フロンティアへの幾星霜(短編集)   作:Z-LAEGA

6 / 64
闇鍋・狂想曲:オンライン

俺は死んだ。

 

首を刈り取られたからだ。

 

この事を見越しごくごく付近に設定しておいたリスポーン地点から起き上がった俺は、辺りに染み込む血液を無視して()に戻る。吹雪狩(加害者)が刀を鞘に仕舞いこむカチャリという音が、いやに存在感を伴って空間に響いた。

 

「……」

 

オォッと京極(主催者様)が何か言いたげだぞォッ!?俺は周りに悟られないように耳を傾けた。なぜ周りに悟られないようにしたかというと、この空間の中で一人だけ目立つと最悪リスキルの危険があるからだ。この面々―――()を囲む11人―――が未だ本格的に衝突していないのは別に慈悲とかではない。ただ、「こいつら纏めてキルできたらコンボボーナスでウッハウハじゃね!?」と全員が考えているまでだ……いや、2、3人例外らしき奴もいるのだが。

 

「…………」

 

京極はどぎまぎしている。自分の想定していた空間と実際が違ったので困惑しているのだろう……フッ、愚かなことだぜ。俺は首をゆっくりと横に振ったつもりになった。結局―――俺は人差し指をビシィと立てたつもりになった。結局、()()()()()()()()()()()なんて提案してこんな超豪華オールスターズみたいなメンツが集まって、そのうえでちょっくら用意しておいただけのクソ貧弱な罠が通用するわけが無いのである。俺さっきレイドボスさんが畳に刀ブッ刺してるの見たからね。お前は平静を保ってるつもりなのかもしれないけど、実際のところ思いっきり()()に出てたからな?幕末には直観システムが存在する、その事実を常に念頭に置くべきだ……いや実際あの驚きようは明らかに2、3罠は犠牲になってるでしょ。

 

「………………」

 

お、言うか!?もしかして言っちゃうのか!?俺たちはザワザワしたつもりになった。多分なった。もし京極が口を開いたとなれば、もう当然のことながら彼女は袋叩きのターゲットリストに仲間入りだ……リスポーン地点をいくら近くしても、リスキルを続けられれば気がめいっていつかはログアウトすることになる……実際、「デュラハン」は既にそれで脱落済みだ。それをも厭わず……言っちゃう、のか!?

 

「……………………あの」

 

言ったァッ!!俺は真っ先に動き出すと見せかけてあえてレイドボスさんの様子をうかがった。レイドボスさんの攻撃ルーチンは乱数だからだ。

 

「……!!!」

 

緊張が走る。

 

レイドボスさんは「何かのアクション」を取った人間に対し攻撃判定を行う。そのため、安易に殺しに行くと京極を無視してこっちにタゲが飛んできかねないのである。だからこそこの場ではあえて停止、レイドボスさんの顔色をうかがー――

 

―――カチャリ。

 

「狂犬」が我慢できずに柄に手を掛けた音である。

 

俺たちは彼を袋叩きにした。

 

 

辞世の句、断末魔、リスポーン……すべてが途絶えて「狂犬」が飽きてログアウトしたのを察すると、俺たちは無言で持ち場に戻った。いや嘘、無言ではない。「唯一剣」が「被下剋上」をすれ違いざま天誅した。しかしそれ以外は全くの無言だったし、「被下剋上」もついさっきの俺のように何事も無かったかのように戻ってきた。

 

―――再びの、無言。

 

俺は懐からそれとなく箸を取り出し、目の前の鍋にこれを伸ばしていいものか悩み始めた―――その時脈絡も無く「吹雪狩」の袋叩きが始まったので参加しつつ、ぐつぐつと熱を帯び続ける鍋のことをずっと考えていた。

 

―――再びの、静寂。

 

こっそりインベントリに仕舞いこんだもう帰らない彼のドロップアイテムにひととおり思いを馳せると、俺は意を決して目の前の鍋に箸を突っ込んだ。このまま黙り込んだままでいたら、一周回ってレイドボスさんが()()しそうな雰囲気を感じだからだ。

 

―――再びの、沈黙。

 

