仮想空間。
『VRチュートリアルアスレチック』などの例外を除けば、ユートピア社製のVRシステムにおけるプリインストール・ソフトウェアの使用者は、基本的に
「……へぇ~~?」
『VRブラウザ』によってレンダリングされる白亜の部屋の中。京極の……どこか得意げで、どこか悪辣な呟きが、既定の音響設定に基づき空間を駆ける。
彼女は微笑むと、何枚かの半透明のウィンドウを前に少し首を傾げた。そして現実どおりの短髪を、ほとんど現実と言っていいほどに正確な物理演算のもと揺らした。でも、ここは現実ではない。かといって、京極の髪が京
「なるほどね」
その傾いた視界の中心には、
画像の内容を簡単に説明するなら、
「こういうことするタイプだったんだ」
一枚目。
京極の
関西住まいの京極でも、これがどこかはすぐにわかる―――
そもそもこのアカウントは半分捨て垢のようなもので、大抵の会話はダイレクト・メッセージで済ませている。そんなところに急に現実の写真を投稿した時点で、既にいつもと何かが違うのだ。
二枚目。
京極の
そう、同じである。
アングルと、映っている群衆の服の色だけが少し違う、本当にそれだけ。空を流れる白雲の形状も、太陽の傾き方も、投稿されたタイミングすらも。全てが、完璧に似通っている。同じ人物が撮ったのかと疑うくらいだ。
「まあ、デートだよね」
京極はそう睨んだ。
とやかく言うつもりはない。あの二人の関係は深掘りしないよう注意しているからだ。しかし、この画像を
「僕の待ち伏せ天誅の餌食にしてやるよ」
―――サンラクは、知人である以前に宿敵なのだから。
京極は思考入力でメニューを操作し、VRブラウザを閉じる。白亜の部屋が持っていた幾多のポリゴンがエフェクトとともに分解されて、白が黒へと塗り替えられていく。行きつく先はホームメニュー、起動するゲームは……決まっている、『辻斬・狂想曲:オンライン』だ。
幕末ではイベントの真っ最中。しかしサンラクは今
「墓穴を掘ったね、サンラク」
境界線を越えながら。京極から京
◆
仮想空間。
世の中にあるほとんどすべてのVRゲーム―――特にオンラインのものの使用者は、アバターとして現実とは違う容姿を使うことができる。簡単な話、もし現実の容姿しか使えないオンラインゲームがあったとして、それはもはや自動顔バレ装置でしかないからだ。そして『現実とは違う容姿』とは、時にあらかじめ用意された
「……さぁ~~て」
『辻斬・狂想曲:オンライン』によってレンダリングされる木製の長屋の中。サンラクの……どこか得意げで、どこか悪辣な呟きが、既定の音響設定に基づき空間を駆ける。
彼は微笑むと、現実とまるで違う形状に設定された髪を、現実とはどこか乖離した、少々大げさな物理演算のもと靡かせた。当然、ここは現実ではない。そう、明らかに
「天誅ッ」
「甘い」
「がッ」
返り討ち天誅読み反撃天誅読み返り討ち天誅を成功させ、加算されるスコアに気を良くしながらも、
「京極の奴、うまいこと
そうなのだった。
以前
彼は返り血を浴びながら、塀に囲まれた道の一角に目をやった。京極がログインするとするなら、だいたいそのあたりだと予想しているのだ。
「というか玲さんは……まあ、ちゃんとやってくれたよな」
彼にとっての
サンラク一人が画像を投稿しただけでは、「以前撮影した画像を今投稿することで外出中なのだと誤認させ、ログインしてきた隙をついて待ち伏せ天誅しようとしている」という真実が京極に気付かれてしまう可能性がある。しかし、
「さぁて、そろそろかな……?」
彼は、腰の刀に手をかける。
京極は、サンラクのことを
でも、サンラクは気にしない。今はゲームをやっているからだ。
「……来た!」
ログインエフェクトの光が、注視していた空間で弾けるのを。京極が境界線を越えて、
後はただ、駆け出すだけだった。