ウマ娘 彼の生きた証   作:ぽんきちたぬきまる

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第2章 8話

「ウララちゃん!」

 少年の声だ。彼は、ウマ娘の家の前に来ていた。

「あら、君は、ウララのお友達ね?」

 声に気づいた老婆が振り向いた。ウララの祖母の様だ。

「ちょっと待ってね、あの娘を呼ぶわ」

 ウララの祖母が、家に入り、孫を呼ぶ。祖母に呼ばれた彼女が、少年の前まで来る。

「あそびにきたよ!」

 少年は、ウララに言う。彼女は、少年を見て嬉しそうな顔になった。

「うん!あそぼう!」

 2人は、河川敷までかけだした。

「あ」

 ウララが、何かを思い出したかのように、声を出す。そして、衣服のポケットから、物を取り出す。

「これ、つくったの!あげる!」

 彼女が取り出したのは、押し花の栞だった。

「この花、なぁに?」

「かもみーる?って、花だよ!」

 少年は、栞を受け取った。

「ウララちゃん、ありがとう!たからものにするね!」

「うん!」

 ウララは、笑顔だった。

 

 朝、マックイーンは、目を覚ました。前に見た夢の続きを見ていた。彼女は、先ほど夢に出てきた。栞に見覚えがあった。ベッドから降り、カバンから、身体のツボに関する本を出す。そこには、カモミールを押し花にした栞が、挟まれていた。色褪せ、劣化しているが、形状は、似ていた。

 

「あ、マックイーン、おはよう」

 イクノと、テイオーがキッチンに立っていた。今日の朝食当番は、2人だ。

「マックイーンさん、スぺ先輩がどこにいるか知っていますか?」

 イクノが尋ねる。丁度ターボが、2階から降りてくる。

「起きた時には、寝室には、いませんでしたわ」

「ターボ、探してくる!」

 ターボは寝巻のまま外へ向かった。

 

 ターボは、宿舎近くの林まで向かい、スぺを探していた。その時、声が聞こえてきた。彼女は、最近視聴した、スパイ映画のキャストの真似をするように、岩陰に隠れて耳を澄ませた。

「なんで…2人とも、1年前、黙ってリギルに行ったのですか?」

 スぺの声だった。泣きそうな声だ。ターボは、岩陰から顔を出した。

「スぺちゃん…カノープスから脱退したことは謝るわ…でも、あそこでは、強くなれないかもって、考えてしまったの」

 サイレンススズカだった。

「私も…同じです。GⅠレースに勝ちたかったの…」

 グラスワンダーだ。2人とも、申し訳が無い顔をしていた。

「…2人の今の顔を見て、何かしらの理由があって出て行ったことは、分かりました…」

 スぺは、2人を視界に捉えて、言葉を続けた。

「今回のイベントレース、リギルに勝って、カノープスが強いことを証明します」

 スぺは、覚悟を決めた顔だった。彼女は、自身の宿舎へ戻るため踵を返した。ターボが隠れていた岩を通り過ぎる際、彼女は、呟いた。

「カノープスは…弱小なんかじゃない…」

 ターボには、聞こえていた。

 

「スぺさん、お帰りなさい。どこかに行かれたのですか?」

 イクノは、戻ってきたスぺに気づいた。

「うん、ちょっと自主練に…」

 スぺは返答した。ターボも宿舎に戻ってきた。

「ターボ、お帰り!スぺちゃんを、見つけてくれたんだね」

 テイオーの言葉にターボは、首を振った。

「…ううん、丁度入れ違いになったみたい!」

 ターボは、そう言いながら、スぺの後姿を見ていた。

「顔洗ってくる!」

 ターボは、洗面所へ向かった。

 

 洗顔フォームで、顔を綺麗にしたターボは、鏡を見た。当然、彼女自身が映っていた。彼女は、カノープスが弱小と言われている事実を知っていた。ここ1年、GⅠはおろか、GⅡの戦績が悪い。それでもスぺは、あの2人に、カノープスの強さを証明すると言った。彼女とネイチャが猛特訓している様子は、ターボは以前から目撃していた。

「ターボダッシュ…早く完成させないと…」

 鏡に映る自身に、言い聞かせるように呟いた。焦りが伝わる顔だった。

 