箸を動かし、妙にリアルなフィードバックに彩られた()()に耐えて得物を引っ張り出す―――何だ?形状は簡単なのに妙にデカいな……まあいいや。俺は()()を引っ張り出した。

 

八尺玉だった。

 

―――突き破る、騒音。

 

どうなったァッ!?引き上げられるとほぼ同時に爆ぜた玉に至近距離にいたせいで真っ先に溶かされた俺は、リスポーン地点からガバッしてシュタッした。被害状況(バトルリザルト)は……

レイドボスさんと勇者は爆風を斬って(爆風を斬って????)無傷、

唯一剣は勇者の陰に隠れたので無傷、

紅蓮寧土(明らかな首謀者)は当然のことながら無傷、

針千本は爆風を刺して(爆風を刺して????)無傷、か。

死んだの(キルスコア)はあいつ、俺、京極、被下剋上の4人……チッ、微妙なラインを突きやがって。これが6人とか7人なら紅蓮寧土へのヘイトが閾値を超えて袋叩きに持って行けたのだが、4K程度だと少々理由付けとして弱い……場合によっては自分が袋叩かれるかもしれない。どうしよっかな~~~~~……黙るか。俺は黙ることにした。

 

黙る。

 

(……!…………!!)

 

京極があからさまに俺に何かしらの意思を伝えようと奮闘しているが、黙る。

 

「手滑り天誅!」

 

針千本に心臓を一突きにされリスポーンしたが、黙る。

 

「がはッ!?」

 

報復に針千本の心臓を一突きにしつつ、黙る。

 

そんなこんなで飛び散る血飛沫から食材(とされているもの)を鍋が守る中、「唯一剣」が鍋に手を伸ばす……箸にも装備判定が存在することにより()判定が下りるため、縛り的に素手で食べる必要があるらしい。

明らかに入りまくっているであろう火傷ダメージ及びそのフィードバックにしかめ面一つ浮かべずに、粛々と取り出されたのは―――

 

閃光が、光った。

 

クソがァッ!!俺は咄嗟にすぐそばにあった釜の蓋を構えた。おそらく原理的には何かしらの化学反応を利用した()()()、やったのは―――考えるまでも無いな。

ほぼ同時に襲い掛かる……いや、()()()()()無数の矢が、撓り風切り突き刺さっていく。……「あいつ」だな。蓋は幕末にて最強の盾だが、幕末は神ゲーなので運営がちゃんとバランス調節をする。そのため、最強の盾である代わりにちょっとした角度の違いが命取りになるシビアな判定を持つ……更に言えば、判定はシビアなだけでなく根本的に()()。何が言いたいかというと―――

 

「……はッァ」

 

()()()()()()

右目でヒットポイントを確認……4割、か。地面に付きかける膝をどうにか抑え、より広範を防御できるよう蓋の角度を変更する―――無数の衝突判定(コリジョン)が突き刺さり、無敵の盾の外見(テクスチャ)をより複雑にしていく。流れ矢が全身を掠める。

 

「クソがッ……!!」

 

このまま終わってたまるかよッ……!!俺は地面を這い始めた。横目に見えたレイドボスさんはなんか刀振り回して矢を全部弾いている。えぇ……困惑しつつ先を急ぐ。この先は構造的な()()、そして()()()の……「あいつ」じゃない方のあいつの性格を考えれば―――!!

 

「サ、サンラク……」

 

()()。京極だ。

 

「ど、どうしようサンラク……!隙を見て漁夫ろうにもレイドボスさんがいるし、仕掛けておいた罠を起動しようにも全部無効化されちゃうし……!!」

 

ふむ……俺は腕組みをして考えた。

 

「あ、あれは何だろう」

 

俺は京極の背後を指した。

 

「え?」

 

京極は振り向いた。

 

「えい」

 

俺は京極の脇腹を己が硬刀にて突き貫いた。

 

「え?」

 

他ならぬ自らの重要部位(きゅうしょ)が妙にリアルなグラフィックでどくどくと流れ出る血液に染まる事実を前に京極は硬直した。

 

「えい」

 

