ウマ娘 彼の生きた証   作:ぽんきちたぬきまる

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SD 7話

 新年が明け、冬の寒さがまだ衰えぬ2月。冷たい風が吹きすさぶ。

『最終コーナー、最初にかけてきたのはスペシャルウィーク!』

『まだ1バ身以上差があるぞ!後ろの娘達は間に合うか!?』

『速い、速いぞスペシャルウィーク!後続との差を広げて行く!』

『残り200』

『スペシャルウィーク、これは圧勝ムードだ!』

『1着はスペシャルウィーク!力強い走りだ、今からこの娘の活躍が楽しみです!』

 2031年2月、スぺはきさらぎ賞へ出走し、1着を取った。

「スぺちゃん、おめでとう!」

 スズカ達が観客席より手を振る。彼女も手を振り返した。

 

 カノープスのコンテナ小屋では祝勝会が開かれていた。

「では、改めまして、スペシャルウィークさんの祝勝会を開きます!優勝おめでとう!」

 清峰を含む5人は、紙コップで乾杯した。中身はジュースだ。

 弾みを付けた彼女は、5月の日本ダービーへ出走登録を行った。

「あ」

 ネイチャが何か思いだしたかのような声を出した。彼女は小屋内のロッカーから小さめの袋4つを取り出す。

「どうしました?」

 スぺが疑問を口にする。

「ハッピーバレンタイン!」

 ネイチャはチョコレートを机に置いた。

「ああ、今日は2月14日でしたね。ネイチャさん、ありがとうございます」

 清峰は壁に掛けられたカレンダーを見ながら言う。

「とても美味しそう」

 スズカが袋の中身を見ながら呟いた。

「手作りだから…あんまり期待しないでよ」

 ネイチャは、恥ずかしそうに頬を指で掻く。

「すっごく美味しいです!ありがとうございます!」

「体に染み渡るわ…ネイチャ、ありがとう」

 スぺとグラスは笑顔で感謝の言葉を口にする。2人は既に食べていた。

「え!?もう食べているの!?」

 スズカはあまりの早さに驚く。

「…まあ、作った甲斐はあったわね」

 ネイチャは腰に手を当てた。

 

 第1グラウンドでは、スぺとスズカが走っている。

「大阪杯まで後1か月ですね!」

 スぺは隣で走るスズカへ声を掛けた。

「ええ、久しぶりのGⅠレース…負けられないわ」

 スズカは彼女の方へ顔を向ける。

「パーマーさんも出走するんですよね?」

 スズカのライバルである彼女も出走登録していた。

「ええ、警戒するのは彼女だけではないわ…ハヤヒデもよ」

 スズカと同学年、ブライアンの親類であるビワハヤヒデ。リギル所属のウマ娘だ。彼女は皐月賞、日本ダービー、菊花賞のクラシック3冠レースではパーマーとスズカに敗北している。だからと言って、油断できるわけではない。その後に出走した重賞レースは全て1着を取っている。実力は折り紙付きだ。

 

 2031年3月。風はまだ冷たいが、日差しが当たる場所は暖かい。GⅠレース大阪杯当日だ。カノープスからはスズカが出走。彼女を除くカノープスメンバーは、観客席に座っている。

 スぺは座っている位置からスズカを見ていた。彼女は入念に柔軟体操をしており、本番に備えている。そこから遠くない位置でパーマーが靴ひもを結びなおしていた。ゲートインするように放送がかかる。2人を含む出走ウマ娘たちはゲートへ歩を進めた。

『早春の阪神に最強を自負するウマ娘が集う!春の中・長距離3冠、第1弾、大阪杯』

『3番人気を紹介します。ダービーウマ娘、サイレンススズカ』

『皐月賞、菊花賞ウマ娘、メジロパーマー。2番人気です』

『今日の主役はこのウマ娘を置いて他にない。1番人気ビワハヤヒデ』

 

