枷としてすら機能せず
「……は?」
それしか言えなかった。
そもそもの話、カッツォが『キグルミ・ファイト』に俺を誘ってきたところからおかしいと考えるべきだったのだ。あのゲームはまあ一発ネタの類だから、アップデートが来て改善
ヤもちろん、単に気分を変えたかったのかな?みたいな、そういうことも少しは考えたよ。俺だってシャンフロの息抜きに幕末をやるし、危牧の息抜きに便秘をやるし、ミナゴロシの息抜きにハイジャァ~~ッッッ!!!!(よみがえるトラウマ)……というくらいのことはする。
しかし、実際のところは違った。
クラファンが未だ目標の30%に達していないせいか一向に行われないアップデートはあの息苦しいメニュー画面を全く変貌させないままで、とりあえずジェノサイドマンモスを選択した俺がとりあえずジェノサイドマンモスを選択したカッツォに超必殺技返しでまあ
―――「このゲームで―――
ここまで聞いた時点では、俺の言語野はああなんか気を散らそうとしてるなくらいしか思わなかった。カッツォは別に品行方正なゲーマーではないから、時としてこういう事をしてくるのだ。今までにやられたこれ系で一番ウザかったのは間違いなくあの忌々しい『テクスチャ・バルチャーズ』だが……残念ながら、それは
―――「このゲームで、お前と対戦したいって奴が―――
ここでも俺は動じなかった。もちろんカッツォが提示してくるであろう未知のクソゲーハンターと邂逅してエッお前ペンギン・オブ・ザ・デッドオルタナティブの限定版持ってんの~~~!?マジかよマジかよ……!みたいな話をしたくなかったと言えば嘘になる。しかしこの場の勝敗は、あの益体もないにもかかわらず各界から大ブーイングを巻き起こし社会問題にすら発展した限定版特典装備よりはるかに重要―――というより、完全に
―――「このゲームで、お前と対戦したいって奴がいるんだ……名前は―――
ハイハイ。俺はもはや眼前のローポリエレファントが紡ぐ言葉が目くらまし以上の意味を持たないことを悟っていた。集中をより強める。もはや何を言われようと、何を見せられようと一切動じない、そんなアドレナリンとカフェインを道として行きつける真の集中。カッツォのローポリカウンターが間に合わないのは明白で、俺のローポリスマッシュはあまりにも的確に彼にヒットする―――
―――「このゲームで、お前と対戦したいって奴がいるんだ……名前はシルヴィ―――
は??????俺は集中を完全に霧散させ、
―――「このゲームで、お前と対戦したいって奴がいるんだ……名前はシルヴィア・ゴールドバ―――
霧散の影響で操作をミスって妙に摩擦係数の低い床に頭を打ち付け、
―――「このゲームで、お前と対戦したいって奴がいるんだ……名前はシルヴィア・ゴールドバーグ」
死んだ。
◆
「ノーカンだろアレは」
「お~~や遠吠えが捗るねクソ雑魚エレファント君」
「エレファントの遠吠えってどんな感じだと思う?」
「パオーンとか?」
「パオーンってノーカンと似てない?」
「似てない」
「そっか……」
俺は空しく却下された提案に思いを馳せ、何となくパオーンと鳴いた。なんだかアニマルファイト・オンラインのあの鼻で巻き付き攻撃が強いように見えて実際のところライオンの尻尾巻き付き攻撃(??????)と比べて威力判定速度すべてが劣っているあの相対的ハイポリ象を思い出すな……俺がしみじみとしていたところ、
「あ、じゃあそういうわけでシルヴィア呼ぶよ」
早くない?
「Hello!!」
早くない????????
『さぁ!可愛いキグルミボディを選ぼう』
早くない???????????????????????????????????
◆
キグルミ・ファイトには
「…………ふふふ」
相対するキューティーキャット、あるいは別ユニバースにおける
カッツォのライブラリを漁ってたら(なんで?)見慣れないゲームを発見して試しに自分で購入し(なんで?)プレイしたらハマッた、らしいが……そもそもどうして便秘じゃなくキグルミなのかがわからない……いやそうか、便秘は基本的にパケ版しか遊ばれないからライブラリで新しい順ソートしても表示されないのか!合点が行った俺は、
「―――勝って、やるよ」 言って、
『さぁ!楽しいバトルの時間だぁ』 言われて、
「That's my line!」 言い返された。
◆
俺の第1キャラはバーサークエレファント、単純な火力を優先した形になる。全3ラウンドあるし、この多分仕様勝ち抜き戦はWΔと違って都度キャラ変をする方式だから、第1ラウンドはシルヴィアがどんな動きをするか見るのに費やしてしまっても問題ない……そういう考えも多少は入っている。
対するシルヴィアの第1キャラはキューティーキャット。このゲームはあんまりちゃんと触っていないが……確か一番AGIが高いキャラだったはずだ。外見は変質者にしか見えないがそれをさらに補強する高速のダッシュは見るものを笑い転げるか恐れ戦くかの二択に陥れる恐怖の性能である。
ここから導き出せる結論―――相手は突っ込んでくるはずだ、カウンターを狙え!!
