いろいろ*1あって陽務楽郎と
「……楽郎君が、好きなゲームは……えっと」
他ならぬ、
近年のVRシステムにおいて、
共有はダウンロード販売によって購入されたゲームに限定されるとはいえ、それでも
「……うーん」
斎賀玲のゲームプレイにおける動機は単純明快、即ち「ゲームを通して
ゲームの共有こそ行われていても、詳細な情報……例えば、アカウントのプレイ時間は共有されていない。プレイ時間が共有されていない以上、どの程度
これを始めとして、彼女が直面している問題は極めて多岐に渡っていた―――スクロール中、ライブラリ一面を一瞬間違い探しに変化させる謎のパズルゲームシリーズ(全21作)、脳内において"SIMULATOR"という文字列のゲシュタルト崩壊を招く謎のローポリゴン・アクションゲーム群(全34作)、あるいは何やら
「……………………」
彼女は―――
◇
そういうわけで、彼女は現在キグルミ・ファイトの世界に降り立つ一人のキグルミ・ファイターであり、キグルミ・ファイティングへの情熱を燃やし続けている(ナレーション談)。
「……えっと、チュートリアルは……」
当然のように、無い。
彼女はしばしのインターフェース上における散策の後でそれを察し、諦めて素直に一介のキグルミ・ファイターとして己の肉体を
「…………えっと、ナレーションをオフにするオプションは……」
当然のように、無い。
彼女はしばしのインターフェース上における散策の後でそれを察し、抑揚のパラメータが0どころかマイナスに足を踏み入れつつあるくせにやたらと文量だけはあるナレーションが仮想の耳を侵し行くことを許容した。というより、
「……………えっと、2ページ目は……」
当然のように、無い。
サイガ-0は未だ知らないが、ストアページを見ればわかる通りこのゲームは
「………………ヘルプリファレンス………………」
当然のように、無い。
一流のキグルミ・ファイターは他者のしたためた文書などというものを参照せずとも、己の技のみで頂点に君臨できるものなのである(ナレーション談)。
かくしてサイガ-0は、早々に本日二回目の直観を使うことになった。
◇
マッチング画面。
「…………」
初戦の相手はキューティーキャット。ボイスチャットがデフォルトでオフになっているため会話は発生せず、無言のにらみ合いとシュルレアリスムだけがそこには成立していた。
『さぁ!楽しいバトルの時間だぁ』
ただ感情を持たぬナレーションだけがそこを崩し得たことは、果たして何かの皮肉であろうか―――おそらく、単なる偶然である。
ゴングの音とともに、試合は始まった。
「………………ッ!!」
相手のキューティーキャットは、開幕で超必殺技の入力を思考を研ぎ澄まし1フレームに50回行うことでゲージを踏み倒したうえでその50回―――キューティーキャットであるから、この場合はスリム化―――をすべて発動させることでスリム化にスリム化を重ねテクスチャの裏側が見えるレベルのスリムさを作り出すことによって
実に、192フレームの出来事であった。
◇
「……つ、次のゲームに……」
ロビーに降り立つやいなや、サイガ-0はUIの操作を開始した―――当然のことながら、目的はログアウトボタンである。己が直観をもって選び抜いたゲームとは言え、明らかにその直観は外れている―――直観が外れていることが直観で分かる。自分がこのゲームで勝利するためには、最低でもあの
『一流のキグルミファイターは決して諦めない!
その時、暑苦しいナレーションが響いた。
「……あ」
キグルミ・ファイトにナレーションをオフにするオプションは無い。だから、ロード時間より再生時間の方が長いせいで、暗転を終えてもまだ流れ続ける鬱陶しい声も、どうにか認識しないよう振舞う以外に無い。だからこそ―――その瞬間の
「……そうだ……諦めちゃ……諦めちゃ、ダメ、なんだ」
斎賀玲は、いろいろ*4以前の、様々な奇天烈なゲームに挑んでは、端から挫折することを繰り返していた自分を思い出す。結果として見れば、想い人が
「……でも」
UIから手を離し、若干もっさりとした動きで閉じ始めるそれから顔を上げる。
……でも、そのままではダメなのだ。例えいろいろ*5を経由していようが、
核に頼らなければ倒せなかった巨大なキリン、どう頑張っても12人までしか返り討ちにできなかった襲撃者たち、40%を超えられないトムソンガゼルのライオンに対する勝率……今こそ、そんな積み重ねてきた挫折を過去に置き去り、未来に向けて前進する時だ。
「……よしっ!」
かくして、サイガ-0の研究が幕を開けた。
◇
『一流のキグルミ・ファイターはぁ、他者のしたためた文書などというものを参照せずともぉ、己の技のみで頂点に君臨できるものなのであるぅ!』
「うーん、この声も久々だね……ってかこのパターン前は無かったっけ?なんだかんだアプデしてるんだなあ……」
数か月ぶりに『キグルミ・ファイト』の世界へと
ログインの目的としては、暇つぶしである。
「……おっ、ランダムマッチ追加されてるじゃん!ほんとにちゃんとアプデしてるんだね……ファイターは相変わらず4種類のままみたいだけど。……バランス調整くらいはしてるのかな?試しにバーサークエレファントで行ってみようかな」
例によってもっさりとした挙動で、マッチング画面に入る。
長引くと思っていたスピナーの
「……
頭上に表示されたプレイヤーネームに、首を―――
『さぁ!楽しいバトルの時間だぁ』
相手のジューシーチキンは地団駄を3回踏むことで
実に、102フレームの出来事であった。