ウマ娘 彼の生きた証   作:ぽんきちたぬきまる

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第2章 12話

 光の記憶だ。

「光」

 父親が彼に声を掛ける。

「父さんは、今からメジロ家の屋敷に行って、ウマ娘たちの診察をするが、付いてくるか?」

「…ああ、付いていく」

 声変わりが終わった光は、父の提案に乗った。

 

 光は、メジロ家の屋敷に入った。

「光、父さんは、診察をしてくる。屋敷の人には、お前のことを伝えている。あまり、歩き回るなよ」

 光の父は、彼にそう言い残し、屋敷の奥へ進んだ。

 光は、屋敷内部を見まわした。すごい豪邸だと、呟いた。彼の視界に何かが映った。ウマ娘の耳だ。どうやら、物陰に隠れているみたいだ。彼は、そっと近づき、声を掛けた。

「こんにちは、かくれんぼをしているの?」

 話しかけられたウマ娘は、物陰から顔を出した。ふわふわの鹿毛で、年は8歳程だった。

「うん!めいどさんからね、かくれていたの!」

 可愛らしい笑顔で言った。

「そうか、じゃあ、俺とかくれんぼしてみるか?」

 光は、ウマ娘に提案した。

「うん!」

 ウマ娘は、元気よく返事した。

「俺は、光。君の名前は?」

「わたしは、メジロパーマー!」

 パーマーは、光に笑顔を見せた。

「かくれんぼの鬼は、俺がするよ。30数えるから、パーマーは、隠れるんだぞ~」

 パーマーは、はしゃぎながら、隠れる場所へ走った。

 

 月日が経った。

 光は、父と共に、メジロの屋敷に訪れていた。

「さあ、かくれんぼ開始だ!どこに隠れたかな~」

 光は、植え込みの裏や、階段の横を見て回り、件の相手を探した。

「あ、見つけたぞ~」

 光が声を掛け、パーマーが、隠れていた場所から立ち上がった。ふわふわの鹿毛が揺れる。見つけられた彼女が、嬉しそうな声を出す。そして、光に抱き着いた。

「君、だいぶ力が強くなったな」

「うん!いっぱいたべて、もっと大きくなって、つよくなる!」

 光は、そうかと顔を綻ばせる。

「つぎは、かけっこしよ!ひかりちゃん!」

 ウマ娘が、少年に声を掛ける。

「負けないぞ、パーマー」

 

 更に、年月が経過した。光は、ウマ娘が走るレース場を見ていた。電光掲示板に、ウマ娘新人戦と表示されていた。

 ゲートにパーマーが居た。ランプが点灯し、ゲートが開く。彼女は、他のライバルたちに負けないようにスタートした。

 レースが終盤に差し掛かった。パーマーは、3番手についていた。最終コーナーを抜け出すとき、彼女は、転倒した。他のライバルたちは、ゴール板をかけぬけていた。ゴールしていないのは、彼女だけだった。もう1着は狙えない。

 それでも彼女は、立ち上がり前に進んだ。一生懸命走った。

 その姿は、ウララを彷彿させた。

 

 マックイーンは、風と雨音で目を覚ました。

 

 ハヤヒデは、準決勝に出場するグループのデータを再度確認していた。警戒すべきは、アルタイルのタマモクロス、スーパークリーク、オグリキャップの3名。そして、脳筋ボンバーズのツインターボだ。彼女のターボダッシュは、驚異だった。

「ああ…雨は、嫌になる…」

 ハヤヒデは、湿気で広がった癖毛を、手で押さえながら呟いた。窓を見る。強風と雨が打ち付け、揺れていた。

「だが、体格の小さいターボ君は、強風で体力を消耗しやすいはずだ…」

 ハヤヒデは、考えた。あのダッシュは、確かに凄いが、その分スタミナの消耗が激しい。更に強風で体力を消耗すれば、減速し、3着すら怪しいと。

 