「レッツ・ショータイム!」
襲い掛かるキューティーキャットを目前に、このゲーム特有のなんか変にクセのあるラグをどうにか抑え、反撃の準備を整える。
「な……ッ」
「
妙にテンションの高い声がどこか遠いものに聞こえる。というより実際のところそれは遠くて、なぜ実際のところ遠いかと言えば
「猫が象投げ飛ばしてんじゃねーよ!!」
どこの下剋上だそれはァッ!!受け身を取って着地、どこまで飛んだ?見ればシルヴィアは……いつの間にか、
「キャットパンチ!」
「エレファントスタンプ!」
右脇腹が適度に規制された出力でもって
「選択を誤ったなシルヴィアァァァァッ!!!」
固定観念を捨てろ、ここはお前の知ってる
「ッ!?」
「
――飛んだ。
「気持ち悪ッ!!」
「うるせえ!!!!
「
「シャラップ!!!!」
煩わしい空気抵抗を強引に無視、姿勢を変転させて突き出した右脚でキックをする。確かにこのゲームにおいてエレファントは全キャラ最低のAGIを持つが、三次元機動はAGIを参照しない―――座標と方向の両者が完璧を取り、俺の風船みたいな脚は吸い込まれるようにキューティーキャットの風船みたいな腕に直進する。これは勝っただろう―――俺はほくそ笑んだ、が。
『超必殺ぅ!イーロングライオン!!』
キューティーキャットの肉体が
「なッ!?」
「
キューティーキャットの超必、本来の効果はAGI上昇……だが俺が狙っていたのは他ならぬ右腕で―――狭まった
「あ゛」
問題、虚空にキックしたらどうなるでしょうか。
回答、転びます。
「Oh……ソーリィ!」
来る。キャラ性能と実装のショボさが合わさっためちゃくちゃショボい猫パンチが、しかして喜色を隠さない言葉とともに来る。
「が」
避けられない。ノックバックが無いから。
「ぐ」
受け止められない。防御コマンドが無いから。
かくして始まった
◆
ぶっ倒ォす!!!
俺は闘志を燃やした。
燃え上がる闘志をそのまま反映し選択キャラはジューシーチキン、何がキューティーキャットだよふざけやがって……そもそも体格がどう考えても人類のそれなのにキューティーなキャットで押し通すのは無理があるだろボケッ!!俺はキレた。キレたが、同時に落ち着いてもいた。燃え上がる闘志は紛れもない本物で、どこまでも俺という
チキンを選択、なぜか『さぁ!楽しいバトルの時間だぁ』がもう一回聞こえる。バグじゃないバグじゃないバグじゃない……10回念じたところで視界を染めるのは再びの簡素なマップたち、そして何よりキューティーキャットだ。
「ハァイ
「舐めるなよ―――今の俺は謂わば
「それ
「シャラアアアップ!!!」
叫び、突進する!今度は俺が攻める番だ!ジューシーチキンは基本的にAGIそこそこATKそこそこというなんだかラブリードギーと被り気味な性能であり、基本的に立ち止まっての殴り合いがデフォルトなこのゲームではキューティーキャットに対しては突進あるのみである。
1歩2歩3歩4歩目でトサカを掴もうとしてきたので華麗に回避することを読んで5歩目で固めに入ろうとして来ることを読んで6歩目でフェイントをかけ7歩目でちょっと引っ掻かれたけどせいぜい1割減、8歩目9歩目……今ッ!!
「
全力での頭突きをお見舞いする!
