ウマ娘 彼の生きた証   作:ぽんきちたぬきまる

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SD 3話

 次の日、配属されたクラスでのオリエンテーションが昼に終わった。スぺは、担当してくれるトレーナーを捜すため、学園のコースへ進んでいる。

「…これは?」

 通りかかった場所に掲示板があった。そこには、リギルの入部試験と書かれている。

 リギル、最強の一角と謳われるチームだ。レース戦績があるウマ娘しか入部試験を受けられなかったが、今回は、特別に新入生を1名入れると紙面に記されていた。

 最強のチームで、練習を積めば日本一の夢に近づけると、彼女は考えをめぐらす。

 試験日は本日の15:00から場所は第2グラウンドだ。スぺも参加するため、更衣室で運動着に着替えた。

 

「第2グラウンド…何処だろう…」

 スぺは集合場所へ向かっていたが、何処にあるか分からなかった。以前スズカを目撃した場所は、第1グラウンドに該当する。迷っている彼女に声をかける人物がいた。長身の芦毛のウマ娘で、右手にルービックキューブを持っている。

「第2グラウンドは、カフェテリアの向かい側だよ」

 芦毛のウマ娘が指先で方向を示す。

「すみません、ありがとうございます!」

 スぺは頭を下げる。

「学園は広いからな、迷うのも分かるよ。アタシはゴールドシップだ。今後も宜しくな、スペシャルウィーク」

 スぺと彼女は握手をした。

「はい!此方こそよろしくお願いします!」

 挨拶を交わし、スぺは目的地の方向へ歩き出す。

「親切な方が居て助かったぁ…」

 集合時間には間に合いそうだ。安心した彼女は安堵のため息をつく。

「…何でゴールドシップさんは、私の名前を知っているんだろう?」

 スぺは彼女と面識は無かった。

 

 練習用のコースに多くのウマ娘が並んでいた。最強のチームに入れる可能性があるのだ。全員気合が入っている。

「おー、結構な人数が集まったなー」

 身長180㎝のやせ形の男が歩いて来た。彼の後ろには、トレーナーと思われる男性たちがいる。

「俺は、リギルのメイントレーナーの1人、東川だ」

 リギルの様に多くのウマ娘が在籍するチームには、トレーナーが複数いる。

「えー、じゃあ、自己紹介してもらおうか」

 

 並んだウマ娘たちが順に自己紹介をしていく。スぺの番になった。

「スペシャルウィークです。北海道で育ちました!ここで、たくさん練習を積んで、レースに勝って、日本一のウマ娘になりたいです!」

「日本一か…夢を持っているのは凄く大事だし、立派だ」

 東川は笑みを浮かべる。

「さあ、選抜レースを開始だ!」

 ウマ娘達は所定の位置まで移動した。

 

 スぺはスタート用のゲートに入る。TVでゲートは見たことはあったが、実際に入った事がなかった。

 これがゲートかぁ…と彼女は思いながら周囲を見ている。すると、音が鳴った。突然の事に驚いてしまう。前を見ると、ゲートは開いている。他のライバルたちは既にコースを走っていた。

「うぇ!?急がなきゃ!!」

 彼女は、慌ててスタートした。

 

 結果的にスぺは30人中15着でゴールした。スタートが遅れたとはいえ、他のウマ娘達は速かった。

「1着は、エルコンドルパサーさんだね。ようこそリギルへ!うちの練習はキツイぞ~」

「強くなるために頑張りマース!」

 東川とエルは握手を交わした。

 彼らの様子を見ていたスぺは、項垂れている。1着でゴールしたエルは兎に角速かった。2番手とは8バ身の差をつけてのゴールだ。

 スぺはリギルトレーナー達に、ありがとうございましたと言い、校舎へ歩き出しす。その時、別の男性が声を掛けてきた。

「スタートが遅れたとはいえ…諦めない姿勢は見事だったよ」

 身長が高い青年だ。恐らく190㎝以上はある。

「ありがとうございます!あの…私スペシャルウィークって言います。貴方はトレーナーさんですか?」

「そうだ。俺は夕凪光、よろしくな」

「実は、トレーナーになってくれる方を探していたんです!」

 スぺは、光明が差したと思っていた。

「悪い、俺は免許の都合上…複数の娘の育成ができないんだ」

 彼が持っているのは、トレーナー3種免許。国家資格ではないため1人しか担当できない。

「2種以上の免許を持っている人を紹介するよ」

 光は、スぺに助け舟を出した。

 

