フロンティアへの幾星霜(短編集)   作:Z-LAEGA

59 / 64
陽務楽郎誕生日2日遅れ


世界の数だけ祝福がある

画面右下のUIに表示された「23:59」の文字列が「00:00」へと変化した瞬間、俺は行動を開始した。

現在、11月21日―――そして当然のことながら午前0時。俺は現実世界の自宅で、仮想世界の自宅(ホーム)メニューを操作している。

他ならぬ焦りがUIの操作を急かすが、これに乗じ過ぎてはならない……冷静になってこそ、正確なUI操作が実現できるのだ。だから俺は慌てず騒がず、まずポップアップしてきた【新しいお知らせがあります:誕生日おめでとう!】のメールに「後で読む」の反応(リアクション)を返すと―――あらかじめカーソルを待機させていたそのゲーム、『辻斬・狂想曲:オンライン』を起動した。

やはり俺を焦らせる、いつもより5倍くらい遅く感じられるローディングサイクルの回転を見ながら……俺は冷静さをなお保つため、右下の時計を再び見る―――現在、11月21日午前0時1分。ここまでの操作で、既に今日という日の1440分の1が経過したことになる。

俺は学生だから一日中ダイブするわけにはいかないし、合法堕ちはまだだからライオットブラッドも3本に留めないといけない。だから、タイミングを考えると……この0時から7時までの間に、すべてを完了させる必要がある。

ローディングサイクルが薄まり(透明度を増加させ)始めるのを察知すると、俺は視点を右下から中央に……自分が突き進むその先へと、向けなおした。

 

誕生日(ボーナス回収デー)が、始まる。

 

 

 

◆辻斬・狂想曲:オンライン

 

幕末における誕生日プレイヤーに対するボーナスは単純明快、誕生日武器の配布だ。

はっきり言って、クソみたいなシステムである。

誕生日武器……年度ごとに外見とか性能とかが異なるが、一貫して「誕生日」をモチーフにしている事は変わらないアイテム群。確か今年度は「バースデーカード」をモチーフにした刀、「噴星刀(ブースターソード)」だったはずだ。これは斬撃の軌跡にクラッカーみたいなエフェクトが付く刀で、振るだけで辺りにクラッカーをまき散らして幸せな感じを演出することができるといういかにもハッピーな感じの飾り武器なのだが、クラッカー全部に攻撃判定があると判明した時点で()()()()奪い合いの渦中に叩き込まれ、誕生日を迎えるプレイヤーを見るなり襲い掛かって誕生日武器を奪い取る「おめでとう天誅」の文化を依然として絶えないものにした。なお、誕生日武器の耐久値は普通に有限なので、よく悲劇が起こる。

 

まさしく、今のように。

 

「ハッピーバースデー天誅ァァッ!」

 

とりあえず襲い掛かる幕末志士によるハッピーバースデー天誅をアンハッピー・デスデー天誅で躱しつつ舌打ちをする。幕末はそこそこリアルなゲームだが、プレイヤーに「舌打ちをする」機能が備わっているほどではないので、音はどこにも響かず、「舌打ちをした」という感覚を確かに持った俺だけを残す。マズいな……去年あたりから兆候はあったが、どうやら俺の誕生日はこいつらに完全に割れているらしい。

 

「バースデープレゼントにデスぺナをお見舞いしてやるぜェ~~ッ!」

 

バースデープレゼントにキルスコアをお見舞いしてもらいながら、偏重気味に振ってあるAGIで走る。……まあ祭囃子、なんて二つ名が付くレベルで()()の時にしか現れない奴が、特に祭りでも何でもない11月の終盤に現れたら、俺だって「ああ、今日は()()()()()()祭りなんだな」と悟るからな。こんなプレイスタイルをしているのが悪い、という側面はあるだろう。

いつもの、比較的人の少ない()()に駆け込む――――と見せかけて、穴場であることを利用して待ち伏せている可能性が高いと判断して駆け込まない―――と見せかけて、俺がそう考えるだろうと見越して逆に別のところで待ち伏せている可能性が高いと判断して結局駆け込む。

 

「……よし」

 

ビンゴだ、空間にはいつも通り閑古鳥が鳴いている。全速力でインベントリに噴星刀(ブースターソード)が入っているのを確認すると、ログアウト天誅に警戒して周囲を見渡したうえで、念のため部屋の中心に陣取る……まだ何も問題は起きていない。いける、いけるぞ!

