ウマ娘 彼の生きた証   作:ぽんきちたぬきまる

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SD 6話

 合宿が終わり、スぺは空港に居た。事前に旅行会社から受け取った予約券を確認し、受付を済ませる。荷物を預け、金属探知機ゲートを通過し、待合所のコンビニエンスストアで飲料水を購入した。

 ベンチに座り込んだスぺは、約4か月間の出来事を思い返す。

 同じチームの先輩3人が、優しく素敵で強い方達だ。彼女達の様に自分もなりたいと考えていると、航空機への搭乗案内が聞こえてきた。

 スぺは手荷物からチケットを取り出し、改札ゲートのリーダーへかざす。

 

 新千歳空港に到着した。北海道とはいえ、まだ夏だ。暑さを感じさせる。スぺは日高の羊牧場へ歩みを進めた。ウマ娘の脚力なら余裕だ。

 途中、スぺは海へ寄った。合宿でも海は見たが、地元の海も無性に見たくなったのだ。

 防波堤に立ち、釣りをしている人物を見つけた。少女で年齢は11歳程だ。彼女は大きめの麦わら帽子を被っている。強風が吹き荒れ、彼女の帽子が飛んだ。緑芦毛とウマ耳が露わになる。ウマ娘だ。

 スぺは自慢の反射神経を発揮し、帽子を捕らえる。緑芦毛のウマ娘が釣り具を地面に置いて、彼女の元へ走ってきた。

「凄い風だったね。はい、帽子」

 スぺは、ウマ娘に手渡す。

「ありがとう!」

 笑顔が眩しい娘だ。

「大切な帽子なんだ…飛んで行った時は、焦ったよ」

 彼女は、優しく麦わら帽子を撫でる。

「ねえ、トレセンのウマ娘さんなの?」

 緑芦毛のウマ娘の問いかけに、スぺは頷いた。

「私も再来年にトレセンに行くんだ!」

「てことは…学園内で会うかもね。私は、スペシャルウィーク。君は?」

「セイウンスカイだよ!」

 

 スぺは実家の羊牧場へ到着した。久方振りに会う育ての親と、学園の出来事を話した。

 次の日、スぺは自主練のため浜辺を走っていた。ダートや芝と違い、砂は更に沈み込むため腿の筋肉に負荷がかかる。30分で限界が来たため、歩きながらクールダウンしていた。

 浜辺で麦わら帽子を被った少女が釣りをしている。見覚えがある、セイウンスカイだ。

「こんにちは、昨日ぶりだねセイちゃん」

 スぺが声を掛けるとスカイは振り返り、挨拶を返した。

「1人で浜に来ているの?」

 彼女はタオルで首元を拭きながら、スカイに尋ねる。

「そうだよ~」

 その後2人は様々なことを話したが、魚がかかる気配が無い。

「中々手ごたえが無いね…」

 スぺは釣りをした経験が無いため、こんなにも待つとは知らなかった。

「まあね~、釣りってのは、のんびりやってなんぼだから」

「ずっと1人だと寂しくない?」

 スぺの質問にスカイは軽く首を振る。

「昨日と今日は、私1人だけど。いつも一緒にいる子がいるんだ~因みにその子が麦わら帽子を編んでくれたんだよ」

「へ~、凄く器用な子だね。その子はウマ娘?」

「うん、ニシノフラワーって言う子だよ」

 

 数日後、スぺは育ての両親と共に漁港へ訪れていた。新鮮な刺身を購入するためだ。

 早朝の内に競りが終わっており、一般客が多く居る。

「スぺ、美味そうな刺身を探してくれけろ」

 母の言葉に、彼女は分かったと返事をし、売り場を見渡した。手を繋いで歩いている親子が視界に入る。父親に関しては見覚えのある人物だ。

「…清峰さん?」

 スぺの声掛けに振り向いた男性は、カノープスのトレーナー清峰だった。

「おや、スぺさんこんにちは。そういえば北海道に帰省中でしたね」

「はい。…こちらの娘は…?」

 スぺは清峰の足元にくっ付いているウマ娘を見た。

「私の娘です。ほら、自己紹介は?」

 清峰は自身の娘へ挨拶を促す。

「…スイープトウショウ」

 少女はそう言うと、父親の背後に隠れる。

「すみません…この娘は恥ずかしがり屋で…」

 清峰は優しく娘の頭を撫でた。

「私はスペシャルウィーク、よろしくね」

 スぺは屈み、スイープへ手を振る。彼女は小さく手を振り返した。

 

