ウマ娘 彼の生きた証   作:ぽんきちたぬきまる

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第2章 11話

 もみじの紅葉が始まった秋だった。

「ウララちゃん、強いウマむすめになるって言っていたよね?」

 少年の問いかけに、ウララが頷く。

「俺も夢が出来たんだ!」

「どんなの?」

 ウララは、尋ねる。右後ろから大きな音が聞こえてきた。

「2つある!」

 少年は、元気よく言う。

「1つ目は、ウマ娘のトレーナー!すっごく強いウマむすめを育てる!」

 おー、とウララが感嘆の声を上げる。後方の音が更に大きくなる。

「そして、2つ目は、レースでその子と勝負する!」

 少年は、自信満々に答えた。

「えー、ウマむすめじゃないから無理だよ~」

「いいや、かけっこで勝負する!ぜったいに!」

 少年は、胸を張って答えた。ウララは、音源へ顔を向けた。

 少年は、突然突き飛ばされた。彼は、地面に転がった。直後、激突した様な音が響く。煙が当たりを包む。少年は、立ち上がり、煙が発生している所、ウララが居た方へ眼を向けた。そこには、ウララではなく、破損した車があった。

 

 そこには、花がたくさん置かれていた。それは、棺桶だった。ウマ娘が永遠の眠りについていた。

「なんで…」

 少年の声だ。

「死んじゃったの…ウララちゃん…」

 絞り出すように言った。周りの大人達は、泣いていた。彼女の早すぎる死に対してだ。

「歩道に車が突っ込んでくるなんて…」

「しかも、運転手は、薬物を摂取して、まともな思考をしていなかったそうよ」

 別の大人達が話をしていた。少年は、そちらに顔を向けず、棺桶にいるウララを見続けていた。その後、棺桶は、車に乗せられた。火葬され、彼女は、骨になった。

 

 少年は、数日間、家から出なかった。彼の父が心配する。父が、一緒に外で走ろうと提案しても、首を横に振った。

 ある日、少年の元へ、女性が来る。

「こんにちは」

「ウララちゃんのおばあちゃん…」

 その女性は、ウララの祖母だった。

「体調は悪くない?」

「良いわけない…あの時、おれが代わりに死ねばよかった…」

 老婆は、少年の傍に膝をついた。彼に目線を合わせる。

「そんな悲しいことを言わないで…あの娘は死んだんじゃない」

 老婆は、一度目線を下に向け、再び少年を見る。

「ウララは、君の為に命を使ったんだよ…光ちゃん」

 少年は、光は、顔を上げた。

 

 マックイーンは、目を覚まし、確信した。これは、光の記憶だと。彼女は、光の視点で、記憶を追体験していた。彼女は、胸に手を当てた。彼の心臓と因子、そして記憶を受け継いでいた。

 

 トリニティオレースAブロック準決勝当日。

 ネイチャは、ベッドから体を起こした。イクノ直伝のストレッチを行い、気合を入れる。彼女は、思っていた。準決勝では、強豪2グループと争う。1着、2着は、厳しいと…

「また、3着かな…」

 彼女は、朝日を浴びながら呟いた。

 

 スぺは、先にレース場に到着し、着替えを済ませていた。彼女は、姿見に映った自身を見た。今、彼女が着ている勝負服は、スズカとグラスの2人が選んでくれたものだ。

 今回の準決勝は、リギル・アンファングから、スズカは出走しない。それでも…

「リギルには負けません」

 彼女は、何時になく気合が入っていた。

 

 グループ、スピカノープスからは、ネイチャ、スぺ、スカーレットが出走する。

「ったく、なんでスカーレットなんだよ」

 ウオッカは、不満そうにスカーレットへ言う。

「あら、あんたが、じゃんけんに負けたからじゃない」

 スカーレットは返答する。

「あたしが1番でゴールして、あんたとの実力差を見せつけてあげる」

 自信満々にスカーレットは続けて言った。

「さて、お前ら、もうすぐパドックへ集合だ。気合入れて行けよ!」

 スピカのトレーナー姫倉が、激を飛ばす。

 出走メンバーは、元気よく返事した。

 

 スカーレットは、パドックでのアピール後、手洗い場に居た。彼女の顔は、少し、青白かった。心臓の鼓動がいつもより早かった。

「大丈夫、今まで練習したもの」

 彼女は、緊張していた。強豪が出るレースで走るのは、初めてだった。

 