メニューを開く。巻物をモチーフにした和風のUIの上で指を踊らせ、一瞬でログアウトボタンの表示までを行う。後は押すのみだ、そして次のゲームに行くのみだ。そう強く意思をもって、指を伸ばして―――

 

「誕生日おめでとう、サンラク!」

 

刹那、()()()()()()()()()()に首を刈り取られながら、俺は驚愕と共にログアウトした。

 

 

 

◆ベルセルク・オンライン・パッション

 

…‥気を取り直そう。

俺は気を取り直した。

正直、京極があそこに陣取っているとは……想定していなかった。上からの奇襲を想定していなかったわけではないが……時間帯的にそんなことをするような連中(ランカー)は軒並みログアウトするか将軍に襲い掛かっているかこういったタイプの奇襲攻撃が本領ではないかの三択だったから油断していた。あいつ……奇襲天誅に磨きをかけやがった。俺は彼女の成長に喜びつつも、年に1度しか手に入らない武器を奪われたことに腹を立てていた。

あいつの誕生日はいつだ?サプライズイベントのために聞いておかないといけないな。

……気を取り直そう。

俺は気を取り直した。

俺のカウントが正しければ、あと1分ほどで俺は便秘にログインすることになる―――シャンフロにおけるキャラクリがそうだったように、近年のVRゲームでは「タイトル画面」がゲーム本体とはまた別のアプリケーションとして定義されているケースが多い。なぜかというと、VRゲームは起動時間が長く、タイトル画面をゲームに内蔵した場合、ちょっと設定を弄るだけで3分とか5分とかを消費してしまうからだ。タイトル画面を別物として、例えばVRシステムのホーム画面を拡張して設置すれば、ゲームを起動しない限り一瞬で設定までたどり着ける。旧来のゲームでいうランチャーを、より多機能にしたものと言えるだろう―――これは武田氏の受け売りだ。

まあとにかくその兼ね合いもあって……俺はこの「NOW LOADING...」の表示が終わった時、タイトル画面ではなくオンラインロビーに直に転送されることになる。キャンペーンモードを遊びたい場合、タイトル画面で「オンライン」の上に表示されている「キャンペーン」の方にカーソルをもっていけばいい。

さて―――あと20秒、脳内作戦会議だ。便秘における誕生日プレゼントは単純明快、「クラッカー」だ。起動した時点で「○○さん 誕生日おめでとう!」という文字が表示され、更に軽くクラッカーによる演出が挟まる。10秒に満たないしユニークさも無いので、ソウルバトル・ファンタジアの名残ではないかと言われている。

当然、この仕様もバグの起点にできる……誕生日しか使えないバグだから、ここから派生する一連のバグは「プレゼントシリーズ」という名称を付けられている。とはいえ1ユーザーが年に1度しか使えないという極めてまれなバグだから、今回の発動は検証の意図もある。

予想通り、1分ピッタリで視界を包み始めた光を見ながら―――俺は、作戦を開始した。

 

‫‬‭‮‪‫‬‭‮﷽﷽﷽﷽﷽﷽﷽﷽﷽さん 誕生日おめでとう!

 

まず、文字が表示され始める―――なんだか反転しているが、まあこれ自体はバグと言うほどでもない。単に俺のプレイヤーネームが「(反転制御文字)﷽﷽﷽﷽﷽﷽﷽﷽﷽」だというだけの話だ。このゲームのプレイヤーネームには10文字の制限がある。そしてプレイヤーネームの表示は行われる―――つまり、なるべく横に長い文字を指定した方が時間稼ぎになる、ということだ。反転制御文字を入れることでなんだかよくわからないが再生時間がさらに二倍になるテクニックを使えば、最低5秒なはずの再生時間を40秒ほどまで引き延ばせる。

 

「今だ!」

 

横で待機してくれていたカッツォが言う―――よし!俺は3本勝負(スリーラウンド)の対戦申請を「ショットガン」を放ちながら許諾!遠距離系のバグは申請を許諾する前に撃っても当たるというのは普段は紳士協定で禁止となっているバグだが、この検証の時間においてはこの限りでない!まき散らされるものリストにクラッカーに加えて拳を追加!

