ウマ娘 彼の生きた証   作:ぽんきちたぬきまる

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第2章 7話

 夏の日差しが本格的になった8月上旬、トレセン名物の合宿が始まった。海近くの練習場で、2週間泊まり込みだった。ウマ娘は、トレーナーと練習するのも良いし、全体練習に参加するのも良いし、自主練をするのも自由だった。テイオーは、何となく参加した。彼女の脚の骨折は治った。しかし、以前の速度は出せなかった。

 テイオーは、浜辺に立ち、海を眺めていた。波の音を聞き、彼女は、最近の出来事について考えた。もし、骨折しなければ、菊花賞に出て3冠を達成し、あの3人とトリニティオレースに出場できたのに、と。

 突然、テイオーの肩に手が置かれる。彼女は、驚き、振り返った。そこには…

 紫がかった芦毛、栗毛、青い髪の3人のウマ娘が、夏だというのにマスクを装着し、目元を隠すようにサングラスをかけていた。

「イクノ、ターボ、やっておしまいなさい!」

 2人は、慣れていない手つきで、テイオーにズタ袋を被せ、彼女を抱えた。

「エ、チョットマッテ、デジャブ、デジャブ」

 テイオーは、ズタ袋の中で思い出した。1年目にチームスピカに同じ手段で連れていかれた事を。

 

 テイオーは、搬送されている間、周囲の音を聞いていた。風が吹き、木々が擦れる音が聞こえてくる。どうやら、近くの林まで運ばれたみたいだ。目的地に到着したらしく、彼女は、何かに座らされた。恐らく、切り株の上だろう。若干ささくれが臀部に刺さった。

「やっと話せますわね、テイオー」

 ズタ袋を外された。目の前には…マックイーン、ターボ、イクノが居た。

「皆、なんで…」

「マヤノさんから聞きました。テイオーさん、貴女のレース出場は早くても12月でしたね?」

 イクノの質問に、テイオーは頷く。

「決勝までに、筋力を戻せるトレーニングを3人で考えました」

「皆で、トリニティオレースに出場しましょう」

「諦めるなんて、テイオーらしくないよ!」

 テイオーは涙を流した。彼女たちは、今、走ることができないテイオーを見捨てなかった。マックイーンは、泣くことないじゃないですか!と焦りながらテイオーの背中を摩った。因みに、ターボは貰い泣きしていた。

 

「では、出走登録の前に、大事なことがあります」

 イクノが切り出す。4人は近くの丸ベンチに座り、丸机を囲むように座っていた。

「グループ名どうします?」

 それは大事なことなのかと、テイオーは思った。

「脳筋ボンバーズが良い!」

 ターボが提案する。

「いえ、脳筋エレガンスといかかですか!?」

 マックイーンも提案する。

「2人とも真面目に考えてください」

 イクノが釘を刺し、名前を提案する。

「脳筋シスターズが良いです」

「脳筋から離れようよ…」

 テイオーは、ツッコミを放棄したかった。

 3時間の話し合いの結果、脳筋ボンバーズになった。因みに、最終的にあっち向いてほい、で決めた。マックイーンは、1発目で敗北した。テイオーは、ずっと黙っていた。

 その後、トリニティオレースの出走登録時に、グループ名を係に2度見された。

 

「トレーナー、スピカの皆、勝手に脱退してごめんなさい…」

 テイオーは、チームスピカの元に謝罪へ行った。

「もう一度…チームに入れてください」

「テイオー」

 トレーナーの姫倉が、彼女の名前を言う。

「お帰り」

 スピカは、彼女を温かく迎えた。

 テイオーは、マックイーン、イクノ、ターボが、色々準備してくれたことを、姫倉に言った。彼は、少し驚き、微笑んだ。

「良い友達に恵まれたな」

 姫倉の言葉に、テイオーは笑顔で頷いた。

 

 ネイチャ、スぺ、スカーレット、ウオッカ達もレースの出走登録を済ませており、グループ名は、スピカノープスになった。

 

マックイーンは、浜辺で準備体操を行っていた。背後からゴールドシップの声が聞こえる。

「どうされましたか?」

 マックイーンは、彼女に声を掛けた。

「前にターボ達からマックイーンが、変な夢を見る話を聞いてな」

 今も見るのか?と、ゴルシは尋ねた。問いかけに彼女は、頷いた。

 2人は、浜辺に座り込んでいた。

「…最近は、夢にあったノイズが少なくなってきましたわ。少しずつですが、鮮明になっている気がしますの…」

 とても怖いのですわ…と、マックイーンは胸に手を当てた。そんな彼女の頬を、ゴルシは両手で包む。

「変な夢を見たら、このゴルシ様を呼びな!かけつけてやるぜ!」

「どうやって、来るおつもりですか!?」

 ゴルシの突拍子もない提案に、マックイーンは思わず噴き出した。

 

