ウマ娘 彼の生きた証   作:ぽんきちたぬきまる

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列伝 新たなトレーナー 後編

 2034年3月中旬、まだ寒さを感じる風が吹いていた。天気は快晴で、日差しは温かさを感じさせる。

 航空機が滑走路に着陸する。着地の衝撃がタイヤ、座席に伝わり栗毛を揺らす。彼女はウマ娘だ。彼女は2032年の3月、大学2年生の時にドイツの大学へ編入し、首席で卒業した。約2年ぶりの故郷に戻ってきた。

 荷物を受け取り、ゲートを出ると、嘗ての同級生たちが出迎えてくれた。

「久しぶり!ビデオ通話だけだったから寂しかったよ~」

「も~何で、2年の間に日本へ帰ってこなかったの?」

 友人たちは彼女の周りに集まり、再会を喜んだ。

「…申し訳ありません。あちらでの勉学に熱が入りすぎました…」

 彼女は真面目な性格らしく、ですます口調だ。

「さ、帰国歓迎パーティーの準備をしているから行こう!」

 友人に手を引かれ、彼女も歩き出す。その時彼女は、周りをもう一度見渡した。

「先輩は来ていないのですね…」

 彼女は小さく呟いた。

 

 3月といえどまだ肌寒い。12:00ごろに歓迎会が始まった。大学の同期、後輩達が沢山かけつけてくれた。日本に居た頃、真面目で皆に慕われていたからだ。幹事の男性が乾杯の音頭をとり、全員飲み物に口を付けた。料理が運ばれてくる。イタリアンの店で、ピザやスパゲッティがテーブルの中央に置かれる。

「しかし、俺たちも後もう少しで社会人かー」

「残業とか、休日出勤とかしたくないなー」

 今年度卒業生たちが、今後就く仕事の不安をもらす。

 栗毛の彼女の隣に座っていた友人が声を掛ける。

「ねぇ、ドイツで国際トレーナーの免許取ったんでしょ?凄いよね、全世界どこでも、ウマ娘のトレーナーの仕事に就けるって!」

 彼女の持つ国際資格は、1種資格より上位だ。その為、合格率は1ケタ台。彼女は1回の試験で合格した言わばエリートだ。

「いえ、まだ全ての場所でトレーナー業務は就けないです…」

 国際資格を取得はしたが、今の彼女は全世界どこでもトレーナーとして、仕事が出来るわけではない。理由として、トレーナーとして実務経験が0だからだ。

「あ…そうか、研修が必要だったね…研修場所はこっちのトレセンなの?」

「はい、そうです」

 現状、彼女がトレーナー業務に携われるのは、資格を取った国であるドイツ。大学側から研修場所として、指定されたウマ娘育成施設だけだ。そこで経験を積み、実績を認められれば、国際資格が正式に使用可能になる。そのため故郷である日本のトレセン学園で、トレーナーとして経験を積む。そして、世界へ業務の幅を広げる予定だ。

「早く先輩と一緒に仕事がしたいです」

 彼女の先輩は、大学1年時に3種資格を取り、ウマ娘を育成している。当時の先輩の様子を、トレセン関係者が話していた。トレーナーとして未熟だが、心に秘めた熱血の思いは見事と。自身は熱血ではなく冷静に物事を考え動くタイプのため、衝突することが多かった。それでも、面倒見の良い先輩だ。入学して右も左も分からなかった彼女を助け、支えてくれた。まるでトレーナーの様に。順当にいけば先輩は、4月でトレーナー歴5年だ。頭が少し悪い人だったため、資格はまだ3種のままかもしれない。だが、先輩から学べることはきっと多いと彼女は思っている。

 

 歓迎会もお開きとなった。各々、2次会を何処にするか話している。

「…先輩は来ていないのですか?」

 彼女の言葉に、友人の顔が強張った。

「…そうでしたね…先輩は社会人です。仕事がありましたね…」

「…違うんだ…」

 友人がぼそりという。

 

 栗毛のウマ娘は、とある場所へ向かっていた。そして到着した。霊園だ。

 霊園に脚を踏み入れ、手当たり次第に墓石を確認する。20分ほど捜したが見つからなかった。やはり、友人の話はドッキリか何かだと、彼女は考えに至った。人の悪い友人達だと、彼女は思いながら霊園の出口に向かう。ふと中央にある桜が目に入った。桜付近の墓石は調べてはいなかった。足早に歩を進めた。2年前には咲いていなかった花が綺麗に開いていた。まだ満開と呼べるものではないが、樹の成長を感じさせる。2つの墓石が目に入る。1つはハルウララ、その隣には…

 

 彼女の先輩の名前が刻まれていた。

 彼女は、立ち眩みするほどの眩暈を覚える。現実を受け入れたくなかった。ウマ娘専用の霊園に、なぜ彼の墓石があるか疑問が出てこない程、頭が働かない。新入生の時、あれだけ接してくれた人が亡くなった。暑苦しいほど熱血だった人が… 

 

「本当に、亡くなったのですね…」

 呟きは、草花のみが聞いていた。彼女は、墓石前に膝をついた。

「光さん…」

彼の死んだ証にそっと触れた。

 墓石には夕凪光と刻まれていた。

 

 彼女は、栗毛を靡かせて霊園を後にした。近くにトレセン関係者の車が停まっている。車外には、スーツを着た女性が立っていた。彼女もトレセン学園に通っていたため分かる、理事長だ。理事長は、彼女を見つけると近づいてきた。