『トリニティオレースAブロック準決勝』

『予選を勝ち抜いたグループがぶつかります』

 

『各ウマ娘、ゲートイン完了、出走準備整いました』

 スカーレットは、ゲート内で、自身を落ち着かせていた。ライバルのウオッカにあれだけ息巻いたのだ。下位でのゴールなどできない。自分で放った言葉が、スカーレットを追い詰めていた。それでも彼女は、前を見た。

 

 ゲートが開いていた。

 スカーレットは、出遅れた。最下位スタートだった。

 

『これは、位置取りが熾烈になりそうですね』

『先頭争いは、インテンスリマーク、アイネスフウジン』

『期待通りの結果を残せるか?1番人気グループ、リギル・アンファング』

『さあ、ハナに立ったのは、アイネスフウジン、このままリードを保てるか?』

『2番手で先頭を窺うのは、インテンスリマーク』

『さあ、1コーナーから、2コーナーへ向かっていくウマ娘達』

『アイネスフウジン、快調に飛ばしていきます』

『続いてインテンスリマーク』

『1バ身差、シンボリルドルフ』

『さらに外目につきましては、エコノアニマル』

『あとはメジロライアン』

『外からテイエムオペラオー』

『1バ身離れて、スペシャルウィーク』

『内からメジロドーベル』

『すぐ後ろタイキシャトル』

『そのうち並んでマチカネフクキタル』

『少し離れてナイスネイチャ』

『向う正面までかけていきます。順位を振り返っていきます』

『現在1番手は、アイネスフウジン』

『2番手には、シンボリルドルフ』

『3番手、インテンスリマーク』

『後から、テイエムオペラオー』

『メジロライアン並んできた』

『そして、後方には、スペシャルウィーク』

『その外回って、タイキシャトル』

『それを見るようにメジロドーベル』

『1バ身差、マチカネフクキタル』

『ナイスネイチャすごい脚で上がってきた』

 後方にいたネイチャは、9番手から6番手まで躍り出た。

『更に、エアグルーヴ』

『エコノアニマルここに居た』

『第4コーナーカーブ』

 ネイチャは、オペラオーを追い抜き、3番手まで上がってきた。

『内からくるか、外からくるか!最後の局面です』

 

『まだ、先頭は、動かない!このまま直線での争いになるか!?』

『最終コーナー立ち上がったのは、シンボリルドルフ』

『3バ身差、2番手にはエアグルーヴ』

『3バ身離れて、ナイスネイチャ』

 1番手、2番手は遠い、このまま維持できれば3着…リギル、アルタイル、強豪の中で、3着はよくやった方である。ネイチャは自分にそう言い聞かせた。

『差がなくタイキシャトル』

『1バ身差、スペシャルウィーク』

 3着という順位を正当化したかった。

『1バ身差、アイネスフウジン』

『その外並んで、テイエムオペラオー』

『400を通過』 

―ネイチャ。ターボ、トリニティオレースに出たいし、勝ちたい、優勝したいー

『エアグルーヴ、前を狙っているぞ!』

 ネイチャは、思い出した。後輩のターボが、ボロボロになりながら練習していた光景を。

『先頭は、シンボリルドルフ』

『2番手、エアグルーヴ』

 ターボの言葉が、更にネイチャの脳内に響く。

『シンボリルドルフ、脚色は衰えない!』

―師匠が言っていたんだー

『シンボリルドルフ、リードは3バ身』

―最後に勝つのは、諦めの悪い奴だからー

『3番手争いには、ナイスネイチャ、タイキシャトル、スペシャルウィーク』

 あの娘は、諦めなかった。リーダーである、自分自身が諦めてどうする。

「あたしは…」

 ネイチャは、脚に最後のスタミナをすべて注ぐ。踏み込んだ芝が深く沈む。

「ブロンズコレクターなんかじゃない!!!」

 ネイチャは、吠えた。自身を奮い立たせるために。

 タイキシャトルを突き放した。

『ナイスネイチャ上がってくる』

エアグルーヴを追い抜いた。そして…

『ナイスネイチャすごい末脚だ!』

 ルドルフとネイチャは並んだ。

『先頭争いは、シンボリルドルフとナイスネイチャ!』

『残り200』

『両者、もつれあってゴールイン!!』

 

