辻斬・
JGEで発表されたスパルタンメタルがある程度の―――それは、おそらく予想以上の物だったのだろう―――評判を集め、消費者たちの期待が国内外を問わず高まっていた。ロワイヤル社は今こそが好機と踏んだのだろう………第二の蟲毒が、大衆に入り口を晒したのである。
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「天誅ッ!!!」
「甘いなぁ!!跳躍大回転型天誅返しィ!!!」
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しかし流石は混沌製造機の異名を取るロワイヤル社だ………単にサーバーを分けるのでなく、当然のように
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「ぐあっ……!?お前、僕の平行移動式投擲天誅を読んでッ……!?!?」
「せいぜい上手い辞世の句を読むんだなァ!!!」
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しかもGGCで使ってたあの超絶翻訳機………「
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「異国の地…っ!踏むことすらも……許されず………っ!」
「オォウ二人まとめて漁夫の利天誅じゃァーーッ!」
「何ィ!?」
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このゲームのサーバー間移動は
「天誅ァーッッ!!」
俺がさっきから背後で繰り広げられていた内輪揉めへの参加表明を奇声に乗せつつ振りかざした刀に、日光がぎらりと反射した。
◆
二人である。
「海外サーバーに足を運んであわよくば天誅文化を植え付けたい」だの「始めて間もない初心者が日本に比べても大量にいるだろうから軒並み天誅してスコア稼ぎたい」だの「火薬庫を今のうちに占拠して既得権益を得たい」だの船上の様々な欲望は、移動中の海上で僅か1/10ほどに減少していた。セーブポイントは船上にはないので、欲望の持ち主たる彼らは今頃日本サーバーに戻っていることだろう、天がやれって言ったから仕方ない……しかも―――
「へっへっへ…なかなかいい刀持ってんじゃねーかオイ!!!ああ悪くない、悪くないぞ……!!!」
欲望を斬り捨てて得た報酬はこんなにも
「くっ……!殺り損なったかっ……!」
こいつ何気に20人総勢バトルロワイヤルで生き残ってるからね、幕末適正が結構上がってきてる証左だよ……まぁその「生き残ってる」って事実は今から「生き残ってた」に変わるんだがなァ!
「オラァ天
俺が京極に向けてついさっき誰かが落っことした刀を振り上げた、その時だった。
『直感』システム―――――幕末の主要システムの一つだ。攻撃を受けているという事実があれば、それを神経のどこかで
「……お前ッ」
僅かな思考。時間が止まったかのように何もかもが静かに動作を停止している。愕然とする俺と京極、そして刀を床から生やしたまま何のアクションも見せてこない床下にいるであろう何某。
その静寂は、
「
見覚えのない顔の男が言った。恐らく二つ名持ちでもない無名のプレイヤーだろう。
「あわよくばハイエナしたうえで国外サーバーに乗り込もうかと思ったんだが―――――なかなかそうもいかないか………なるべく直感に引っかからないよう注意したんだがね」
「知らないのか?直感システムは『殺意』と『威力』の両方を推し量る――――いくら瞬殺を狙っても、殺意がむき出しじゃあ意味がない」
時間稼ぎとして豆知識を披露しつつ俺は考える。どうする……?密航者が一人だけってことは考えづらい、1匹いたら100匹いると思えなんて言われる某生物がいるが、この教訓は密航者にも言えることだ………セキュリティの甘さに付け入るのが一人だけなわけがない。
「ちょ、え」
そんなことを考えている間に、俺より密航者氏の近くにいた京極が刺されて死んだ。哀れ、生命という物は儚い……どんなに積み重ねが長くとも、瓦解はいつも一瞬だ。
まぁそれはともかく相手の狙いが見えてきそうだ……曲がりなりにも二つ名持ちの俺を率先して殺さないのは何故だ?いや京極も二つ名持ってるんだっけ?いやほとんど浸透してないはず、やはり
「殺気ッ!!」
またしても床から生えてきた刀を俺はジャンプして躱し……
「おいおいお仲間か?でも甘いな―――奇襲ってのは一方的にダメージを与える手札じゃないんだぜぇ!!?」
刀はまだ抜かれていない――――つまり床下には密航者その2が
「肉盾貫通型奇襲式天誅
狙うは刀が生える床板のすぐ近く、
「肉壁貫通型逆奇襲式天誅・応用!」
人体への貫通の手応え、咄嗟にUIを確認すればスコアが加算されている――――反撃キルに成功したということだ。俺は成功の喜びを噛み締める暇もなく密航者一号の方に向き直す……妙だな、俺をキルできる絶好の機会だというのに移動していない……
「おいおい、お仲間が作った隙をみすみす逃すとはどういうことだ?」
「お、仲間……?」
え、これひょっとして密航者1号と2号に全く繋がりがない系?マジかよ……
「知らない、密航者は俺一人の、はず……」
オイオイオイマジで??ということは………
「天誅ゥーーー!!!!!!!」
「ぐぺ」
動揺する密航者1号が地面からまたまた生えてきた刀に貫かれて死んだ。マズい、この船にはいったい何人の密航者が潜んでいる………????俺が考えを巡らせているとまたまたまた刀が生えてきたので咄嗟にバックステップで回避する、最早床下に密航者が潜みすぎてもぐら叩きの様相を呈してきた。セキュリティが甘すぎないかこの船!?
