「……よし、録画できてるな」
傍らに展開した、現代のゲームにしては妙にチープかつ低画質なウィンドウを確認し呟く。そこにはいくつかのアイコンとシークバー……そして、しゃがみ込む俺の姿が俯瞰視点で映っている。俺の姿と言っても、当然のことながら
「サンラク、いけそう?」
背後からカッツォが話しかけてくる。こいつも海パンに覆面、このゲームのキャラクリが貧弱なことも相まって、見分けを付けるのは困難だが……まあ、そもそもその必要はない。この録画はあくまで
「ああ……よし、始めようか」
「うん」
閉じるウィンドウの
「チョコを、集めるぞ」
◆
最高級デラックスパフェの材料のうち約半数は、フィールドからの採取によって収集される。
フェアクソにおける要素は、後の方に実装されたものほど「手間がかからない」ことを念頭に置いたものである傾向にあると言われている。そしてこの半数は恐らくかなり後になって実装されたようで、「サブシナリオを一つこなす」「ギミックボスを倒したドロップ」などのクオリティはともかく
【採取:〈スティックチョコ〉を入手しました】
「はぁ……」
俺は
「はぁ……」
反対側で同時にスティックチョコを入手しているカッツォも、釣られてか溜息を吐く。
……このゲームの採取ポイントは、基本的に野外だ。チョコだろうがキャンディだろうが
「ふぅ……」
仮想世界でも長時間しゃがんでいれば疲れる。俺は一旦立ち上がると、ついでにインベントリを開いて進捗を確認した。
「えーっと……俺が持ってるチョコが38本か。カッツォ、お前は?」
「俺は37……あっ、今38本になった」
「オッケー、じゃあ残り26本ずつ回収したらいったんストップだ」
「了解」
俺はメニューウィンドウの閉じる効果音を聞きながら、再びしゃがんで作業に戻った。
◆
「よし、ちゃんと64本あるな?」
「大丈夫だよ」
ただ実装されているというだけで200個近い進行不能バグを生み出しているアイテム実体化機能を細心の注意をもって使用すると、俺たちは手元のチョコスティックを確認し合った。
「じゃあ……
「よし」
目の前の覆面海パンが手渡してくる64本のチョコスティックを受け取り、右手の64本の束に追加する。この時点では……よし、何ともないな。
「この時点では何ともないようだ……それじゃあ、
右手をカメラに写りやすいように少し掲げるようにすると、左手でUIを操作する……いやこのメニューマジでゴミみたいなインターフェースだな……よしあった、【しまう】ボタンをタップする。一瞬遅れて、右手からチョコの束が消える。
「さてどうなった!?」
インベントリを開く!そこに表示されていたのは―――
【アイテム:〈スティックチョコ〉×-128】
「成功だああああああああ!!!!」
「よっしゃあああああああ!!!!」
喜びを叫びとして、カッツォと共に出力する。俺は今なら誰にも負けない気がしたが、直後にフラッシュバックした様々な記憶で嫌そうでもないなと考え直した。まあ何はともあれ……
「よしッ!いいぞいいぞ……!あとは
「ああ、サンラク……!作ろう、最高級デラックスパフェを!!」
俺たちは特に理由もなく飛び跳ねながら言葉を交わすと、駆け出した。
◆
フェアカスが棒立ちしている。
俺は彼女に近づくと、インベントリからマイナス128個の最高級デラックスパフェを選択し【わたす】ボタンの上に指を乗せる。
視界左上のUIを確認する……【フェアリアに最高級デラックスパフェを渡す(0/1)】。
このゲームにおいて、アイテムの個数は符号付き8bit整数で管理される……だが、こういうクエストの達成率には符号なし16bit整数を使っている。つまり、アイテムの個数が-128個から127個の範囲で表されるのに対し、ミッションの達成率は0から65535の範囲で表される、ということになる。ではこれらを組み合わせたら……果たして、どうなる?
「準備は良いな?」
しゃがみこんでウィンドウを覗くカッツォへ、フェアカス越しに問う。
「ああ大丈夫だ……完璧に、写ってるよ」
よし。
俺は満を持して、手元の【わたす】ボタンを……押した。
突如として、
「なッ…‥!」
予想外の事象だ……いや、よく見ればこれは雷じゃない!
俺が覆面に空いた小さな穴から見た物は……赤い爆炎、緑の回復光、青い稲妻……
「ちょっ、どうなってんの!?」
「多分これ
カッツォの質問に答えながら、左上を再び見れば……そこには、【フェアリアに最高級デラックスパフェを渡す(65409/1)】の文字。そしてそれは一瞬で【炎都ヴァヴェルに行く(65408/1)】へと変化し、【シェルドラビットの毛皮を集める(65407/20)】へと変化し、更に【3つの台座を集める(65387/3)】へと変化する。ビンゴだ……進行度が尋常じゃない大きさになった場合、このゲームは
目の前のフェアカスが見えなくなるほどの情報が集積され、雷のように、竜巻のように、爆炎のように踊り狂う。ふと空を見上げれば、太陽すらも早送りで移動し、朝と夜とが
「録画できてるよな……?」
「大丈夫だよ……さて、どうなる?」
どこかから轟音が聞こえたかと思えば、それを魔法障壁が防ぐ音もまた聞こえる。フェアリア・クロニクル・オンラインと言う世界におけるあらゆるイベントが、このクソヒロインの肉体をグラウンドゼロに発生し続けているのだ。そして、そこにはもちろん―――
「……
ラスボス戦、邪神グラトーニエの斃死。
この世界の終わり、或いはボーナスタイムの始まりすらも含まれて……!
「……サンラク、このグリッチの名前、どうする?」
カッツォが、目の前のエフェクトたちが徐々に
「……そうだな、こういうのはどうだろう?」
俺が、二言目を口に出す前に。
フェアリアは最後の出現エフェクトと共に、こう言った。
『ああ、精霊達が解放されていく……世界に色が………貴方のお陰よ、本当にありがとう………!!』
カッツォと息を合わせて、飛び蹴りのための跳躍をしながら……俺は、同時に問いへと答えを発した。
「―――"
壮大なBGMに包まれて、三分間が始まった。