それは、すべての始まりだった。
ギリシャサーバーの中で最も
すべての始まりのその瞬間まで、罪というものは存在しえない。始まっていない、つまり
だからこそ。
「……おいおいおい」
そのサーバーに最初のプレイヤーが降り立つまで、この二十四島に罪は存在しなかった。
「…………グラ凄すぎだろ」
それは見方を替えれば、彼が―――
「……俺以外に……まだ、誰もいないんだよな」
―――
♰α♰
罪状は、流刑という事になっていた。
どこで言い渡されたのかはわからない。とは言え
とりあえず顔を上げてみて、太陽の存在を確認する―――昼間だ。同時に、バカの大声が聞こえないことからここがφではないことを理解し、ローラーチェーンの軋みが聞こえないことからιではないことを理解し、
そんな疑問が頭を
かつて自分が放り出した砂浜を、水濡れの足で踏みしめた。
♰β♰
「構えェーーーッ!!」
その瞬間、銃殺刑が開始された。
或いは既に開始されていたと言えるかもしれないが、それは揚げ足を取る類の言説だ。何せ、構えられるその瞬間までそもそも銃は
「……ちょっと待てやコラ」
そこで、先ほどの発言に異が唱えられる。
「……どうした
「そういう事じゃねェよ……」
古典的な拘束具に身を包まれる男は、現状にこれでもかと不満をぶつけ始めた。
「ゴミクズだよ……お前ら全員ゴミクズ!まず構えがなってない、そんなヘナチョコポーズ構え~~って言われてやるモノか?コラ。ここをノベルゲーと間違えてるんじゃねーだろうな」
「どうでもいいだろそんな事ー!」
非難が飛ぶ。
「そりゃお前らのポーズはどうでもいいさ!何せさっき言った通りお前らは全員ゴミクズなわけで、わざわざゴミクズのポーズに気を掛ける必要はない!……だがなァ、ゴミクズに構えられる銃の気持ちにもなってみろよ!」
非難を飛ばす。
「ふざけんなー!お前ごときより俺の方がずっと銃を理解してるぞー!」
「そうだそうだ、俺の方が理解してるー!」
「ふざけやがってー!」
非難の応酬が発生する。
「そもそも冷静に考えて銃殺って刑罰として成り立ってなくね?」
誰かが呟いた。
「確かに」
「だよなぁ」
「銃殺されるのってゲーム内だったらめちゃくちゃ楽しいもんな」
「罪過の生産手段として軽すぎるよな」
「なんなら重さマイナスまであるよな」
賛同の声が集まる。
「……待てよ?つまり、銃殺は
「そういう事になるな」
「じゃあ銃殺し合えば銃殺し合うだけ楽しいじゃん」
「そういう事になるな」
「だったらさぁ……
「……?」
「つまり俺たちが銃殺し合いまくってドンドン楽しんでいる中で、死刑囚だけ蚊帳の外で俺たちが楽しんでいるのを見守るしかない……ってモデルだ」
「なるほど!」
「確かに苦しさ0でも苦しさマイナス100と比べれば相対的には苦しいな!」
「その例えはよくわからん」
「つまり残弾1のマガジンより残弾30のマガジンの方がずっと優れてるってことだよ!」
「なるほど!!!!!!」
「よし、さっそく殺し合おうぜ!」
「死刑囚を流れ弾で死刑しちゃわないよう注意しないとな!」
「一発目行くぞ~~~!!!」
轟音が響き、罪過が散った。
♰γ♰
男が二人いる。
両者ともに、あまりに典型的で、陳腐で、簡素なキャラクターメイクを施している―――それこそ、見分けがつかなくなるほどに。無人島と化して久しいこのδサーバーを、この瞬間だけ
δサーバーには、最初から最後まで罪と言う概念が存在しなかった。罪には与える側と与えられる側の2種類が存在しなければならない。しかし、かつて
その面影は、最早無い。
現在のδサーバーには罪過が渦巻いている。正確に言うと、罪過
効果音が、響いた。
アバターが一つ倒れるのを確認したもう一つのアバターが、物も言わずに海岸へと歩いていく。
5分後、無人島は再来した。
♰δ♰
「υ許すまじ!!!!」
「「「「「「υ許すまじ!!!!!」」」」」」
歓声とも怒号ともつかない声が、辺りを埋め尽くす。
