ウマ娘 彼の生きた証   作:ぽんきちたぬきまる

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第2章 14話

「あのダッシュには弱点がある」

 それは、とルドルフは続けた

「使用できるのは、スタート時かつ、体勢が安定した状況のみ。最終直線での使用はできないはずだ」

 ルドルフは、ターボのターボダッシュを映像で、何度も観察した。彼女は他のウマ娘と違い、クラウチングスタートの体勢なのだ。両手足をつき、体勢を安定させるためと勘づいていた。

 事実、ターボはクラウチング以外の体勢で使用した場合、明後日の方向へ飛んでしまう。

「最大瞬間速度では、彼女に勝てない、だが継続速度ではこちらが上回る」

 

「だが、注意すべきはツインターボだけではない」

 ルドフルの言葉に、2人が反応する。

「鉄の体幹を持つイクノディクタス」

 あの暴風下での堂々とした走り。安定性は彼女が1番だと予測される。

「コース取りの天才トウカイテイオー」

 驚異的な柔軟性を持つ無敗の2冠ウマ娘。怪我から復帰したばかりだが、彼女の練習風景を見ていると分かる。実力は、骨折前より磨かれていた。

「無策で戦って…楽に勝てる相手ではありませんね…」

 エアグルーヴの呟きに、スズカが頷く。

「幸い、あの3人の脚質と、我々の脚質はそれぞれ一致する」

 スズカが、ターボを追い立ててスタミナを消費させる。

 エアグルーヴが、同じ脚質であるイクノを徹底的にマークする。

 ルドルフが、テイオーの横に付きインコースを取らせない。

 以上で作戦が決定した。

 

 アルタイル1号店と2号店グループは、大会前の最終ミーティングを行っている。

「明日、本番や」

 リーダーのタマモクロスの言葉に、6人が頷く。本来イナリワンもいるはずだが、その場にいなかった。彼女は風邪をひき療養中だ。

 1号店からタマモクロス、スーパークリーク、オグリキャップ。

 2号店からヒシアマゾン、メジロライアン、メジロドーベルが出走する。

「リギルは1グループのみだが、油断するんやないで。ツヴァイトグループに勝った、脳筋ボンバーズがいる」

 7人は円陣を組み、闘志を燃え上がらせた。

 

「ついに来ましたね。決勝」

 イクノは、ターボとテイオーに言った。

「今日は、晴れで芝の状態がいいから、ターボダッシュが使えるぞ!」

 ターボは、嬉しそうに笑顔になった。

「そうだね、ターボ。そして、マックイーンの分も僕たちが頑張らないと」

 テイオーの言葉に2人は頷く。

 3人は、右腕にスカーフを巻いた。マックイーンの勝負服のリボンと同じ緑色だ。

 

『さあ、ついに始まりました。トリニティオレース決勝』

『天気は晴天、絶好のレース日和です』

『ABCそれぞれの予選、準決勝を勝ち抜いてきた、グループがついに激突します』

『人気を紹介します』

『1番人気シンボリルドルフ率いる、リギル・アンファング』

『2番人気タマモクロス率いる、アンタレス・1号店』

『3番人気はイクノディクタス率いる最年少グループ、脳筋ボンバーズ』

『どの娘もいい顔していますね』

『全ウマ娘ゲートイン完了、出走準備整いました』

 

