「あのダッシュには弱点がある」
それは、とルドルフは続けた
「使用できるのは、スタート時かつ、体勢が安定した状況のみ。最終直線での使用はできないはずだ」
ルドルフは、ターボのターボダッシュを映像で、何度も観察した。彼女は他のウマ娘と違い、クラウチングスタートの体勢なのだ。両手足をつき、体勢を安定させるためと勘づいていた。
事実、ターボはクラウチング以外の体勢で使用した場合、明後日の方向へ飛んでしまう。
「最大瞬間速度では、彼女に勝てない、だが継続速度ではこちらが上回る」
「だが、注意すべきはツインターボだけではない」
ルドフルの言葉に、2人が反応する。
「鉄の体幹を持つイクノディクタス」
あの暴風下での堂々とした走り。安定性は彼女が1番だと予測される。
「コース取りの天才トウカイテイオー」
驚異的な柔軟性を持つ無敗の2冠ウマ娘。怪我から復帰したばかりだが、彼女の練習風景を見ていると分かる。実力は、骨折前より磨かれていた。
「無策で戦って…楽に勝てる相手ではありませんね…」
エアグルーヴの呟きに、スズカが頷く。
「幸い、あの3人の脚質と、我々の脚質はそれぞれ一致する」
スズカが、ターボを追い立ててスタミナを消費させる。
エアグルーヴが、同じ脚質であるイクノを徹底的にマークする。
ルドルフが、テイオーの横に付きインコースを取らせない。
以上で作戦が決定した。
アルタイル1号店と2号店グループは、大会前の最終ミーティングを行っている。
「明日、本番や」
リーダーのタマモクロスの言葉に、6人が頷く。本来イナリワンもいるはずだが、その場にいなかった。彼女は風邪をひき療養中だ。
1号店からタマモクロス、スーパークリーク、オグリキャップ。
2号店からヒシアマゾン、メジロライアン、メジロドーベルが出走する。
「リギルは1グループのみだが、油断するんやないで。ツヴァイトグループに勝った、脳筋ボンバーズがいる」
7人は円陣を組み、闘志を燃え上がらせた。
「ついに来ましたね。決勝」
イクノは、ターボとテイオーに言った。
「今日は、晴れで芝の状態がいいから、ターボダッシュが使えるぞ!」
ターボは、嬉しそうに笑顔になった。
「そうだね、ターボ。そして、マックイーンの分も僕たちが頑張らないと」
テイオーの言葉に2人は頷く。
3人は、右腕にスカーフを巻いた。マックイーンの勝負服のリボンと同じ緑色だ。
『さあ、ついに始まりました。トリニティオレース決勝』
『天気は晴天、絶好のレース日和です』
『ABCそれぞれの予選、準決勝を勝ち抜いてきた、グループがついに激突します』
『人気を紹介します』
『1番人気シンボリルドルフ率いる、リギル・アンファング』
『2番人気タマモクロス率いる、アンタレス・1号店』
『3番人気はイクノディクタス率いる最年少グループ、脳筋ボンバーズ』
『どの娘もいい顔していますね』
『全ウマ娘ゲートイン完了、出走準備整いました』
開始を知らせるランプが点灯し、ゲートが開く。それと同時に轟音が鳴り響き、衝撃が走る。
これが例のダッシュか、とスズカは思い、怯むことなくスタートした。
『ツインターボ、好スタートで先頭に着きました』
『2番手はサイレンススズカ』
ターボとスズカの差はおよそ9バ身。なんて速いスタートダッシュだ、とスズカは称賛した。
『続いて、3バ身差スーパークリーク』
『すぐ後ろにシンボリルドルフ』
ルドルフは、テイオーをインコースに入れないようにスピードを調整した。
『その外ならんでトウカイテイオー』
テイオーは、ルドルフの前に行こうにも、後ろに付こうにも、インコースに入れなかった。
『後方、メジロライアン』
『2バ身差タマモクロス』
『1バ身差オグリキャップ』
『その外並んでイクノディクタス』
イクノは、エアグルーヴに徹底マークされていた。これが女帝の圧力か、と彼女は思い速度を上げた。
『すぐ後ろにエアグルーヴ』
エアグルーヴも速度を上げた。
『続きました、メジロドーベル』
『ヒシアマゾン、ここに居た』
『先頭集団を見ていきましょう』
『1番手は変わらずツインターボ』
『彼女がレースを作りそうですね』
『前から大きく開きました。間延びした展開になりそうです。』
少しずつスズカは、ターボに追いついていく
『7バ身差サイレンススズカ』
『早くも2番手に躍り出た』
『第1コーナーカーブ』
『先頭を行ったのはツインターボ』
『つづいて5バ身差サイレンススズカ』
ターボは、実況を聴いて焦った。9バ身の差が、もうすぐ半分になろうとしている。彼女は、知らず知らずのうちにペースを上げていた。
『4バ身離れてスーパークリーク』
『4番手争いにシンボリルドルフとトウカイテイオー』
『少し離れてタマモクロス』