「さあ諸君!見たまえ、そして知りたまえ!υの住民が織りなしてきた野蛮と暴力の歴史、そのごくごく一部を!」
一人のプレイヤーが演説をしている。どこか無機質な印象を与える服装は、その実このサーバー全体で
サバイバル・ガンマンは基本的に極限サバイバルゲームだが、一部の要素はなかなかにゲーム的なものだ……それは例えばデスペナルティ、もしくは―――スクリーンショットの、共有。
二つの人影が一つのスクリーンに出現し、数百の瞳に映りこむ。
一つの人影と一つの死体へと画面が移り変わり、誰かが小さく悲鳴を上げる。
「見たまえ―――この、倒れたのが誰かが分かるかね!?」
「誰だ?」「誰だ?」「いったい誰なんだ!?」
「そう……我らが同胞、εの住人に他ならない!」
「なんだって!?」「ε民なのか!?」「どうして!?」
「では次に……この、銃を撃ったのが誰かがわかるかね!?」
「υの野郎だ!」「υだ!」「υに違いない!」
「そうだろうとも……そうだろうとも!いいか、υの連中はこのように、とんでもない悪事を働いてきた!君たちは、奴らの薄汚い毒牙にかかりたいかね!」
「絶対に嫌だ!」「嫌に決まっている!」「想像するだけで寒気がする!」
「そうだろうとも、嫌だろうとも!―――ならばここに宣言しよう、我々は、断固として彼らに抵抗するのだと!」
「「「オオオオオオ!!!!!」」」「何でこんな遠くからの撮影でυ民だってわかったんだ……?」
「ユプシロン鯖は一人も生かすな!!!」「連れていけ」
「「「ウオオオオオオオオ!!!!!!!!」」」
止まらずに、罪過だけが生み出され続けていた。
♰ε♰
天守閣 卵白は、ピラニアの餌食にならないよう足元に注意しつつ、前方の
VRゲームにおいてスクリーンとはすなわち
目を、凝らします。
見えるのは―――二つのアバター。両者は簡素なキャラメイク故瓜二つで、少し目を離しているうちに入れ替わっていても気づかないかもしれません。そしてだからこそ、彼は瞬き一つ行わず、妙にリアルな仕様によって目が乾き始めることも厭わず、とにかく両者を
両者は銃を持っている、その事実を、ゲームという媒体故に異様に強化された双眼が伝えます。それはすなわち未来において
待ちます。
待ちます。
待ちます。
待ち―――発砲―――シャッターを切り、もう1枚分の先行入力を行います。
サバイバルゲームに似合わない近代的ユーザーインターフェースが、彼に行動の
ほとんど同時に……いえ、それより早かったかもしれません。彼は安堵と共に、思わずこう呟いたのです。
「……さて、どこに投げ込もうか」
罪過は、伝播します。
♰ζ♰
筏がある。
かつて存在していただけで、巨大なる抗争を発生させた筏だ。そこには「YEAH☆イータ魂」「マジおもろい!青春の道」などと言った益体も無い怪しげなフレーズが血文字にて羅列されている。そんな益体も無い文字たちの存在も、またあの巨大なる抗争の他ならぬ一因となっていた。
筏がある。
クオリティが低く、今にも壊れてしまいそうな筏だ。しかし謎の
筏がある。
結構に巨大な形状をしており、十数人程度なら乗り込めそうな筏だ。とはいえその行動が実際に適うことは無く、筏のついでに砂浜にも血模様が描かれる事態を招くばかりだった。もはや叶わなくなった航海を認めないかのように、差し込む陽光は異様なほど強い。
筏がある。
妙に不揃いな木材を妙に不揃いな蔓で束ねて作られた、歪な筏だ。そこに至るまでの共同作業の数々は、多少の歪さをそのまま「面白さ」として置換することに成功しており、例え本来の長さより5メートル短い木材が納品されたとしても「見ろよこいつwwwww5メートルも間違えてやがるwwwwww」と笑うだけで普通に筏に使いかねなかった。というより、実際に使った。彼らは、自分たち同士で罪過を認め合うことを決してしなかったから。
筏がある。
かつて存在していただけで、巨大なる抗争を発生させた筏だ。自分たち同士で罪というものを認め合わないサーバーに、それそのものが罪過の持ち主であるという糾弾を与えるに至った筏だ。とは言えすべては過去の話で、侵攻者たちは自分たちの
