フロンティアへの幾星霜(短編集)   作:Z-LAEGA

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ちょっとミームを摂取しすぎた


命すら掛けて

轟音がどこかから聞こえた。

 

幕末(辻斬・狂想曲:オンライン)の世界を揺らすそれは、おそらく紅蓮寧土(グレネイド)の得意とする花火を使った戦法によって生み出されたものだろう。さっきから連続して聞こえているので、口を滑らせたどこかのアホの天気予報に書き換えが入ったのが原因であると考えるのが妥当だ……南無三、(ドロップ)は拾ってやるから安心して死んでくれ。

俺が知らない誰かへ海よりも深い無限の慈悲の心をさらけ出していると、近くにプレイヤーが2、3人寄ってきた。俺は幕末においてイベントが開催されるたびに現れて報酬を掻っ攫っていくというプレイスタイルの関係上経験値を沢山落とすレアエネミーみたいな扱いを受けているから、レア刀を求めてプレイヤーが寄って来るのは当然のことなのだが、俺は今回こいつらに襲われないための秘策を用意してある。

 

「トトカルチョ天誅、やろうぜ」

 

俺の口から飛び出た秘策(魔法の言葉)にプレイヤーたちの目の色が変わる……当然だ、トトカルチョ天誅は今幕末で1、いや1は言い過ぎか、3、5…………えーっとベスト8に入る程度にはアツいコンテンツなのだから。

 

「え、あ」

 

「ほらまず刺客役を名乗り出る奴は!?!?いないのかよオラァ!!!!!」

 

相手が明確な反応を示す前に距離を詰める……ピザ留学式交渉術の一つだ。ピザ留学の本質は会話をコンマ単位で調整するタイミングゲーなんだが、こういう風に強引に話を進めないとクリアできないレベルで面倒なフラグが大量に存在するためこの交渉術はラブ・クロック攻略必須技能七十六手の1つに数えられている。

 

「え、じゃあ俺が――――」

 

「そこだ天誅!!!!!!!!俺がやらせてもらおう」

 

1人のプレイヤーが手を挙げたと思ったらいつの間にか後ろに回ってた知らない人に天誅されて役目を奪われた。トトカルチョ天誅における刺客役は押さえておけば共謀による悪徳を得放題な()()()()立ち位置なので基本的にこうして奪い合いになる。なので俺は刺客役を名乗り出たプレイヤーにインベントリから適当に取り出した刀を投げつけた……が、避けられた。俺は舌打ちしてから気を取り直して話を続けた。

 

「で、どこに賭ける?ホームチームは京極」

 

「いやそれなんだけどさぁ」

 

知らないプレイヤーが異議を申し立てる構えを見せた……オゥ何だコラァ?俺は場合によっては相手の胴体を1秒足らずで両断できることを誇示するべく刀をチラ見せした。

 

「前から思ってたんだけどトトカルチョ天誅って呼び名おかしくね?だって実態として0と1と2にしか掛けられないじゃん、自由度が低すぎるだろ」

 

「いやそんなこと言ってもスポーツ振興くじのルールが元ネタだしなぁ、スポーツ振興くじって要はトトカルチョの簡易版みたいな奴じゃん?」

 

「じゃあスポーツ振興くじ天誅に名前変えろよ、せめてtoto天誅とかさ」

 

めんどくさいことになってきた。俺は正直決まったことをいちいち変えるのが億劫だったので異議を申し立てた奴を処分した方がいい気がしてきていたのだが、そこでもう一人のプレイヤーが手を挙げて――――

 

「あー名前についてなんだけどさ、俺も変えた方がいいと思うんだよね~~いやでも、いやでもね?スポーツ振興くじ天誅でもtoto天誅でもなくさ、こう、ブックメーカー天誅とかどうよ?」

 