『その外ならんでメジロライアン』
『その後ろオグリキャップ』
『大きく離れてイクノディクタス』
『1バ身差エアグルーヴ』
『シンボリルドルフ内から行く』
『ツインターボ先頭を進みますが、これは正解でしょうか?』
『少し掛かっているかもしれません、一息つけると良いですが』
『第2コーナー通過、続いて直線です』
『ツインターボ、飛ばしていきます』
『先頭は依然ツインターボ、リードは4バ身!』
ターボは飛ばしても、スズカを振り切るどころか、追いつかれ始めていた。
テイオーは、インコースを走れずにスタミナを多く消耗していた。
イクノは、速度を上げてもエアグルーヴを振り切れなかった。
『続きましたサイレンススズカ』
『3バ身離れてシンボリルドルフ』
『その外並んでトウカイテイオー』
『すぐ後ろにスーパークリーク』
『内からタマモクロス』
『1バ身差オグリキャップ』
『続きましたメジロライアン』
『ヒシアマゾン上がってきた』
『残り1000mを通過』
『エアグルーヴとメジロドーベル並びかけてきた』
『2バ身差イクノディクタス』
イクノは、エアグルーヴとメジロドーベルに追い抜かれた。
『向こう正面に入り、先頭は変わらずツインターボ』
『2バ身差サイレンススズカ』
『ツインターボ、まだリードをキープしています』
『3番手争いは、変わらずシンボリルドルフ、トウカイテイオー』
『意気揚々と先頭を行きますツインターボどうでしょうこの展開?』
『掛かっているかもしれません、冷静さを取り戻せると良いのですが』
『先頭はツインターボとサイレンススズカ』
ターボは、遂にスズカに追いつかれた。
『まもなく第3コーナーカーブ』
『勝負所、最後の直線へとかけていきます』
『先頭はサイレンススズカとシンボリルドルフ』
ターボは追い抜かれた。
『すぐ後ろにトウカイテイオー、エアグルーヴ、ツインターボ』
『1バ身差タマモクロス、オグリキャップ、スーパークリーク』
『その外メジロドーベル、メジロライアン』
『ヒシアマゾン、ペースを上げていく』
『後方、イクノディクタス』
『さあ、最後の直線だ、誰が最初に抜け出してくるか!?』
『最初に抜け出したのはシンボリルドルフとタマモクロス!』
『3番手争いにサイレンススズカ、スーパークリーク』
『すぐ後ろエアグルーヴとオグリキャップ』
『先頭がまとまり混戦状態です!』
『2バ身差トウカイテイオーとイクノディクタス』
『およそ3バ身差ツインターボ』
『1着争いはシンボリルドルフとタマモクロス』
『すぐ後ろにサイレンススズカ、スーパークリーク、エアグルーヴ、オグリキャップ』
『メジロライアン、メジロドーベル、ヒシアマゾン前を狙っているぞ!』
サイレンススズカは、自身のチームの勝ちを確信した。
要警戒だった脳筋ボンバーズは、2バ身以上差がある。スタミナを消費しすぎたツインターボに至っては、5バ身後方にいる。
テイオーとイクノは焦っていた、先頭とはジリジリと、確実に離されている。3着すら遠かった。
ターボのスタミナは、尽きていた。足が全く上がらない。スズカに追い立てられ、焦り、オーバーペースで逃げたからだ。彼女の前には11人いた。差はどんどん開き、テイオーとイクノさえも遠くなる。頼みのターボダッシュは、安定した体勢下でしか使用できない、万策は尽きていた。
―決勝、お願いしますわ…―
3人は思い出した。転倒し、負傷し、流血し、片足のみで、ゴールしたマックイーンを。彼女のおかげで、自分たちは決勝に出走できていることを。決して諦めなかった彼女の姿を。
轟音が鳴り響いた。
スズカとクリークは、横を見た。ツインターボがいた。
ルドフルとタマモは、左後ろを見た。トウカイテイオーがきた。
エアグルーヴとオグリは、左前を見た。イクノディクタスがいる。
ルドルフ達は、絶句した。達の悪い冗談だと。
タマモ達は、確信した。やはり彼女たちは強いと。
『トウカイテイオー、ツインターボ、イクノディクタス驚異の末脚!』
『12人のウマ娘が先頭集団を形成、勝負はまだ分からないぞ!』
実況の声が遠くなった気がした。
気づけば、ゴール目前だった。
『1着はシンボリルドルフ』
『2着はタマモクロス』
『3着はサイレンススズカ』
『4着はスーパークリーク』
『5着はエアグルーヴ』
『6着はオグリキャップ』
テイオー、イクノ、ターボは7、8、9着だった。
脳筋ボンバーズは総合3位だった。
1から9着の差は全てハナだった。
「くっそぉっ!!」
テイオーは、拳を芝に叩きつける。マックイーンに託されたのに、3着すら取れなかった自身に怒りを感じていた。
「次はリベンジです。」
イクノは、芝に座り込んでいた。彼女の目線は、エアグルーヴをとらえている。
