フロンティアへの幾星霜(短編集)   作:Z-LAEGA

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【注意】なんだかよくわかりそうな話


レイドボス殺人事件

【〈Gigabyte Japan〉、20XZ+1年12月4日の記事より引用】

 

自称和風オープンワールド協力剣闘ゲーム『辻斬・狂想曲:オンライン』にて、奇妙なバグが報告されている。内容は、先月の23日に開かれた『激闘!勤労感謝の日』イベントの報酬アイテムである『輪赤崩陸(わーかーほりっく)』に関する物。このゲームでも珍しい『チャクラム』の形状が何かを誘発させるのか、この武器を装備した上で陣営『維新軍』に所属するという条件を満たすと、なんと火縄銃のような『射撃』が可能とのこと。一部プレイヤーからは『運営は意図的にやっているのではないか』『チャクラムのくせに妙にでこぼこしてると思ったけどよく見たら歯車じゃねーかこれ!!!!』『社会の歯車ってかうるせーよバカ!!!!!』など様々な声が上がっている。同ゲームでは時折このようなバグが発生しており、以前も『墓場で花火を使って吹き飛ばされるとなぜか着弾地点にリスポーンする』バグや『行動ログの参照によってアバターが分裂する』バグなどが話題を呼んだ。

 

 

雨粒が俺を擦り抜けていった。

 

VRゲームで()()()……要するに、当たり判定を持っている雨を実装することは困難だ。幾千万の雨粒(ポリゴン)一つ一つに判定を付与するというのは少々現実的では無いし、可能だったとしても多くを犠牲にした上でのことだろう……オフラインゲームならまだいい。工夫(アルゴリズム)次第で、冷たい雨を実現できる可能性もある。しかしオンゲーとなると話は違ってくる。当たり判定は当然()()される必要があり、単純に雨を降らせるべきマップも広くなる。それこそシャンフロのような馬鹿馬鹿しい計算リソースが無い限り、VRMMOにおける雨はいつも俺を擦り抜けていく。

 

視界から、血液を洗い流すことも無く。

 

「……ッ!?」

 

京極の驚愕が聞こえる。それは本当に心の底からのそれで、攻撃がフェアカスに2ミリほど掠っただけで作ろう!最高級デラックスパフェ材料入手ツアー~介護イベントを添えて~の火蓋が切られた時の俺に勝るとも劣らないレベルだった―――当然だろう、彼女の目の前では。

 

()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 

「「漁夫の利天誅ァ!!!」」

 

「身代わり天誅・相互(インタラクション)ッ!!」

 

「「ゲェ~~~ッ!!??」」

 

京極に襲い掛かった双つの刃による単つの死線は、俺が京極を間から引き抜いたことで()()し……大体同じような内容の二重奏(デュオ)辞世の句を唱えると、二人のプレイヤーは成仏(ゲームオーバー)していく……めぼしいものある?無いカァ~~~~チッ。俺は舌打ちをしつつ5時の方角からの散弾をその辺に居た人協力のライオット・シールド天誅で防ぎ、ドロップアイテムから適当な刀を取って投げつけた……1キル、スコアが入る。

 

「おい京極、とりあえず行くぞ!!」

 

「……ッ」

 

何やら狼狽している様子の重要人物(京極)に怒鳴る。詳細は把握できていないが、とにかく生き残るのが先決だ……流石に長くは持たないだろう。長屋の隅から……マジで?()()()()が飛んでくる。導火線には当然のように火炎(プラズマ)が揺らめき、土台を削り取っていく……見様見真似(なんちゃって)()()()()……迎撃ィ!俺はレベルアップした。

 

「行くぞ、ほら京極!!」

 

「……」

 

急かす。俺だって別に余裕がある訳じゃないからな……そこッ!華麗に土下座ドライブ・ジャンピングアサシンモードに変形、回避して掴んで投擲、1キル……イヤよく見たら2キルだ。団子状態になっている……9時からダイレクトアタック、人類(ノーマル)モード、迎撃ッ!

