フロンティアへの幾星霜(短編集)   作:Z-LAEGA

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シェアード・シンパシー

いろいろ*1あって陽務楽郎と家族(ファミリー)関係にあることになっている斎賀玲は、眼前に広がる巨大なる情報(データ)の海を前に悩んでいた。

 

「……楽郎君が、好きなゲームは……えっと」

 

他ならぬ、()()の悩みである。

近年のVRシステムにおいて、家族(ファミリー)関係を結ぶ戸籍(アカウント)には、相互的にある機能を使用する権利が与えられている―――すなわち、資産(ライブラリ)の共有である。

共有はダウンロード販売によって購入されたゲームに限定されるとはいえ、それでも陽務楽郎(サンラク)が渡ったタイトルのうち約三割にあたる。現在の斎賀玲(サイガ-0)は、これらのすべてを―――両者にブッキングが起こらない限り、遊び放題であった。

 

「……うーん」

 

()()()()()、彼女は悩んでいた。

斎賀玲のゲームプレイにおける動機は単純明快、即ち「ゲームを通して(サンラク)を知りたい」という諸々の感情によって構築された衝動である。その動機は、例えいろいろ*2を経たとしても薄まるようなものではなく……要するに、彼女はサンラクの()()()()()を測りかねていたのだ。

ゲームの共有こそ行われていても、詳細な情報……例えば、アカウントのプレイ時間は共有されていない。プレイ時間が共有されていない以上、どの程度やりこんでいる(気に入っている)かも全く分からず……必然的に、直感を頼りにするしかなくなる。

これを始めとして、彼女が直面している問題は極めて多岐に渡っていた―――スクロール中、ライブラリ一面を一瞬間違い探しに変化させる謎のパズルゲームシリーズ(全21作)、脳内において"SIMULATOR"という文字列のゲシュタルト崩壊を招く謎のローポリゴン・アクションゲーム群(全34作)、あるいは何やら()()()()()を感じさせる―――恐らく、同じメーカーによって作られた―――同じようなアングル、同じような構図、同じようなフォントを持ってただ中心に配置された存在(オブジェクト)だけが若干異なっている、恐らくシューティングゲームと思われる何かのシリーズ(全48作)。主なものとしては、これらが挙げられるだろう。

 

「……………………」

 

彼女は―――()()()。いろいろ*3の結果としての己の家族(ファミリー)は、どうもかなりの深淵と覗き覗かれの関係にあるらしい。だからこそ考えるのをやめた。直感に頼りきった。その仮想体(アバター)の目は開かれてこそいたが、宿主はもはや視覚に頼ることを辞めていて―――完全な()()()()()だけを頼りに、一つのゲームを選び取ったのだ。

 

 

そういうわけで、彼女は現在キグルミ・ファイトの世界に降り立つ一人のキグルミ・ファイターであり、キグルミ・ファイティングへの情熱を燃やし続けている(ナレーション談)。

 

「……えっと、チュートリアルは……」

 

当然のように、無い。

彼女はしばしのインターフェース上における散策の後でそれを察し、諦めて素直に一介のキグルミ・ファイターとして己の肉体を(うず)めるべき相棒(キグルミ)を選択する(ナレーション談)作業に入った。

 

「…………えっと、ナレーションをオフにするオプションは……」

 

当然のように、無い。

彼女はしばしのインターフェース上における散策の後でそれを察し、抑揚のパラメータが0どころかマイナスに足を踏み入れつつあるくせにやたらと文量だけはあるナレーションが仮想の耳を侵し行くことを許容した。というより、拒否(非許容)する手段が無かったといった方が正しいだろう。

 

「……………えっと、2ページ目は……」

 

当然のように、無い。

サイガ-0は未だ知らないが、ストアページを見ればわかる通りこのゲームは開発中(アーリーアクセス)である。キャラクターは彼女の眼前で何やら奇妙なポーズをとっているこの四体―――ラブリードギー、キューティーキャット、ジューシーチキン、バーサークエレファント―――で完全に固定されており、これ以上の追加はアップデートを待つことになる。

 

「………………ヘルプリファレンス………………」

 

当然のように、無い。

一流のキグルミ・ファイターは他者のしたためた文書などというものを参照せずとも、己の技のみで頂点に君臨できるものなのである(ナレーション談)。

 

かくしてサイガ-0は、早々に本日二回目の直観を使うことになった。

 

 

マッチング画面。

 

回転(スピン)するスピナーを眺めること約5分、そろそろ諦めて()に行こうかななどと考えていた頃合いで、ようやくナレーションはその完了を―――相変わらずの抑揚のなさで―――伝え、サイガ-0……狂乱暴闘象(バーサークエレファント)と化した彼女は、ついにポリゴンが1000枚も無さそうなバトルゾーンに立っていた。

 

「…………」

 

初戦の相手はキューティーキャット。ボイスチャットがデフォルトでオフになっているため会話は発生せず、無言のにらみ合いとシュルレアリスムだけがそこには成立していた。

 

