ウマ娘 彼の生きた証   作:ぽんきちたぬきまる

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第2章 13話

 マックイーンはゴールした。彼女は、すぐ救護班により担架で運ばれた。

 電子掲示板の点数が変更される。

1位 アンタレス・2号店      49点

2位 脳筋ボンバーズ        36点

3位 リギル・ツヴァイト      35点

 ハヤヒデ達は、彼女たちの諦めの悪さに、完敗したと納得した。

 

 ブライアンは、観客席でレース模様を見ていた。マックイーンが、鉄柵に頭部を強打したのも見ていた。あれだけの速度で激突したのだ、走ることはおろか、立ち上がれないと思っていた。しかし、彼女は立ち上がった。ゴールへ向けて歩みを進めた。手当に来た救護班を押しのけて…

 マックイーンは、諦めなかった。だが、自分は、どうだ?無敗を失いたくないが故に、レースに出走しないなど、諦めに等しいものだ。とブライアンは、自問自答した。

「私は…変われるかな…」

 ブライアンの呟きは、雨音に混じった。

 

 マックイーンが担架で救急車へ搬送されている時、3人のウマ娘が来た。テイオー、ターボ、イクノだった。彼女の名前を呼ぶ。

 テイオーは、約1年前のホープフルステークスを思いだした。マックイーンが心肺停止の状態になった光景と重なる。

 

 ハヤヒデ達は、地下通路を歩いていた。彼女の前にウマ娘が3人いた。ルドフル、エアグルーヴ、タイキだ。

「リーダー、申し訳ありません、決勝進出できませんでした」

 ハヤヒデは、ルドルフに謝罪する。

「君たちは全力を出した。それで負けたのなら仕方ない。後は我々に託してくれ」

 ルドルフは、ツヴァイトの健闘称えた。

 

 その後グラスは、一人で地下通路を歩いていた。前からスズカが来た。

「グラス、お疲れ様」

 スズカが声を掛ける。

「スズカ…ごめんなさい…負けてしまったわ」

 その時、別の人影が近づいてきた。

「本当ですよ、グラスワンダーさん、困るね…負けてしまうなんてさ…」

 黒いスーツ姿の男性だ。

「申し訳ありません…」

 グラスは、男に頭を下げた。

「素質のある君たちを、リギルへ入れたのに…」

 男はため息をついた。

「例の予算は、減らすとしよう」

 グラスの顔が青ざめた。

「待ってください!」

 スズカが男に割って入る。

「私が、リギル・アンファングを1位にできるよう、尽力します…だから…」

 男は、更にため息をついた。

「…良いでしょう。今回のイベントレースは、最強のメジロパーマーが居ない…リギルの優勝は狙えるだろう」

 2人は、安堵した。

「君の健闘を期待しています。リギルに勝利をもたらしてください。サイレンススズカさん」

 男は、去った。

 

 マックイーンは、病院で処置を受けていた。院内の待合室にテイオー、ターボ、イクノは居た。3人とも、落ち着かない様子だった。トレーナーである姫倉と清峰も、同伴していた。彼女たちが落ち着けるように、購入した温かい飲料水を渡した。

 数時間後、マックイーンの処置が終わった。看護師は、彼女が意識を取り戻し、入院したことを伝えに来た。3人は彼女の病室へ向かおうとしたが、時刻が深夜を周っており、トレーナー2人に止められ、寮へ帰った。

 

 8時を過ぎた朝、マックイーンは、目を覚ました。彼女は、目線を横に動かした。そこには、メジロパーマーがいた。彼女は驚いた。パーマーと会うのは、約1年以上振りだった。

「パーマー…」

 マックイーンは、彼女の名を口にする。

「目を覚ましたのね、大事がなくて良かった…」

 パーマーは、安堵の顔をしていた。

「あの時…何で、無理をしたの?」

 優し気な声色だったが、怒りが混ざっていた。

「…グループ皆を…決勝へ繋ぎたかったから…ですわ」

 マックイーンは、叱られていると思っていた。

「そうだとしても…おとなしく…救護班のお世話になるべきだったわね」

「でも…」

「マックイーン」

 パーマーは、悲しい顔をしていた。

「貴女の心臓は、貴女だけのモノじゃないの…」

パーマーは、そのままマックイーンを胸に抱きしめた。

「もう…無茶はしないって約束して…」

 マックイーンは、パーマーが震えているのに気付いた。彼女の顔は見えないが、泣いていると、分かった。

「お願い…大切な人がいなくなるのは…もう嫌なの」

 パーマーは、マックイーンと彼の姿を重ねていた。

 マックイーンは、パーマーに何を話せば良いか、わからなかった。兎に角、気まずかった。今、彼女の中で鼓動を刻んでいる心臓は、パーマーのトレーナーから移植されたものだ。

