【〈Gigabyte Japan〉、20XZ+1年12月4日の記事より引用】
自称和風オープンワールド協力剣闘ゲーム『辻斬・狂想曲:オンライン』にて、奇妙なバグが報告されている。内容は、先月の23日に開かれた『激闘!勤労感謝の日』イベントの報酬アイテムである『
◆
雨粒が俺を擦り抜けていった。
VRゲームで
視界から、血液を洗い流すことも無く。
「……ッ!?」
京極の驚愕が聞こえる。それは本当に心の底からのそれで、攻撃がフェアカスに2ミリほど掠っただけで作ろう!最高級デラックスパフェ材料入手ツアー~介護イベントを添えて~の火蓋が切られた時の俺に勝るとも劣らないレベルだった―――当然だろう、彼女の目の前では。
◆
「「漁夫の利天誅ァ!!!」」
「身代わり天誅・
「「ゲェ~~~ッ!!??」」
京極に襲い掛かった双つの刃による単つの死線は、俺が京極を間から引き抜いたことで
「おい京極、とりあえず行くぞ!!」
「……ッ」
何やら狼狽している様子の
「行くぞ、ほら京極!!」
「……」
急かす。俺だって別に余裕がある訳じゃないからな……そこッ!華麗に土下座ドライブ・ジャンピングアサシンモードに変形、回避して掴んで投擲、1キル……イヤよく見たら2キルだ。団子状態になっている……9時からダイレクトアタック、
「京極!!行くぞ!!」
「……ああ、わかった、よ!」
そういうことになった。
◆
幕末度が60%を超えると、人間は視覚に頼ることをやめる。視覚は眼を潰されるだけで機能しなくなるし、使い勝手がいいとは言い切れないからな……完全に使わなくなるって訳じゃないがな。視覚の代わりに使うものと言えば
さて、幕末覚の有効射程はかなり広い……しかも全方位に探知してくる。そうなると安易に障害物に隠れるだけではダメだ、
「ふふ……わりと、静かだね……ふふ」
見渡した
追っ手は……見えない。
「それでだな」
俺はようやく話を切り出した。京極も大体察しているようで―――
「ああ……僕は」
―――頷きつつ、応じる。
「レイドボスさんを殺してなんかいない」
旋風が墓地に訪れ、一瞬の内に駆けていった。
◆
レイドボスさんの死は、約1時間前に起きた。
その時、幕末は揺れていた……大体花火のせいだ。雨は降っていたが、幕末の花火は特に湿気るとかは無い。詰め込まれた火薬はこれでもかと削り、壊し、誘爆させた。理由としては大体
さて、レイドボスさんは爆発群の中でも
そして、死んだ。
レイドボスさんは唐突に動かなくなり、そのまま消えていったんだ。
狙撃では、無い。弓矢を撃てるような位置関係では無かったし、かといって近くの銃は全て
その結果として発生したのがこのアホみたいな数の追っ手だ……内訳としては色々、嫌がらせだろ?ドロップ狙いだろ?あとスト……イヤなんでも無い。まあ人間の欲望総集編、って感じの魑魅魍魎が襲い掛かってくるわけだな……状況を打破するためには、京極の無実を証明するか……もしくは、殺すしかない。
◆
俺はここまで考えて首を捻った。冷静に考えて無実を証明とかめんどくさいことしないで殺すのでよくね?って話なんだよな。イヤだってそうじゃん?このまま京極を守り通しつつ推理パートを進めるより、公衆の面前で処刑した方がはるかに楽だ……よしこれで行こう!俺は決定し、それを踏まえて京極に質問した。
「おい京極、お前打ち首と火炙りだったらどっちがいい?」
「君ひょっとして僕の敵なのかなぁ!?」
「いやいやいや―――アレだよお前、お前を処刑すればもうドロップアイテムは無くなるだろ?死んだ時点で諸々はリセットされるから、嫌がらせだってなくなるはず……元の状態に戻るワケだ。つまり解決!いい案だと思わないか?」
「……いや、ダメだ」
そういったときの京極はなんだか神妙な面持ちをしていて、俺は思わず警戒を緩めてしまった。
「レイドボスさんは―――単なる
それがいけなかったのだ。
「伏せろ!!」
「えっ」
刀が飛んでくる。
忌々しくも、その軌道はどこまでも直線的で……雨は
こんな投擲……それも刀によるものができるのは、レイドボスさん以外では―――
「……俺達の、勇者」
呟きと共に、推測は確信へと変わる。身を隠した墓石を
「京極を―――」
俺達の勇者は。最もレイドボスさん打倒に当たって期待されていた彼は、言い放った。
「―――渡すんだ」
隣の京極は震えている。俺も震えている。怖いからだ。他ならぬ勇者は、レイドボスさんを凌駕するレベルの暗黒的オーラを放っていた。いやオーラって何?直感システムの見せる幻は相当壮大だな……俺はビビりつつどうにか交渉に持っていける可能性に賭け、墓石から顔を出して叫んだ。
「待て~~!!!京極は―――危なッ!!京極は、レイドボスさんを殺してなんかいないッ!!」
「うるせえんだよ死ね」
俺達の勇者は無情にも言い放った。そこには「天誅ゥ~~~ッ!!」といういつものような暖かみ溢れる掛け声すら無かった。俺は背筋を凍らせた。寒かったからだ。大気が、墓石が……そして、雰囲気が。とりあえず交渉は決裂したようだな……どうする。