「イクノ!このトレーニング内容、負荷大きすぎない!?」

 テイオーは、以前行っていたふくらはぎのトレーニング、カーフレイズを実施していた。前と違う点は両手に重めのダンベルを持たされていた。

「安心してください。機能訓練技師の方達から監修を受けています。テイオーさん!あと、もう1セット!」

 テイオーはヤダ、ツッチャウ、ツッチャウ、と言いながらカーフレイズを終わらせた。

 

「テイオー、トレーニングをした後は、栄養補給が大事だって、かんりえいよーし?って人が言っていたぞ」

 ターボは、プロテインの袋に計量スプーンを入れ、中身を紙コップへ移した。

「よし、飲め」

「せめて水に溶かしてよぉ!」

 テイオーは動けなかった。先ほどのカーフレイズ以外にも、負荷のあるトレーニングを行っており、抵抗する体力は、無いに等しかった。

 ターボは問答無用で、テイオーの口に、プロテイン粉を入れ込む。

 テイオーはヤダ、ムセチャウ、ムセチャウと言いながら、必死に飲み込んだ。

 

「テイオー、疲労回復にはツボを押すと良いと、本に書いてありましたわ」

 マットを敷いた床に、テイオーはうつ伏せに転がされていた。疲労困憊、重度の口渇感により、その姿は、陸にあげられたアザラシの様だった。

「えっと…ここでしたわね」

 マックイーンの細くて長い指が、臀部のツボに指さる。

 あまりの激痛にテイオーはピェ、と鳴き気絶した。

 3人は、気絶したテイオーを、スピカとカノープスの合同宿舎へ運んだ。

 

「元の4人組に戻ったんだね。良かった」

 近くの林からマヤノが様子を見ていた。彼女の横から人影が近づく。

「あら~マヤノちゃん、どうしたのこんな所で~」

 身長が2m近くある男性だった。屈強な肉体で、厳つい顔の持ち主だ。口紅を塗っていた。彼の名前は姉ヶ崎。一流のオカマトレーナーで、マヤノの担当だ。

「あ、トレーナーちゃん!」

 マヤノが振り向く。姉ヶ崎は、彼女が先ほど見ていた方に目を向けた。

「お友達のテイオーちゃん、元鞘に収まったみたいね~」

 彼の言葉に、マヤノは笑顔で頷いた。

 

 合宿2日目の早朝、突然轟音が鳴り響いた。

 音を聞き、テイオーは驚いて起き上がる。重度の筋肉痛に耐えながら、音の発生源へ向かった。

 音の発信源と思われる砂浜には、まるで地面を抉ったような跡があった。

「えっ…何事?」

 テイオーの呟きは、波の音と共に消えた。

 その時、テイオーが見ていた方向から、ターボが歩いてきた。彼女は、肩で息をしており、汗だくだった。

「あ、ターボ、おはよう、君もさっきの轟音を聞いて来たの?」

 テイオーは、汗まみれのターボに尋ねた。

「轟音?」

 ターボは、首を傾げた。

「うん、寝る場所まで聞こえてきてさ…」

 テイオーは、何の音だったんだろうと考えていた。

「えぇ…そんなに大きい音…鳴っていたの…」

 ターボは、小声でつぶやいた。

 テイオーが来た同じ方向から、イクノが歩いてきた。先ほどの音に、つられてきたみたいだ。しかし、彼女は、寝ぼけており、眼鏡をつけていなかった。視力の悪い彼女は、抉れてできた段差に気が付かず、頭から砂浜に突っ込んだ。

「え!?何ですか一体!もうやだぁ!」

 慌てるイクノの様子を見て、ターボが爆笑した。イクノは、そんな彼女を追いかけ回し、捕まえ、自慢の筋力で拘束技を掛けた。ターボは、ギブアップ!ギブアップ!と叫んでいた。

 テイオーは、今日も平和だと、しみじみ感じていた。

 3人は、朝食まで時間があったため、砂浜で走り込みをした。筋肉痛のテイオーは、最下位だった。

 日がある程度昇り、セミが元気に鳴き始めた。

 