『トリニティオレースBブロック準決勝、生憎の悪天候となりました』

 強風と雨がゲートとウマ娘達に打ち付ける

『1番人気、タマモクロス率いる、アンタレス・1号店』

『2番人気、ビワハヤヒデ率いる、リギル・ツヴァイト』

『3番人気は、エイシンフラッシュ率いる、シュヴァルツェン』

 ハヤヒデは、ゲートオープンを待った。

 ランプ点灯、ゲートが開き、全ウマ娘が走り出す。

『全ウマ娘、好スタートを切りました』

 ハヤヒデには違和感があった。

『早くも1番手、イクノディクタス』

 何かがおかしい、と。

『イクノディクタス、快調に飛ばしていきますが、これは正解でしょうか?』

『掛かっているかもしれません、少し冷静さを取り戻せると良いのですが』

『すぐ後ろにメジロマックイーン』

 ハヤヒデが収集したデータ上、イクノディクタスの脚質は差しだった。逃げの適正は低い。メジロマックイーンが、前に出るのは分かる。なぜイクノディクタスは、彼女より前に出ている?と彼女は疑問を更に深めた。それと…ツインターボが見当たらない。

「スタート時、轟音が鳴らなかった…?」

 ターボダッシュの轟音も、衝撃も走らなかった。強風と大雨でかき消されたと思っていたが、おそらく違う。ツインターボは、あのダッシュを使用していない…

「まさか、スタートダッシュに失敗した?」

 ハヤヒデは、そう結論付けた。

 

『先頭は変わらず脳筋ボンバーズ!』

『まもなく第1コーナーカーブに差し掛かります』

 ハヤヒデは、ツインターボを見つけた。イクノと、マックイーンに、挟まれる形で走っていた。脚質逃げだが前へ行こうとしない。彼女は疑問しか持たなかった。

『4番手にエルコンドルパサー』

『1バ身離れてスーパークリーク』

『その後ろビワハヤヒデとグラスワンダー』

 エルが、3人を追い抜かしにかかる。すると、マックイーンがエルに並走し、彼女をインコースへと行かせない。結局、エルは追い抜くことを諦め、4番手のままだ。

「あの3人は、隊列を組んでいる…マックイーンは、後方のブロックが担当か?」

 それなら、差し脚質でパワーのあるイクノを、配置すれば良いことだ。イクノとマックイーンの配置は、逆ではないのか?とハヤヒデは考えていた。

『まもなく、向こう正面、先頭は変わらずイクノディクタス』

『すぐ後ろにツインターボ』

『マックイーンここにいた』

 強風が吹きつける。ハヤヒデは、身長171cmの自慢の体格で、何とか耐えた。しかし、グラスワンダーとエルコンドルパサー、敵チームのタマモクロスの体がよろける。鍛え上げられたイクノの体は、びくともしなかった。

 なんて強風だと、ハヤヒデは感じていた。

『まもなく、第3コーナーカーブに差し掛かります。』

 その時、ハヤヒデは気づいた。3人があの隊列なのか。チーム内で、体格が1番大きいイクノが、前方の風を防ぐ。次に体格が大きいマックイーンが、後方のブロック。そして、ターボは…強風の影響を受けずに最終コーナーまで行き、温存したスタミナで加速するのだと。まずい、と悟った。

「エル、グラス、仕掛けるぞ!彼女らより先に第4コーナーを周る!」

 ハヤヒデは、前方に向き直す。イクノが視界に入った。彼女は、コース外側へ体1つ分ずらしていた。

 その瞬間、ターボがスパートをかけた。

 ハヤヒデ、エル、グラスも仕掛ける。外側からタマモとクリーク、オグリもやってくる。しかし、ハヤヒデのチームは、あまり足が伸びてこない、強風で、体力を消耗していた。

 マックイーンも仕掛ける。しかし…彼女は脚を滑らし、転倒、そのまま第3、4コーナー間の鉄柵に頭をぶつけた。鈍い音が聞こえた。

 その時、グラスが一瞬減速した。

 ハヤヒデは、マックイーンの転倒をチャンスと感じた。恐らくだが、彼女は負傷し、ゴールは厳しい。先ほど、後方集団より、エルとグラスが抜かされた。しかし自身が4着以内で、ゴールすれば点数上は2位となり、決勝へ進出できると。

 

 場面は変わり準決勝前日

「それ、マジで言っているの?」

 ターボの声だ。

 イクノが考案した、脳筋トレイン作戦の内容についてだ。163cmのイクノが先頭を走り、風よけの役割。159cmのマックイーンが、後続をインコースに入れないようにブロック。146cmのターボは、2人の間に入り、最終直線まで温存したスタミナで、スパートをかけるものだった。