 

「うおおおお!!!」

 

同時に自分も「ショットガン」をすることで被ダメージ判定を増やしたカッツォに対する猛攻は、僅か3秒のうちに彼のゲージを削りきることに成功する―――ここまでは良い。5秒ほど待機、依然として表示される「!うとでめお日生誕」の上に「ラウンド 2」がかぶさって表示される……()()だッ!

 

「ドッペルゲンガー!」

 

「いいぞサンラク、いけーーっ!」

 

カッツォの声援を2()()()身に浴びるその感覚が、ドッペルゲンガーの成功を物語っている……よし、良いぞ良いぞ良いぞ……!ドッペルゲンガーはラウンド開始時にしか発動できないバグだが、成功すればあらゆる判定を……つまり、()()()()()()()()2倍にできる。

残り時間は10秒、ドッペルゲンガーでクラッカーが増やせることが分かった時点で既に結構な収穫だが……まだだ。声を上げる。ここまでの一部始終をつぶさに観察していたであろう()()に、その出番の到来を伝えるため。

 

「今だ―――ドラゴンフライッ!」

 

「はい、サンラクさんっ!」

 

駆け寄ってくるドラゴンフライと共に、叫ぶ―――

 

「「幽体離脱!!」」

 

同時発動する幽体離脱は、ヒットボックスを自分の背後に移すバグ技だ。クラッカーは基本的にプレイヤーとの物理的接触をしないが……()()()()については別である。つまり、プレイヤー本体のヒットボックスがズレれば、クラッカーの接地判定も同じようにズレるわけだが―――もしも例えば、設置判定がズレたその先に、同じように「幽体離脱」でズレたプレイヤーの判定があれば―――

 

「……よし、いいよ!いいよサンラク……()()()()!」

 

「ラストスパートだドラゴンフライ―――()()っ!」

 

「はい……えっと、飛拳衝が2倍になるやつ!」

 

ドラゴンフライの当たり判定がアバター2人分になり、その一方で飛拳衝に殴られた俺が()()()()死ぬ。これによりただでさえ埋まって荒ぶっていたクラッカーは、更に1つの当たり判定の追加と削除が同時に起こったことによる更なる荒ぶりを見せ……()()()()の方に俺が意識を移し終えたところで。

 

「これは―――」

 

爆発した。

ロビー全体を……いくつもの、いくつものクラッカーが埋める。なぜか名前の表示が終わってもまだ消えずに残るそれは、まるで……

 

「花火みたいですね!」

 

ドラゴンフライに先を越された。

 

「あっ、そういえばサンラクさん、誕生日おめでとうございます!」

 

「ああそうそう、おめでとうサンラク……なんかクソゲーギフト送ろうか?話題のティタハーとかどうよ」

 

俺は礼を言うと、カッツォとティタハーの噂について語りたいという欲を抑え、別れを告げてログアウトした。

 

 

 

 

◆ユナイト・ラウンズ

 

ログインしたかと思ったら鉛筆戦士が襲ってきた。

 

「いると思ったわボケがァッ!」

 

前回ログアウトするとき、念のために()()()()()()()()()そうそうわからないような場所にしておいたはずなんだが……とは言え想定内。こんなこともあろうかとログアウト時に右手に持っておいたブーメランを、回避行動ついでに投げつける!

 

「サンラク君こんばんはー!!ドロップアイテムちょうだーい!!」

 

当然のように弾かれたブーメランを目で追う事はしない……どうせ回収するつもりはない。代わりにインベントリを開いて……()()()()()()()()()()の文字列の横に配置された長剣を手に取り、眼前に君臨する魔王を見据える。

 

「サンラク君今脳内で私のこと『魔王』とか呼んでたよね」

 

えっ!?