 

「京極!!行くぞ!!」

 

「……ああ、わかった、よ!」

 

そういうことになった。

 

 

幕末度が60%を超えると、人間は視覚に頼ることをやめる。視覚は眼を潰されるだけで機能しなくなるし、使い勝手がいいとは言い切れないからな……完全に使わなくなるって訳じゃないがな。視覚の代わりに使うものと言えば()()()だ。具体的なメカニズムは分からないが多分直感システムの関係で、幕末度は時として人類に第六の感覚(センス)を与えるのである。

さて、幕末覚の有効射程はかなり広い……しかも全方位に探知してくる。そうなると安易に障害物に隠れるだけではダメだ、()()()()()とかいうファンタジックな行動を当然のようなツラして行ってくるからな……まあそんな訳で、幕末における潜伏は至難の業だ。基本的に『隠れる』『離れる』『静かにする』の三か条が大前提、今回の場合、それを満たすのは―――

 

「ふふ……わりと、静かだね……ふふ」

 

見渡した()()に、京極が謎に笑う、こいつホラゲーとかで恐怖を笑いで打ち消そ(キャンセルしよ)うとするタイプか?普段イキってる割に怖がるときは怖がるのな……俺はブーメランを投げた。

追っ手は……見えない。

 

「それでだな」

 

俺はようやく話を切り出した。京極も大体察しているようで―――

 

「ああ……僕は」

 

―――頷きつつ、応じる。

 

「レイドボスさんを殺してなんかいない」

 

旋風が墓地に訪れ、一瞬の内に駆けていった。

 

 

レイドボスさんの死は、約1時間前に起きた。

 

その時、幕末は揺れていた……大体花火のせいだ。雨は降っていたが、幕末の花火は特に湿気るとかは無い。詰め込まれた火薬はこれでもかと削り、壊し、誘爆させた。理由としては大体()()()()()だ……特筆するべきことでもない。

さて、レイドボスさんは爆発群の中でも中心(コア)にいて……そして、当然のように無傷だった。アレどういう理屈なんだろうなほんと……アレか、見切りなのか?いや爆風を見切るなよって言う……まあ、それはいい。とにかくレイドボスさんがそこにいて、京極がなんか知らないけど襲い掛かっていって、レイドボスさんは何やら妙な動きをして……

 

そして、死んだ。

 

レイドボスさんは唐突に動かなくなり、そのまま消えていったんだ。

狙撃では、無い。弓矢を撃てるような位置関係では無かったし、かといって近くの銃は全て()()していたからだ。降り注ぐ火薬は、周囲の火薬をも巻き込んで破壊を作る……つまり()()()()()()()()。そうなると当然、攻撃は刀によるものに限られる……つまり。

 

()()()()()()()()()()

 

その結果として発生したのがこのアホみたいな数の追っ手だ……内訳としては色々、嫌がらせだろ?ドロップ狙いだろ?あとスト……イヤなんでも無い。まあ人間の欲望総集編、って感じの魑魅魍魎が襲い掛かってくるわけだな……状況を打破するためには、京極の無実を証明するか……もしくは、殺すしかない。

 

 

俺はここまで考えて首を捻った。冷静に考えて無実を証明とかめんどくさいことしないで殺すのでよくね?って話なんだよな。イヤだってそうじゃん?このまま京極を守り通しつつ推理パートを進めるより、公衆の面前で処刑した方がはるかに楽だ……よしこれで行こう!俺は決定し、それを踏まえて京極に質問した。

 

「おい京極、お前打ち首と火炙りだったらどっちがいい?」

 

「君ひょっとして僕の敵なのかなぁ!?」

 

「いやいやいや―――アレだよお前、お前を処刑すればもうドロップアイテムは無くなるだろ?死んだ時点で諸々はリセットされるから、嫌がらせだってなくなるはず……元の状態に戻るワケだ。つまり解決!いい案だと思わないか?」

 

「……いや、ダメだ」

 

そういったときの京極はなんだか神妙な面持ちをしていて、俺は思わず警戒を緩めてしまった。

 

「レイドボスさんは―――単なる()()()()人じゃない。それは君もよく知ってるハズだろう?きっと、それだけじゃ終わらない―――例えば『レイドボスさんを倒したから次のレイドボス』とか言い出したり、或いは『次のレイドボスだとふざけんなレイドボスさんは永久にレイドボスさんなんだよ』って、そこからさらに論争が起こるかもしれない。この問題は―――」

 

それがいけなかったのだ。

 

「伏せろ!!」

 

「えっ」

 

刀が飛んでくる。

忌々しくも、その軌道はどこまでも直線的で……雨は障害物(ノイズ)としての意味すらも持たずに、ただ()()()()()のモノとしてそこにあった。だからこそ鉄刀は俺の頭上を極めて高い殺意と共に掠めていったし、次投が来るまでの時間が長くなったりもしなかった。

こんな投擲……それも刀によるものができるのは、レイドボスさん以外では―――

 

「……俺達の、勇者」

 

呟きと共に、推測は確信へと変わる。身を隠した墓石を()()()()ほどの勢いで、無限の刀が飛んでくる……それすらも面倒になったのだろうか?投擲は()()に変わった―――近づいてきている。

