかけた思考を止める。愛に、恋に中身がないなんて認めたくはなかったから。

かつ、かつ。

足音が響く。

彼女の直前の思考を肯定するかのように。彼女の座るおどろおどろしいデザインの玉座に向けて、落とした影と共に語り掛ける者がある。

 

「……やあ、レイさん」

 

金属音が立て続けに鳴る。突如現れた侵入者に対処すべく、配下たちが各々の装備を取り出した音だ。

レイは片手を静かに上げて、彼女たちの動きを制止する。そして目の前に佇む……『サンラク』のプレイヤーネームを持つ想い人に、答えを返す。

こういうとき、どんな言葉を使えばいいのかな。

サイガ-0は考える。おはようとか、こんにちはとかは変だ。しかし、だからといって、ようこそいらっしゃいましたと言うわけにもいかない。ええと、ええと―――。

 

「……よ、よくぞ辿り着きましたね、サンラク君」

 

「ず……随分、ラスボスっぽいセリフだね」

 

サンラクのアバターは珍しく顔を露出したもので、その苦笑いが一目で見て取れて……サイガ-0は、自分が言葉選びを間違えたと理解した。

まずい、訂正しなくては。

 

「あ、ま、まちがいです!あの……待ちわびていましたよ、サンラク君!」

 

「それはそれでラスボスっぽいな……」

 

サイガ-0は顔面を両手で覆う。仮想空間にいるというのに、体温が上がりつつあるのを自覚できた。

……実際のところ。このゲーム(カース・オブ・エタニティ)のラスボスを聞かれれば、ほとんどの人間は第百層に待ち受けるボスの名を挙げることだろう。しかし……このゲーム(デスゲーム・リベリオン・オンライン)のラスボスとなればどうか。決定方法が多数決なら、サイガ-0が選ばれる可能性は高い。

実際、彼女はそれだけのことをしたのだ。まず一人のNPCにリソースを集中して育て上げ、既存の「信奉」ビルドプレイヤーのNPCを勧誘し、信仰対象をそのNPCに上書きして引き抜く。そして引き抜かれてきたNPCを、自分の「愛嬌」で二重に手駒にする。比較的容易な『信仰対象の上書き』と、ある程度の時間を要する『愛嬌による魅了』の合わせ技、中々に破壊力の高いコンボだ。

―――それらの一見して良く練られているように見える手が、本当はなし崩し的に打たれたこと。それを知る者は実際のところほとんどいない。

 

「まあ、何だ……」

 

サンラクはサイガ-0を見た。あるいは、サイガ-0の瞳の奥にいる斎賀玲を見ているのかもしれなくて、彼女は自分の体温がさらに上がっていることを知覚した。

やはり()()()()()()にカウントされない、一介のプレイヤーたるサンラクは。サイガ-0を、デスゲーム・リベリオン・オンラインが非常に上手いのだと認識しているサンラクは。あるいは、プレイヤー間で「勇者」なんて呼ばれることもあるサンラクは。彼女に指を突き付けて、

 

()()しに来たよ、レイさん」

 

宣戦布告した。

サイガ-0は、自分のこの体温を構成するものが、ただの恋慕ではないことを理解しつつあった。そこには、恋慕のほかに……確かな()()があった。想い人に魔王認定されたことへの悲しさは不思議と無くて、むしろ……「これから自分は想い人と共にゲームを遊ぶんだ」と主張する、確かな期待が彼女の頬に紅潮を与えていた。

だから、彼女は玉座から立ち上がった。謹んで「魔王」であろうと努力して、威厳を保とうと踏ん張って。そしてなるべく迫力を持たせた声色で、凶悪な外見の槍を構え、配下の者たちに『臨戦』のサインを与えると、目の前の好敵手にこう言い放った。

 

「望むところです、サンラク君」

 

それが合図だった。

二人はいよいよ激突した。デスゲーム・リベリオン・オンラインの第一シーズンは今夜終わる、それだけが一つ確かな真実として、つい数分後の未来に横たわっていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。