そんなわけで、あなたはオフライン版サバイバル・ガンマンを起動する。
周囲に誰もいないことを改めて確認しながら、あなたは青空を見上げる。そこには、つい昨日までιサーバーから見ていたものとまるで同じな、美しく、透き通って、誰もが憧れる、誰もいない青色が広がる。
……誰もいない、という言い回しは少しばかり不適切だ。厳密にはサバイバル・ガンマンの空は完全な
あなたは辺りを見回す。
……そして、もし烏とか蝶とかを「誰も」のカウントに含めないとするなら、あなたが今まさに踏みしめている大地(ほら、切りも燃やしもしていない初期状態だから、木がこんなに生い茂ってるぜ)とか、蔓たちの隙間から垣間見える海(実際のところ、オフライン版ではあなたのいる島は真に
あなたは自分が孤島にいることを理解する。
森林は血痕ひとつ浴びず、海波はあまりに青く。
端的に言って、異様な光景だ。
◆
あなたは飛行機の制作を再開する。
周囲に人がいようがいるまいが、基本的にやることは変わらない。ιサーバーには飛行機理論において五つの派閥があって、そしてそのそれぞれが血で血を洗いその過程でうっかり汚してしまった部品を水で洗う、そんな争いを繰り広げていた。あなたがどの派閥に属していたのかはこの際関係ない。なぜかといえば、空を見上げているのがあなただけだからだ。要は、あなたが孤独だからだ。
自分の派閥が主張していた飛行機の設計図を記憶から掘り出して、あなたは砂浜にそれを描き出し、初期装備のナイフに付着した砂を軽く払う。
作業は順調に進行する。
本当に、ものすごく、驚くほど順調に。
あなたは最初はその事実に戸惑うけれど、すぐに飲み込む。つまり、組み立て中に殴り込んでくる別派閥の奴らとか、組み立て中に殴り込んでくる(撃ち込んできたり斬り込んできたりもする)他サーバーの旗を掲げた筏とか、組み立て中に森に入ってマンモスとかを
ちょっと順調すぎるんじゃないか、と思いつつ、あなたは作業を粛々と進める。頭上の青空は少なくともまだ失われていないし、失われていない以上は憧れを満たすべきだと、そう思うからだ。
作業が進む、どんどん進む。周囲には海しかないというのに、なぜだか漂着物は普通にやってきて、あなたはそれを独り占めできる。あんなに材料が足りない足りないと小型化のため試行錯誤したエンジンも、目の前に積みあがった銃の高さに殴られて、極めて原始的な形でできあがる。
できあがってしまう、とも言える。
◆
木の皮に刻み込んだ日数が一行と埋まらないうちに、あなたは飛行機を完成させる。あなたが所属しているのがどの派閥かに関係なく、だ。多少日付が前後することはあっても、そう長い時間がかからないことは確定している。
あなたは喜ぶ。それはもう喜ぶ。飛行機の完成は悲願だったし、たとえオフラインモードであっても嬉しいものだ。
早速木の実をくりぬいて作ったヘルメットを被り、あなたは飛行機に乗り込む。危なげなく組み立てられたレバーを引いたり、新品みたいに輝くギアを回したり、随分お行儀よく収まったロープを引っ張ったりして、あなただけの飛行機を発進させる。
飛行機は事故を起こさない。
派閥によって違うけど、プロペラを回すなり燃料を噴射するなりして、ふわりと空を駆け巡る。あなたがあんなにも憧れて、木の皮を何枚も使ってなお届かなかった空を、軽快かつ何でもないように飛ぶのだ。
そして、あなたは思う。
全く面白くない、と思う。
和解も、対立も、危険もなしになんとなく完成してしまった飛行機を、全く面白くない、と思う。
高いところからいくら海原を見渡しても、島は一つを数えるのみであることに、全く面白くない、と思う。
何より―――あなた自身が求めていたのが、空を飛ぶことじゃなくて、ιサーバーの空を飛ぶことだったことに、全く面白くない、と思う。
操縦桿を傾ける。向かう先は小さな孤島、忌々しいあの孤島だ。全速力でプロペラないし燃料をぶちかまして、この空、そしてこの世界における最後の
当然のことながら、あなたは死ぬ。
目の前に表示された「コンティニュー」の文字を見ようともせずに、寂しげに輝く「ログアウト」を押す。
◆
あなたは、外部サイトに存在するかつてのιサーバーのコミュニティを見る。
厳密には、見るか見ないかある程度葛藤したうえで、見る。
いつの間にか管理者が雲隠れしてしまったという事実をトップページから読み取りつつも、備え付けられた掲示板を開く。
そこには、何十人ものあなたが、何十人ものあなたなりの言葉で、「セプテントリオンを許すな」という趣旨の言葉を投稿している。
あなたもまた、それに倣うのだ。