また別の異議を唱えた、俺は頭を抱えた。どこからともなく降ってきた矢がさっき刺客役に選抜されたプレイヤーを貫き殺してドロップアイテムをあたりにぶちまけた。

俺が全員殺して別のメンバーを募った方が早そうだなぁとインベントリを埋めつつ思い始めていると、またまた別のプレイヤーが手を挙げて、言った。

 

「いやさぁ~~~~~~~敢えて?敢えてブックメーカー天誅なの?いやだって確かに賭けではあるよ?賭けではあるけど別に倍率表示システムとかないじゃんね、それはもうアレよ?別の物じゃん、別の」

 

どうやらこいつはこじれにこじれた話をうまく軌道修正してくれるつもりらしい、俺は喜んだ。渡りに船という奴だ。

 

「そういうわけで俺は別の呼び名を提案するよ、プール賭博天誅」

 

船だと思っていたものが自走式時限爆弾だった気分だ。

轟音がどこかから聞こえた。

 

 

あのあとデュラハンがトレインしてきたSHO-GUNに参加者全員が殺されたので俺はリスポーン地点にいる。NPCに喧嘩売るのはいいけどトレインして被害を拡大させるのやめろよ……俺は溜息をつきながらさっきから何となく気配を感じていた障子に向かって刀を突き刺した。

 

「ぐぇ」

 

という声が聞こえ、スコアが入る―――あれ、この声って京極……?ひょっとしてリスキル天誅を狙ってたのか?まったくリスキル天誅()()も読めないとは未熟な奴だ。『リスキル天誅返し返し返し返し返し返し返し返し返し返し返し返し返し』まで予測しておかないといけないリスキル天誅界隈という魔境に既に足を踏み入れてしまっていることを自覚するべきである。俺は2分ほど待ってもう一度刀を突き刺して

 

「ぐぁ」

 

という声と共に再びスコアが入ったところで唐突にトトカルチョへの欲求の再燃を覚え、障子を開けて町へと歩き出した。

 

 

建ち並ぶ和風建造物に囲まれた道を歩けばいかにもトトカルチョ天誅に参加したそうなツラが12345……ふふふ、俺は今回のトトカルチョ天誅の成功を確信した。前回の反省を踏まえてスピーディに進行していこう。異議を申し立てる時間を与えてはならない。

 

「はいトトカルチョ天誅やるぞ参加者は!?!?54321はい締め切りそれじゃあ刺客役を―――」

 

ここまで俺がまくし立てたところで参加表明をしたプレイヤーのうち一人が俺に斬りかかってきたので軽く()()()()()()をかましつつ続ける。

 

「―――よしお前だけだな!?よしじゃあ決定だもう談合は済ませてんだろうな????作戦タ―――」

 

さっきから無差別を疑うほどに四方八方から聞こえてきていた轟音がかなり至近距離で発生したことによって、またしても俺の言葉は遮られた。何事かと偉大なる天を見上げれば、明らかにこちら……というかこちらの()()を狙って紅蓮寧土(グレネイド)が花火天誅を仕掛けてきていやがる、マァァァジ????俺はあいつに喧嘩売った覚えないしひょっとして…………参加者に標的(ターゲット)氏が紛れ込んでいらっしゃる?まいったな……俺は辺りをサッと見渡し、明らかに不審な挙動をしている推定標的(ターゲット)氏を不意打ち天誅し、ドロップアイテムを掠め取り、天誅の完遂と同時に爆撃音が止んだのを確認し、何事もなかったかのように話を続けた。

 

「―――作戦タイムは無しだぞオイそこォ!!!!!!爆撃で説明が中断された隙に作戦立ててやがったろオォイ!?!??!?!?!まぁいいやえーっとさっき京ティメット見たしホームチームはあいつでいいだろよォし張った張ったァ!!!!!!!!!第一勝負は京極対知らない人だ!!!!京極の勝ち・知らない人の勝ち・その他の3つだからな!!!!!!!」

 

知らない人が「京極40!」と言い、知らない人が「知らない人60!」と言い、知らない人が「その他1!」と言い、知らない人が「知らない人72!」と言い、そこでなぜか乱入してきた唯一剣がこの行に出てきた知らない人を全員殺して「その他173」と言った。お前人の(ドロップ)でッ……!