「マックイーンはさ、あの人のこと、気にしているんでしょ?」

 パーマーは、マックイーンの心の内を当てた。

「…はい」

 マックイーンのウマ耳が垂れる。

「あの人は、ウマ娘の役に立ちたいと言っていた。夢が叶ったって思っているよ。だから…」

 気にしないで、とマックイーンに優しく声を掛けた。

「1つ、お願いがあるんだ」

「お願い…ですか…?」

 パーマーは、マックイーンの肩に手を当てる。

「第3回のURAファイナルズで、どっちが速いか、勝負しよう」

 驚いているマックイーンを見て、彼女は、精一杯の笑顔を見せた。

「私ね、光とどっちが速いか勝負するのが…夢だったの」

 彼女は首から下げている、金色のロケットペンダントを握りしめた。

 

 パーマーが退室し、数分後、いつもの友人3人が見舞いに来た。

「マックイーン…」

 テイオーは泣きそうな顔でマックイーンの横に行く。

「良かった無事で…」

 イクノは半泣きだった。

 因みに、ターボは号泣していた。

「心配かけましたわね」

 マックイーンは、申し訳なさそうな顔で返答した。

「皆さん」

 マックイーンは更に続けた。

「決勝、お願いしますわ」

 3人は、頷いた。

「任せてよ、マックイーン。イクノのトレーニングをこなして、僕は、パワーアップしたんだ」

 テイオーは、胸を張った。

「次のレースは、ターボダッシュで、ぶっちぎりの1位を取るよ!」

 ターボは、ガッツポーズをしながら言う。

「マックイーンさん、お任せください。貴女が繋いだ勝利。無駄にはしません」

 イクノは、眼鏡の位置を調整した。

 

 日付が変わり、脳筋ボンバーズの3人は、決勝に向けて調整していた。

「次の相手は、ルドルフさんか…」

 テイオーは、期せずして、憧れの相手と争うことになった。ルドフルは、最強チーム、リギルのリーダー。彼女に勝てるのは、サイレンススズカ、タマモクロスそして、メジロパーマーの、3名しかいないと謳われている。

「テイオー!気持ちで負けちゃだめだ!」

 隣に居たターボが声を掛ける。

「そうだったね、ごめんターボ」

 脚が治ったテイオーの初レースは、トリニティオの決勝だ。プレッシャーのかかりが違う。予選、準決勝を勝ち抜いたイクノと、ターボの頑張りを無駄にしたくなかった。そして、負傷しても、片足でゴールしたマックイーンの、諦めの悪さにも応えたかった。

 テイオーは、並走すると言っていたターボを置いて走り出した。

「ターボ、先に行っちゃうね!」

 走力を取り戻したテイオーは速かった。5バ身も差をつけた。

「あれ?ターボ?」

 後方にいるターボの声が聞こえない。まさかへそでも曲げたのかと彼女は思い、立ち止まろうとした。瞬間…轟音が鳴り響き、ターボが一瞬で、テイオーを追い抜いた。

「じゃあねー!テイオー!」

 ターボは、テイオーより4バ身先に行っていた。

「あ、ターボ、その技ずるい!」

 テイオーは、追いつこうとピッチを上げた。そんな2人の様子を見ながらイクノは、入念にストレッチをしていた。

「あの捲れ上がった芝…どうやって直せば良いのやら…」

 カノープスのトレーナー、清峰は、ターボダッシュで大きく抉れた芝を見て、ため息をついた。

「ターボ」

 不意に声を掛けられたターボは、声の主へ顔を向けた。

「師匠!?」

 パーマーだ。

「頑張っているね。次は決勝…ベスト尽くしてね」

 彼女は、弟子の激励に来ていた。

「ありがとう師匠!ターボ頑張るよ!」

「あ」

 パーマーは何かを思い出した。

「ネイチャから、話を聞いたけど…」

 ターボは、何を言われるか見当がついた。

「かなり無理のある練習をして、怪我をしたって?」

 ターボは、髪色と同じくらい顔が青ざめていた。

「話をしようか」

 ターボは逃げようとしたが、イクノに肩を両側から捕まれ、逃走に失敗した。彼女は、説教を受けた。

 