 開始を知らせるランプが点灯し、ゲートが開く。それと同時に轟音が鳴り響き、衝撃が走る。

 これが例のダッシュか、とスズカは思い、怯むことなくスタートした。

『ツインターボ、好スタートで先頭に着きました』

『2番手はサイレンススズカ』

 ターボとスズカの差はおよそ9バ身。なんて速いスタートダッシュだ、とスズカは称賛した。

『続いて、3バ身差スーパークリーク』

『すぐ後ろにシンボリルドルフ』

 ルドルフは、テイオーをインコースに入れないようにスピードを調整した。

『その外ならんでトウカイテイオー』

 テイオーは、ルドルフの前に行こうにも、後ろに付こうにも、インコースに入れなかった。

『後方、メジロライアン』

『2バ身差タマモクロス』

『1バ身差オグリキャップ』

『その外並んでイクノディクタス』

 イクノは、エアグルーヴに徹底マークされていた。これが女帝の圧力か、と彼女は思い速度を上げた。

『すぐ後ろにエアグルーヴ』

 エアグルーヴも速度を上げた。

『続きました、メジロドーベル』

『ヒシアマゾン、ここに居た』

『先頭集団を見ていきましょう』

『1番手は変わらずツインターボ』

『彼女がレースを作りそうですね』

『前から大きく開きました。間延びした展開になりそうです。』

 少しずつスズカは、ターボに追いついていく

『7バ身差サイレンススズカ』

『早くも2番手に躍り出た』

『第1コーナーカーブ』

『先頭を行ったのはツインターボ』

『つづいて5バ身差サイレンススズカ』

 ターボは、実況を聴いて焦った。9バ身の差が、もうすぐ半分になろうとしている。彼女は、知らず知らずのうちにペースを上げていた。

『4バ身離れてスーパークリーク』

『4番手争いにシンボリルドルフとトウカイテイオー』

『少し離れてタマモクロス』

『その外ならんでメジロライアン』

『その後ろオグリキャップ』

『大きく離れてイクノディクタス』

『1バ身差エアグルーヴ』

『シンボリルドルフ内から行く』

『ツインターボ先頭を進みますが、これは正解でしょうか?』

『少し掛かっているかもしれません、一息つけると良いですが』

『第2コーナー通過、続いて直線です』

『ツインターボ、飛ばしていきます』

『先頭は依然ツインターボ、リードは4バ身!』

 ターボは飛ばしても、スズカを振り切るどころか、追いつかれ始めていた。

 テイオーは、インコースを走れずにスタミナを多く消耗していた。

 イクノは、速度を上げてもエアグルーヴを振り切れなかった。

『続きましたサイレンススズカ』

『3バ身離れてシンボリルドルフ』

『その外並んでトウカイテイオー』

『すぐ後ろにスーパークリーク』

『内からタマモクロス』

『1バ身差オグリキャップ』

『続きましたメジロライアン』

『ヒシアマゾン上がってきた』

『残り1000mを通過』

『エアグルーヴとメジロドーベル並びかけてきた』

『2バ身差イクノディクタス』

 イクノは、エアグルーヴとメジロドーベルに追い抜かれた。

『向こう正面に入り、先頭は変わらずツインターボ』

『2バ身差サイレンススズカ』

『ツインターボ、まだリードをキープしています』

『3番手争いは、変わらずシンボリルドルフ、トウカイテイオー』

『意気揚々と先頭を行きますツインターボどうでしょうこの展開?』

『掛かっているかもしれません、冷静さを取り戻せると良いのですが』

『先頭はツインターボとサイレンススズカ』

 ターボは、遂にスズカに追いつかれた。

『まもなく第3コーナーカーブ』

『勝負所、最後の直線へとかけていきます』

『先頭はサイレンススズカとシンボリルドルフ』

 ターボは追い抜かれた。

『すぐ後ろにトウカイテイオー、エアグルーヴ、ツインターボ』

『1バ身差タマモクロス、オグリキャップ、スーパークリーク』

『その外メジロドーベル、メジロライアン』

『ヒシアマゾン、ペースを上げていく』

『後方、イクノディクタス』

『さあ、最後の直線だ、誰が最初に抜け出してくるか!?』

 

