フロンティアへの幾星霜(短編集)   作:Z-LAEGA

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直接宣伝と屈折光線

「……妙だな」

 

11月某日、日曜日、午後1時。

スーパー玉男、本日4度目の呟きであった。

ひとまず、己の勝利を華々しく伝える対戦結果(リザルト)ウィンドウを閉じ、そのまま転送を選択する。己の肉体(アバター)が無数の光条に変換され、一瞬の煩わしい視界暗転(ローディング)の果てに広がるロビーは、よく見慣れた無機質で近未来的なデザインをしている……だが、ロビーで繰り広げられる()()については、明らかに()()()()ものとは言えなかった。すなわち―――

 

「……人が、多すぎる」

 

そう、普段は閑古鳥が鳴くとしか形容しようがなく、そのだだっ広い空間を若干余らせているロビー。それが、今日ばかりはプレイヤー……それも、知らない顔に埋め尽くされているのだ。

はっきり言って、その人数はいつぞやのフィドラークラブお披露目戦すらも優に超える。さらに言えばお披露目戦の場合、プレイヤーたちは試合を見ることを目的に()()していた……しかし玉男の知る限り、特に集結する理由となるようなイベントがロビーで実施される予定は存在しないはずだ。

つまり……ロビーは混雑の()()に過ぎない。人々がごった返すのはロビーだけでなく、フィールドであり、パーツショップであり、ガレージであり……このゲームに存在するありとあらゆる公共空間(パブリックスペース)なのだ、ということになる。

玉男の表情は困惑に染まっている。

 

「……えっ、俺が知らないだけで実はデカい試合とかあるのか……?」

 

無い。二律灰反は依然として現役であり、その二半身連携によって生み出される鉄壁は、未だ新機体の披露に待ったを掛け続けている。

 

「……ネフホロ2の続報が発表されたり……?」

 

無い。そもそも、ネフホロ2の存在が発表された直後の新規が比較的増えた時期ですら、ロビーの様子は現在の喧騒には遠く及ばなかったはずだ。

 

「……それとも、有名人がこのゲームを、紹介……」

 

その時、玉男の呟きを遮るように、半透明のウィンドウが勢いよくポップアップした。

 

『「Jackal」があなたに決闘を申し込みました』

 

「っと!……またアルファベットネーム?やっぱ妙だよなあ……」

 

首を傾げつつ、玉男は手慣れた操作で決闘を受諾する。ボタンを押すことによるピ、というSEがいつもより小さく聞こえるのはなぜだろう、と玉男は一瞬考えたが、すぐに「ロビーに人が沢山いるから、話し声で若干かき消されているんだ」という()()()()()()()結論に辿り着く。やはり何かがおかしい、という考えは抱きつつも、表示された機体選択ウィンドウから跳弾猟犬(バウンドドッグ)を……

 

「……待てよ」

 

手癖でそのまま伸ばしかけた指を、『跳弾猟犬』の文字列の上で止める。

 

「……ここは一つ、()()()()()とするか」

 

指を下へとずらしてみれば……そこには、『跳弾猟犬:ガンドッグカスタム』と記されたボタンが、どこか誇らしげに存在して。

同時に玉男が浮かべた不敵な笑みに、既に困惑の色はなかった。

 

 

『跳弾猟犬:ガンドッグカスタム』は、ネフィリム・ホロウにおけるランキング2位(たまに3位)プレイヤーであるスーパー玉男が、ランキング圏外プレイヤーであるサンラクの操る『キングフィッシャー』を倒すことを目的にアセンブルした機体である。

その名の通り翡翠(カワセミ)を屠る鳥猟犬(ガンドッグ)は、まずキングフィッシャーの超高速機動に対応するために旋推風機構(フリスビースラスター)を搭載、移動速度は重量寄り中量機級で据え置きだが、旋回性能に限っては軽量機並みの速度が出せるように調整してある。また、8月に戦闘した際に得た「基本的にスナイパーレールガンを接射されると死ぬから近距離戦の意味はない」という教訓から『パンツァーパンチャー』を思い切って排除した。

しかし、この機体における()()はそれらではなく―――

 

「さてと……また軽量機?見た感じ装甲がかなり薄そうだな……超高速機動流行ってんのか?」

 

試合開始と同時に玉男は右に旋回する。理由としては『サンラクなら右を攻めてくるだろう』という確信からだ……相手はサンラクではないはずなのにどうしてこうするのか、それは玉男にもわからない。だが、実際のところ予想は当たり……相手はその薄い装甲を繰り、玉男から見て右向きに円周運動(サテライト)を開始した。