 2人は学園にある職員室へ向かっている。

「先生!」

 光が、40代程の男性に声を掛けた。

「夕凪君、どうしましたか?」

 優しい顔立ちだった。彼も身長が180㎝後半と高い。

「今…トレーナーを捜している娘がいて…」

 光は、彼に状況を説明する。

「貴女が、スペシャルウィークさんですね?私は、トレーナーの清峰束です」

「はい!よろしくお願いします!」

 彼は、スぺのトレーナーになった。

 

「スぺさん、私には、貴女以外にも担当しているウマ娘がいます。その娘達を紹介しますね」

 清峰とスぺは、空き教室へ足を踏み入れる。そこには、3人いた。

「皆さん、お疲れ様です。今日から新しく担当する方を紹介します。スペシャルウィークさんです」

「駅で会った以来だね。まー、ゆるっと行こうや」

 赤い癖毛を2つに纏めたウマ娘、ナイスネイチャ。

「学園生活には慣れたかしら?」

 学園の正門前で出会った、グラスワンダー。

「互いに知っている仲だけど、もう一度自己紹介するわ。サイレンススズカです。よろしくね、スペシャルウィークさん」

 ルームメイトのスズカだ。

「よろしくお願いいたします!」

 スぺは、元気に挨拶した。

「スぺさんが来たことで、4人になりました。チームを結成したと思います」

「チーム?」

 スぺは、疑問を口にする。

「チームを結成すると、専用の施設や予算が割り当てられます。まあ…結成直後なのでコンテナ小屋ですが…そこでは、レースに向けてのミーティング等を行えます。毎回、空き教室を借りずに済みます」

 清峰は、チーム結成で可能になる事を黒板にチョークで記載していた。

「予算でチーム用の飲み物や、食べ物も購入できますよ」

 食べ物と聞いたスぺは、目を輝かせた。その様子を見たグラスは、微笑む。

 チーム名は、カノープスに決まった。

 

「スぺさんは北海道で育ったのですね」

 清峰は彼女の出生を聞いていた。

「そうなんです!。私の家族が牧場で羊を育てているんです!とっても可愛いですよ」

 スぺはちゃっかり牧場の宣伝をする。

「もしかして…日高の牧場ですか?」

「え、知っているのですか!?」

 清峰の言葉に、スぺは驚く。

「私も北海道で育ちましたから。単身赴任でここ、東京で働いていますが…育ちが同じ方の担当になるとは感慨深いですね」

「はい!私もうれしいです」

 スぺの嬉しそうな声に彼は頷いた。

 

 翌日、第1グラウンド。スぺは、清峰のトレーニングメニューをこなしている。育ての母と練習はしていたが、本格的なものは初めてだ。最初の走り込みが終わり、休憩していた。

「こんにちは、君は新入生かな?」

 声を掛けられた。スぺは声の方へ顔を向ける。ふわふわの鹿毛を纏めたウマ娘だ。

「えっと…貴女は?」

「私は、メジロパーマー。君の名前は?」

 綺麗な顔立ちで、素敵な笑顔に、スぺは見惚れてしまった。

「…あっ!スペシャルウィークです!」

 その後、2人は、北海道の話をしている。

「北海道かぁ…冬とか雪合戦し放題じゃん、羨ましい~」

「そうなんです!…ただパウダースノーなので雪玉を作るのに苦労しました…」

 スぺとパーマーは近くの木の根元に腰を下ろしていた。

「パーマーさんのトレーナーはどんな方ですか?」

 スぺはメジロ家の事は知っている。一流のウマ娘を育成する名家だ。そんなお嬢様である彼女のトレーナーに興味があった。

「私のトレーナー?うーん…世話焼きの…兄みたいな?」

 パーマーは頬を掻きながら答える。何だか嬉しそうだ。

 その時、少し遠くから男性の声が聞こえてきた。

「パーマー、そろそろ練習再開するぞ」

 以前スぺが出会ったことがある青年、光だ。パーマーの担当トレーナーだった。

 呼ばれたパーマーは立ち上がり、スぺの方へ顔を向ける。

「じゃあ、行くね。また会おう!」

 彼女は、手を振りコースへ戻った。

 