俺は京極の脇腹から己が硬刀を引き抜いた。

 

「え?」

 

俺は京極をリスキルした。

 

「え?」

 

 

ガッポガッポっスよガッポガッポ……ハハハ!いつの間にやら矢の雨は消え、あとついでに「あいつ」も消え、「あいつ」じゃない方のの京極(あいつ)も消えた闇の中。だんだん空間に占める虚空の割合が広がっていき、この闇属性鍋パにも終わりが見え始めている……なんだか、寂しいな。俺は紅蓮寧土を袋叩きにしながらそう思った。

現在フル回転状態の夜目が、「俺たちの勇者」が鍋に箸を突っ込む様子を伝えてくれている……さァ鬼が出るか蛇が出るか、どっちだ!?

 

ざばん。

 

生首だった。

 

綺麗な放物線だなあ……仕切り直し!現在フル回転状態の夜目が、「俺たちの勇者」が鍋に箸を突っ込む様子を伝えてくれている……さァ鬼が出るか蛇が出るか、どっちだ!?

 

ざばん。

 

生首だった。

 

「……あの」

 

「被下剋上」が率直な意見を口にしかけたが、気に障った(ファンブル)らしく一閃はあまりにも正確(クリティカル)に彼の首と胴のつながりを断ち切った。そのまま帰ってこなくなるほど、正確に。

俺は何となく「唯一剣」の頸動脈めがけて投擲型奇襲天誅をしたが、咄嗟に変則型土下座ドライブの型を取られ躱された。ヤルじゃん……だがなァ、変則型土下座ドライブの弱点、それは解除まで防御力が著しく下がることだ―――変形(トランスフォーム)ッ!!速攻型土下座ドラァイブ!!ゴー!!!!高速で間合いに入る―――刹那のうちにいくつもの斬撃を埋め込み、そのうち2割ほどが確かな手ごたえを発生させたのが分かる。唯一剣の刀は一本(唯一)、俺の刀は二本ッ!!そんな状態で負けるわけが無ェんだよ、オラァ~~!!!

 

「……くっ」

 

唯一剣は言うと、(インベントリ)を漁り、しかしそこで縛りの存在を思い出して普通に死んだ。床にアイテムが散乱……しない。縛りの関係でミニマムなインベントリ運用にならざるを得ないようだ。シケてんなァ……俺は口に出さなかった。代わりに仕切り直した……現在フル回転状態の夜目が、「俺たちの勇者」が鍋に箸を突っ込む様子を伝えてくれている……さァ鬼が出るか蛇が出るか、どっちだ!?

 

ざばん。

 

乳母車だった。

 

 

よし、放火しよう。

 

俺は決心した。

 

懐から取り出した火打石、その照らし出す空間をそのままに炎を乳母車へと移す!気付いたランカー共は針千本以外は正面にいる、釜の蓋で防御ッ!!そして、針千本は―――!

 

「……無、えッ!?」

 

串投げプレイヤーから串を()()()()()、立ち尽くすしかなくなるのはあまりにも自明だ。京極が意図したのか偶然かは知らないが、この近辺にダン小屋が無いことも確認済み……諦めな、おとなしく業火の海に沈むんだよォーーッ!!

乳母車を発進させる!十中八九どころではない確率でレイドボスさんに斬られるだろうが、というか既に斬られたがそんなことはどうでもいい!()()()()()()()()()()()ッ!!床に、壁に、天井に―――必ず()()()()からだッ!!

 

しかしレイドボスさんは炎を斬ることができるようで、乳母車は普通に鎮火した。

 

「…………」

 

まッまだだァーーーーッッ!確かに放火は失敗した、しかし今ならまだ逃げ切ることが可能なはず―――!!俺は変則型土下座ドライブの形態になって一目散に逃げだした。逃げろ逃げろ逃げろ、俺は今死ぬわけにはいかないんだよォーーーッ!!

 

―――背中に、何かが刺さった。

 

「ぁ……」

 

最後の力を使って視界を動かせば。そこには、()()()()()()()()針千本の姿が、あって―――

 

そういえば、()()()()()()()()()()んだっけ。

 

俺は死んだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。