筏がある。
♰η♰
悲鳴一つ聞こえない静けさが、青空の下で蔓延っていた。
θサーバーにおける罪過の清算方法は、他の大体のサーバーと同じように
かつての彼らは、単に人との交流を嫌うだけだった。そのために静かであるよう努め、コミュニケーションは最低限のハンドサインで済ませた。しかしその結果、
よって。
「……」
ここに、
「……」
処刑者は無言、罪人は無言、当然のことながら立会人も無言。形成される異様な空間の中、小さな―――本当に小さな
「……」
繰り返される義務的な殴打には、何かしらの儀式を思わせる側面があった。
「……?」
そして、誰もが次第に気付き始めた。
罪人、或いは死刑囚は……
そして、爆発が発生した。
処刑の手段としてより手早く済むナイフではなくわざわざ拳が選択されているのは、非常時に手が塞がっているとサインを出すことができないからだ―――だからこそ。
「…………!!!」
有効活用されたその利点によって、
KAAAAAAAAAAAAAAAA…………
「……!!!!!!」
しかし、それは既に遅く。
突如として天空より飛来した巨大生物―――
♰θ♰
よう、随分久しぶりの新顔だな……まあ、実際に顔が見えるわけではないけど。どうだ、とりあえず身の上話を……なんだって、
♰ι♰
まさにその時、幕が開いた。
何の幕か?
日光を受け白く輝く獰猛さの象徴のごとき牙にも怯まず、唯一の得物たる量の拳で持って群れを成すそれらをこれでもかと攻撃する!
大海の中の一つの果て、極めて熾烈な争いである!
「うおおおおお!!!」
「「「「うおおおおおお!!!!」」」」
誰かの一つの叫びが、誰かたちの十数の叫びによって返答される!それはさながら衝突する波紋、彼らにとってはごくごく見慣れた光景だ!潜り込んだ海から垣間見える揺れ動く
SHAAAAAAAAAAAAA!!!
ピラニアの群れが散り、またκサーバー民の群れも散る。両者における唯一の違いと言えば
「よっしゃあああああああああああ!!!!」
彼らの戦いに……蠢く罪過が描き出す輪廻に、終わりは決して存在しない!!
♰κ♰
罪過が積みあがっている。
サバイバル・ガンマンにおいて、死体は非アクティブ……要するに
罪過が一つ、手に取られる。
それは要するに、死体を保存するだけでも
罪過が貪られる音がする。
男は罪過を己と重ね合わせ、いずれ必ず到来するその罪にまみれた瞬間を夢想して、期待に胸を膨らませ、顔面を露骨ににやつかせた。
罪過が一つ減り、また別の罪過が発生した。
♰λ♰
μサーバーに罪過は存在しない。
「はぁッ、はァッ、ハァッ」
なぜかと言えば、
「クソ、クソがッ!!」
「やめろ……来るなよ、こっちに来るな!」
μ-skYは答えない。しかし標的を負う足取りが遅れず、それどころか速くすらなっていることだけでも、彼女は十分に
「ひぃ、ヒィィッ!」
必死で打ち込んだ銃弾は掠るどころか明後日の方向に飛び、後方の幼女の足止め一つ成さない。プレイヤーは絶望の淵で、今自分がどうすればいいか、考えて―――
「
―――地面に、押し付けられた。
「が―――」
―――四肢が、いつの間にか存在しない。
「ねんねん……」
―――最後の力を振り絞って首を動かし、何やら
「……ぁぁ」
―――それは、太陽のような笑顔だった。
μサーバーに罪過は存在しない。
♰μ♰
少なくとも、
♰μ♰
νサーバーには罪過しか存在しない。
「お前、これで何処刑め?」
「13だな」
「あ~~~負けた!俺11だわ」
他愛もない会話が、首を固定する木材の隙間で交わされる。
ざん、と、何かが斬り落とされる音が聞こえる。
「今回は何で処刑されるわけ?」
「『サーバー名間違え罪』だな」
「お、同じだ」
ざん、と、またしても音が聞こえる。
「いや~~しかしこの斬首式処刑にはまだ慣れないなあ」
「なんか違和感あるよな、前の磔式の気分が抜けきってねーわ」
