ウマ娘 彼の生きた証   作:ぽんきちたぬきまる

11 / 30
第2章 4話

 2029年10月、残暑が終わりを告げ、秋の涼しさが感じられる様になった。

「パパ!ママ!早く!」

 当時10歳のテイオーは、駆け足でレース場につながる連絡通路を移動した。

「テイオー、父さん達を置いていかないでくれよ~」

 彼は、娘が扱けたりしないか心配だった。彼女が足早にレース場の観客席に着く。最前列だ。

 テイオーは、レースが早く始まらないかと思っていた。待ちきれない様子だ。レース自体は、TVで視聴した事がある。生のレースを見るのは、生まれて初めてだった。

 レース開始時刻となり、アナウンスが始まる。

『クラシックロードの終着点』

『菊花賞を制し、最強の称号を手にするのは誰だ!』

『3番人気には、アイネスフウジン』

『2番人気を紹介しましょう、タマモクロス』

『スタンドに押し掛けたファンの期待を背負って、1番人気シンボリルドルフ』

『火花散らすデッドヒートに期待しましょう』

『各ウマ娘、ゲートイン完了、出走準備整いました』

 ランプが点灯し、ゲートが開く、ウマ娘が我先にと飛び出す。GⅠレースだけあり、全員が名を連ねる実力者だった。先頭からシンガリまで11バ身の混戦状態だ。1番手にアイネスフウジンが躍り出て、次にタマモクロス、シンボリルドルフが並んでいた。しかし、4番、5番手も外から周ってきており、先頭争いは、激しかった。間延びした展開にはならず、向う正面までレースが進んでいた。順位は変更無かった。1番から7番手で先頭集団を形成していた。逃げ脚質のアイネスフウジンが、このまま1着かと思われた。第3コーナー、第4コーナーを周り、最終の直線まで来た。先頭は、変わらずアイネスフウジンだった。2番から6番手で2位争いを繰り広げていた。しかし、状況が変わった。アイネスフウジンの後方より、追いつく影がある。シンボリルドルフだ。アイネスフウジンと並んだ。だが、抜かれまいと粘る。シンボリルドルフは、そんな彼女を抜き去った。見事な末脚とコース取りだった。そのままシンボリルドルフは1着でゴール板をかけた。一生懸命、全身全霊で走るウマ娘たちの姿は美しかった。その中でも彼女は別格だった。実況が告げる、3冠達成と…

 

 2033年5月、日本ダービー当日、天候は、晴天。花屋に並んだシャクナゲに、日差しが当たり、赤色を際立たせる。レース場近くにあるホテルから、泊り客が出てくる。その中にウマ娘がいた。トウカイテイオーだ。彼女は、今日のレースに出走する。

 彼女には、目標がある。リギルリーダーのシンボリルドルフの様に強く、恰好が良いウマ娘になることだった。そんな彼女は、第1目標として、3冠ウマ娘だ。この3冠とは、トレセン2年目のみが参加できる、4月の皐月賞、5月の日本ダービー、10月の菊花賞の優勝である。

 テイオーは、レース場入口近くに、3人のウマ娘がいるのに気付いた。彼女の友人であるマックイーン、ターボ、イクノだ。3人はテイオーを見つけると、近くまで来た。そして、彼女の健闘を祈った。

「ありがとう、皆。僕1着取るね!」

 その時、テイオーは、マックイーンの目元の隈に気づいた。

「…マックイーン、最近眠れていないの?」

 テイオーが尋ねると、彼女は目元近くに手を当てた。

「…最近、変な夢を見続けていまして…」

「…夢?それとも悪夢?」

 マックイーンは、首を小さく振った。

「分かりません…ノイズの様な物で鮮明ではありませんわ…」

 友人の憂鬱な顔を見て、テイオーは心配になった。

「テイオー、私の事は大丈夫です。今は日本ダービーに集中してください」

「分かった。何かあったら相談して!」

 そして、温かくなり始めた風が吹く中、テイオーはレース場に脚を踏み入れた。

 

「マックイーン、本当に大丈夫なの?どんな夢なの?」

 観客席に移動している時、ターボが尋ねる。

「…夢の中で…ウマ娘が出てきますの…」

「ウマ娘?どんな見た目?」

 ターボは、マックイーンの方へ顔を向けた。

「…桃色の髪しか分からないですわ…」

 