『さぁ!楽しいバトルの時間だぁ』

 

ただ感情を持たぬナレーションだけがそこを崩し得たことは、果たして何かの皮肉であろうか―――おそらく、単なる偶然である。

ゴングの音とともに、試合は始まった。

 

「………………ッ!!」

 

相手のキューティーキャットは、開幕で超必殺技の入力を思考を研ぎ澄まし1フレームに50回行うことでゲージを踏み倒したうえでその50回―――キューティーキャットであるから、この場合はスリム化―――をすべて発動させることでスリム化にスリム化を重ねテクスチャの裏側が見えるレベルのスリムさを作り出すことによって時空(ステージ)そのものを歪ませてあらゆる場所に攻撃判定を発生させた。サイガ-0は負けた。

 

実に、192フレームの出来事であった。

 

 

「……つ、次のゲームに……」

 

ロビーに降り立つやいなや、サイガ-0はUIの操作を開始した―――当然のことながら、目的はログアウトボタンである。己が直観をもって選び抜いたゲームとは言え、明らかにその直観は外れている―――直観が外れていることが直観で分かる。自分がこのゲームで勝利するためには、最低でもあの可憐(キューティー)というより不安(アニージー)なキャットと同レベルの行動をしなければならない……そんなことは不可能だ。だから、安っぽいフォントが織りなすインターフェースをタップして、スクロールして……

 

『一流のキグルミファイターは決して諦めない!相棒(キグルミ)と自分が共にある限り戦い続けるぞ!』

 

その時、暑苦しいナレーションが響いた。

 

「……あ」

 

キグルミ・ファイトにナレーションをオフにするオプションは無い。だから、ロード時間より再生時間の方が長いせいで、暗転を終えてもまだ流れ続ける鬱陶しい声も、どうにか認識しないよう振舞う以外に無い。だからこそ―――その瞬間の斎賀玲(サイガ-0)のように、無視しきれない場合だってある。

 

「……そうだ……諦めちゃ……諦めちゃ、ダメ、なんだ」

 

斎賀玲は、いろいろ*4以前の、様々な奇天烈なゲームに挑んでは、端から挫折することを繰り返していた自分を思い出す。結果として見れば、想い人が奇天烈ではないゲーム(シャンフロ)に挑まんとしたことで、()()()()()ことには成功している。

 

「……でも」

 

UIから手を離し、若干もっさりとした動きで閉じ始めるそれから顔を上げる。

……でも、そのままではダメなのだ。例えいろいろ*5を経由していようが、サイガ-0(斎賀玲)サンラク(陽務楽郎)と関わり続けていくのだから。

核に頼らなければ倒せなかった巨大なキリン、どう頑張っても12人までしか返り討ちにできなかった襲撃者たち、40%を超えられないトムソンガゼルのライオンに対する勝率……今こそ、そんな積み重ねてきた挫折を過去に置き去り、未来に向けて前進する時だ。

 

「……よしっ!」

 

かくして、サイガ-0の研究が幕を開けた。

 

 

『一流のキグルミ・ファイターはぁ、他者のしたためた文書などというものを参照せずともぉ、己の技のみで頂点に君臨できるものなのであるぅ!』

 

「うーん、この声も久々だね……ってかこのパターン前は無かったっけ?なんだかんだアプデしてるんだなあ……」

 

数か月ぶりに『キグルミ・ファイト』の世界へと降り立っ(ログインし)たカッツォは、数か月ぶりに数か月経ってなおヘルプリファレンスが未実装であることを確認すると、UIから手を離し、若干もっさりとした動きで閉じ始めるそれを眺める。

ログインの目的としては、暇つぶしである。

 

「……おっ、ランダムマッチ追加されてるじゃん!ほんとにちゃんとアプデしてるんだね……ファイターは相変わらず4種類のままみたいだけど。……バランス調整くらいはしてるのかな?試しにバーサークエレファントで行ってみようかな」

 

例によってもっさりとした挙動で、マッチング画面に入る。

長引くと思っていたスピナーの回転(スピン)は、その実30秒ほどで終了した。"ひょっとして案外、このゲーム人口が多いのかな?"という、期待と疑問が入り混じった思考を続けつつ……デフォルトでオフになっているボイスチャットが作り出す無音の中、カッツォは対峙するジューシーチキンを観察し―――

 

「……()()()-()0()……?」

 

頭上に表示されたプレイヤーネームに、首を―――

 

『さぁ!楽しいバトルの時間だぁ』

 

相手のジューシーチキンは地団駄を3回踏むことで()()()()()()()()()()でゲージを貯めると超必殺技を発動、発動時に発生する掴み判定を利用して()()()()()ことによりカッツォの方向に巨大なベクトルを発生させ、そのまま突進することで巨躯にこれでもかとエネルギーを叩き込んだ。カッツォは負けた。

 

実に、102フレームの出来事であった。

*1
いろいろ。

*2
いろいろ。

*3
いろいろ。

*4
いろいろ。

*5
いろいろ。

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