因みに、ターボは気力が底をつき、気絶していた。
ルドルフは息を整えていた。あれほど白熱したレースだったからだ。自身のライバルはタマモクロス、サイレンススズカ、そしてメジロパーマーの3人だと思っていたが…
「第3回のURAファイナルズは、とんでもないことになりそうだな」
そんな彼女に近づく影がある。タマモクロスだ。
「ルドルフ、面白いモン見つけたんやが、見るかいな?」
なんだ?とルドフルが尋ねる。
「これや」
タマモは蹄鉄の破片たちをみせた。
「こいつらはな、あの3人の蹄鉄やで。」
蹄鉄が破損していただと、ルドフルは驚く。
「ゴール付近に落ちていたから、最後のスパートの衝撃で壊れたんやろな」
もし、壊れていなかったら…うちら、負けていた可能性あるで、とタマモは言い残し表彰台へ向かった。
表彰式の後、スズカは地下通路を歩いていた。彼女は脚を止める。目の前からウマ娘が来た。
「スズカ、優勝おめでとう」
グラスワンダーだ。
「ありがとう、グラス。今回は運が良かったわ…パーマーが出場していなくて…」
スズカは、安堵の顔をしていた。
「これで暫くは、大丈夫ね」
グラスも同じ顔だった。
「でも、グラス。次のURAで、パーマーとまた戦うことになるわ…勝てるのかしら…それに…」
「第3回のURAでは、あの娘達も出場可能になるわね」
先ほどの安堵の顔は、消え去っていた。
「清峰さんや仲間を裏切り、ただ、勝つために走る私たちを…お爺さんが見たら、何て言うかしら…」
スズカは、悲し気な顔をしていた。
「スズカ、あの娘達を守るためには、そうするしかなかったのよ。私たちは、勝つしかない…」
グラスの顔は、辛そうだった。
トリニティオレースから1週間が経過した。チームスピカのコンテナ小屋の前にウマ娘が立っている。黒鹿毛が風で靡く。
「約2年振りか…」
彼女はそう呟き、扉をノックした。
新年が明けた1月。栗毛寮のエントランスには、大型のTVがある。近くのソファにテイオー達がいた。
「まさか、蹄鉄が割れるなんて思わなかったよ…」
テイオーは、トリニティオレース決勝を思い返していた。
「練習に気を取られて整備を忘れていましたね…私たち…」
眼鏡を布で拭きながら、イクノが返答する。
「蹄鉄ってさ…もっと丈夫な物無いかな…後、サイズが合うやつ…」
テイオーの呟きに、ターボが閃いた。
「あ、いい事思いついた」
「ターボ、次は何を思いついたのですか?無理は禁物ですよ」
ターボは、ダッシュの練習で以前負傷している。それを思い出したイクノは、釘を差した。
「大丈夫だって!怪我する奴じゃないよ」
彼女達の後方より、足音が聞こえてくる。紫芦毛のウマ娘、メジロマックイーンが来た。彼女は、後遺症もなく無事退院していた。
「あ、マックイーン早く、早く!もうすぐ始まるよ!」
テイオーに促され、彼女はソファに座り、目の前の大型TVに視線を向けた。まもなく、第2回URAファイナルズ決勝が始まる。
URAファイナルズ決勝のコースに立ち、歓声を浴びているウマ娘がいる。
メジロパーマーだ。
彼女はゲートインし、レース開始を待った。
結果は彼女の1着で、2冠達成だった。彼女は、今日も彼への思いを胸に走っている。
金色のロケットペンダントが日に当たり、光った。
「次は私たちも出場できますわね…URAファイナルズ」
マックイーンの言葉に3人は頷いた。
―メジロパーマーとの対決まで残り約1年―
エピローグ
京都のとある鍛冶屋、建物は古びているも、歴史と荘厳さを感じさせる。そこに齢80の職人がいた。彼は無愛想で腕が良く、the職人といった印象だった。彼が鍛えた金属は、丈夫で軽いと良い評判を受けている。彼は、今日もラジオを聞きながら、鉄を打っていた。
ラジオニュースのアナウンサーが、終戦からもうじき89年になると伝える。あの忌まわしい機械戦争から、そんなに時間が経過したのかと、職人は時の早さを痛感していた。
そんな彼のもとに、尋ねに来たウマ娘がいる。
ツインターボだ。
彼女は鍛冶屋に入るなり、仁王立ちとなった。
「ここに、1番腕がいい職人がいると聞いた!」
彼女は腹から声を出した。
それを聞いた職人は、覇気のある若者だと思い、対応した。
「小娘、用件はなんじゃ?」
職人は、ぶっきらぼうに言う
「ターボに、鉄の打ち方を教えてほしい!」
今日もよく晴れていた。
モノローグ
3月になり、草花が咲き始める。そんな春の訪れを感じられる霊園に、ウマ娘がいた。彼女は、ある人物の墓石の前に立っている。
「本当に、亡くなったのですね…」
呟きは、草花のみが聞いていた。彼女は、墓石前に膝をつく。
「光さん…」
彼の死んだ証にそっと触れた。
物語はまだ続く