『すべてのウマ娘が頂点を目指す、日本ダービー』

『歴史に蹄跡を残すのはだれか?』

『人気を紹介します』

『3番人気には、セイウンスカイ』

『この順位は不服か?2番人気にはトーセンジョーダン』

『1番人気は無敗、皐月賞ウマ娘トウカイテイオー』

『どの娘もいい顔していますね』

『全ウマ娘ゲートイン完了。出走準備整いました』

 ランプが点灯、ゲートが開く。

『スタートです』

『各ウマ娘、そろって綺麗なスタートを切りました』

『誰が先頭に抜け出すか、注目しましょう』

『セイウンスカイ、快調に飛ばしていきます』

『長丁場のレースですが、早くもセイウンスカイ、先頭に躍り出た』

『さらにはジャラジャラ』

『そしてその外テイクオフプレーン』

『1コーナーからそして2コーナーへ向かっていきます』

『さあ、期待に応えてセイウンスカイ、逃げる、逃げる、早くも先頭』

『ジャラジャラ、並びかけてきた』

『激しい先頭争い』

『3番手にはテイクオフプレーン』

『外にはトーセンジョーダン』

『少し後ろからトウカイテイオー』

 テイオーは、5番手につけていた。

『更に内からブレブリーコウ』

『その後ろからキングヘイロー』

『外めをつきましては、ウイニングチケット』

『トウカイテイオー上がってきた』

 テイオーは、見事なコース取りで2人を追い抜く。

『順位を振り返っていきます』

『1番手セイウンスカイ』

『2番手トーセンジョーダン』

『3番手トウカイテイオー』

 テイオーは仕掛けた

『まもなく第3コーナー勝負のかけどころです』

 トーセンジョーダンを抜いた。

『セイウンスカイ逃げ切れるか?』

 テイオーは、スカイと並んだ。

『最初に直線にかけてきたのは、トウカイテイオーだ!』

 追い風が吹いてきた。

『トウカイテイオー、2番手との差をグングン広げている!』

 まるで、風が彼女に味方している様だった。

『およそ8バ身!セーフティーリードだ!』

 その姿は、疾風を彷彿させた。

『トウカイテイオー、今、1着でゴール!実力の差を見せつけた!』

テイオーは、目標への第2歩を無事進んだ。彼女は、応援に来ていたマックイーン、ターボ、イクノの元へ行った。

「やった!無敗で2冠達成!」

 おめでとう!と3人はテイオーを称賛する。

 テイオーは、地下通路へ歩き出した。その時、左脚に違和感を覚えた。

 吹いていた風が弱まりだした。

 

 マックイーンとイクノ、ターボは、観客用の連絡通路を通り、優勝会見会場へ向かっていた。

「あ、良いこと考えた」

 ターボは満面の笑みを、イクノとマックイーンに見せた。

「会見前に、テイオーに会いに行こうよ!」

 

 テイオーは、レース場から会見会場へ向かうため、地下通路を移動していた。いつも、走って通過していた場所だが、今回は歩いていた。左脚に違和感が続いている。先ほどまで無かった痛みが少しある。足でも攣ったのかと、楽観的に捉えていた。彼女は、時計を見た。後、20分で始まる。早く会場に着き、準備をしなければと思い、走り出した。

 激痛が走った。左脚からだ。経験したことがない痛みに、テイオーは、その場で座り込んでしまった。呼吸すらうまくできない。脂汗が出てくる。助けを呼ぶにも、携帯電話はレース出場者用のロッカーに置いている。現在、地下通路にいるレース参加者は、彼女のみだった。

「…だ…誰か…おねが…い」

 テイオーは、痛みで意識が飛びそうなほどだった。

 

「テイオー!?」

 声が地下通路に響いた。テイオーは、痛みに耐えながら、声がした方へ顔を向けた。

 マックイーンだ。彼女は、テイオーに気づくと、走って傍に来た。

「脚を痛めたのですか!?」

 テイオーは、頷く。最早、声すら出なかった。

 マックイーンは、自身の携帯電話を出し、119番へ連絡した。

 イクノは、救護班が待機している部屋へ走った。

 ターボは、テイオーの痛みが和らぐように、背中を摩り続けた。

 

 テイオーは、救急車で病院へ搬送され、足のレントゲンを撮った。

 彼女は、病室で結果を待っていた。心が落ち着かない。レースでも、このような心情にはならない。それは、不安によるものだった。

 診察した医師が入室する。結果がでたのだ。

「テイオーさん、レントゲンの結果がでました」

「…どうでしたか?」

 テイオーは、恐る恐る聞く。医師は口を開いた。

「骨折です。」

 医師からの言葉にテイオーは頭が真っ白になった。

「次のレースは早くても、リハビリ込みで、12月上旬です」

 3冠の夢は潰えた。

 

 風が止んだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。