『最初に抜け出したのはシンボリルドルフとタマモクロス!』

『3番手争いにサイレンススズカ、スーパークリーク』

『すぐ後ろエアグルーヴとオグリキャップ』

『先頭がまとまり混戦状態です!』

『2バ身差トウカイテイオーとイクノディクタス』

『およそ3バ身差ツインターボ』

『1着争いはシンボリルドルフとタマモクロス』

『すぐ後ろにサイレンススズカ、スーパークリーク、エアグルーヴ、オグリキャップ』

『メジロライアン、メジロドーベル、ヒシアマゾン前を狙っているぞ!』

 サイレンススズカは、自身のチームの勝ちを確信した。

 要警戒だった脳筋ボンバーズは、2バ身以上差がある。スタミナを消費しすぎたツインターボに至っては、5バ身後方にいる。

 テイオーとイクノは焦っていた、先頭とはジリジリと、確実に離されている。3着すら遠かった。 

 ターボのスタミナは、尽きていた。足が全く上がらない。スズカに追い立てられ、焦り、オーバーペースで逃げたからだ。彼女の前には11人いた。差はどんどん開き、テイオーとイクノさえも遠くなる。頼みのターボダッシュは、安定した体勢下でしか使用できない、万策は尽きていた。

 

―決勝、お願いしますわ…―

 3人は思い出した。転倒し、負傷し、流血し、片足のみで、ゴールしたマックイーンを。彼女のおかげで、自分たちは決勝に出走できていることを。決して諦めなかった彼女の姿を。

 

 轟音が鳴り響いた。

 

 スズカとクリークは、横を見た。ツインターボがいた。

 ルドフルとタマモは、左後ろを見た。トウカイテイオーがきた。

 エアグルーヴとオグリは、左前を見た。イクノディクタスがいる。

 

 ルドルフ達は、絶句した。達の悪い冗談だと。

 タマモ達は、確信した。やはり彼女たちは強いと。

『トウカイテイオー、ツインターボ、イクノディクタス驚異の末脚!』

『12人のウマ娘が先頭集団を形成、勝負はまだ分からないぞ!』

 

 実況の声が遠くなった気がした。

 気づけば、ゴール目前だった。

 

『1着はシンボリルドルフ』

『2着はタマモクロス』

『3着はサイレンススズカ』

『4着はスーパークリーク』

『5着はエアグルーヴ』

『6着はオグリキャップ』

 テイオー、イクノ、ターボは7、8、9着だった。

 脳筋ボンバーズは総合3位だった。

 1から9着の差は全てハナだった。

 

「くっそぉっ!!」

 テイオーは、拳を芝に叩きつける。マックイーンに託されたのに、3着すら取れなかった自身に怒りを感じていた。

「次はリベンジです。」

 イクノは、芝に座り込んでいた。彼女の目線は、エアグルーヴをとらえている。

 因みに、ターボは気力が底をつき、気絶していた。

 

 ルドルフは息を整えていた。あれほど白熱したレースだったからだ。自身のライバルはタマモクロス、サイレンススズカ、そしてメジロパーマーの3人だと思っていたが…

「第3回のURAファイナルズは、とんでもないことになりそうだな」

 そんな彼女に近づく影がある。タマモクロスだ。

「ルドルフ、面白いモン見つけたんやが、見るかいな?」

 なんだ?とルドフルが尋ねる。

「これや」

 タマモは蹄鉄の破片たちをみせた。

「こいつらはな、あの3人の蹄鉄やで。」

 蹄鉄が破損していただと、ルドフルは驚く。

「ゴール付近に落ちていたから、最後のスパートの衝撃で壊れたんやろな」

 もし、壊れていなかったら…うちら、負けていた可能性あるで、とタマモは言い残し表彰台へ向かった。

 