 ネイチャは2着だった。1着のルドルフとは差がハナだった。

 スぺは、5着。スカーレットは、15着だった。スピカノープスは総合3位だった。

 ネイチャは、芝に倒れこんでいた。そんな彼女の元へスぺが近寄る。

「ネイチャさん、すみません…最後、突き放されました」

 スぺは、申し訳がない顔をする。

「スぺ、諦めずに走ったんでしょ?」

 ネイチャは、スぺに問いかけた。彼女は、頷いた。

「なら、良し」

 ネイチャは上体を起こし、膝をついているスカーレットを見た。

「ネイチャさん、スぺ先輩…私…」

 彼女の顔は、更に青ざめていた。

「スカーレットもお疲れ様、やっぱ緊張するよね」

 ネイチャは、青空を眺めていた。

「全力出して負けたなら、仕方ないです…次へ繋ぎましょう」

 スぺは、スカーレットの背中を摩った。

 

 レース場の地下通路、スカーレットは、そこを歩いていた。目の前にウオッカが待っていた。

「スカーレット…」

 ウオッカは彼女に声を掛けた。

「ごめん…なさい…」

 スカーレットは、ウオッカに謝った。今まで、口喧嘩をして、互いに謝りもしなかった。そんな彼女が謝罪の言葉を出した。ウオッカは更に驚いた。彼女が大粒の涙を流していた。

「あたしが…出遅れなければ…もしかしたら決勝に行けたかもしれないのに…」

 ネイチャやスぺは、上位でゴールした。スカーレットは、15着。自身が許せなかった。

「あたしが…全部…無駄に…しちゃった…」

 スカーレットは何かを言おうとしたが、嗚咽で言葉を紡げなかった。

「お前は、よくやったよ。最後まであきらめずにな」

 ウオッカは、泣き、震えているスカーレットを抱きしめた。

「この悔しさは、次に生かせればいいさ」

 

 スピカとカノープスメンバーは、彼女達の奮闘を称えた。

「次は、お前ら脳筋ボンバーズだな」

「貴女達の相手も強豪揃い…健闘を祈ります」

 トレーナーの姫倉と清峰は、マックイーン、イクノ、ターボに言った。

「あ」

 ゴルシが声を出す。彼女は、携帯電話を見ていた。

「どうしたゴルシ?」

 姫倉が彼女に尋ねる。

「これ見てくれ」

 携帯の画面をチームに見せた。ネットで掲載されている、週間天気予報だった。1週間後のBブロック準決勝の天気も載っていた。

「強風と大雨…」

 清峰が呟く。11月にしては、珍しく風が荒れる予報だった。

「…何か打開策はあるはずです」

 イクノは、何かを考えていた。

 

 次の日、テイオーは、練習用コースを走っていた。並走しているのは、マックイーンだ。

「走力、戻りましたわね」

 マックイーンは、テイオーの回復を喜んだ。

「あんだけ、トレーニングしたもん」

 それに、とテイオーは続ける。

「3人に、良いかっこばかりさせないよ」

 テイオーの言葉を聞いて、マックイーンは、微笑んだ。

 イクノは、練習用コース近くに座り、手帳を広げていた。

「イクノ、何してんの?」

 後ろに居たターボが、彼女に声を掛ける。彼女は、眼鏡の位置を指で調整した。

「準決勝の作戦を練っています」

 ターボは、イクノの横に座った。

「当日は、強風と大雨、これは、強豪に勝つチャンスです」

 彼女は、走り込みをしている2人を見て言った。

 

 脳筋ボンバーズの準決勝前日…マックイーン、テイオー、ターボはレース場近くのホテルの部屋に居た。

「予報通り、強風と大雨ですわね」

 マックイーンは天気予報を見ていた。

「体力消耗しそうで恐ろしいね」

 テイオーは更に続けた。

「タマモクロスさんに、ビワハヤヒデさんのチームと当たるなんてね…」

「ターボ、そんなの関係なく1着とるもんね!」

 テイオーとマックイーンは、ターボの能天気さを羨んだ。

 ドアが開きイクノが入室してくる。

「皆さん、明日の作戦ができました」

 

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