「磔式、やっぱ効率性に劣るからな……」
ざん、ざん、と、音がだんだん近づいてくる。
「まあ慣れが肝心だよ、結局はこの斬首式だって、もう5回くらいやられれば逆に磔に戻れなくなるはずだ」
「……ああ、そうだな!」
「さて、そろそろだな」
ざん、ざん、ざん。音が、つい間近まで迫っている。
「おしゃべりはこの辺にしておこうぜ」
「ああ、『処刑中私語罪』で
「よし、それじゃあ―――」
ざん。
「」
ざん。
「」
ざん。ざん。ざん。ざん。
罪過が無限に生み出され、無限に清算されていった。
♰ν♰
髪がそのまま強さを表す場合、
今、まさにそれが確かめられようとしている。
「……よし」
両手に握ったナイフ2本の感触を確かめつつ、プレイヤーは
「……へへ……」
しかし、実際は違った。
彼は、この島に……というより、この
「もう少しだ、もう少し……」
既に、前方に髪の先端は見えている。
あのにっくきHigh飛車の髪だ。本体……つまるところもう片方の先端は視界に入っていないが、そんなものの位置は極めてどうでもいいことだ。
暗闇にも拘らずどこからか光を受けて輝くナイフを、笑みと共に翳す。
さあ、と言おうとした。
「さ―――」
あ、が出る前に、
おかしい、髪は確かに前方に、数メートルも先にあるはずだ。突然赤く変転する視界を通して考える。そして、答えを出す―――そうか、
未然に防がれた罪過が、血液を流し地べたに伏した。
♰ξ♰
かなり根深い所で言い争いが起こっている。
「我らがピノン様の民に決まっておろう!」
「違うにゃ!ニャンジェルさまにゃ!」
「リスリスちゃんだと思うッス」
「かなこ」
「明らかにSHELLYたんでしょう!」
「……ゆ、違うゆぅ、これも違う、うゅ……発音できねえ……」
「あ、僕帰ります」
元はと言えば、問題は一つの殺人から始まった。
このサーバーには7つの支配者が存在し、それぞれが別々の
「往生際が悪いぞ貴様ら!
「いいやにゃ!火炙りが正解にゃ!」
「絞首刑が最強ッス」
「かなこ」
「SHELLYたん大解剖ショーの非検体ですよ!いやあ、幸せ者ですね!」
「……ゆ、なわけあるか……逆に『め』だけ?そんなはずないし……」
……そう、確かに殺人は罪だ。だが、その罪過を
彼らが作る議論の
「うるさいぞ貴様ら!そもそも殺されたのは我らがピノン様の民、であれば裁くのも我らに決まっておろう!」
「にゃんだと!?こいつはもともとニャンジェル様に忠誠を誓っていたにゃ!裁くべきはニャンジェル様にゃ!」
「でも死体が横たわってたのはリスリスちゃんの領地ッスよ」
「かなこ」
「肝心の殺人が起こったのはSHELLYたんの領地だって検証見てないんですか!?」
「ゅ……あれ?今言えたんじゃね?ゅ……よし、ゅか、ゅか!!!やった!!!!!」
議論が紛糾している。
被告人の顔はどんどん青ざめていく。すべてに絶望したかのような態度が徐々に色濃くなり、またそれに伴って頭のうなだれ具合も増加していく。そして。
「うわああああああ!!!」
「「「「「あ」」」」」
「かなこ」
人と人が作る隙間をかいくぐり、被告人は地を蹴り走り……そして、目の前の断崖へと……一直線に、落下していった。
「「「「「「…………」」」」」」
「……………ふう」
「どうするにゃ?」
「そうッスね……」
「かなこ」
「……お開き、ですかね?」
「ゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅ」
かくして、罪過の清算は終えられた。
♰ο♰
おっぱい罪。
♰π♰
ロールプレイへたくそ罪。
♰ρ♰
結論から言って、σサーバーの住民はかなりの罪過を背負っている。
最も大きな原因は何かと言えば、名前がかっこいいことではないし、φの進行を許したことでもない―――
このゲームにおいて、孤島たちは
簡潔に言えば、
KAAAAAAAAAAAAAAAA…………
巨大な烏が空に飛び立ち、
SHAAAAAAAAAAAAA!!!