 マックイーンは、テイオー達がいる場所とは、別の浜辺で走っていた。前に行った坂道トレーニングの結果、スタミナは、術前の状態に戻りつつあった。そんな彼女の前から走ってくるウマ娘がいた。マヤノトップガンだ。彼女も早朝の自主練をこなしていた。

「マヤノ、おはようございますわ。」

 マックイーンは、立ち止まり挨拶をした。彼女に気づいたマヤノは、笑顔で挨拶を返した。

「君も走り込み?」

 マヤノは、尋ねる。

「そうですわ。早く術前の状態に戻さないといけませんので…」

 以前、マヤノは、テイオーから、彼女のスタミナ低下の件を聞いていた。

「菊花賞に出走するの?」

「はい、出走予定ですわ」

「マックイーンちゃん!」

 マヤノは、マックイーンの手を取った。マヤノの眼は、彼女の顔をしっかり見据えていた。

「マヤも、菊花賞にでるんだ!」

 だから、とマヤノは、続けた。

「お互い、全力で競おう!だから…トレーニング頑張って!」

 マックイーンは、彼女は優しく、一生懸命な娘だと思った。

 恥ずかしくなったマヤノは、手を離し、走り出した。

 

 走り出したマヤノを見ていた彼女は、後ろから声を掛けられた。振り返ると、ウマ娘2人が居た。

「マックイーン、久しぶり!」

 短髪鹿毛のメジロライアン。

「元気そうでよかったわ」

 黒みがかった鹿毛のメジロドーベル。

 2人は、マックイーンより3つ学年が上で、パーマーの同期だ。

「お久しぶりですわ」

 久々に会ったメジロ家のウマ娘たちは、最近の出来事について話した。

「2人もトリニティオレースに出走するのですわね」

 マックイーンの言葉に2人は、頷いた。

「そう、私たちはアルタイルに所属しているから、そこでグループを編成したんだ」

 ライアンは、ドーベルの方へ顔を向けた。

「もしかしたら、マックイーン達と争うかもね」

 ドーベルは顎に手を当てた。

「負けるわけには参りませんわ。私、練習に戻りますわ!」

 マックイーンは、砂浜をかけた。

 

 早朝自主練を終えた脳筋ボンバーズは、スピカとカノープスの合同宿舎に帰った。そこでは、ネイチャとゴルシ、清峰が朝食を作っていた。

「4人とも、お帰りなさい。もうすぐで、朝食ができますからね」

 清峰が、4人組に声を掛ける。

「ターボ、スぺを起こしに行ってくれない?さっきから呼んでいるけど、降りてこないのよ」

 ネイチャが、困り顔でターボに依頼する。ターボは、アイアイサー!と元気な声で返事し、寝室まで走った。

「あれ、リーダー、スカーレットとウオッカは?」

 テイオーがゴルシに尋ねる。

「2人なら、トレーナーと一緒に、巻き割りしているぞ」

 

 スピカ、カノープスメンバーは、朝食を摂取し、各々トレーニングへ向かった。マックイーンは、朝4時から走り込みをしており、眠気があったため、仮眠を取った。

 

 

 

 歩道には、桜が咲いており、その下を歩いていた。

「おとうさん、おかあさん、がっこうで、ともだちできるかな?」

 少年の声だ。彼は、親と手を繋いで歩いていた。

「できるさ、いっぱいな」

 父親の声が聞こえる。少年は顔を向けたが、父の背が高く、顔は見えなかった。

「きっと、毎日が楽しいわよ~」

 母親が少年の頭を撫でる。彼女は、綺麗な鹿毛のウマ娘だった。家族の話の内容から、小学校の入学式に向かっている様だ。

「あ!」

 少年の目の前に、同年代のウマ娘が居た。少年は、ウマ娘の元へかけだした。

「こんにちは!」

 声を掛けられたウマ娘が顔を向ける。桃色の髪の毛だった。彼女も同じように挨拶を返す。可愛らしい笑顔だった。

「きみも、おなじがっこう?」

 ウマ娘は、目の前にある学校へ指を差し、少年に尋ねる。

「うん、そうだよ!」

 元気よく返答した。

「ほんと!?いっしょのクラスだったらいいね!」

 ウマ娘は、嬉しそうな顔になった。更に続けて言った。

「わたしのなまえは、ハルウララ!きみは?」

 桜の花弁が2人の間を舞った。

 

 マックイーンは、目を覚ました。先ほどの出来事は夢で、今まであったノイズが無かった。

「今のは…何ですの?」

 夢の内容に彼女は、身に覚えが無かった。

 

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