ウマ娘 彼の生きた証   作:ぽんきちたぬきまる

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第2章 10話

 桜が満開の春だった。前の方にウマ娘が立っていた。

「おーい、ウララちゃん!」

 少年の声だ。彼は、ウマ娘に声を掛けた。

「あ、きた!」

 呼ばれ、振り返ったウマ娘の年齢は、9歳ぐらいだった。彼女は、少年の元へ走ってきた。

「早く!早く!さくらが、さいているよ!」

 ウララが、少年と手を繋ぐ。

「わかったよ。いこう!」

 少年は、嬉しそうな声を出した。2人は、歩きながら話していた。

「わたし、強くて、皆を笑顔にするウマ娘になる!」

 少年は、ウララの方を見た。

「学校のかけっこでは、いつもドベだけど…?」

 少年の言葉を聞いたウララが、腰に手を当てる。

「大丈夫!最後に勝つのは、わたしだよ!だって、あきらめが悪いもん!」

 彼女は、胸を張って言う。

「ウララちゃん、いいこと言うじゃん」

「とっても良い言葉でしょ!使っていいよ!」

 彼女は、笑顔だった。

 

 マックイーンは、目を覚ました。彼女が、ウララと少年に関する夢を見たのは、4回目だ。夢は起きた際、90%は忘れる。だが、鮮明に覚えていた。

「誰かの…記憶?まさか…」

 マックイーンは、夢の件を考えようとしたが、今日はレースの出場日だ。神戸新聞杯に向けて、気持ちを切り替えた。

 

 結果として彼女は、1着でゴールを飾った。合宿で油断なく調整した結果だ。

 ターボはあれから、GⅢやGⅡレースに出走し、自慢のターボダッシュを使い、1着を取った。

 

 残暑が終わりを告げ、風が涼しくなり始めていた。菊花賞当日だ。

 マヤノは、身支度を済ませ、レース場へ向かっていた。出場ウマ娘用の入口の横に、黒髪のウマ娘が立っていた。ナリタブライアンだ。

「ブライアンさん!応援に来てくれたのですか?」

 マヤノは、嬉しそうにブライアンに話しかける。

「ああ、お前の晴れ舞台を間近で見たいからな」

 ブライアンは、マヤノの頭を撫でながら言う。

「マヤは、もう14です!子ども扱いは止めて!」

 マヤノは、ふくれっ面になった。

「すまん、つい癖で…」

 ブライアンは、親戚に1つ年が上のビワハヤヒデがいる。ハヤヒデの後姿ばかり見ていた彼女は、妹のような存在が欲しかった。6年前に親同士の交流で、付いていった際、当時8歳のマヤノと出会った。10歳だった彼女は、その後よく、マヤノと遊ぶようになった。マヤノの可愛らしい見た目と、仕草にそれはもう骨抜きだった。その時の彼女は、マヤノの頭をよく撫でていた。それが、未だに癖として残っている。

「マヤノ、行ってこい!」

「うん!」

 マヤノは、選手控室へ向かった。

 

 マックイーンは、レース場に立っていた。菊花賞がまもなく始まる。彼女は、リハビリ中のテイオーの代わりではないが、精一杯走ろうと心に決めていた。

『クラシックロードの終着点』

『菊花賞を制し、最強の称号を手にするのは誰だ!』

『虎視眈々と上位を狙っています。3番人気は、セイウンスカイ』

『2番人気は、ここまで無敗、奇跡の復活、メジロマックイーン』

『スタンドに押し掛けたファンの期待を背負って、マヤノトップガン、1番人気です』

 