 夏休みの終わりが近づき、間もなく2学期が始まる。スぺは飛行機、電車を利用してトレセンへ戻ってきた。寮に戻る途中で彼女はパーマーと再会する。

「パーマーさん、どうしたのですか…?」

 彼女は少し疲れた顔をしていた。

「あ、スぺ、久しぶり…ちょっと秘密場所で特訓をしていてね…」

「…どこですか?そこ…」

「北九州の平尾台って場所」

 

 授業が終わり、スぺはカノープスのコンテナ小屋に居た。他の3人も集まり、席についている。

「皆さん、夏休み中はゆっくりできましたか?」

 クールビズ姿の清峰がホワイトボードの横に立っていた。彼の言葉に4人は、はいと返事する。

「もうすぐでGⅠレース、菊花賞です」

 約1か月後にクラシック3冠の最後のレースが開催される。

「距離は3000m。カノープスからは、グラスさんが出走します。なので、別メニューに励んで頂きます」

 清峰の言葉にグラスは頷く。

 

 カノープス4人組はカフェテリアで食事を取っていた。

「やっと…パーマーにリベンジできるわ」

 グラスがそう呟きながら、抹茶ラテを飲み干す。

「え、対戦経験があるのですか?」

 スぺは彼女の方へ顔を向ける。

「1年生の時にね」

 グラスは空になったコップを机に置く。

「12月のホープフルステークスよ、私たち3人が出走したの」

 スぺは3人から当時のレースの話を教えてもらった。

 

 菊花賞当日。距離は3000m。カノープスからは、長距離適正のあるグラスが出走した。

 ゲートが開いた。綺麗に全員が飛び出す。先頭はパーマーだ。先行脚質のハヤヒデは4番手、差し脚質のグラスは9番手に居た。ホームストレッチが終わり、第1コーナーから第2コーナーを周る。順位は変わりなかった。向こう正面に入り、パーマーは2番手と4バ身差をつけ、グラスは6番手まで上がってきた。3コーナーに差し掛かり、ハヤヒデが2番手に躍り出る。グラスはハヤヒデのすぐ後方に付けていた。彼女は遂にハヤヒデを追い抜き、2番手になる。しかし…

 

「継続速度がまるで違う…」

グラスは、速度を上げるも、パーマーとの差が縮まらない。むしろ広がっていった。

 スぺは手を胸の前で握る。勿論、グラスもハヤヒデも速い。4番手から後続を引き離してゆく。パーマーはそれ以上の速度で彼女達を置いていった。

パーマーは、第4コーナーを回り、最終直線では7バ身の差をつけていた。1着は彼女だ。夏の特訓で実力を磨き上げていた

 

 走り終えたグラスがカノープスメンバーの元へ戻ってきた。

「よく頑張りました。グラスさん」

「ありがとうございます。精一杯走ってきました」

「お疲れさん!」

 ネイチャが飲料水をグラスに渡す。彼女はお礼を言いながら受け取った。

「グラス、楽しんで走れた?」

「勿論よ」

 グラスとスズカは笑いあう。

 カノープスの温かく、仲間思いな雰囲気をスぺは感じ取り、笑顔になった。

 

 後日、カノープス4人組は学園のカフェテリアで食事を取っていた。

「スぺちゃん、衣装交換チケットは使用したかしら?」

 グラスの質問に、スぺは首を振る。

「グラスさん…そのチケットって何ですか?」

 スぺには心当たりが無いらしく、首を傾けた。

「入学式の時に配布されたはずよ?」

「あ!あの立派そうな紙って交換チケットだったのですか!?」

 スぺは思い出した。オリエンテーションの時に配布されている。

「期限って…1年生の時の私たちと同じなら…11月までよね…次の土曜日、モールへ行きましょう」

 スズカの提案にスぺは頷く。

「ネイチャも一緒に行かない?」

「あ~、その日予定があるから…ごめん」

 ネイチャは頬を掻いた。

 

スぺとスズカ、グラスの3人は、大型ショッピングモールへ足を運んでいた。

「うわぁ…こんなに大きなお店は初めてです…」

 建物の中に入ったスぺは、呆然としていた。彼女の肩をグラスがつつく。

「スぺちゃん、こっちよ」

 3人は、洋服店へ向かう。ここはウマ娘専用店で、彼女達用の勝負服が飾られていた。

 スぺは、鞄から細長い紙を出す。それは、衣装交換用のチケットで入学時に渡された物だ。1枚で1着と無料で交換できる。ウマ娘用のレース勝負服は、有名なデザイナーが作成に携わり、丈夫な素材で出来ていることもあり高価だ。学生…それも中等部1年の娘では手が届かない。レース開催などを運営しているURA協会は、せめて1着だけでも無料で手に入れられるように予算を出していた。それが件のチケットだ。