「このっ……!!」」
この船は剣山と化しつつある。床下の奴らと俺とでもぐら叩きに興じている間に床下でも殺し合いが起こっているらしく、出てきたと思ったら引っ込んでいく刀が多く見受けられる……俯瞰して見ればさながら生物である。刃が自動で生え変わるとかどんなハイテク剣山だよォ!?
「垂直投擲型奇襲式天誅ァ!!!!!」
誰かがブチ空けた穴から
「俺も仲間に入れてくれよオイ!!!」
床板に突っ込む!!!ついさっき刀を投げてきた誰かを二等分にしつつ床下を行軍だ、こうなったらとことんやってやるぜぇ……
床下は密航者ズの刀が空けたであろう所々の穴から漏れ出す日光とやっぱり密航者ズの物であろう血液で彩られていた。幕末はシャンフロみたくグラフィックが全年齢で同じなタイプではなく、ユーザーの年齢に応じてゴア表現の有無がフィルターによって決定づけられるタイプだから16歳以上だとダイレクトに血みどろが描画される。まぁこんなゲームをゴア表現が適用されないほど幼い人間が遊んでいるとは思えないんだが……そこだッ踏み込み型抜刀天誅!!!!!!よし11キル目、対処が甘いんだよ対処が。
「それにしても」
……何か
「
「甘いな……
俺の二つ名を知ってッ……!こいつ……
「おいアンタよ~~~~やっぱなるべく生き残りたくね?生き残りたいんだったらとりあえず結託するのがいいと思うのね、俺はそう思うよ……組まない?」
俺に手を差し出された知らない人は答えた。
「いやでもアンタ祭囃子じゃん?イベント荒らしの祭囃子じゃん?レア刀をため込んでるって評判の祭囃子じゃん?ここでアンタをキルした方が俺的には得なわけね、しかもアンタの敵4人じゃん?俺がアンタについてもダブルスコアなわけよ、でも俺があっちに付いたら」
「話が長いんだよ天誅!!!!!!!!」
俺は知らない人が協力する気もないくせに無駄に長い話を延々と続けていることに腹が立ったので知らない人の首を撥ねた。やったあ12キル、でももうすぐキルされそうだ……マズい、このままでは俺の海外サーバー生活の夢が消えてしまう……
4人組は俺が茶番を演じている間に仲間を増やして8人組になっていた。いや8人組って、薄々感づいてたけどこれ公式に船に乗り込んだ奴より密航者の方が多いよな????
「マジでどうなってんだこの船のセキュリ、ティ……ん?」
俺は何か引っかかるものを覚えた。8人組の一人が発砲してきたので弾を斬りつつ考える。奴らの中にAGIに偏って振っている者は幸いにもいないようでまだこちらに辿り着くまで少し時間がある。また発砲された。ひらりと躱したら背後で俺を狙っていた知らない人に当たった。南無三―――ってこれよく見たらギリギリ息があるなハイエナ天誅ゥ!!!!!!やりぃ13キルだぜ。
「…………」
俺は混沌渦巻く戦場の中、もぐら叩きの影響で穴だらけになった床板を見上げる。床板の先には果てしなく広い天があって、俺たちに「
「あっ」
「ひょっとして」と「いやまさか……」、二つの思考が脳を巡り、前者がより「正しさ」を手持ちの材料から導きやすかった。
じりじりと距離を詰めてくる8人組――――あ、仲間割れが起きて6人になった――――6人組。先頭にいる強そうな知らない人が言う。
「悪いが祭囃子、あんたは海外サーバーへの出張の上で一番の障害なんだ――――なぜだか知らんがランカー連中はこの船に乗っていないからな。俺は天誅汚染されていない比較的平和な状態であるうちに鍋の蓋を全部回収して全身に装備するという目的を達成しなければならないんだよ」
いや無理だと思うよ、あれ角度によってはまったく意味を成さないもん。
それはそれとして対する俺は答える……ついさっき辿り着いた、このゲームの真実で。
「空を見ろ」
俺は指を天に向けた。
周りでドンパチやっていたプレイヤーの半数が空を見上げ、もう半数がその隙を突いて天誅した後に空を見上げる……結構な人数が返り討ちにあっているようだが。
「この船に俺たちが乗り込んだ3時間前から、
俺はインベントリに隠し持っていた団子の串を背後に投擲して上を見上げている誰かを天誅しつつ続ける。
「3時間も航海したんだ、多少は
俺は上に向いた指を下ろして、言った。
「『船で海外サーバーに行ける』というのはだ――――――
船内が静寂に包まれた。
ついさっきまで隣の奴を天誅していた奴も、天誅されそうになっていた奴も、6、あっ3まで減ってる、3人組も、みんな黙っていた。
俺は止めとばかりに言い放った。あとついでにその辺に刺さってた刀をさっき蓋鎧の夢について語っていた人に投げつける。動揺故か防御はなかった。15キルだ。
静寂を己の声で、破る。
「きっと、運営はこれを
俺の声に続いて、数多の慟哭が、そしてそれをかき消すほどに多くの斬撃音と「天誅!!!」の声が静寂を乱す。
俺たちの戦いは、始まったばかりだ。