『スタートです』

『綺麗なスタートを切りました』

『先頭、セイウンスカイ』

『期待通りの結果を出せるか?1番人気、マヤノトップガン』

『3番手には、3バ身差、トーセンジョーダン』

『5バ身差、メジロマックイーン』

『先頭集団を見ていきましょう』

『さあ、ハナに立ったのは、セイウンスカイ、このままリードすることができるか?』

『2番手の位置で先頭を窺うのは、3バ身差、マヤノトップガン』

『3番手には、トーセンジョーダン』

『その外並んでメジロマックイーン』

『ここまでが先頭集団』

『第4コーナーを進んで直線へ向かう』

『先頭がやや早いのか、縦長の展開だ』

『仕掛けどころの難しいレースになりそうですね』

『先頭は変わらずセイウンスカイ』

『続いて、2バ身差、マヤノトップガン』

『4バ身離れて、トーセンジョーダン』

 マックイーンは、ジョーダンとの差を詰めた。

『並びかけてきた、メジロマックイーン』

 マヤノは、実況を聞いて、少し焦った。

『あとから、ジュエルアメジスト』

 5バ身差を短時間で追いつくのは、異常な速さだった。

『まずは1週目、正面スタンド前に入った』

『ナルキッソス、内から行く』

『うしろから、マルシュアス』

『セイウンスカイ、先頭を進みますが、これは正解でしょうか?』

『セイウンスカイ、彼女の脚質にあっていますね』

『1コーナーから2コーナーへ向かう』

 マヤノは、少しペースを上げた。

『マヤノトップガン並んでくる』

 彼女は、マックイーンを振り切りたかった。

『マヤノトップガン、先頭に立った』

『1バ身差、セイウンスカイ』

『更に2バ身後方、メジロマックイーン』

 マックイーンは、すぐ後ろまで来ていた。

『3バ身離れて、トーセンジョーダン』

『2週目の向こう正面に入って、先頭を突き進みます、マヤノトップガン』

『さらには、1バ身差、メジロマックイーン』

 マックイーンは、スカイを追い抜いていた。

『2バ身差セイウンスカイ』

『3バ身差後方、トーセンジョーダン』

 

『意気揚々と先頭を行きます。マヤノトップガン、どうでしょうこの展開?』

『ちょっと掛かり気味かもしれません。息を入れるタイミングがあればいいですが』

 マヤノは、スパートを掛けた。

『第4コーナーカーブ』

『ウマ娘達がどう動くか、目が離せません』

『さあ、外から先頭を窺うのは、メジロマックイーン』

『5バ身差セイウンスカイ』

 マヤノとマックイーンは、後方集団を引き離していた。

『そのすぐ後ろトーセンジョーダン』

『400を切りました』

 マヤノとマックイーンは並んだ。

『最後のコーナー、先陣を切ったのは、マヤノトップガンとメジロマックイーン』

 後方とは、9バ身の差がついていた。

『残り200』

 マヤノは、粘りを見せた。負けたくなかった。強敵である彼女に勝ちたかった。

『両者ともに脚色は衰えない』

 ゴールは目の前だった。

『両者、もつれあってゴール!』

 写真判定となった。

 

 スクリーンに、ゴール直前のマックイーンとマヤノが映る。残り30cmにも満たない状態からコマ送りで再生される。2人は、無言でスクリーンを見ていた。

 先にゴールしたのは…

 

 マックイーンだった。

 見事1着を取り、2度目のGⅠレースを勝利に収めた。マックイーンに近づく影がある。彼女は、振り返った。マヤノだった。

「マックイーンちゃん、おめでとう!すごかったよ!」

 マヤノは、屈託のない笑顔だった。

「ありがとうございますわ、マヤノさん」

 2人は、握手を交わした。

「いや~2人とも速すぎるよ~完敗だよ」

「マジで、スタミナお化けじゃん!どんなトレーニングやってんの?」

 スカイとジョーダンが歩いてくる。

「マックイーン、マヤノに負けちゃったけど、次は負けないよ!」

 スカイが2人に言葉を掛ける。

「なんかデカめのレースで、リベンジするから!」

 ジョーダンは、2人にリベンジを誓った。

「後、テイオーにもね」

「そうだった。皐月もダービーも負けたんだった」

 スカイとジョーダンは、会話をしながら地下通路へ歩いて行った。

 マックイーンの肩にマヤノは、触れた。

「マヤも、次は負けないからね!」

「次も勝ちは譲りませんわ!」

 2人は、笑顔だった。

 

 マヤノは、地下通路を通り、控室へ行った。彼女が着替え、帰路についていると、ブライアンが待っていた。

「マヤノ、お疲れ様」

 ブライアンは、優しく声を掛けた。

「マヤ…頑張ったよ。2着…入賞だよ」

「そうだな…」

 ブライアンは、マヤノの近くまで歩み寄った。

「悔しいな…あんなに、練習したのに…」

 負けちゃった…とマヤノは、涙を流し始めた。ブライアンは、彼女の頭をゆっくり撫でた。

「子ども扱い…しないでよぉ…」

マヤノは、ブライアンの胸に顔をうずめた。ブライアンは、彼女が泣き止むまで胸に抱き続けた。

「次は…絶対に負けない…」

「お前は…強いな…」

 ブライアンは、そっと呟いた。

 

 マヤノのトレーナー、姉ヶ崎が近くの壁に背を預けていた。2人から見えない位置だ。

「マヤノちゃん、負けを知る奴は強くなるわよ…」

 彼は、空を見上げた。晴天だった。

 

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