誰も見ることのないブースターフレアの残像が、ただエフェクトとして空間に散る。

リコイルが大きい武器を使っているのか若干ブレつつも己に襲来する弾道を、ひとまずサイドブーストを吹かして回避しつつ、玉男は一発目の屈折(フレキシブル)レーザーを放った。

ちょうど移動方向を埋めるように空間を薙ぐレーザーに、軽量機はいかにも慌てた様子でブレーキをかけ、反転する……サンラクが相手みたいな状況に置かれたら同じ動きをしそうだな、と玉男は思った。

そして同時に、サンラクが自分みたいな状況に置かれたら絶対にこうするだろう、と思いながら……あらかじめ決めておいた進路を辿り、()()()()()ようにレーザーを屈折させる―――()()()()()()()

 

「よしヒット!オラァ!!」

 

被弾してバランスを崩した相手との距離を一気に詰める。ネフィリム・ホロウにおいてレーザーの速度は一定ではない。屈折レーザーの場合、放ってから30フレームほどはそれ以降と比較して特に高速だ。だから、敵と近づくのはコントロールの観点から非常に重要である。

見たところ、相手は肩武器を積んでいる様子もない。それはつまり、屈折レーザーによってダウンしている間は、いくら近づこうとも攻撃される心配はない、ということで―――

 

「……ッ!?」

 

簡潔に言うと、相手の軽量機の()()()()()

さらに言えば……ガンドッグのもとに、高速で()()()()()

 

「ちょ……!」

 

旋推風機構(フリスビースラスター)をサイドブースターと共に急速起動、全速力で回避する。

 

「なんだこ……りゃァッ!」

 

回避自体には成功し、頭は真横を掠めていく……だが、時間を取られすぎた。背部カメラを確認すれば……そこには頭を失った首から代わりにレーザーブレードを生やした軽量機が、被弾してもなお高い機動力をもって、お辞儀の姿勢で突進してくるのが見える。

 

「随分な初見殺しだなオイ!」

 

玉男は悪態をつけながら考える。旋回は間に合うか?間に合わない。スラスターは外部ユニット扱いだからクールタイムがあるはずだ。屈折レーザーを前方に発射してすぐ後ろに曲げればいけないか?無理だ。エネルギー不足で発射できない。

様々な考えが浮かんでは、現実という否定者によってその意味を失っていき、時間が選択肢自体を減らしていく。玉男はこの感覚に覚えがあった。それこそサンラクが、フィドラークラブで使ったような……()()()()()()()()()。相手の巧妙な術中に、玉男はまさに嵌っていたのだ。

 

「……でもな」

 

しかし、彼は諦めない。

なぜかといえば、簡単な話だ―――

 

「……()()()()()()()()()()()()()!」

 

『ガンドッグ』という機体における目玉―――それは他ならず、打倒すべきサンラク自身を参考にした、その()()()()に他ならないのだから。

もともと、跳弾猟犬が有する武器は腕部のパンツァーパンチャーと肩の屈折レーザーの2種類のみだった。そして『ガンドッグ』でパンツァーパンチャーを排したわけだから、現在は肩以外に武器は搭載されていないことになる。そして、これが何を意味するかといえば―――

 

「……四つん這い(オンフォース)モード!」

 

()()()()()()()()()()、ということだ。

ガンドッグの体勢が変化し、同時に偽装双脚が変形……隠されていた()()()が姿を現す。「基本的にスナイパーレールガンを接射されると死ぬから近距離戦の意味はない」……それは逆に言えば、こちらがスナイパーレールガン並みの火力がある銃器を接射できれば勝ち、ということでもあった。

 

「サンラクほどじゃないな、お前は」

 

後ろ足のチャージを始めながら、玉男はそう呟いた。

 

 

「……妙だな」

 

11月某日、日曜日、午後1時10分。

スーパー玉男、本日5度目の呟きであった。

ひとまず、己の勝利を華々しく伝える対戦結果(リザルト)ウィンドウを閉じ、そのまま転送を選択する。己の肉体(アバター)が無数の光条に変換され、一瞬の煩わしい視界暗転(ローディング)の果てに広がるロビーは、よく見慣れた無機質で近未来的なデザインをしている……そしてその光景を具体的に見る暇もなく、すぐにまたウィンドウがせりあがってくる。

 

『「TrueCursedPrison」があなたに決闘を申し込みました』

 

「はいはい……」

 

それをまた慣れた手つきで受諾しながら、玉男はやはりこう呟くのだ。

 

「いや、本当に人が多いな今日……」

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