 

「天がやれって言ったんだから仕方ないよね」

 

唯一剣は言った。俺は全くもってその通りだと思ったのでそのまま参加者を募る作業に戻り、2分ほどしたころには約10名の参加者―――今一人天誅されて約9名になった――――が揃っていた。オッズとしては知らない人>引き分け>>>>京極くらいの比率だが果たしてどうなるだろう?

 

「よーしそれじゃあいよいよスタートだ、行け!」

 

「わかった」

 

俺はこれから起こる事への期待で胸を躍らせつつ、刺客役の知らない人に京極の襲撃を開始する旨を伝えた。襲撃役の人は頷き、怪しげな動作で抜刀し、日光に刀を当ててギラリと反射光を生み出し、走る体制に移り、ちょうどそこに現れたたまたま()()()()中だったレイドボスさんに天誅されて死んだ。は????????

 

「……………………………………………………………あー、トトカルチョ天誅第一勝負――――結果は、『その他』だ」

 

俺は言った。参加者たちの間に騒めきが走る。対戦前にどちらかの参加者が死んだ場合トトカルチョ天誅はスポーツ振興くじで言う「その他(0)」として結果処理されるのである。俺は懐から配当金を取り出して参加者たちに配り始める。レイドボスさんはそうこうしている間にも彼の付近に次のターゲットを見つけて愛用の錆光の参加した刀身―――それは、まるで膨大な量の血液を吸い取った結果のように思えた―――をゆっくりと、しかし力強く振りかざし―――刹那の先には全身を両断された幾つもの死体が残っていた。怖すぎる。早く配当金を配りきって解散したい。クソッ、巡回時間を読み損ねるとは俺としたことが……!!!

 

「マズいっ……!早く配って解さッ……ぁあ゛!?」

 

その時だ、気付けば俺の腹から刃が生えていた。振り返ると知らない人が微笑んで、手に握った柄をさらに俺の身体に押し込もうとしてくる。俺はもう助からないことを悟って辞世の句を読んだ。

 

「なぜ斬った……!!!!配当金が、欲しいんじゃ……」

 

「祭囃子―――あんたが金を配るのを待つより、全部掻っ攫った方が早いし高効率だと思ったんでね」

 

おっしゃる通りで……俺は崩れ落ちてデスポーンした。

最後に血濡れの視界に映っていたのは、こちらを睨みつけるレイドボスさんだった。

 

 

リスポーンした俺は、即座にトトカルチョ天誅をリベンジせんと障子を開けようとした。何度でもリベンジし、絶対に京極に刺客を送り込んで見せる―――そう心に誓っていたのだが、

 

「なッ…………!!!!」

 

()()()()()()()()によって、早くもその希望は絶たれんとしていた。

 

「おいおい祭囃子……普段のあんたならこの程度のリスキル天誅返し返し返し返し、簡単に避けられたと思うぜ―――焦っているのか?」

 

「が、は」

 

障子の向こうから声がして、もう1本刀が生えてきて。

 

「ぐぁあ!?!?」

 

「まぁ関係ないがね……俺には()()で背負った()()がある。この幕末で、()()()()より重いんだ」

 

「だん、ごう……???!?」

 

お前は、まさか。

 

「勘づいたか―――まぁ冥途の土産に教えておいてやろう、俺は()()()()()()()()()()()()()()()()の刺客役だ……あいつ、標的にされてることについて随分怒ってたぜ?自分でトトカルチョを主催して、ターゲットに()()()程度にはな」

 

やっぱり、そうか。

 

「まぁこれも自業自得だ…………せいぜい大人しくリスキルされてくれよ」

 

そして俺の(HP)は尽き果てる。

しかし、ゲームは終わらない―――まだ、始まったばかりなのだ。

轟音がどこかから聞こえた。

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