トレセン学園最強のチームは2つある。リギルとアルタイルだ。この2つのチームに所属しているウマ娘は、GⅠレースでの入賞は朝飯前だった。
リギルには、シンボリルドルフ、エアグルーヴ、ビワハヤヒデ、エルコンドルパサー、グラスワンダー、サイレンススズカなどが…
アルタイルは、タマモクロス、スーパークリーク、オグリキャップ、ヒシアマゾン、テイエムオペラオーなどが在籍していた。
逆に、あまり強くないチームも存在する。それは、スピカとカノープスである。両チームとも結成したばかりで、GⅠレースの勝利数は少ない。そのためか、今年の新入生の勧誘に失敗している。
チームの勝率や人気によって、学園より支給される予算は変わる。リギルとアルタイルは、言わずもがな予算が多い。広い休憩室、チーム専用のトレーニングルームに、専用の寮を有していた。
リギルの施設で、優雅にコーヒーを味わっている鹿毛のウマ娘がいる。高等部3年で、チームリーダーのシンボリルドルフだ。
「トリニティオレースか…面白いモノを考え付くな、学園長は…」
ルドルフは、学園新聞を見ながら呟いた。彼女は、近くに居たビワハヤヒデに声を掛けた。
「すまないが、皆を集めてほしい」
ハヤヒデは、分かりました。と返答し、ウェーブのかかった芦毛を揺らして、その場を後にした。
数分後、リギルのメンバーが集結した。
「集まってくれてありがとう。話す内容は、始業式で話題になった、トリニティオレースについてだ」
「リーダー!エル、出てみたいデス!」
目元にマスクを装着したウマ娘が、両手を上げてアピールする。彼女の名は、エルコンドルパサー。
「エル、止めなさい、まだ話の途中でしょ!」
彼女を制したのは、グラスワンダー。
「今回のイベントレース、2つのグループで参加する。これより、6名を選抜する。不明な点があれば、質問してくれ」
「リーダー、2つのグループなので、8名では?」
ルドルフに質問したのは、エアグルーヴ。
「1つ目のグループリーダーは、私。2つ目はハヤヒデだ。」
リギルのメンバーは、納得した。リーダーのルドルフは言わずもがな、ハヤヒデは、次期リーダー候補だからだ。
「このイベントレース、絶対に勝つ。URAの様にはいかないぞ」
URAファイナルズ、年始に行われる最強のウマ娘を決めるイベントレースだ。出走条件はトレセン在籍3年目から。つまり、中等部3年生から出走できる。観客や学園関係者の間では、第1回URAファイナルズの優勝争いは、リギルか、アルタイルと言われていた。それだけ、実力が抜きんでていた。しかし、どちらのチームのメンバーも1着を取っていない。初代チャンピオンは、どのチームにも所属していないウマ娘だった。その名は、メジロパーマー。後半の失速が嘘のように、終盤リードを保っていたサイレンススズカに追いつき、突き放した。とんだ番狂わせだった。
「これより、練習用コースへ行き、選抜を行う」
リギルメンバーは、目的地へ移動した。
「こりゃ、面白いレースやのぉ。クリーク」
アルタイルのリーダー、タマモクロスは、隣にいるスーパークリークに問いかける。
「団体戦のレース…初めてですね」
クリークは、彼女に返答する。
「うちらのチームメンバー全員集めてくれ、今回のイベントレースの事で話がしたいんや」
彼女の要望を聞いたクリークは、その場を後にした。
「リギルや、メジロパーマーには、負けへんで…勝つのは、うちらや」
タマモは、にやりと笑った。
5月中旬の朝早く、トレセン近くの歩道を走るウマ娘がいた。
そのウマ娘の名前は、マヤノトップガン。中等部2年でマックイーンの同級生だ。
彼女は、トレセンに入る前から天才と呼ばれていた。ほかのウマ娘には無い自在脚質、中長距離適正、直感による物事の本質の見極め…天は彼女に2物以上も才能を与えた。トレセンに入学し、新人戦に勝ち、他のレースに出走した。全て1着だった。トレーニングをしても、本質やコツがすぐに分かるため、まともに練習していなかった。それでも、彼女は、速かったし、強かった。
しかし、唯一2着のレースがある、ホープフルステークスだ。
彼女は、昨年2032年の12月に出走したレースの光景を思い返していた。
『第4コーナーカーブ』
マヤノは、勝負所だと思いスパートを掛けた。