無数のピラニアが群れ成し海を往く。
スタンピードイベントは、サーバーに
「おい、待て、よ……」
呼び止める誰かの声も虚しく。
「待て、って……がはっ」
薄らみ行く骸の中に、ただ反響して消えるのみだ。
♰σ♰
「ライオットブラッド・アンデッド飲んだ?」
二人のプレイヤーのうち一人が陽光を浴びながら聞いたので、もう一人は答えた。
「もちろん発売日前日に買って日本版1本米国版2本飲んだぜ!最高だったな!」
「ああ、最高だった!」
「いや~~~エナジーカイザーに台頭して新フレーバーまで結構待ったけど、価値は十分あったよな!」
「ああ、ミント風味が五臓六腑に染みわたった!」
そんな会話が繰り広げられているところに、
「死ねェ~~~ッ!!!」
脈絡もなく
「うるせ~~~!!!!」
プレイヤーのうち一人がそれを殺害し、ついでに装備品を奪い取った。
「何だ今の」
「多分栄養ドリンク勢の奴らじゃないか?懲りないよなああいつらも」
横たわる
「というかさあ……実は今朝、新しい飲み方を試してみたんだよ」
「へえ?どんなやり方なんだ」
死体が、徐々にその透明度を増していく。
「無印とアンデッドを1つの缶に半分ずつ注いで、一気に飲んでみたんだ!なんか尋常じゃなくキマって驚いたぜ!」
「なんだって!?それは考えたことなかったな……そうか、アクセル、レジストに加えてフレーバーが増えたことで三つ目の摂取法が生まれたわけか!名前は何にしたんだ?」
誰にも見向きもされないままに、死体は―――
「ああ―――ミックス、だ」
「なるほど、こいつはまさに新時代のエナジードリンキングだな……
―――このサーバーの根底に存在する罪過を象徴するように、消えていった。
♰τ♰
「ε許すまじ!!!!」
「「「「「「ε許すまじ!!!!!」」」」」」
歓声とも怒号ともつかない声が、辺りを埋め尽くす。
「さあ諸君!見たまえ、そして知りたまえ!εの住民が織りなしてきた野蛮と暴力の歴史、そのごくごく一部を!」
一人のプレイヤーが演説をしている。どこか無機質な印象を与える服装は、その実このサーバー全体で
サバイバル・ガンマンは基本的に極限サバイバルゲームだが、一部の要素はなかなかにゲーム的なものだ……それは例えばデスペナルティ、もしくは―――スクリーンショットの、共有。
二つの人影が一つのスクリーンに出現し、数百の瞳に映りこむ。
一つの人影と一つの死体へと画面が移り変わり、誰かが小さく悲鳴を上げる。
「見たまえ―――この、倒れたのが誰かが分かるかね!?」
「誰だ?」「誰だ?」「いったい誰なんだ!?」
「そう……我らが同胞、υの住人に他ならない!」
「なんだって!?」「υ民なのか!?」「どうして!?」
「では次に……この、銃を撃ったのが誰かがわかるかね!?」
「εの野郎だ!」「εだ!」「εに違いない!」
「そうだろうとも……そうだろうとも!いいか、εの連中はこのように、とんでもない悪事を働いてきた!君たちは、奴らの薄汚い毒牙にかかりたいかね!」
「絶対に嫌だ!」「嫌に決まっている!」「想像するだけで寒気がする!」
「そうだろうとも、嫌だろうとも!―――ならばここに宣言しよう、我々は、断固として彼らに抵抗するのだと!」
「「「オオオオオオ!!!!!」」」「何でこんな遠くからの撮影でε民だってわかったんだ……?」
「イプシロン鯖の奴らに人権はねぇ!!!」「連れていけ」
「「「ウオオオオオオオオ!!!!!!!!」」」