 表彰式の後、スズカは地下通路を歩いていた。彼女は脚を止める。目の前からウマ娘が来た。

「スズカ、優勝おめでとう」

 グラスワンダーだ。

「ありがとう、グラス。今回は運が良かったわ…パーマーが出場していなくて…」

スズカは、安堵の顔をしていた。

「これで暫くは、大丈夫ね」

 グラスも同じ顔だった。

「でも、グラス。次のURAで、パーマーとまた戦うことになるわ…勝てるのかしら…それに…」

「第3回のURAでは、あの娘達も出場可能になるわね」

 先ほどの安堵の顔は、消え去っていた。

「清峰さんや仲間を裏切り、ただ、勝つために走る私たちを…お爺さんが見たら、何て言うかしら…」

 スズカは、悲し気な顔をしていた。

「スズカ、あの娘達を守るためには、そうするしかなかったのよ。私たちは、勝つしかない…」

 グラスの顔は、辛そうだった。

 

 トリニティオレースから1週間が経過した。チームスピカのコンテナ小屋の前にウマ娘が立っている。黒鹿毛が風で靡く。

「約2年振りか…」

 彼女はそう呟き、扉をノックした。

 

 新年が明けた1月。栗毛寮のエントランスには、大型のTVがある。近くのソファにテイオー達がいた。

「まさか、蹄鉄が割れるなんて思わなかったよ…」

 テイオーは、トリニティオレース決勝を思い返していた。

「練習に気を取られて整備を忘れていましたね…私たち…」

 眼鏡を布で拭きながら、イクノが返答する。

「蹄鉄ってさ…もっと丈夫な物無いかな…後、サイズが合うやつ…」

 テイオーの呟きに、ターボが閃いた。

「あ、いい事思いついた」

「ターボ、次は何を思いついたのですか?無理は禁物ですよ」

 ターボは、ダッシュの練習で以前負傷している。それを思い出したイクノは、釘を差した。

「大丈夫だって!怪我する奴じゃないよ」

 彼女達の後方より、足音が聞こえてくる。紫芦毛のウマ娘、メジロマックイーンが来た。彼女は、後遺症もなく無事退院していた。

「あ、マックイーン早く、早く!もうすぐ始まるよ!」

 テイオーに促され、彼女はソファに座り、目の前の大型TVに視線を向けた。まもなく、第2回URAファイナルズ決勝が始まる。

 

 URAファイナルズ決勝のコースに立ち、歓声を浴びているウマ娘がいる。

 メジロパーマーだ。

 彼女はゲートインし、レース開始を待った。

 結果は彼女の1着で、2冠達成だった。彼女は、今日も彼への思いを胸に走っている。

 金色のロケットペンダントが日に当たり、光った。

 

「次は私たちも出場できますわね…URAファイナルズ」

 マックイーンの言葉に3人は頷いた。

 

―メジロパーマーとの対決まで残り約1年―

 

 

エピローグ

 京都のとある鍛冶屋、建物は古びているも、歴史と荘厳さを感じさせる。そこに齢80の職人がいた。彼は無愛想で腕が良く、the職人といった印象だった。彼が鍛えた金属は、丈夫で軽いと良い評判を受けている。彼は、今日もラジオを聞きながら、鉄を打っていた。

 ラジオニュースのアナウンサーが、終戦からもうじき89年になると伝える。あの忌まわしい機械戦争から、そんなに時間が経過したのかと、職人は時の早さを痛感していた。

 そんな彼のもとに、尋ねに来たウマ娘がいる。

 ツインターボだ。

 彼女は鍛冶屋に入るなり、仁王立ちとなった。

「ここに、1番腕がいい職人がいると聞いた!」

 彼女は腹から声を出した。

 それを聞いた職人は、覇気のある若者だと思い、対応した。

「小娘、用件はなんじゃ?」

 職人は、ぶっきらぼうに言う

「ターボに、鉄の打ち方を教えてほしい!」

 今日もよく晴れていた。

 

 

 

モノローグ

 3月になり、草花が咲き始める。そんな春の訪れを感じられる霊園に、ウマ娘がいた。彼女は、ある人物の墓石の前に立っている。

「本当に、亡くなったのですね…」

 呟きは、草花のみが聞いていた。彼女は、墓石前に膝をつく。

「光さん…」

 

 彼の死んだ証にそっと触れた。

 




 物語はまだ続く
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