 スぺは、ゲートオープン時のスタートの練習をしている。練習の成果でゲートが開いた時、驚いて遅れていたスタートも、遅れなくなった。休憩中の彼女は、ふと、練習コースの中央に視線を動かす。筋力訓練を行える場所だ。そこにパーマーが居た。腰にロープを結び付け、繋いだ身長を超える大きさのタイヤを引きずりながら移動している。

「ん…?」

 スぺは目を疑う。トレーナーの光も同じトレーニングをしていた。彼女は、2人の元へ歩を進める。

 タイヤを引きずりながら、ゴールした2人は、地面に倒れ、肩で息をしていた。

「…あぶねー、パーマーに負けるかと思った…」

「毎回、思うけど…何でそんなにスタミナあるの?」

「俺は、生まれつき心臓が強いんだよ」

 光は上体を起こし、飲料水を飲んだ。

「ウマ娘並みの心臓だね…本当に…光、その水頂戴」

「やだよ、自分の分を飲め」

 立ち上がった彼は、パーマーの手を引いて起き上がらせる。

「パーマーさん、光さん、お疲れ様です!」

 スぺが近くまで来ていた。

「やあ、スぺ、スタートの練習お疲れ様」

「君もこの練習してみる?すっごいキツイよ」

 その時、スぺの後ろから、更にウマ娘が来た。

「パーマー、貴女の分の水よ」

 スズカだった。彼女は、手に持った飲料水をパーマーに投げて渡す。

「ありがとう、スズカ」

 パーマーは、飲料水を一気飲みした。

「よし、次は、2000mダッシュだ。行くぞ!」

「スタミナ底つきそう…」

 光とパーマーは、使用していたタイヤを元の場所まで転がす。その後、コース外周まで移動した。

 

「2人共、ホイッスルが鳴ったらスタートですからね」

 清峰が、呼笛を手に持ちながら言う。

「え、夕凪さんも走るのですか!?」

 スぺは、ネイチャに尋ねた。

「まあ、あの人のコンセプトが、ウマ娘と共にトレーニングだからね…」

 ネイチャが返答すると同時に、呼笛が鳴らされ、パーマーと光は走り出した。

 