 パーマーより、困った時なぜ相談しなかったのだと、説教を受けたターボはしょぼくれていた。

「師匠から説教を受けるなんて思わなかったよ…」

「それだけ君の事が心配なんだよターボ」

 ターボとテイオーは、イクノと合流しストレッチを行っている。

「3人ともやっほ~」

 テイオー達が振り返ると、スカイとジョーダン、マヤノが居た。

「あんたら凄いじゃん!決勝進出ってさ!」

 ジョーダンは、持っていた飲料水3本をテイオー達に渡した。

「皆頑張ってね!はい、これ!」

 マヤノは、色紙を渡した。そこには、中等部2年の娘達からの応援メッセージが記載されていた。中等部2年で唯一決勝進出した脳筋ボンバーズは、ある意味スターに近い扱いだった。

「マックイーンちゃんの分も走ってきてね!」

 3人は、マヤノの言葉に頷いた。

 

 タマモ、クリーク、オグリは、トレセン学園の食堂に居た。

「準決勝…1着、取れへんかったな…」

 タマモは、たこ焼きを頬張った。

「タマちゃん…」

 クリークは、彼女の呟きを聞いて、思わず彼女に声を掛ける。

「オグリ、クリーク」

 タマモは、2人に声を掛ける。

「ウチは、リギルだけが、強敵と思っとったが、違ったみたいやな。脳筋ボンバーズ、あいつら…強いで」

「タマが、実力を認めるなんて、珍しい」

 オグリは、間食…にしては多い量のパンケーキを食べていた。

 

 チームリギルの施設に、ルドフル、エアグルーヴ、スズカがいた。

「リーダー、次の決勝は強敵揃いですね」

 エアグルーヴは、ルドルフへ声をかける。

「ああ、リギルのグループは我々のみ…対して、アルタイルの2グループは決勝進出…」

 ルドルフは、机に肘をつき、手を顔の前に組んだ。

「そして、ツインターボさんのダッシュは、要警戒ですか?リーダー」

 スズカもルドルフへ問いかける

 ルドルフはそうだな、と返答し、だが、とつづけた。

「あのダッシュには弱点がある」

 

 次の日の昼、リハビリで疲れたマックイーンは、病室で眠りにつき、光の記憶の続きを見ていた。

「パーマー、元気がない様子だな、辛いことはあるか?何か話でもしないか?」

 青年になった光の声だ。彼は目の前のパーマーに声を掛けた。

「光…何でここに…」

 彼女は、光がこの場所にいることに驚いている様子だった。

「心配で来たんだよ。君は、妹みたいなもんだからさ」

 暗かったパーマーの顔が、少し明るくなった。

 

「そうか…トレーナーが居なくなったのか…」

「うん…私が弱いから悪いんだ…」

 パーマーは、俯きながら声を出した。声には、覇気が無かった。当時の彼女は、メジロ家の落ちこぼれと言われていた。

「そんなことは無い。君は悪くない」

 光の言葉に、パーマーが顔を向ける

「俺が、君のトレーナーになる。二人三脚でかけぬけよう!」

 パーマーは、大きく頷いた。

 

 光は様々な教本を読み、トレセンにいるトレーナーに、練習に関して聞きまわった。皆、彼の熱心さに感心していた。特に親身にアドバイスしていたのは、清峰と姫倉だった。そして前のトレーナーが、脚質を無視した作戦で、パーマーを走らせていた事実に、彼は気づいた。彼女の脚質、逃げに合うトレーニングを模索した。深夜を回るのは、珍しくなかった。彼は、当時19歳になったばかりの大学1年生で、学業とアルバイトを兼任しながら、パーマーの育成に力を入れようとした。

 問題が発生した。彼は、トレーナーの資格を持っていなかった。育成には、ウマ娘トレーナー3種以上の資格を取る必要がある。3種は、国家資格の1種、2種と違い、大学を卒業していなくても、試験に合格すれば獲得できる資格だった。ただ、合格率は、2割を切る難関資格だ。

 光は、勉強が苦手だ。それでも彼は、机に向かった。亡くなったウララとの約束を果たすため。そして、パーマーに対する思いが、彼を動かしていた。夏に試験が実施された。猛勉強の末、彼は1回で合格した。

 夕凪光は、正式にメジロパーマーのトレーナーになった。

 