 

「京極を―――」

 

俺達の勇者は。最もレイドボスさん打倒に当たって期待されていた彼は、言い放った。

 

「―――渡すんだ」

 

隣の京極は震えている。俺も震えている。怖いからだ。他ならぬ勇者は、レイドボスさんを凌駕するレベルの暗黒的オーラを放っていた。いやオーラって何?直感システムの見せる幻は相当壮大だな……俺はビビりつつどうにか交渉に持っていける可能性に賭け、墓石から顔を出して叫んだ。

 

「待て~~!!!京極は―――危なッ!!京極は、レイドボスさんを殺してなんかいないッ!!」

 

「うるせえんだよ死ね」

 

俺達の勇者は無情にも言い放った。そこには「天誅ゥ~~~ッ!!」といういつものような暖かみ溢れる掛け声すら無かった。俺は背筋を凍らせた。寒かったからだ。大気が、墓石が……そして、雰囲気が。とりあえず交渉は決裂したようだな……どうする。

 

「本当だよ、本当に僕は殺してない!!ドロップも持ってないし、レイドボスさんのKDRを汚したりもしていない!!信じてくれよ!!」

 

京極が悲痛に言う。その瞳では仮想の涙が零れていて、VRゲームにおいて()()()()()という行為がいかに難しいかを誇示するように、仮想の日光を反射していた。

 

迫り来る勇者、泣きわめく京極、冷たい墓石。この状況を打開する手立てはあるのか……?俺は必死に考える。雨粒は依然として俺の肉体を擦り抜けて行って、湿度を上げることすらしてはくれなかった。じりじりとタイムリミットが近づく中、俺は―――

 

 

いや普通に死ぬよね、という。

 

リスポーンした長屋の障子を華麗にOPEN、ついでに裏に潜伏してたプレイヤーを適当に天誅しつつ伸びをする。イヤァ~~~疲れたなぁ。いつの間にか天は泣くのをやめ、雲一つない青空が頭上には広がっていた。うん、良い天気!俺は現実逃避した。実際の所全く良くは無いのだが、現実逃避した。なんか刀がこっち向いて落下してきたので適当にパリィからの弾道追跡天誅……そこッ!俺はレベルアップした。アァ~~~ステ振りどうしよ。俺が考えつつ歩いていると、

 

「あ、祭囃子じゃん久し振り」知らない人が話し掛けてきた。

 

「お?お、おう久し振り」俺は流れ的に応じた。

 

「あのさァ~~~聞いた?京極が」知らない人がなんか絡んでくる。

 

「京極が?」俺は仕方なく相槌を打つ。

 

「火炙りにされるらしいよ」知らない人が言った。

 

「支点固定型天誅移動ゥ!!!俺はおもむろに取り出した刀で知らない人を刺し殺し、それによって発生する慣性的なアレを利用して処刑が行われるであろう長屋の中心地へと向かった。

 

 

元素天誅・空の型、支点固定型天誅移動、ステップ、ジャンプ、支点能動型天誅移動、元素天誅・土の型。

 

取り出した刀で通行人を刺し、その通行人が持っていた刀で更に通行人を刺す。幕末において、STRは腕の力でAGIは脚の力だ―――つまり()()()()事が可能なら、AGIが無かろうが高速を出すことができる。ジャンプ。

 

無限の断末魔を背負いながら、俺は()()()を考えつつあった―――真相はどうでもいい、京極を庇わなければならない。例え火炙りの刑が実行されようと、この件は遺恨として将来も残り続けることだろう―――それを阻止するためには結局、最初から推理パートを進めるしかなかったんだ。瞬間変形後再離脱天誅。

 

そう―――そもそも、()()()()()()()()()()なんてことが本当にあるだろうか?レイドボスさんはこのゲームを―――()()()とすら言えるレベルで―――熟知しているし、あんなにあっけない死に方があるとは思えない……つまり、()()()()攻撃で死んだと見るべきだ。このゲームにおける()()()()攻撃とは何だ?あらゆる物は―――雨粒を除いて―――物理演算に支配されている。イベントには厳密な告知が来るし、検証班だって大量にいる。そんなゲームにおけるトッププレイヤーの、()()()()物。回転自決再生天誅。

 

すなわち―――()()だ。天誅。

 

レイドボスさんは、何かしら()()()()()を使う奴に倒されて―――そのバグによって生じた歪みが、京極を取り囲むように顕現しているんだ。まるで、矢印が(クラスタ)を為すように。「台・跳」式天誅。