ラブリードギーとジューシーチキンの差別化点はすなわち身体的特徴である。ラブリードギーの牙は高倍率のダメージを相手に与えるし、ジューシーチキンのトサカも頭突きに使えば然りだ。もっともそんな高倍率攻撃をみすみす食らうような相手じゃない、当然のようにバク転で回避される。だから予備動作として持っておいた蹴りをそこに叩き込む。きりもみ回転で回避される。えぇ……ちょっとヒきつつまあ予想していたことなのでさらに持っておいたボディブロー―――
「甘いね」「甘いな」
まで見越して行われたサマーソルトが恐ろしいほど綺麗に決まる。宙を舞っているのは不格好なキグルミに他ならないのに、俺はどこか
「墜とせばいいだけの、話だッ!!」
蹴りをそのまま踵落としに転じさせて放つ!このゲームにはノックバックというものが無い、だからこそ飛翔しているものに踵落とししても
「なッ―――」
ベクトルとベクトルがキューティーキャットを板挟みにする。現在進行形で入り続けているダメージ判定たちが蝕む
「
再びの頭突き!完璧に衝突したトサカとローポリ背中はかくして貧弱な物理エンジンによる判定を介し、結果―――すなわち、キューティーキャットの消滅を出力した。
◆
シルヴィアの2キャラ目選出待ち、一先ず予想でもしようじゃないか―――俺は考える。まずキャットはあまり無い線といって良いだろう。彼女はAGIキャラを好みこそするがGH:Cと違ってミーティアス1本というわけではない。俺がまあAGIが低いわけではないチキンを選出している以上、AGIはもはや絶大なアドバンテージとはなりえない。そうなると対極として考えられるのがエレファントだが、ドギーとエレファントを天秤にかけた場合罫線能力の高さでドギーを選出するような気もする……うーむ。
俺が悩んでいる間に、あの微妙に使いづらいインターフェースをシルヴィアは乗り越えたらしく……フリーアセットと思われるエフェクトが発生し、彼女が―――
「今だァァァッッッ!!!!!!!!」
「Hello―――!?」
俺は全速力で超必を起動、『超必殺ぅ!フライングレッド!!』の腑抜けたアナウンスを身にまとう気持ちで突っ込む―――!おもむろに出現した鍋を掴んだところでオート操作に切り替わったアバターがシルヴィア―――あ、ラブリードギー選んだの?そっかぁ―――を煮始める!ヒャッハァ~~~~ッ!!!一瞬のうちに体力を
「やっぱこのゲームクソゲーだわ」
俺は呟いた。
◆
さ~~~~て次でシルヴィアの残機はラストそれに対し俺は1機残しているうえ体力も8割を上回っている……これは勝ったかな?俺は慢心した。だからシルヴィアが随分早くバーサークエレファントを選択して戻ってきたときも、なんだか嫌な予感がするぞ、といったことを考えはしなかったのだ。
紛れもない、間違いであった。
「―――ッ」
キャラ性能的に全速も全速を出して巨象が突っ込んでくる。ノックバックが存在しない以上加速度に意味は無いから、単に急いで攻撃したがっていると見るべきだろう……飛ぶ、翻る、しゃがむ、翻る―――ひとまず無難な方法で回避し、てッ!?
「Let's―――」
シルヴィアが変な動きをする。俺は驚きに硬直しつつ、イヤそんなことをしている場合じゃないと動き出す。その事実は当然のように何の影響を及ぼすことも無く、眼前の世界最強は……
「―――Headbutt!!」
「が……っ!?」
考えるべきだったのだ、頭突きは何もトサカを持っているチキンの専売特許ではない。コマンドとして全キャラクターが取りうるそれだし、敵がエレファントである以上その長い鼻はむしろそれに適しているとすら言えるのだから。
「こ、なくそ……ッ!」
ノックバックが存在しないため変に寸止めになった頭を強引に捻る。攻撃倍率が高いトサカをそのまま相手との接触部に回し、形勢を逆転すべく押し込む―――が、ダメだ。単純にSTRが足りない。
「離しはしないよ―――顔隠し」
象が耳元で囁いてくる。囁きと呼応するように入れられ始めた小パンは、端的に言うとハメ技だった。HPバーは削れてもベクトルは変化せず、ただ常時スーパーアーマー状態のニワトリだけが屠られていく―――
「く、そ、がッ!!」
右で小足小足小足、ゴリ押しでどうにかハメを突破する!ハズレハズレハズレ、どうやら一筋縄ではいかないようだな……!!俺は歯ぎしりをしようと思ったが、キグルミなのでできなかった。減っていくHPに焦りだけが増す。膝を入れ、回し蹴りをし、踵を落とす―――しかしてそれらのすべてが見切られる。ラウンドの最後、同時にヒットポイントの最後に相対する象に覚えた感情は、畏怖と尊敬と
◆
「オンドレァ!!!」
短めのロード時間の先にあるキャラセレクトを理論上最速でクリア、反射神経がキャラを選んでるんで意識では把握してないが……恐らくラブリードギーを選んだはずだ。それが最善だと本能が言うなら、期待に応えてやるまでだ!
「やってやろう、やってやろうじゃねェか……!!!」
リスポーンと同時に呟、く……?
「えっ」
「ハーイ」
なぜかバーサークエレファントが肉薄していた。
「えっ」
『超必殺ぅ!ジェノサイドマンモス!!』
それはひょっとしたら意趣返しだったのかもしれなくて、でも俺が見たのは煌めく彗星の一筋みたいなもので。
俺は死んだ。