フロンティアへの幾星霜(短編集)   作:Z-LAEGA

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オトギニア・ユニオン
投げれば福は逃げていくから


「鬼は外~!」

 

(ジャック)はそう叫ぶと、右手に握りしめた設置技(マメ)を目の前の赤鬼(カッツォ)に浴びせ掛けた。

 

「くっ!」

 

そして、カッツォは当然のごとくその全弾を綺麗に避けて見せる……流石は日本勢のキャラだ。ストーリーモードの桃太郎シナリオに出てくる雑魚のコンパチとはいえ、その肉体的スペックは俺の使用するジャック君とは比較にならないほどの物がある……だがッ!

 

「今だ……軌道上昇(エレベート)ッ!」

 

無様にもその本懐を成し遂げられず、重力に従い地面へと落ちていく豆たち……その尽くが、俺の掛け声によって()()()()()!ジャックのゲージ技である軌道上昇(エレベート)は、それまでに撒いた豆のうち最新の10個までを、40秒間の間豆の木に変化させる技である。

 

「ちょっ、いやいやいや!」

 

「ホラホラここまで登って来いよォ~~ッ!」

 

付近に撒いておいた豆に掴まってアバターを上昇させながら、右手の金棒を重そうに振るい絡みつく豆の木に対処するカッツォを煽っておく。赤鬼はいかにもな「3Dモデル余ったんでせっかくだから実装しました」キャラ、フィジカルは最強クラスだが、空を飛ぶことも飛び道具を使うことも(金棒を投げる以外では)できない……!ここから20秒間俺は無敵だ、せいぜい芋砂に徹してやるぜェ~~ッ!!!

 

「サンラクゥゥゥッ!!」

 

どうにか豆の木を振り払ったカッツォが、金棒を振り上げ俺の真下まで駆け寄ってくる……フッ、無駄だね。赤鬼の射程じゃ近距離はもとより、金棒を投げても俺は届かない。もちろん着地狩りの危険はあるが……なあに、オトギニア・ユニオンにおける()()()()()()……現実の行事の約2週間前から当日までは、その行事にゆかりのあるキャラは限定スキンが使えるようになる。

いや節分とジャックの間にどんなゆかりがあるんだよって話ではあるが……とにかく、今のジャックは普通のジャックと違い()()()()ができる。内容も『飛び蹴り』といういや飛び蹴りとジャックの間にどんなゆかりがあるんだよとしか言いようのない技だが……とにかく、できる。代わりにステータスは全体的にダウンしてるが関係ない、20秒が経過したその瞬間、出待ちしてるカッツォにカウンターを食らわせてやれば……

 

「おりゃぁッ!」

 

「えっ?」

 

()()()()()()()

下を見れば……そこには、豆の木の根元を()()()()()()()()()()()()()カッツォがいて。

 

「やああああっ!」

 

咄嗟に伸ばした手も、空を切り。

 

「な、んだ、とッ!?」

 

俺は耐久値を全損させた豆の木が倒れるのと共に……()()()()

クソ……想定してなかった。確かにジャックの豆の木は、このゲームにしては珍しく原作再現要素が入っており、根元に特定の攻撃を入れれば倒れる仕様になっている……だが、それはあくまで金太郎の斧なんかの話だ……金棒で斬り倒せるはずが―――!

 

―――『代わりにステータスは全体的にダウンしてるが関係ない』―――

 

ふと数秒前の自分自身の言葉を思い出した途端、俺を加速する重力がより強くなったかのような、そんな錯覚を覚える。眼下で待ち構えるカッツォに、しかして例の飛び蹴りを放つことはかなわない……受動的に()()()()()場合、数秒間のスタンが発生するシステムになっているからだ。

 

「さぁ来いよサンラクゥ!お得意の豆を撒いてみなよ、全部さっきみたいに避けてやるさ!」

 

煽りが聞こえる。負けられない。咄嗟に計算する。スタンは着地とほぼ同時に解除されるはず。だったら!

 

「オラッ!」

 

迫り来る地面を見据えながら……俺は、()()()()()()()()()()()()

 

「なッ……!」

 

カッツォがたじろぐ……ふん、遅いね。ジャックの豆は当たらなければゲージ技用の布石に過ぎない、だが着弾した場合……それは、無条件の設置技になる。つまり―――

豆を打ち込んだ左の二の腕から、茶色の幹と緑の蔓が、メキメキというSEと共に繁茂を始める……当然、俺の真下のカッツォも巻き込んで!いや冷静に考えてこれまったく大豆じゃないな?まあいいや。

 

「クソがッ……!」

 

カッツォがもがく……無駄だね。ジャックの豆は本来そこそこのダメージが入る設置技だが、節分に伴うステダウンもあって、左上のUIが告げるのはどうあがいてもカスダメだ……だが、むしろ好都合ッ!

 

「『飛び蹴り』ッ!」

 

俺は全く飛ばずに、真下のカッツォに飛び蹴りした。

 

「『飛び蹴り』ッ!『飛び蹴り』ッ!『飛び蹴り』ッ!」

 

「なっ、くっ、がっ……!」

 

そうだ……俺が大豆のようなものを打ち込んだのは左腕、つまり脚を使う分には自由……!そして赤鬼には上半身を使用する攻撃しか存在しない……つまり、俺だけがこいつにカスダメ以上のものを叩き込めるッ!

 

「『飛び蹴り』ッ!『飛び蹴り』ッ!」

 

ゲージ技を使った場合に比べ、通常攻撃による豆の拘束時間は短めだ……飛び蹴りを叩き込み放題の時間は、絡み合う緑たちがほどけるとともに終わりを告げる。

眼前の赤鬼の傍らのHPバーに目をやれば、それは明確に赤色表示(レッドライン)に踏み込んでいる……イイぞ、非常にイイ。とりあえず威嚇として投げつけた豆を全部避けられながら、俺はカッツォにこう言った。

 

「さあ……ラストスパートだ」

 

「ちょっとタンマ」

 

えっ?

虚を突かれる俺から手元へと視線を移すと、カッツォは懐から取り出したチョコレートを口に入れた。

カッツォのHPが全回復した。

は?

 

「福は内、ってね……いや~サンラク、節分スキンについて露骨に誘導してたよね。怪しいと思ってwikiとか見て調べたんだ。なんだっけ……『現実の行事の約2週間前から当日までは、その行事にゆかりのあるキャラは限定スキンが使えるようになる』?」

 

俺は、絶句する。

 

「今年の節分が2月の何日かは忘れたけどさ……いつにしても、今日という日については確実に言えるはずだ」

 

言いながら、カッツォは金棒を重そうに担ぎ上げる……そう、重そうにだ。思えばおかしかった、赤鬼が金棒を重く感じるなんて普通はあり得ない。もし、それが()()()()()()()()によるものなら。

 

「―――今日は、バレンタインデーの約2週間前だ」

 

投げつけた豆が金棒に弾かれるのが、奇しくも再開の合図となった。

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