「バレンタイン・ユーザーイベント……ね」
μ-skYは呟くと、大海原を眺めた。
彼女が乗るのは小型の筏だ。こびり付いた新鮮な血液も、海水に洗い流され消えていく。といっても、血の匂いにピラニアが誘われるといけないから、ある程度は事前に彼女によって拭き取られている。
海が日光を反射して、宝石のような輝きを乱射する。
「
呟きを波音がかき消す。幼女が手元で弄り回している銃器類のカチャカチャと言う音もまた同様に。先ほどβ民に筏を
「……お、見えて来たな」
手の甲で太陽を遮って作った影の中、薄く描画され始めたその孤島に、μ-skYは鋭い視線を撃ち込み……そして、笑った。
シリンダーの掃除も、もう少しで終わりそうだった。
◇
ぱき、と音が響く。μ-skYがチョコレートを齧った音だ。
限りない空へ、だだっ広い海へ、そして
「……うま」
ずず、と音が響く。血の海で男が体を動かした音だ。
「き、さま」
呟きと言うには怨念が籠りすぎた言葉が、少し間を置いて発される。
「ん?……ああ、まだ生き残りがいたのか」
ぱん、と音が響く。μ-skYが発砲した音だ。
「あ゛」
彼女の
「……だだっ広いな、本当に」
ぱき、と音が響く。μ-skYがチョコレートを齧った音だ。
奇妙な形の歯形は、「攻撃手段は多い方が良い」と言う判断のもと行われたキャラメイクによるものであり……奇しくも、肉食動物に齧られた痕のようでもあった。
「ふぅ……あ」
色々なものに想いを馳せる幼女の眼に、ふと血の海に浸された
μ-skYは極めて
「……弾痕なし、切創なし……すげえな、
血に浸されているのを除けば、と心中で付け足すと、μ-skYはそれを見つめた。
この文明も何もない孤島からは考えられないような、精巧かつ美麗な構造を持つ純白が、そこにはある……もっとも、純白のうち8割がたは、既に深紅に染められていたのだが。
これを
「……ふぅん」
特に理由は無かった。ゲームとはそういう物だからだ。特に理由はないままに、彼女は、ドレスを
サイズとして見れば、なるべく身長を低くするよう作られた幼女の肉体にドレスは大きすぎる……だが、そこにこびり付いた血液は、異様なほど彼女に……似合っていた。
その時。
「……ッ!?」
ずどん、と音が響く。どこか遠くから、μ-skYめがけて銃弾が放たれた音だ。
「……来やがったな」
幼女はデザートイーグルを構える。その時彼女が考えたのは、血液によって腕に張り付くドレスのことで、遺体の一つから回収した、謎の技術で作られたチョコレートのことで……そして、
「内輪の戦いに首を突っ込んだ……後始末くらい、付けてやる」
ぱき、と音が響く。μ-skYがチョコレートを齧った音だ。
同時に、戦いが始まる音でもある。