「お久しぶりです。ドイツから戻ってきたのですね…国際トレーナー資格取得おめでとうございます」

「…ありがとうございます」

 彼女は、彼の死で頭がいっぱいだった。

「貴女のトレーナー研修の事で、連絡事項があります…」

「何でしょうか?」

 彼女が問いかけると、理事長は一呼吸を置く。

「担当するウマ娘をこちらで指定させて下さい」

「…どんな娘ですか?」

 栗毛のウマ娘が更に尋ねる。トレーナー免許を取り、初めての育成に携わるため、事前の情報が欲しかった。

「メジロパーマーさんです」

 先輩である光が残したウマ娘だ。彼女は少し目を見開く。

栗毛のウマ娘は、頷きながら分かりましたと返答する。

「ありがとうございます。それでは、よろしくお願いしますね…」

 

 

「ミホノブルボンさん」

 

 エピローグ

 3月の風が建物の間を吹き抜ける。ここは京都だ。梅が咲き、見ごろを迎えている。この3階建ての老舗は米菓子で有名だ。副業で、ウマ娘の勝負服のデザインもしている。建物の2階、アトリエと呼ばれる場所で、1人の少女が机の前で悩んでいた。卓上には紙があり、そこに勝負服のデザインの原案が描かれている。その紙が大量に積み重なっていた。彼女の近くには本棚があり、デザイン関係の書物が並んでいる。

「うーん…ここはこの色で…だめだ、この色にしたら此処を変えないと…」

 肩にかけたカールした栗毛を撫でた。デザインが気に入らないのか、彼女のウマ耳が垂れさがる。少女はウマ娘だ。割と雑に穴をあけたキャスケットを、右のウマ耳に通して被っている。

「マチー、煎餅焼けたから黒鉄さんの所に、配達してくれない?」

 1階から、彼女の母が声を掛ける。

「うん、分かった!持っていくね!」

 彼女は紙をファイルに入れた。デザイン作成に行き詰まり、気分転換には丁度良いと思いながら階段を下りる。

 

 彼女の母が、米菓子を入れた袋を渡す。かなりの量だ。

「お母さん…なんか量多くない?」

 彼女は袋の中身を確認しながら、母に尋ねる。

「黒鉄さん所にお客さんが来ているみたいでね、追加分よ。確か1月にも来ていた人と同じだったわ…青い髪のウマ娘さんで…デュアルジェットじゃなくて…あー、名前が思い出せないわ…」

「へーそうなんだ。じゃあ、行ってきます!」

 母に見送られ彼女は歩き出した。

 

「あら、マチちゃん。お使いかしら?」

 道を散歩していた老人に、話しかけられた。

「はい!黒鉄さんの所へ煎餅を届けに」

 マチと呼ばれた彼女は、笑顔で答える。

「そうかい、そうかい。しかし、マチちゃんやヘリオスちゃんが、もうすぐトレセンに行ってしまうのは寂しいね…元気でいてね」

「大丈夫です!元気が私の取り柄なので!」

 彼女のとびっきりの笑顔に、老人も釣られて笑顔になった。

 

 厳かな雰囲気の中、少女が茶を点てている。黒鹿毛に青のメッシュが入っているウマ娘だ。彼女が点てた茶を前に居る女性、先生が飲む。

「随分と上達しましたね。ヘリオス」

「本当!?」

 先生の言葉にウマ娘は、先ほどの凛とした顔も姿勢も吹っ飛ばして笑顔になる。これが彼女の素だ。

「トレセンに言っても、和の心と冷静さを忘れないでね」

「わっかりました!」

 ウマ娘は元気に返事をした。

 

 

 ダイアローグ

 ブルボンが先ほどまでいた霊園に、別のウマ娘が訪れていた。手入れされた鹿毛で、青いメンコをウマ耳に付けている。彼女は、ウララと光の墓石に前まで歩いた。手に持った2つの花束をそれぞれの墓石に置く。

「…恐らく、初めましてですわね…夕凪さん。貴女が助けたウマ娘と、心臓を受け継いだマックイーンさんは無事に生きていますわ…」

 彼女は、ウララの墓石に体を向ける。

「お久しぶりです、ウララさん」

 彼女はウララの親戚だ。ウララが亡くなった時、彼女は赤子だった。

「御二人共…命を犠牲に、他人を助ける行為は凄いと思いますわ」

 ウララは光を、光はダイヤを、命を懸けて助けた。

「まるで命のバトンの様ですわね…」

 桜の木を見上げながら呟いた。

「ウララさん…私の同級生は強いですのよ」

 メジロマックイーンは、ホープフルステークスと菊花賞で優勝。

 マヤノトップガンは、マックイーンを後1歩まで追い詰める強さ。

 トウカイテイオーは、クラシック2冠。

 セイウンスカイとトーセンジョーダン、イクノディクタスも他のGⅡ、GⅢレースで1着を取るほど成長している。

 そしてツインターボは、とんでもない技を生み出した。

「私は…新人戦以外で勝ったことはありません」

 彼女は負け続きで、特に初GⅠレースのホープフルステークスでは惨敗だった。

「ですが…諦めませんわ」

 ウララの墓石を真っ直ぐ見つめる。

「貴女から頂いたメッセージ、私の支えになっていますから…」

 彼女の右手には、便箋が握られていた。何度も読み返したためボロボロである。

「今年の4月から中等部3年になり、URAファイナルズへの出走が可能になります」

 URAファイナルズ、参加資格に制限が無いイベントレース。予選、準決勝に勝ち抜いたウマ娘が決勝で争い、最強のウマ娘を決める。

「優勝して、王者になります」

 ライバル達は強力だ。戦績から考えると勝つことは厳しい。しかし、

 

「だって私は…キングの名を持つウマ娘ですから」

 彼女は諦めが悪かった。

 

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