ウマ娘 彼の生きた証   作:ぽんきちたぬきまる

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2021.7.2 一部誤字を訂正


第3話

 メジロパーマー、トレセン4年目にして、爆逃げウマ娘とトレセン内で有名である。チーム無所属でありながら、GⅠレースを優勝し続けている。今年度の開催されるURAファイナルズ出場が有力視されている。

 そんな彼女だが、1年目の戦績は散々なもので、新人戦に4連敗し、良くない記録を作ってしまう。勝てない彼女を、1年目の最初についていたトレーナーは離れてしまった。

 自分は勝てないウマ娘と決めつけ、食事も喉を通らず、練習にも身が入らなかった。

 そんな彼女に声をかける人物がいた。

 冷やかしにでも来たのだろうか。彼女はそう思うほど心が荒れていた。どんな顔の奴が来たのだろう、せめて顔ぐらいは見てやろうとパーマーは振り返る。彼女は驚いた。知り合いだったからである。彼女の目の前にいる人物は、幼いころから自分と良く遊んでくれた、兄のような存在だ。

「パーマー、元気ない様子だな、辛いことはあるか?何か話でもしないか?」

 彼は、妹のような存在のパーマーに優しく言う

 パーマーと彼は近くのベンチに座り、今まであったことを話した。勝てないこと、トレーナーが消えたこと、辛いこと。

 彼女は堰を切ったかのように涙を流し始めた。相談できる相手がおらず、寂しかったのである。

 彼はそんなパーマーの頭を撫でながら、話を聞き続けた。気づけば、日は傾き始めていた。夕日が2人を差す。

 彼はパーマーに1つ提案をした。

「パーマー、俺は今年から大学生という身だ。時間は高校の時よりある。俺が、君のトレーナーになる。それにな、パーマー、最後に勝つのは、諦めの悪い奴だ」

うん、と彼女は笑顔で答えた。

 

 あれから、トレーニングが始まった。

 しかし、彼は、トレーナーの教育は少ししか受けていないため、まず、自身が勉学に励み、何が正しいか、何が、効果的か、理論的に考え、知り合いのトレーナーに兎に角聞きまわった。皆、彼の熱く、真面目な姿勢に答え、真摯に教えた。

学んだことを自分なりに解釈し、パーマーの脚質、特性に合うようにトレーニングを組み、彼女と2人3脚で進んでいった。

 1か月後の新人戦に勝利した。

 ホープフルステークスに勝利した。

 皐月賞に勝利した。

 日本ダービーは惜しくも2着だった。

 菊花賞はリベンジに燃え、1着でゴール板を駆け抜けた。

 有馬記念に勝利し、観客たちは健闘をたたえた。

 気づけばパーマーは1~3番人気にいつも入っていた。

 そして、2人は2032年度に開催されるURAファイナルズに優勝しようと意気込んだ。

 2032年3月某日、彼女は彼がトレーニング場に到着するのを待っていた。数10分前に電話でバスに乗ったことの電話が来たため、もうじきやってくるだろうと心待ちにしていた。

 その日から彼はトレセンに現れなくなった。

 

 それは、事故だった。飲酒運転の10tトラックが彼の乗っているバス後方を側面から貫いたのだ。事故を目撃した人によると、彼は幼いウマ娘を胸に抱いた状態でバスから投げ出されていた。衝撃が激しかったのだろう、大柄で強靭な肉体は大きく損傷していた。

 彼が守った幼いウマ娘は大きな外傷はなく、命に別状はなかった。

 しかし、彼は植物状態になってしまった。

 彼の父でもある主治医は、彼の心臓が動き続けていること。人工呼吸器で生命活動を維持できていること。いつか、目を覚ますかもしれないことをパーマーに伝えた。彼女は泣いた。泣き続けた。

 

 パーマーはその日から1人で走り続けた。

 彼が残したノートには、育成の事が記されており、彼女はトレーニング内容を忠実に実行した。

 レースでは彼女に、誰も追いつけない。出場したレース全て1着を取った。

 ほぼ快挙といっても過言ではなかった。

 しかし、彼女の心は喜びに満たされることは無い。

 涙は枯れてしまっていた。

 

 彼女にはトレーナーがいる。正確には居たが正しいだろう。

 彼女は今日も1人で前を走り続ける。

 

 パーマーはいつの間にか、練習中のマックイーンに声をかけてしまっていた。彼女の走り方が、彼にあまりにも似ていたからである。

 

 マックイーンは追いつけなかった。パーマーとの差は開いていくばかりだった。およそ18バ身、大差でマックイーンは敗北した。

 

「URAファイナルズ優勝候補。強かったね」

 テイオーは、マックイーンに声をかけ手に持っていた飲料水を渡した。彼女は、ありがとうと礼を言い受け取った。

「ええ、流石ですわ。でも落ち込んでいる暇はありませんわ」

 圧倒的な実力差。マックイーンはそう感じた。だが、彼女に追いつきたいという闘志は、更に燃え上がった。

「もっと練習に励みますわ!」

「僕も付き合うよ」

 マックイーンとテイオーは、グータッチをした。

 彼女達の行動は早かった。チームでの練習の他に早朝自主練を開始した。

 距離にして約4000m、どのレースより長い距離を全力疾走できれば、彼女に勝てると確信していた。

 その前に坂道での走り込み、スクワット、カーフレイズのトレーニングを行ってからだ。こちらの3つは光の提案だったりする。

 

 日が出ておらず、朝露がまだ草花に付いている時間、長い坂道を走る2人のウマ娘がいた。

「結構きついね、これは!」

 テイオーは、息が絶え絶えだった。

「あら?休んでも構いませんわよ?」

 マックイーンも息が切れかけていた

「まさか!まだまだ行けるよ!」

 テイオーは脚を速めた

「負けませんわよ!」

 マックイーンも速度を上げた。

 2人は負けず嫌いだった。

 その後、スクワットを腿の限界が来るまで行い、カーフレイズをふくらはぎが攣る寸前まで繰り返した。

 4000m走はふらふらになりながら2人は走る。互いに負けたくない意思で走り、芝の上を倒れる形で同時にゴールした。2人仲良く足を攣り悲鳴を上げる。

 悲鳴を聞きつけたゴールドシップに看病された。

 

 同日の夕刻、トレセンのカフェテラスに夕日が差す。残暑は収まることを知らなかった。

「まさか、初日から全部のトレーニングをするとは思わなかったぞ」

 光は信じられないといった顔で、マックイーンに言った。

「いやぁ…負けたのが悔しくて頑張りすぎましたわ。」

 マックイーンは、頬を搔きながら言った。

「負けたって…誰に負けたんだ?」

「メジロパーマーですわ」

 光が目を見開いた。

「そうか…あいつは強かっただろ?」

 光はにやりと笑った。

「あら?お知合いですか?」

「あいつが小さいころからよく遊んでいたからな」

 彼は練習用コースの方を見ていた。

 マックイーンはふとカフェテラスのガラスを見た。

「じゃ、俺は帰るわ。君も早く帰りな」

 マックイーンは光の方を向いて、さようならと返した。

 光はトレセンの正門へ歩き出した。

 マックイーンはもう1度ガラスを見た。

「気のせいかしら…」

 光の姿がガラスに写っていない気がしたのだ。

 

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