 ランプが点灯、ゲートが開く。

『スタートです』

『各ウマ娘、綺麗なスタートを切りました』

『先行争いはサイレンススズカとメジロパーマー』

『期待通りの結果を出せるか?ビワハヤヒデ』

『先頭を行ったのはメジロパーマー』

 パーマーが一瞬だけ減速した。

『サイレンススズカ並んできた』

『メジロパーマーとサイレンススズカ序盤から競り合っています』

『いいライバル関係になりそうですね』

 スズカが1番手に躍り出た。

『1コーナーから2コーナーへ向かう』

『サイレンススズカ快調に飛ばしていきます』

『ハナを奪っていったのはサイレンススズカ』

 彼女とパーマーの差は1バ身だ。

『続きましたメジロパーマー』

『3バ身差ビワハヤヒデ』

『すぐ後ろスーパークリーク』

『その外ならんでバイトアルヒクマ』

『2バ身後方セットユアレコード』

『続いてサンドコマンド』

『第2コーナーを抜け、向こう正面に入った』

『順位を振り返っていきます』

『現在1番手はサイレンススズカ』

『続いてメジロパーマー』

 スズカとパーマーの差は開き2バ身。

『更にはビワハヤヒデ』

『それを見るようにスーパークリーク』

『バイトアルヒクマ追走』

『更にサンドコマンド』

『少し離れてセットユアレコード』

『外にはサコッシュ』

『1バ身離れてエイシンフラッシュ』

『その後マチカネフクキタル』

『その外並んでミントドロップ』

『意気揚々と先頭を行きます。サイレンススズカ!どうでしょう、この展開?』

『サイレンススズカ、彼女の脚質には合っていますね』

『第4コーナーを進んで直線へ向かう!』

『勝負所、最後の直線へかけて行きます』

 パーマーがスパートを掛け、スズカと並んだ。

『さあ、いよいよ直線だ!どのタイミングで、誰が仕掛けるのか!?』

 パーマーが抜け出す。

『これから坂!仁川の舞台にはこれから坂があるぞ!』

『メジロパーマー!先頭はメジロパーマーだ!』

 スズカは1バ身後方。まだ先頭は狙える位置にいる。

『外から飛んできたのはビワハヤヒデ!』

 ハヤヒデはスズカを追い抜かした。

『残り400』

 パーマーとハヤヒデが並ぶ。

『メジロパーマー脚色は衰えない!』

『残り200』

『サイレンススズカ追いすがる!』

 パーマーが減速した。

『ビワハヤヒデ、ここで抜け出した!』

『ビワハヤヒデ、後続を突き放す!』

『ビワハヤヒデ、1着でゴール!』

『メジロパーマー、最後まで粘り2着!』

 パーマーは右腕を軽く上げ、観客からの称賛に答えた。その時、彼女が顔をしかめ、体がよろけた。彼女の様子がおかしかった。異常事態に気づいた光が、観客席から飛び降り彼女の元へ走る。清峰も続く。

「夕凪君!パーマーさんの右足を支えて!」

「分かりました!パーマー、俺の肩に掴まれ!」

 パーマーは救急車で搬送され診断を受けた。

 

 翌日、カノープスのコンテナ小屋にスぺは訪れていた。小屋から話し声が聞こえてくる。いけないとは思いつつ、スぺは扉にウマ耳を当て盗み聞きをした。

「スズカ…最近、貴女らしい走りができていない気がするの…」

 グラスの心配する声が聞こえる。

「そうかもしれないわ…何か引っかかりを覚えているの…」

「今度の週末に帰省しない?」

 グラスは彼女へ提案した。

「それと…スぺちゃん、盗み聞きはダメよ」

 グラスの言葉にスぺは飛び上がった。扉が開き、グラスが顔を覗かせる。

「え…えへへ…ごめんなさい」

 スぺは頬を掻きながら謝罪した。

 

 1週間後、右足をギプス固定したパーマーが、松葉杖をついて学園へ戻ってきた。隣には彼女の荷物を抱えた光が居る。

「パーマーさん!おかえりなさい!」

「やっほー、スぺ。戻ってきたよ~」

 パーマーは笑顔で言葉を返す。

「夕凪さん、パーマーさんの脚はどうだったのですか?」

 スぺは荷物を地面に置いている光に尋ねた。

「骨にヒビが入っていた…折れなかったのが奇跡って言われたよ。練習が厳しすぎたな…」

 妹の様な存在であるパーマーの負傷に、彼は落ち込んでいた。

「大丈夫だって光!カルシウムが豊富な食べ物を食べるからさ!」

 パーマーは相変わらず笑顔だった。

「あれ?スズカとグラスは?」

「2人は実家に帰っています…思い出の場所に行くとか何とか…」

 パーマーの問いかけにスぺは答えた。

 

 日差しが温かく、桜が咲き乱れる4月になった。気持ちが良いほどの晴天だ。スぺは、スズカとグラスと再会した。

「お久しぶりです!あれ?2人共…凄く吹っ切れた顔をされていますね」

 スぺの言葉に2人は顔を見合わせた。

「思い出の場所で心置きなく走ったからね」

 スズカは、スぺへウインクをした。

 スズカとグラスは用事があり、職員室へ向かった。

 

 スぺはカノープスのコンテナ小屋へ向かっている途中、練習コースに脚を運んだ。そこには、姫倉とゴルシ、ブライアンが立っており、近くには別のウマ娘が2名いた。

「姫倉さーん、こんにちはー」

 スぺが片手を上げて元気に挨拶する。

「よお、スぺ!実はチームを結成することになったんだ」

 姫倉の言葉に彼女は驚いていた。

「ほら、お前ら自己紹介!」

 姫倉に促され、2人のウマ娘が半歩前に出た。それぞれが自己紹介をする。

 赤鹿毛を2つに結んでいるのがダイワスカーレット。

 黒鹿毛で片目を隠しているのがウオッカ。

「チーム名は決まっているのですか?」

 スぺの問いかけに、姫倉はドヤ顔になりながら腕を組む。

「勿論!チームスピカだ!!」

 隣にいるゴルシが言った。

「おい!?何でお前が言うんだよ!」

 セリフを奪われた姫倉が、ゴルシの方へ顔を向ける。

「良いじゃんか、チーム名はアタシが考えたんだからよ~」

 ゴルシ案だったみたいだ。

 スカーレットとウオッカが、ゲートオープンの練習をしている。少し離れた場所でスぺとゴルシは話していた。

「ゴルシさん、何でその名前にしたのですか?」

 スぺが尋ねる。

「まあ…アタシにとって馴染みも思い出もあるからな…」

 

 スぺはカノープスのコンテナ小屋へ歩みを進める。そんな彼女をゴルシは見送っていた。

「何でスピカにしたか、ねえ…」

 ゴルシは先ほどのスぺの質問を反芻した。

「…忘れないためだ…」

 彼女は眉間にしわを寄せ、悲し気な表情だ。

 

 

「母さんが殺された、あの日の事を」

 ゴルシは、ルービックキューブを握り締めた。

 

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