 

ふと前を見る。全般的に見れば閉塞的なそれだった景色は、いつの間にか開いていて―――もう少し進めば辿()()()()()。俺は、ふと理解した。

 

 

「こういう時って何て呼べばいいんだろうな」

 

「処刑天誅?」

 

「40点、安直すぎる」

 

「じゃあお前は何がいいと思うんだよ」

 

「スケープゴート天誅」

 

「指し示す範囲が狭すぎるだろ……50点」

 

「ミディアム天誅とか?」

 

「30点、俺はベリーウェルダンが好き」

 

「木炭でも食ってろよ」

 

「愚弄したなテメェーーーッ!!ベリーレア・天誅ッ!!!」

 

「生肉と、ベリーレアとは、違うモノ……ッ!!」

 

「辞世の句がダサい、20点」

 

「はい」

 

広場は会話に包まれていた。いつものような断末魔も、混じり込んだものを少し聞くことはできるが……あくまでもそれは少数(マイノリティ)で。広場を席巻する大半は、歓喜と狂乱と殺意だった。

前の方に設置された壇にプレイヤーが上がって、言う。

 

「エェ~~本日、1()1()()1()9()()ッ!!只今より、「あるてぃめっと」京極のエグゼクション天誅を執り行う!!」

 

「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!「ダサくない?」」」」」」」広場が湧く。

 

そんな中、俺は。

 

「ちょっと待つんだな―――処刑人」

 

歩み出た。

 

「ン?ああ祭囃子か、天誅していい?」

 

「駄目だ……それよりだな、言いたいことがある」

 

「何だと?」

 

広場が沈黙する。視線が集まる感覚……直感システムがそうさせるんだろう。多少プレッシャーを感じるが、こんなモンあまりにも()()()事だ。サバイバル・ガンマンからシャングリラ・フロンティアまでずっと体験してきた、日常茶飯事。

 

「レイドボスさんは―――」

 

沈黙のどさくさに紛れていくつかの戦闘が勃発する。俺は華麗にインターセプション天誅をキメると、ドロップを回収して言った。

 

「―――()()()()()()()()()()

 

 

「……何だって?」

 

長い長い沈黙を最初に破ったのは、他でもない京極だった。

 

「……でも、レイドボスさんは、確かに……僕の前で動かなくなって。それで―――」

 

()()()だ」

 

一瞬のザワつき、数個の天誅、一瞬後の沈黙。

 

「あの―――何だったか。『行動ログの参照によってアバターが分裂する』ってバグは、どうやら()()()()()()()ようだぜ!レイドボスさんのアバターは……確かに、あの爆発の最中に増殖してた」

 

誰も喋らない。手を挙げる必要は無さそうだ……畳みかけるように話す。

 

「そもそも―――何故レイドボスさんは、あの爆発の最中にダメージを受けなかったと思う」

 

「気合でガード」「空隙天誅!」「VITが高いから」「空隙天誅返し!」「なんかすごい力」「爆風を見切ってたから」

 

「それ!」俺は答えのうち一つを述べたプレイヤーに指を指した。「俺は実際の所、その()()()()()()ってのが正解だと思ってた……だが、そんなことが本当にあるか?幕末の爆風が発生させるのはダメージだけじゃない、()()()()()()もあの忌々しいバランスブレイカーは有していやがる。それを全く受けずに直立するなんてことは、ひょっとしたら不可能なんじゃないか―――その答えが、そのまま増殖体説の答えに繋がるはずだ」

 

一瞬のザワつき、数個の天誅、一瞬後の沈黙。俺は既視感を覚えた。

 

「……じゃあ、レイドボスさんのアバターが()()()のは?」

 

京極が聞いてくる。俺は即答した。

 

「単に―――HPが尽きたんだろう。あれだけ爆風を浴びたわけだからな」

 

その時発生したザワつきは、数個の天誅を生み出しはしても、一瞬後の沈黙に繋がりはせず―――広場には、殺伐とした活気が戻りつつあった。

俺はそれに乗じて。

 

「ここに宣言しよう―――」

 

言い放った。

 

()()()()()()()()()()()()()!!―――より厳密に言えば、死んでいない!!!」

 

広場が再び湧いた。

俺はそれとなく京極を回収してトンズラする……万事解決だな。実際この考えが合ってるかどうかはちょっと微妙なところだが、まあとりあえずは問題ないだろう。

 

「……ありがとう」

 

京極は言った。俺は顔に笑みを浮かべ、隙をついて彼女を天誅した。

 

どこからか、強襲(レイド)の音が聞こえてきた。

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