「いっぱいあって選べないです…」

 スぺは、広い店内、煌びやかな勝負服達を見て目を回していた。

「じゃあ、皆で探しましょう」

 スズカの提案で、3人は店内へ散った。

「おお…凄くカッコいい…」

 スぺは、白ベースカラーに青のアシンメトリーデザインの勝負服を手に取る。王子様風だ。

 流石に、カッコよすぎる。彼女はハンガーへ掛けなおした。

 スぺは、20分ほど悩んだが決めることができなかった。

 

 スズカとグラスが合流してきた。

「スぺちゃん、こんなのはどうかしら?」

 スズカが持っている勝負服を見た。白ベースに、スぺの瞳と同じ色の紫が入っていた。

 スぺは、先ほどの勝負服を試着し、試着室のカーテンを開けた。

「すっごく似合っているわ。素敵よスぺちゃん!」

 グラスが、嬉しそうに胸の前で両手を合わせる。

 その後いくつか試着したが、最初の白と紫の服に決まった。

 

 3人は、昼食を取るためフードコートへ訪れた。各々好きな店へ購入し、食事用のテーブルへ集合したが…

「スぺちゃん…多すぎない?」

 スズカは、彼女が購入してきたカツ丼を見て言った。大きな丼に大きなカツ、遥かにそびえる白米の山だ。

「キングスペシャルってのがあって…つい…」

 えへへと、言いながらスぺがにやける。彼女は大食漢だ。

「2人ともお待たせ」

 グラスも合流してきた。彼女は塩サバ定食を購入しているが…茶碗から白米のタワーがそびえていた。

「私が小食なだけなの…?」

 スズカは自身の食事の量が少ないと思い込んでいるが、単純に2人が大食いなだけだ。

 食後、3人はトレセンの寮へ帰った。

 

 帰路の途中、ウマ娘を2人見かけた。片方はナイスネイチャだ。隣にいるウマ娘と会話をしていた。

「ネイチャさん!」

 スぺが挨拶をすると、彼女がこちらを向いた。

「お、スぺじゃん。衣装選んできたみたいだね~」

「はい!スズカさんとグラスさんが選んでくれました」

 スぺは衣装が入っている紙袋を撫でた。

「ネイチャ、隣にいる娘は?」

 グラスは、ネイチャの隣にいる小さいウマ娘について尋ねた。

「ああ、この娘は…アタシの知り合いの娘で、今日面倒を見てほしいって言われていたんだ」

「マーベラスサンデーだよ!」

 サンデーは、満面の笑顔で自己紹介した。年齢は9歳程だ。手にはクレープが握られていた。

「スペシャルウィークです。美味しそうなクレープだね」

「うん!ネイチャちゃんが買ってくれたんだ、あそこの店で」

 サンデーが近くのクレープ店に手を向けた。スぺはクレープ食べたさに店へ歩いて行った。

「スぺちゃん、まだ食べる気!?グラスも何か言ってあげて」

 スぺは、先ほどの白米タワー+ビックカツを食べ切っている。スズカはトレーナーの清峰の言葉を思い出していた。食べすぎは良くないと。

「スズカ」

 グラスは真面目な顔で彼女の方へ向いた。

「私も小腹が空いたわ」

「噓でしょ!?」

 グラスもクレープ店へ歩いて行った。

「え、もしかしてご飯いっぱい食べた後?」

 ネイチャの問いかけに、スズカは頷いた。

「マーベラス!」

 サンデーは両手を広げた。

「確かにマーベラスだわ」

 スズカは頭を抱えた。

 

 次の日、トレセンの練習コースに、カノープスメンバーは集合していた。

「では、今後のレースに関してです。スズカさんは3月の大阪杯と宝塚記念、グラスさんは天皇賞春、ネイチャさんは天皇賞秋、スぺさんは2月のきさらぎ賞へ出走です」

 清峰は4人へ予定を伝えた。スぺは新人戦以来のレースである。GⅡレース、重賞だ。

「まずは、練習内容ですが…グラスさんとスぺさんは練習量を増やしますね」

「清峰さん、それはライバルに勝つためですね!」

 スぺは握りこぶしを胸の前で構えた。気合が入っている証拠だ。

「いえ…単純に食べすぎだからです」

 清峰の言葉に、グラスとスぺは自身の腹を見た。少しだけ服から出ている。スズカは言わんこっちゃないと額に手を当てた。

 

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