『ここからスパート!一気にレースが動きます!』
『勝負は、最後の直線に持ち越された!』
2番手とは、およそ5バ身の差があった。
『まだ差があるここから先頭をとらえる娘はでてくるのか!』
『最後のコーナー、先頭を切ったのはマヤノトップガン』
マヤノは、後続のウマ娘達を更に引き離した。その姿は、さながら弾丸だった。
『マヤノトップガン、速い!速い!もはや独走状態!』
マヤノは、1着を確信していた。
『メジロマックイーン食い下がる』
あれだけ距離を離している。
『メジロマックイーン凄い末脚だ』
追いつけるわけがない。
『残り200』
マヤノの視界に、紫がかった芦毛が映った。
『メジロマックイーン並んできた』
マヤノは、状況を整理できなかった。
『メジロマックイーン抜け出した』
全速力のマヤノは、置いていかれた。
『メジロマックイーン突き放す!』
追いつくことすらできなかった。
『メジロマックイーン!強い走りだ!このレースの主役は間違いなくこの娘でした!』
彼女は、強かった。
『メジロマックイーン、1等星の輝きをみせクラシックへと繋がる道へ第1歩踏み出した!』
マヤノは、初めて敗北を味わった。
その後マックイーンは、心肺停止になり病院へ搬送された。マヤノは、テイオーから聞いた。マックイーンの心臓は、ウマ娘の因子を持たない、ただの人のモノと。ウマ娘と人間の身体能力は比べ物にならない。それは、心臓の機能も同じだ。人の心臓で、あれだけの速さを出せることは、異常だった。
マヤノは、天狗になっていた鼻を叩きおられた。だが、マックイーンのことを恨んだりはしなかった。むしろ、称賛し、尊敬した。彼女は、血もにじむ様な努力を繰り返したのだろう。自分は天才だと思っていた。だが、違った。超えるべき目標が出来た彼女は、変わった。真面目にトレーニングに参加し、自主練を行った。
「マックイーンちゃん、マヤは負けないから」
彼女のリハビリが完了し、レース出走できるのは8月からと、テイオーから聞いていた。直近のGⅠレースは、菊花賞。彼女は、おそらくだが出走する。あの日のリベンジを果たすべく、他人より、遥かに多い量のトレーニングをこなした。本来の心臓を取り戻した彼女は、もっと強いと、マヤノは、思っていた。
更にマヤノは、坂道を走っていた。トレセン近くの坂道は、やや勾配がきつく、片道500mの距離がある。何往復したか、分からなかった。7往復を超えたあたりから数えるのをやめた。ウマ娘でさえ音を上げるトレーニングだ。彼女は弱音を一切吐かず、歯を食いしばりながらこなした。上り坂を全力で走り、休息を入れずに下り坂へかけた。
「マヤノ」
黒髪のウマ娘が声を掛けた。
「ブライアンさん」
マヤノは、彼女の名前を言った。彼女は、手に持っていた飲料水をマヤノに渡した。
「脱水症状になるぞ。飲んどけ」
マヤノは礼を言って、飲料水を飲んだ。
「一生懸命だな」
2人は近くのベンチに座って話をしていた。
「勝ちたい相手がいるんだ」
マヤノは、昇り始めた朝日を見つめていた。
「メジロマックイーンか?」
「うん」
ブライアンの返答にマヤノは頷いた。
「マヤは、天才だと自分でも思っていた。でも、それは違った」
井の中の蛙だった。とマヤノは続けた。
「絶対に負けない」
マヤノの闘志は、朝日より燃え上がっていた。
沿道のプランターには、ルピナスが見ごろを迎えていた。
何かが見える。しかし、ノイズの様な物が入り、鮮明では無い。
―…ちゃん、…う!た…のに…!―
誰かの声が聞こえる。
―オレも夢が…だ!―
だが、ハッキリと聞こえない。
―1つ目は、ウマ…ーナー!…強い…すめを育てる!―
その間に、場面が変化してゆく。
―良い…ない……オレが代わ…死ねば…った…―
ノイズが多くなり、前が見えなくなる。
―………の成長を…けたかった―
視界が真っ暗になった。
「……イー…さん」
「マックイーンさん!」
目の前には、イクノが居た。
「え…?」
マックイーンは目を覚ました。彼女は、ベッドから上体を起こす。
「大分…うなされていましたよ。気分は優れませんか?」
イクノの問いかけに、彼女は首を小さく振った。
「…大丈夫ですわ…」
マックイーンは、胸に手を当てる。鼓動は少しだけ早かった。