止まらずに、罪過だけが生み出され続けていた。
♰υ♰
筏作りは、終始罪悪感にまみれた作業だった。
何せ、己の両手は他ならず
だとしても、罪悪感はある。
ふと、辺りを見渡す―――同じ信念を宿す仲間たちが、それでも斧という誘惑に抗えず文明の効率に身を費やす姿が見える。それは間違いではないだろう、
「……はァ」
だが……それも、仕方のないことだ。積み上げた罪過は因果を動かし、時に自分を
「…………」
ふと、無言で
恐ろしく美しい青い海と、恐ろしく毒々しい
♰φ♰
サバイバル・ガンマンで最も平和ではないサーバーを聞けば、返ってくる答えは様々だ―――基本的にはμやλが強いが、εやυにも両者
だが―――最も平和なサーバーを聞いた場合、果たしてどのような答えが返ってくるか。まず挙がるのはほぼ無人のβ、δ、σなどだが、σについてはスタンピードイベントの余波が未だ残っているため除外されるし、残り2つについても
となると―――結局のところ、一番いいのは
「……よし、
―――世界を果たさんとする
「オッ見ろ砂浜に銃が落ちてるぜ!ラッキィ~~~ッ!!」
「ウワほんとだ、よこせ!そいつは俺の銃だぞ!」
「うるせ~~!!!」
銃声が鳴り響き、赤色の罪過が砂たちを濡らした。
突如勃発した猟奇的事件への反応は薄い。この空間における
では共犯者たちは何をするかと言えば、それは各々によって違う―――ある者は
だからこそ。
「……おい、おいヤベェぞ!!」
「セプテントリオンが―――やらかした!!」
その時、人が、事実が―――そして罪過が、隠れるのをやめ公に晒された。
♰χ♰
月明かりが、寂しげに差し込んでいた。
「…………はぁ」
砂浜に一人、プレイヤーが座る。サバイバル・ガンマンは
実際のところそれはあまりに不十分で、砂浜は暗闇の底だった。
プレイヤーはふと立ち上がり、どこへともなく彷徨い始めた。ここ一時間で十三回目だ。破壊されてしまった何かの
そもそも、誰が悪かったのだろう?プレイヤーは考えた。文明を直接的に破壊したのは確かに
さざ波は答えない。崩壊した文明のごとく、もしくは人の手が加えられていない自然のごとく、野放図に押し寄せ去っていく。尤も、暗闇はその姿すら隠してしまったのだが。
そう……ある程度まで来た文明は、誰かに
そんな風に思いを馳せながら歩いていたところで、プレイヤーは
地面に刺さったトライデントに、つまずいたのだ。
体勢を立て直して、屈みこんで、拾い上げたそれを抱きしめた。
ああ、懐かしいな―――プレイヤーは思った。もはや、罪を持っているか持っていないかにかかわらず、ただあの頃に戻りたいという欲求だけがそこにあった。プレイヤーは泣こうとしたが、この世界に涙は定義されていないので泣けなかった。
そして、その時。
「……?」
プレイヤーの目の前に、突然
♰ψ♰
「……クソが」
目の前のウィンドウを一瞥し、男は呟いた。
とにかく強調された
辺りにエンド・コンテンツが広がっている。
それはずっと体験してみたかった場所だ。「ωサーバーだけ無いの怪しいよな」とか「待てば端っこの方に実装されるんじゃね?」といった噂は正しく、彼はその出身地の
だが、サービスはもうすぐ
「…………クソがッッッ!」
殴る。そのあたりに生えている木を、殴る。拳からの出血を厭わず、殴る。あからさまに生えている棘を無し、殴る。木がオブジェクトとしての耐久値を全損して
「……
♰ω♰
それは、すべての終わりだった。