「本当だよ、本当に僕は殺してない!!ドロップも持ってないし、レイドボスさんのKDRを汚したりもしていない!!信じてくれよ!!」
京極が悲痛に言う。その瞳では仮想の涙が零れていて、VRゲームにおいて
迫り来る勇者、泣きわめく京極、冷たい墓石。この状況を打開する手立てはあるのか……?俺は必死に考える。雨粒は依然として俺の肉体を擦り抜けて行って、湿度を上げることすらしてはくれなかった。じりじりとタイムリミットが近づく中、俺は―――
◆
いや普通に死ぬよね、という。
リスポーンした長屋の障子を華麗にOPEN、ついでに裏に潜伏してたプレイヤーを適当に天誅しつつ伸びをする。イヤァ~~~疲れたなぁ。いつの間にか天は泣くのをやめ、雲一つない青空が頭上には広がっていた。うん、良い天気!俺は現実逃避した。実際の所全く良くは無いのだが、現実逃避した。なんか刀がこっち向いて落下してきたので適当にパリィからの弾道追跡天誅……そこッ!俺はレベルアップした。アァ~~~ステ振りどうしよ。俺が考えつつ歩いていると、
「あ、祭囃子じゃん久し振り」知らない人が話し掛けてきた。
「お?お、おう久し振り」俺は流れ的に応じた。
「あのさァ~~~聞いた?京極が」知らない人がなんか絡んでくる。
「京極が?」俺は仕方なく相槌を打つ。
「火炙りにされるらしいよ」知らない人が言った。
「支点固定型天誅移動ゥ!!!俺はおもむろに取り出した刀で知らない人を刺し殺し、それによって発生する慣性的なアレを利用して処刑が行われるであろう長屋の中心地へと向かった。
◆
元素天誅・空の型、支点固定型天誅移動、ステップ、ジャンプ、支点能動型天誅移動、元素天誅・土の型。
取り出した刀で通行人を刺し、その通行人が持っていた刀で更に通行人を刺す。幕末において、STRは腕の力でAGIは脚の力だ―――つまり
無限の断末魔を背負いながら、俺は
そう―――そもそも、
すなわち―――
レイドボスさんは、何かしら
ふと前を見る。全般的に見れば閉塞的なそれだった景色は、いつの間にか開いていて―――もう少し進めば
◆
「こういう時って何て呼べばいいんだろうな」
「処刑天誅?」
「40点、安直すぎる」
「じゃあお前は何がいいと思うんだよ」
「スケープゴート天誅」
「指し示す範囲が狭すぎるだろ……50点」
「ミディアム天誅とか?」
「30点、俺はベリーウェルダンが好き」
「木炭でも食ってろよ」
「愚弄したなテメェーーーッ!!ベリーレア・天誅ッ!!!」
「生肉と、ベリーレアとは、違うモノ……ッ!!」
「辞世の句がダサい、20点」
「はい」
広場は会話に包まれていた。いつものような断末魔も、混じり込んだものを少し聞くことはできるが……あくまでもそれは
前の方に設置された壇にプレイヤーが上がって、言う。
「エェ~~本日、
「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!「ダサくない?」」」」」」」広場が湧く。
そんな中、俺は。
「ちょっと待つんだな―――処刑人」
歩み出た。
「ン?ああ祭囃子か、天誅していい?」
「駄目だ……それよりだな、言いたいことがある」
「何だと?」
広場が沈黙する。視線が集まる感覚……直感システムがそうさせるんだろう。多少プレッシャーを感じるが、こんなモンあまりにも
「レイドボスさんは―――」
沈黙のどさくさに紛れていくつかの戦闘が勃発する。俺は華麗にインターセプション天誅をキメると、ドロップを回収して言った。
「―――
◆
「……何だって?」
長い長い沈黙を最初に破ったのは、他でもない京極だった。
「……でも、レイドボスさんは、確かに……僕の前で動かなくなって。それで―――」
「
一瞬のザワつき、数個の天誅、一瞬後の沈黙。
「あの―――何だったか。『行動ログの参照によってアバターが分裂する』ってバグは、どうやら
誰も喋らない。手を挙げる必要は無さそうだ……畳みかけるように話す。
「そもそも―――何故レイドボスさんは、あの爆発の最中にダメージを受けなかったと思う」
「気合でガード」「空隙天誅!」「VITが高いから」「空隙天誅返し!」「なんかすごい力」「爆風を見切ってたから」
「それ!」俺は答えのうち一つを述べたプレイヤーに指を指した。「俺は実際の所、その
一瞬のザワつき、数個の天誅、一瞬後の沈黙。俺は既視感を覚えた。
「……じゃあ、レイドボスさんのアバターが
京極が聞いてくる。俺は即答した。
「単に―――HPが尽きたんだろう。あれだけ爆風を浴びたわけだからな」
その時発生したザワつきは、数個の天誅を生み出しはしても、一瞬後の沈黙に繋がりはせず―――広場には、殺伐とした活気が戻りつつあった。
俺はそれに乗じて。
「ここに宣言しよう―――」
言い放った。
「
広場が再び湧いた。
俺はそれとなく京極を回収してトンズラする……万事解決だな。実際この考えが合ってるかどうかはちょっと微妙なところだが、まあとりあえずは問題ないだろう。
「……ありがとう」
京極は言った。俺は顔に笑みを浮かべ、隙をついて彼女を天誅した。
どこからか、