「それって…進路妨害にならないの?」

 テイオーがイクノに尋ねる。

「走行しているウマ娘の前に出るわけではないため、大丈夫です」

 眼鏡に触れながらイクノは、返答した。

「待って、イクノは先頭をずっと走るタイプじゃないよ」

「よく聞いてください、ターボ。相手は強敵、フィールド状況は最悪で、貴女のターボダッシュは使用できない」

 イクノは、ターボの目を見た。

「私たちが、貴女を1位に導きますわ。」

 マックイーンは、ターボの肩に触れた。

 

『最初にコーナーを抜け出したのはツインターボ!』

 マックイーンは頭をぶつけ、気を失いかけていた。

『速い、速い、もはや独走状態!』

 彼女の耳に実況の声が伝わる。

『タマモクロス食らいつく』

 捻挫した片足は、動かなかった。

『ツインターボ、すごい末脚だ!?』

 目は、開かなかった。

『3番手は、スーパークリーク!』

 体を起こす力は、残っていなかった。

『並びかけてきたビワハヤヒデ!』

―マックイーン、その栞の押し花って…カモミールだよね?―

『すぐ後ろにイクノディクタス!』

 以前会話したテイオーとの内容が脳裏に響く。

『1着はツインターボ』

『2着はタマモクロス』

―確か…カモミールの花言葉って…―

『3着はスーパークリーク』

『4着はビワハヤヒデ』

 

―逆境に負けない強い精神力―

 

『5着はイクノディクタス』

『6着はオグリキャップ』

 転倒し、負傷してもハルウララは、立ち上がった。

『7着はエイシンフラッシュ』

『8着はエルコンドルパサー』

 転倒し、1着が狙えなくても、メジロパーマーは、立ち上がった。

「13着はグラスワンダー」

 あの2人は、一生懸命に走った。

 

 マックイーンの瞳が開いた。

 

「ハヤヒデ、ごめんなさい、13着だったわ」

 グラスが、ハヤヒデに謝罪する。

「気にするな、グラス、天候が悪かっただけだ…それに、マックイーンが鉄柵に激突したのだ、そちらに注意が向くのも分かる」

 ハヤヒデは、あの時、グラスが一瞬注意を向け、減速したのを視界の端で捉えていた。

「助けようとしたのだろ?」

 ハヤヒデの言葉にグラスは、図星だった。

「君は、優しいな…」

 

…17人の着順が決まった。

 ハヤヒデ達は電光掲示板をみた。

1位 アンタレス・1号店 49点

2位 リギル・ツヴァイト 35点

3位 脳筋ボンバーズ 34点

 ハヤヒデのグループは、ギリギリ決勝へ進出できた。

「作戦と隊列で1着を取るとは、恐れ入った。見事だ」

 ハヤヒデは、ターボとイクノを見て呟いた。彼女の言葉にグラスは、頷いた。彼女らは、冷えた体を温めるため、控え室へ行こうとした。

「君たち、マックイーンさんのことが心配なのはわかる。でも、後は救護班に任せて、中へ…」

 係員が、ターボとイクノを室内へ入るよう促すが、彼女たちは入ろうとしない。

「まだだ」

 ターボが、係員に言う。

「そうです。まだ、終わっていない」

 イクノも続ける。

 グラスは、彼女たちが向いている方へ目線を動かした。

「嘘…!?」

 

 マックイーンがいた。彼女は負傷しており、頭より流血していた。片足を引きずりながら、右手で柵につかまりながら…ゴールへ歩いていた。足取りは限界寸前だと、誰が見ても分かった。

「マックイーン!」

「マックイーンさん!」

 ターボとイクノが、彼女に届くように大声を出す。

 残り、300m、200m…

 彼女の歩幅は小さかった。だが、その一歩は、確実にゴールへ近づいていた。

 しかし、マックイーンは、ゴール直前で倒れる。吹きすさぶ風と冷たい雨により、体力を奪われていた。

 誰かが、限界だと言った。もう、休めと誰かが言った。

 

 それでも彼女は、立ち上がり前に進んだ。

 

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