『先頭は、メジロパーマー!』

『後続との距離をどんどん離す!』

『今1着でゴール!メイクデビューをかけぬけた!』

 パーマーは、応援に来ていた光の元へ走った。

「光!やったよ!私1着取ったよ!」

 彼女は、光に抱き着いた。

「おめでとう!パーマー!!やったな!」

 彼は、パーマーを抱きしめた。

 

 光は、トレーニングコースを走っているパーマーを見ていた。彼女は、最終コーナーを周り、スパートを掛けた。ゴール板をかけぬけた。彼は、手に持っていたストップウォッチを止めた。

「良いぞ、タイムも上がってきている」

 優しい声だ。

「本当に!?」

 パーマーが嬉しそうな声色を出す。光が、彼女の目線に合わせるため姿勢を低くする。

「あれだけの練習をこなしたんだ、確実に成長しているよ」

 光の言葉を聞いて、パーマーは少し照れていた。

「次のレース、ホープフルステークスだよね?私、初めてのGⅠレースだから、勝てるかな…」

「前にも言っただろ?最後に勝つのは諦めの悪い奴だって…」

 パーマーは笑顔で頷いた。

「良い言葉だね」

「だろ?俺の友人の名言だ」

 彼は、ウララの言葉を引き継いでいた。

 

 空には、雲一つない晴天、強い日差しが大地を照らしていた。夏の様だ。光とパーマーは、外でバーベキューの準備をしていた。

「光!炭貰ってきたよ!」 

 パーマーは、魚を捌いている彼に言った。

「オッケー、火おこしするか」

「てか、光、魚の調理上手いね」

「今度教えてやるよ」

 手を洗った彼は、ファイアスターターと、小さく千切った新聞紙を持った。

 

「次は、有マ記念に出るの?」

 パーマーは光に尋ねていた。

「ああ、皐月賞、菊花賞を1着でゴールした君なら、優勝できる!」

「分かった!頑張るね」

 パーマーは、決意を固めた顔をしていた。

 

 パーマーは、その後、様々なレースに出走した。1着を取り続け、当時無敗のルドルフや、稲妻のタマモにも勝った。最強チームのリギルとアルタイルのウマ娘は、パーマーに勝てなかった。

「光のおかげで、優勝いっぱい取れたよ!」

 彼女は、嬉しそうに光へ言葉を掛ける

「パーマー、これは、君の実力だ。俺は、支えて、切っ掛けを与えただけだ」

 2人は、笑いあった。

 

 落ちこぼれは、何時しか最強と呼ばれていた。

 

「全員バスの前方へ避難して、何かにつかまってください!トラックが突っ込んできます!」

 光の声だ。彼の声でバスの乗客が運転席側へ移動する。しかし、子供のウマ娘が躓き、倒れていた。

「ダイヤちゃん!」

 老婆が、彼女の名前を呼ぶ

彼は、ダイヤの元へ走り、彼女を胸に抱きかかえた。その瞬間、2人は、車外へ吹き飛んだ。身体を激しくぶつけ、彼と視界を共有していたマックイーンも暗転する。その時、声が流れてきた。

―パーマー…―

 マックイーンは、流れてくる声が、光の心の声だと分かった。

―君の成長を見届けたかった…―

 彼は、ずっとパーマーのことを思っていた。彼女が、どうすれば、強くなれるか、勝つことが出来るか、楽しく走ることができるか、笑顔で居られるか、四六時中考えていた。

 彼は、本当の家族の様に…

 

 パーマーを愛していた。

 

 

 パーマーは、マックイーンの見舞いに来ていた。病室に入ると、彼女は、眠っていた。彼女を起こさないようにそっと、ベッド横の椅子に座った。

「可愛い寝顔ね…」

 パーマーは、彼女が、気持ちよさそうに寝ているのを見て、安堵した。

「ん…」

 マックイーンが身じろぐ。

「んん…」

 どうやら、マックイーンの寝言だ。どんな寝言か興味があったパーマーは、耳を澄ませた。

「パーマー…」

 まさか、自分の名前を言うと、思っていなかったパーマーは、驚いた。

「ごめんね…」

 謝るとは、どんな夢を見ているのかと、少し心配になる。

 

「一緒に居られなくて…」

 

 パーマーは、目を見開いた。この話し方は、マックイーンではない。

「光…?」

 彼女のトレーナー、光の話し方だった。マックイーンは、その後寝言を続けたが、言葉にはならなかった。

「君は…ここにいるんだね…」

 パーマーは、マックイーンの頬を優しくなでた。

 

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