「ウララちゃん、がんばれー!!」
少年の声だ。学校の徒競走で彼女を応援していた。ウララは、必死に走っていた。が、途中で転倒し、他の男子や女子に追い抜かれていく。彼女は、立ち上がり、走り出した。だが、ゴール目前で彼女が躓き、また転倒した。
「ウララちゃん!」
少年が叫ぶ。心配している様だった。彼女は、転倒により、たくさん怪我をしていた。
それでも彼女は立ち上がり、前に進んだ。彼女は一生懸命に走っていた。
マックイーンは、目を覚ました。夢の続きを何度も見るなんて、不思議だと思った。
「本当に…夢なのでしょうか?」
彼女は、カモミールの栞を手に持ち、呟いた。
トレセン学園最強のチームは2つある。リギルとアルタイルだ。今回のトリニティオレースに、それぞれ、2グループずつ出走する。
リギル・アンファングには、
シンボリルドルフ、エアグルーヴ、サイレンススズカ、タイキシャトル。
リギル・ツヴァイト、
ビワハヤヒデ、エルコンドルパサー、グラスワンダー、フジキセキ
アルタイル・1号店、
タマモクロス、スーパークリーク、オグリキャップ、イナリワン
アルタイル・2号店、
ヒシアマゾン、メジロライアン、メジロドーベル、テイエムオペラオー
どのグループも強豪ぞろいだった。
URAファイナルズで、優勝したメジロパーマーだが、出場を見送った。彼女は、チーム無所属で、人員の確保が困難と言っていた。
URAチャンピオンの不在、これは、リギルとアルタイルの決戦と噂されていた。
そして、トーナメント表を確認した際に発覚した事実は、予選を突破した際…
スピカノープスは、リギル・アンファングと、アンタレス・2号店。
脳筋ボンバーズは、リギル・ツヴァイトと、アンタレス・1号店に当たることが分かった。
「予選を突破しても、準決勝で強豪2グループと争うことになるか…」
姫倉は、トーナメント表を眺めながら、ため息をついた。次の決勝へ行く条件は、グループ総合点数上位2位までだ。
「ま、強いウマ娘と戦うって機会は、大事だもんなぁ」
彼は、カップに残っていたコーヒーを飲み干した。
トリニティオレース予選、スピカノープスからは、スカーレット、ウオッカ、スペが出場した。
『トリニティオレースAブロック第1予選まもなく開始します』
『全ウマ娘、ゲートイン完了』
ランプが点灯、ゲートが開く
『全ウマ娘、好スタートをきりました』
『位置取りが大事になってきますよ』
スカーレットたちは、他グループに遅れないように集中していた。
「くっそ~、なんでスカーレットに負けるんだよ~」
ウオッカは悔しそうに体を震わせる。4着だった。
「これで、あたしの3勝2敗ね」
スカーレットは、3着だった。
「すごく緊張した…」
全身全霊で走ったスぺは、1着だった。
「あいつら、大丈夫かな…」
ウオッカは、脳筋ボンバーズの心配をした。
夏の暑さは、まだまだ衰えてはいなかった。芝に強烈な日差しが照りつき、青々しさを強調させる。ついに、脳筋ボンバーズの予選当日だ。全員、イベントレースは初めてだ。控室では、緊張が走っていた。いや、1名呑気なウマ娘がいた。
「よーし!勝って弾みをつけるぞぉ!」
ターボだった。
相変わらず元気だと3人は、思っていた。
マックイーンは、レース用の勝負服のポケットから、押し花の栞を出した。テイオーは、その栞に気づいた。
「あ、その花って…カモミール?」
マックイーンは、テイオーの質問に、そうですわと、返答した。
「確か…カモミールの花言葉って…」
テイオーは、彼女に花言葉を伝えた。
そして、出走する3人は、右腕に赤いスカーフを巻いていた。テイオーの勝負服に付けられているマントと同じ色だ。
『今年初開催のトリニティオレースBブロック第1予選まもなく始まります』
マックイーン、イクノ、ターボは各々ゲート内でスタートを待っていた。
『各ウマ娘、ゲートイン完了、出走準備整いました』
マックイーンとイクノは、互いの目を見て頷く。2人はターボがいる方を向いたが、彼女が見えなかった。ターボの身長は146cmと小柄だが、ゲートから隠れるほどではない。とにかく2人は集中しようと前を向いた。
ランプが点灯し、ゲートが開いた。
轟音が鳴り響き、衝撃が走った。
「きゃ!なんですの!?」
「マックイーンさん、兎に角スタートしましょう!」
2人は怯んだが、スタートした。横をみた、ターボはいなかった。前をみた、ターボがいた。およそ9バ身先にいた。
「え…」
マックイーンは驚いていた。
『最初にカーブを抜けたのは、ツインターボ!』
『すぐ後方に、メジロマックイーンとイクノディクタス!』
『メジロマックイーン、追いすがる!』
『イクノディクタス粘る粘る!』
『メジロマックイーン、抜け出した!』
『イクノディクタスすごい末脚だ!』
『残り200』
『メジロマックイーン今、1着でゴール!』
『2着にイクノディクタス』
『3着にツインターボ』
Bブロック第1予選、脳筋ボンバーズは総合1位を取った。
「夏合宿で聞いた轟音は、ターボのスタートダッシュだったのか…」
テイオーは、観客席からスタートを見ていた。彼女の眼前、ゲート後ろの芝が大きくえぐれていた。彼女は上から見ていたため、ゲート内のターボが見えた。クラウチングスタートの体制を取っていた。その後、ゲートが開いたと同時に、ターボがとんでもない速度で飛び出した。気づけば、スタートダッシュで、2番手とは、9バ身のリードをつけていた。
「あのダッシュは驚異だな」
テイオーの、更に上の観客席から見ていたシンボリルドルフは、そう呟く。隣にいるビワハヤヒデは頷いた。
マックイーンとイクノは、芝で倒れているターボの元へかけ寄った。
「ターボ!先ほどのは、一体なんですの!?」
大の字で倒れ、肩で息をしている彼女は、マックイーンの質問に答えた。
「ターボの…必殺技…」
「必殺技?」
イクノは、ターボの傍で腰を下ろして、スタート、並びにゴール地点の芝を見た。ターボのスタート位置のみ、芝がえぐれていた。
「その名も…ターボダッシュ…」
ターボダッシュ、5月から練習していた技だ。反発力を最大限生かし、スタートダッシュで多くのリードを得る技。しかし、成功までに、体制が安定せず、芝へ激突し、負傷、打撲と、痛い思いをたくさんした。それでも、彼女は、止めなかった。いつも我儘を聞いてくれる友人達の役に立ちたかった。3人の足を引っ張りたくなかった。
その一心で彼女は、ようやく習得した。彼女だけの技を。