「よお」

 声を掛けられた彼女は、振り返る。ナリタブライアンが居た。

「ブライアンちゃん!どうしたの?」

「お前が、トレーナーを見つけられたか心配で身に来た」

「大丈夫。前にいる清峰さんがトレーナーになってくれたんだ!」

 スぺは、嬉しそうな顔で返答する。ブライアンは彼女の笑顔を見て、頬を緩ませた。

「貴女のトレーナーさんは?」

 スぺの質問にブライアンは、彼女の足元を指差す。脚を撫でられるような感覚が襲ってきた。彼女は、視線を下に向ける。男性が彼女の膝裏を執拗に触れていた。

「ほお、良い脚の筋肉の付き方だ。広大な大地でかけ回っていたのか?」

「いやーーっ!!」

 スぺは渾身の蹴りを、男性の顔面へお見舞いする。男性は綺麗に吹き飛んだ。

「痴漢です!この人!!」

 スぺは、ネイチャの後ろに隠れながら言った。

「待て、落ち着け。この変な奴は、私のトレーナーだ。指導者としての腕は確かだ。変な奴だが」

 ブライアンは、大事なので2回伝える。

「変な奴って…言わないで…」

 大の字で倒れた男性が力なく呟く。

「俺は…姫倉…稔だ…よろしく…」

 姫倉は気絶した。

「…ブライアンちゃんも脚触られたの…?」

 スぺの質問に、ブライアンは頷く。

「蹴り飛ばした?」

「いや、怪我させるのが怖くて蹴らなかった。」

 ブライアンは、変な所で優しかった。

「あら~トレーナー…結構吹き飛んだな」

 以前スぺに第2グラウンドの場所を教えたウマ娘、ゴールドシップが歩いてきた。右手にはルービックキューブを持っている。

「ゴルシさん!」

 ブライアンの声に彼女は手を軽く上げて反応した。

「2人は知り合いだったんですか?」

 スぺは意外と言った顔をしている。

「担当が一緒なんだ」

 ゴルシは、彼女の質問に返答した。

「スぺちゃん、パーマーが第4コーナーを周ったわよ」

 グラスが木柵に触れながら、彼女に声をかける。

 

 パーマーがゴールし、清峰が精密時計を止めた。

「お疲れ様!いい感じじゃない?」

 ネイチャが彼女を労う。汗を拭いながら彼女はありがとうと、言葉を返す。

「光はどの辺?」

 パーマーがネイチャに尋ねると、彼女は手を向ける。その方向へパーマーは顔を動かした。光は第3コーナーの直前を走っている。ウマ娘は人間と比較し、身体能力と頑強性は約3倍。彼が負けるのは無理ない話しだ。

「まあ、この勝負は流石に勝てるね」

 パーマーは必死に走る光を見ながら呟いた。

 

 2分後、光はゴールした。

「1年生の時と比べて、大分速くなったなぁ…」

 彼は担当しているウマ娘の成長に感動している。

「でしょ?最強のウマ娘になるんだもん、もっと成長するよ!」

 パーマーは光の肩に手を当てた。清峰は優し気な顔で、2人のやり取りを見ている。

「先生!パーマーのタイムはどうでしたか?」

 清峰は手元の精密時計を、光に見せた。

「夕凪さんはなんで…清峰さんの事を先生って呼んでいるんですか?」

 スぺは、隣にいるネイチャに尋ねる。

「まあ…あの人に育成の基礎を教えたのは、ウチのトレーナーだからね」

 彼女は約1年前の出来事を思い返していた。

 

 カノープスメンバーの4人は練習用ゲートの中に居る。本番を想定した練習だ。スぺは先輩たちと走れることに気持ちが高ぶっていた。コース概要、芝2000m、左回り。

「では皆さん、準備は良いですか?」

 清峰の言葉に4人は返事をする。ランプが点灯、ゲートが開いた。

 幸先の良いスタートダッシュを切ったスズカが先頭だ。先行脚質のネイチャが2番手、差し脚質のグラスはすぐ後方についていた。3人共速く、スぺは視界に捉えるだけで、精一杯だ。2コーナーを周り、向こう正面を走る。

 スぺが3コーナーを周り始める時には、ネイチャとグラスは4コーナーを抜けていた。先頭のスズカは最終直線を走っている。

 着順は、スズカ、グラス、ネイチャ、スぺだ。

 これが先輩達との差か…とスぺは呟きながら、息を整えていた。

「スぺ~お疲れ!」

 パーマーと光が彼女の元へ歩いてくる。

「飲みな」

 光は未開封の飲料水をスぺへ渡した。彼女はお礼を言い、水を飲んだ。

 近くではスズカとグラスが会話している。

「スズカ、皐月賞への準備は万端ね」

 グラスが彼女の肩に手を置いた。

「ええ、クラシック3冠の一角を取ってくるわ」

 スズカは自信満々な様子だ。

 2人の話を聞いていたスぺは、隣にいる光に尋ねる。

「夕凪さん、クラシック3冠って?」

「4月の皐月賞、5月の日本ダービー、10月の菊花賞の事。この3つは、トレセンの中等部2年生しか出走できない特別なレースだ」

 光は指を3本立てながら説明した。

「2年生ってことは…パーマーさんも出るのですか?」

 スぺは彼女の方へ顔を向ける。

「勿論!」

 パーマーは腰に手を当てた。

 空は綺麗に晴れている。

 

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