 日が昇り、正午、夏の日差しが容赦なく砂浜を照り付ける。ターボは、そこを走っていた。

「あまり、無茶は禁物よ、ターボさん」

 ターボは声を掛けられた。彼女が振り向くと、ウマ娘が居た。

 グラスワンダーだ。彼女の手には、飲料水が握られていた。

「夏の日差しを甘く見ちゃダメ。すぐ日射病になるわ」

 ターボに、未開封の飲料水を渡した。

「…なんでターボの名前を知っているの?」

 グラスに尋ねる。ターボと彼女は、初対面だった。

「学園のチーム所属一覧に、顔写真付きで載るでしょ?そこで知ったの」

 グラスとターボは、日陰に移動して、木の根元に座っていた。

「スぺちゃんとの会話…聞いていたでしょ?」

 ターボは、冷や汗が出た。しかし、聞きたい事があり、好都合だった。

「なんでカノープスを抜けたの?」

 ターボは、彼女の顔を見た。とても悲しい顔をしていた。

「ごめんね、答えられないわ…」

 グラスは、立ち上がった。

「出て行った私が言うのは、何だけど、チームの皆を大切にしてね」

 ターボは、彼女の言葉に頷いた。

「それとね、ターボさん。レースに勝つのは大事、でも楽しく走る方がもっと大事よ」

 彼女は、振り向いて言う。何かを堪える様な顔だった。

「これだけは、忘れないで…」

 グラスの瞳は、潤んでいた。

 

 夕方、チームスピカとカノープスは外でバーベキューをしていた。

「いや~、暑い夏に飲むビールはうまいな!」

 スピカのトレーナー、姫倉は麦酒の感想を言う。

「姫倉君、飲んでないで、こっちを手伝ってくれ」

 カノープスのトレーナー、清峰は、火おこしの準備をしていた。

 彼のもとに、ターボがやってくる。

「トレーナー、ターボ、火おこししたい!」

 ターボは、ファイアスターターを持ってきた。

「良いですよ、ターボさん、やけどしないようね」

 ターボは火おこしを試みた。

「あら?姫倉トレーナー、この大きな魚は?」

 マックイーンは、氷で満たされた発泡スチロールを指さした。中には魚が入っていた。

「それか?今日、俺が釣り上げた魚だ」

 

 ターボは、火おこしに成功した。その後、ゴールドシップは、肉をひたすら焼いていた。

「ほら、テイオー。お前は、筋肉戻すために、沢山食え」

 テイオーの紙皿に、焼けた肉を入れる。

「あっ、良いな!リーダー、アタシにも!」

「俺も、俺も!」

 スカーレットとウオッカが負けじと、紙皿をゴルシの前に出す。ゴルシは、ため息をつきながら、肉を紙皿に入れた。

 マックイーンは、姫倉が釣り上げた魚の鱗を取り、3枚に下ろしていた。

「あれ、マックイーン、魚を捌けるの?」

 テイオーは、肉を頬張りながら、彼女に尋ねる。見事な手さばきだった。

「え?」

 マックイーンは、手を止めた。

「いいな~、今度僕にも教えてよ!」

 テイオーは、綺麗に下ろされた魚を見て言った。

「お、マックイーン、綺麗に捌いたね。じゃあ、焼くよ」

 ネイチャが、魚に香辛料と塩をかけ、網で焼き始めた。

「…私、何で、魚を捌けましたの…?」

 マックイーンは、手の甲を額に当てて呟いた。彼女は、生まれてから一度も、魚を捌いたことが無かった。気づけば、手が動いていた。

 その時、遠くから声が聞こえてきた。声の主はイクノだ。全速力で走ってきた彼女は、息を切らしていた。腕には大きな紙を抱えていた。

「皆さん!大変です!」

 彼女の焦った声に、スピカとカノープスメンバーが反応する。

「イクノさん、どうしたのですか?」

 清峰が尋ねる。

「トリニティオレースのトーナメント表が出て…兎に角これを見てください!」

 イクノの出した、トーナメント表を暫く見ていた姫倉は、驚きの声を上げた。

「嘘だろ…予選に勝っても…次の準決勝の相手達は…」

 姫倉の言葉を聞いていたゴルシも、トーナメント表を見て絶句した。

 同じく表を見たスぺと、ターボは、顔をしかめた。

 

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