フロンティアへの幾星霜(短編集)   作:Z-LAEGA

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孤愁

人を撃ちたい。

 

アトバードはふとそう思った。

 

「……ショットガンのリコイルはもうちょっと大げさにした方が良いな……あと反動は逆にデカすぎ、操作感が損なわれてる」

 

立ち上る硝煙を浴びつつ、まったく関係ないことを呟く……その実それはいわば()()()()で、叶わない夢を抱こうとする己への抑制だった。人を撃ちたい、だなんて……

両手の銃器に落としていた視線を戻し、辺りを見回す。

 

「……こんな()()()で、叶うわけない」

 

サバイバル・ガンマンのオフラインモードは、今日もプレイヤーに()立を強要する()として、大海原にただ一つ浮かんでいた。

 

人を撃ちたい。

 

 

「……惨猿(ザンエン)か」

 

呟くと、アトバードはマスケットを構えた。

現在鋭意開発中の()()()()()()の参考データを収集するためこの無人島に降り立って数時間、ショットガンとピストルは検証済みで、デリンジャーと大砲は実装を予定していないから……残る検証対象はデザートイーグルとマスケットのみになる。

デモ版をプレイした記憶を呼び起こしつつ、どれくらい()()が起きているかを確かめるべく、覗き込んだ簡素な照準器に収まった獰猛極まる猿を注視し……()()

 

「GYEAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

惨猿特有の一瞬音量調整を間違えているんじゃないかと錯覚するほどの絶叫も、ヤシロバードにとっては()()()()を感じさせるものだ。

 

「……リロードアクションはもうちょっと座標的にズラした方が忠実だな……」

 

怒涛の攻撃を回避し、撃つ。

 

「弾速は問題ない……けど、引き金を引いてから弾が出るまでに若干ラグがあるのかな?」

 

カウンターとして跳躍を行い、撃つ。

 

「屑癌はちょっと重力の影響を受けすぎかもな……調整しよう」

 

外見から言って最後の物になるであろう弾丸を、撃つ。

かくして事切れた惨猿と、十分に収集できた研究データを前に、それでもなおアトバードは()()()()と思っていた。

 

人を撃ちたい。

 

 

森は暗かった。

 

右手に最後の検証対象(デザートイーグル)を握りながら、しかしそれを使う場所は決めないままで、アトバードは木々が落とす影の中を歩いていた。

 

「……ッ!」

 

ふと振り返り、その先に銃を突き付けてみる。そうすればそこに、自分をサイレント・キルしようと幼女が立っているかのように思えたからだ。

確かに森は静寂(サイレント)につつまれていて、人の気配なんてとても感じられないが……もう何年も会っていない()()に限れば、気配を感じないのはむしろ平常運転だ。だから、振り向いたその先ではいつものように、笑みを映して襲い掛かるナイフが存在する可能性だって、十分にあると……そう、思ったのだ。

しかし、実際のところそこには誰も居なかった。

 

「……当然だよな」

 

そう、当然―――あまりにも当然なのだ。だってここは()立した()で、サーバーなんて概念も存在しない。μサーバーが無い以上「μ-skY」はもういない。φサーバーが無い以上「φの野人」ももういない。そして、γサーバーが無い以上、最早自分自身も「γのガンマン」ではない。

それをわかっていても、アトバードは思わずにはいられなかった。

 

人を撃ちたい。

 

 

「……閃いた」

 

そう、そうして彼は閃いたのだ。

 

アトバードは立ち止まった。

マガジンを取り出した。

装填した。

スライドを引き、独特のSEが伝える発射準備の完了を把握した。

あの頃から今までずっと変わらない、アメリカで聞いた()()よりも、少しばかり重めの効果音。

辺りを見渡した。

やはり当然のことながら人は一人としておらず、かといって代わりに己の行動を遮る(モンスター)たちがいたわけでもなかった。

安全装置を解除した。

()()()()()()()()()()()

 

「……よし」

 

アトバードは満面の笑みを浮かべると、引き金を勢いよく引いて人を撃った。

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