俺は死んだ。
首を刈り取られたからだ。
この事を見越しごくごく付近に設定しておいたリスポーン地点から起き上がった俺は、辺りに染み込む血液を無視して
「……」
オォッと
「…………」
京極はどぎまぎしている。自分の想定していた空間と実際が違ったので困惑しているのだろう……フッ、愚かなことだぜ。俺は首をゆっくりと横に振ったつもりになった。結局―――俺は人差し指をビシィと立てたつもりになった。結局、
「………………」
お、言うか!?もしかして言っちゃうのか!?俺たちはザワザワしたつもりになった。多分なった。もし京極が口を開いたとなれば、もう当然のことながら彼女は袋叩きのターゲットリストに仲間入りだ……リスポーン地点をいくら近くしても、リスキルを続けられれば気がめいっていつかはログアウトすることになる……実際、「デュラハン」は既にそれで脱落済みだ。それをも厭わず……言っちゃう、のか!?
「……………………あの」
言ったァッ!!俺は真っ先に動き出すと見せかけてあえてレイドボスさんの様子をうかがった。レイドボスさんの攻撃ルーチンは乱数だからだ。
「……!!!」
緊張が走る。
レイドボスさんは「何かのアクション」を取った人間に対し攻撃判定を行う。そのため、安易に殺しに行くと京極を無視してこっちにタゲが飛んできかねないのである。だからこそこの場ではあえて停止、レイドボスさんの顔色をうかがー――
―――カチャリ。
「狂犬」が我慢できずに柄に手を掛けた音である。
俺たちは彼を袋叩きにした。
◆
辞世の句、断末魔、リスポーン……すべてが途絶えて「狂犬」が飽きてログアウトしたのを察すると、俺たちは無言で持ち場に戻った。いや嘘、無言ではない。「唯一剣」が「被下剋上」をすれ違いざま天誅した。しかしそれ以外は全くの無言だったし、「被下剋上」もついさっきの俺のように何事も無かったかのように戻ってきた。
―――再びの、無言。
俺は懐からそれとなく箸を取り出し、目の前の鍋にこれを伸ばしていいものか悩み始めた―――その時脈絡も無く「吹雪狩」の袋叩きが始まったので参加しつつ、ぐつぐつと熱を帯び続ける鍋のことをずっと考えていた。
―――再びの、静寂。
こっそりインベントリに仕舞いこんだもう帰らない彼のドロップアイテムにひととおり思いを馳せると、俺は意を決して目の前の鍋に箸を突っ込んだ。このまま黙り込んだままでいたら、一周回ってレイドボスさんが
―――再びの、沈黙。
箸を動かし、妙にリアルなフィードバックに彩られた
八尺玉だった。
―――突き破る、騒音。
どうなったァッ!?引き上げられるとほぼ同時に爆ぜた玉に至近距離にいたせいで真っ先に溶かされた俺は、リスポーン地点からガバッしてシュタッした。
レイドボスさんと勇者は爆風を斬って(爆風を斬って????)無傷、
唯一剣は勇者の陰に隠れたので無傷、
針千本は爆風を刺して(爆風を刺して????)無傷、か。
黙る。
(……!…………!!)
京極があからさまに俺に何かしらの意思を伝えようと奮闘しているが、黙る。
「手滑り天誅!」
針千本に心臓を一突きにされリスポーンしたが、黙る。
「がはッ!?」
報復に針千本の心臓を一突きにしつつ、黙る。
そんなこんなで飛び散る血飛沫から食材(とされているもの)を鍋が守る中、「唯一剣」が鍋に手を伸ばす……箸にも装備判定が存在することにより
明らかに入りまくっているであろう火傷ダメージ及びそのフィードバックにしかめ面一つ浮かべずに、粛々と取り出されたのは―――
閃光が、光った。
クソがァッ!!俺は咄嗟にすぐそばにあった釜の蓋を構えた。おそらく原理的には何かしらの化学反応を利用した
ほぼ同時に襲い掛かる……いや、
「……はッァ」
右目でヒットポイントを確認……4割、か。地面に付きかける膝をどうにか抑え、より広範を防御できるよう蓋の角度を変更する―――無数の
「クソがッ……!!」
このまま終わってたまるかよッ……!!俺は地面を這い始めた。横目に見えたレイドボスさんはなんか刀振り回して矢を全部弾いている。えぇ……困惑しつつ先を急ぐ。この先は構造的な
「サ、サンラク……」
「ど、どうしようサンラク……!隙を見て漁夫ろうにもレイドボスさんがいるし、仕掛けておいた罠を起動しようにも全部無効化されちゃうし……!!」
ふむ……俺は腕組みをして考えた。
「あ、あれは何だろう」
俺は京極の背後を指した。
「え?」
京極は振り向いた。
「えい」
俺は京極の脇腹を己が硬刀にて突き貫いた。
「え?」
他ならぬ自らの
「えい」
俺は京極の脇腹から己が硬刀を引き抜いた。
「え?」
俺は京極をリスキルした。
「え?」
◆
ガッポガッポっスよガッポガッポ……ハハハ!いつの間にやら矢の雨は消え、あとついでに「あいつ」も消え、「あいつ」じゃない方のの
現在フル回転状態の夜目が、「俺たちの勇者」が鍋に箸を突っ込む様子を伝えてくれている……さァ鬼が出るか蛇が出るか、どっちだ!?
ざばん。
生首だった。
綺麗な放物線だなあ……仕切り直し!現在フル回転状態の夜目が、「俺たちの勇者」が鍋に箸を突っ込む様子を伝えてくれている……さァ鬼が出るか蛇が出るか、どっちだ!?
ざばん。
生首だった。
「……あの」
「被下剋上」が率直な意見を口にしかけたが、
俺は何となく「唯一剣」の頸動脈めがけて投擲型奇襲天誅をしたが、咄嗟に変則型土下座ドライブの型を取られ躱された。ヤルじゃん……だがなァ、変則型土下座ドライブの弱点、それは解除まで防御力が著しく下がることだ―――
「……くっ」
唯一剣は言うと、
ざばん。
乳母車だった。
◆
よし、放火しよう。
俺は決心した。
懐から取り出した火打石、その照らし出す空間をそのままに炎を乳母車へと移す!気付いたランカー共は針千本以外は正面にいる、釜の蓋で防御ッ!!そして、針千本は―――!
「……無、えッ!?」
串投げプレイヤーから串を
乳母車を発進させる!十中八九どころではない確率でレイドボスさんに斬られるだろうが、というか既に斬られたがそんなことはどうでもいい!
しかしレイドボスさんは炎を斬ることができるようで、乳母車は普通に鎮火した。
「…………」
まッまだだァーーーーッッ!確かに放火は失敗した、しかし今ならまだ逃げ切ることが可能なはず―――!!俺は変則型土下座ドライブの形態になって一目散に逃げだした。逃げろ逃げろ逃げろ、俺は今死ぬわけにはいかないんだよォーーーッ!!
―――背中に、何かが刺さった。
「ぁ……」
最後の力を使って視界を動かせば。そこには、
そういえば、
俺は死んだ。