 

「隙ありぃーーっ!というかブラフなのに『えっ!?』みたいな顔しないでもらえますぅー!?」

 

あっしまった!あまりの驚きに反応を一瞬遅れさせつつ、何とか鉛筆戦士の放ってきた3本の毒ナイフを―――3()()!?ええいクソがッ、1本目を弾く!2本目を避ける!3本目を弾いた1本目でさらに弾いて逸らす!

 

「……」

 

鉛筆戦士がポジティブかネガティブかでいうと明らかにネガティブ、みたいな表情をする……なんだこいつ。俺はブラフは掛け得だと思ったので、とりあえず言ってみる。

 

「鉛筆戦士君今脳内で俺のこと『変態』とか呼んでたよな」

 

鉛筆戦士の笑顔(ポーカーフェイス)が引き攣った。

 

「隙ありぃーーっ!」

 

俺は空中で激突して勢いを失った1本目と3本目の毒ナイフを掴み取って投げつけた。

鉛筆戦士があっしまった!みたいな顔をする。何があっしまった!だよクソがッ!しかもそんな顔をしながらナチュラルにナイフ自体は捌いて見せるのがより一層ムカつくぜ……!埒が明かないので突進する、ここはもうお前の反理想郷(ディストピア)じゃ無いんだよォーーーッ!!

……あっ。

 

「ハッピーバースデー、サンラク君」

 

その声が、どこか遠くのものに聞こえて……いや、実際のところ遠ざかっている。何せ、()()()()()()()()のだから。

そうだよな……そうだよなあ~。鉛筆戦士ともあろうものが俺にわかるレベルでポーカーフェイスを崩すなんてそうないだろうし、いくら油断しているとはいえ、俺が毒ナイフ3本程度捌けない人間でもないことも知ってて当然だわ。いやまあ、なんというか……

 

「ハメられたな~~」

 

地面への激突の数秒前、俺は来年こそは奴を打倒してやると、そう心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆現実

 

「ふあぁ」

 

午前8時台の日差しの中で欠伸をしたのは、他ならぬ俺だ。

 

あの後、いろいろなことがあった……ありすぎた。危牧ではバースデーケーキを作ろうと小麦を育てていたはずが最終的にイエローケーキに頼る羽目になったし、ピザ留学ではホーム画面でキャラにメッセージを言ってもらえるのだがそのメッセージを言ってもらったか言ってもらってないかで本編でのフラグが変化するとかいう意味のわからないクソ仕様が顕現したし、シャンフロでは特に何もなかったし、これで最後だとネフホロに乗り込んだらちょうどいいタイミングでログインしてきたルストとモルドに10戦くらい拘束されたし……あれ、宇宙船のフレームがハッピーバースデー仕様になるだけだったうえにフレームが変わったせいで表示面積が減って完全にデバフでしかなかったのってユニバース・ストームだっけ、ギャラクシー・トラベラーだっけ?……うーむいかん。日本版トゥナイトとバックドラフトをアクセルミックスしたはずなのに、なおも記憶が混濁している。

 

「……こ、こんに……こんにちは、らくろーくん……」

 

()()()()()タイミングよく玲さんと合流する……が、なんだか様子がおかしい。

 

「もしかして……玲さんも寝不足なの?」

 

「い、いえ……さくやは、すこしかんがえごとをしていた、だけで……」

 

それを寝不足と言うのでは……?

 

「だ、大丈夫?」

 

「だいじょ、だいじょうぶです!はい!()()()はかいけつしました!」

 

悩み……?玲さんほどの優等生でも悩みを持つものなんだな。……いや、「人生に迷いが多いのではない、迷いの中に人生があるのだ」って眠いから思い出せないあのクソゲーのNPCも言ってたもんな……どんな人間にも、悩みはあるものなんだろう。

 

「そうか……まあなんというか、気を付けて……」

 

「……らくろうくん」

 

はい?

玲さんは依然として眠そうに……しかしどこか覚悟を感じる佇まいで俺を呼び止めた。というより、呼びながら止まった。……何だろう?思案しようにも、7時間に及んで連続稼働した脳はその命令を実行しない。玲さんの行動を待つほかに無い。そんな当の玲さんは、何かの言葉を小声で繰り返し呟き、どういうわけか深呼吸をして、俺の、目を見て―――

 

「楽郎君、誕生日おめでとうございます」

 

そう言った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。