ウマ娘 彼の生きた証   作:ぽんきちたぬきまる

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第4話

 数か月が過ぎ、11月下旬。時折吹くかぜは、秋の涼しさから、冬の寒さを感じさせるようになってきた。

 マックイーンは、練習を早めに切り上げ、ある場所へ向かう。病院である。

 白を基調とする建物は冬空の晴天が照らしていた。

 ウマ娘である彼女たちには定期的な検診を推奨されている。そのようになった理由は、体を酷使することでの異常の早期発見が目的である。

 マックイーンは、主治医である医師夕凪にトレーニングのことや、レース後の心臓の動悸について相談した。

 医師夕凪はそれらを聴き、心エコーなどを取り、心臓の異常は見つからなかったことをマックイーンに伝え、経過観察とするが、念のため少しでも異常があった際はすぐに受診するように話した。

 

 マックイーンは、病院を出ようとしていると、見知った人影ならぬウマ影を見つけた。

 メジロパーマーだ。

 マックイーンは、彼女に挨拶をし、貴女も定期受診ですか?と尋ねた。

「ううん、違うよ、マックイーン、実はトレーナーが入院しているんだ」

 マックイーンはそのようなことは初めて聞いたため驚いた。

 パーマーは更に続けた。

「もし、よかったら、マックイーンも来る?あの人、ウマ娘好きだから喜ぶと思うなぁ」

「お邪魔でなければ、行きますわ」

 マックイーンは、彼女に付いていった。

 パーマーのトレーナーが入院している病室に到着した。マックイーンは小声で失礼しますと挨拶をし、パーマーとともに入室する。

「よ!1週間ぶり、会いに来たよ」

 パーマーは何気なく、カーテンを開く。そこにはベットに横たわっている男性がいた。人工呼吸器と呼ばれるやや大型の装置が男性の横にあり、プラスティック製の蛇腹の管が気管切開をされた彼の喉元に接続されている。機械が少し大きな駆動音が鳴ると彼の胸元が上がり、その後下がりを繰り返している。その音は吸気と呼気の動きを繰り返している音であった。

「横にいる子はね、友達のメジロマックイーンっていうんだ」

 男性はパーマーに声を掛けられても眠り続けていた。ベッドには手作りの御守りがぶら下げられていた。

「マックイーン、この人はね、今年の3月に事故に遭ってからずっと眠り続けているの」

 主治医によると植物状態であった。

「でもね、心臓はしっかり動いているから呼吸器のサポートで何とかなってる」

 マックイーンは驚愕していた。

「パーマー、この方は…」

 彼女は声を絞り出すように、パーマーに尋ねる。彼女は目前で眠りについている男性の名前を知っていた。

「そ、私のトレーナーの…」

―夕凪光―

 今の今まで、彼女に助言を与えていた人間であった。

 先ほどのすがすがしい晴天に、雲が覆いはじめていた。

 

 その日の空は1面に雲が覆っていた。今にも雨が降りそうなほどの黒い雲である。風の寒さは、更に冷たくなり、風景を冷やす。

時刻は、昼を過ぎたあたりである。傘を片手に持ち、学園内をマックイーンは歩いていた。

 ホープフルステークスを控えた身としては、本来練習を行うべきではあるが、気がかりなことがあり、集中できなかった。彼女はある人物を探すために、カフェテラス、講堂、チームメンバーがいるコンテナ小屋様々な場所に赴いていた。

 

 彼女は立ち止まった。件の人物を見つけたからである。

 夕凪光だ。

 彼は、練習用のコースを眺めていた。

 マックイーンは、彼の足元を確認する。やはり、影が無い。今までの彼との記憶をたどれば、おかしな部分があった。ガラスに姿が反射しないこと、夕日にあてられても影すらなかったこと。もしかしたら、と思っていたことが的中しているかもしれない。いや、確信に変わっていた。

「光」

 マックイーンは、声をかける。

 やあ、マックイーンと光は挨拶を返す。

「どうした?神妙な顔をして?」

「先日、パーマーとともに彼女のトレーナーの見舞いに行きました」

 マックイーン伏目がちで、光に伝えた。

「そうか、てことは、起きない俺の本体を見たのか」

「やはり、貴方は…」

 光はマックイーンのもとへ歩き出し…彼女にぶつかることなくすり抜けた。

「今の俺は魂だけ飛び出た霊体の状態だ。」

 マックイーンの予想は、あたっていた。

「すげぇだろ?俺の心臓まだ元気に動いてんだぜ?まあ俺のことはいいや、マックイーン、ホープフルステークス勝てよな」

「貴方にはまだ色々聞きたいことがありますわ。レースが終わったらまた聴きに来ますわ」

 マックイーンは練習のため体育館へ向かった

 

 光にはわからない点が1つあった。なぜマックイーンは自分を視認できるのか。ほかの娘たちは、認識すらできていなかった。霊感のあるマンハッタンカフェでさえ、ぼんやりとしかわからなかったし、声もあまり聞こえていない様子だった。

 なぜだ?と光は呟きながら、顎に手を当てた。彼が考え事をする際の癖である。

空模様は更に暗くなっていた。

 

 レース当日、

『誰をも魅了し、心を奪う希望の星が誕生するホープフルステークス』

『3番人気にはトーセンジョーダン』

『この評価は少し不満か?2番人気はこの娘、ウイニングチケット』

『威風堂々とスタートを待つのはこのウマ娘、本日1番人気のメジロマックイーン』

『ゲートイン完了、出走の準備が整いました』

『今スタートが切られました』

『各ウマ娘、綺麗なスタートを切りました』

『みんな集中してましたね、好レースが期待できそうです』

『先頭争いはマヤノトップガン、ジャラジャラ』

『マヤノトップガン快調に飛ばしていきます』

『2番手の位置で先頭を窺うのはテイクオフプレーン』

『ジャラジャラ並んでくる』

『第1コーナーから2コーナーへ向かう』

『さあ、ハナに立ったのはマヤノトップガン、このままリードをキープできるか?』

『差がなくテイクオフプレーン』

『激しい先頭争い』

『ジャラジャラ3番手』

『内から、内から1番人気メジロマックイーン』

『内を回りますトーセンジョーダン』

『1バ身差、ブレブリーコウ』

『およそバ身開いてキングヘイロー』

『ウイニングチケット並んできた』

『向う正面入って先頭はマヤノトップガン』

『順位を振り返っていきます』

『先頭は依然、マヤノトップガン、2バ身リード』

『続きました。テイクオフプレーン』

『2バ身差ジャラジャラ』

『少し離れてメジロマックイーン』

『そしてその外を回ってトーセンジョーダン』

『キングヘイロー並んできた』

『1バ身差ウイニングチケット』

『2バ身、3バ身開いてステンツ』

『第4コーナーカーブ』

『ここからスパート!1気にレースが動きます!』

『勝負は最後の直線に持ち越された!』

『まだ差があるここから先頭をとらえる娘はでてくるのか!』

『最後のコーナー、先頭を切ったのはマヤノトップガン』

『マヤノトップガン、速い!速い!もはや独走状態!』

『メジロマックイーン食い下がる』

『メジロマックイーン凄い末脚だ』

『残り200』

『メジロマックイーン並んできた』

『メジロマックイーン抜け出した』

『メジロマックイーン突き放す!』

『メジロマックイーン!強い走りだ!このレースの主役は間違いなくこの娘でした!』

『メジロマックイーン、1等星の輝きをみせクラシックへと繋がる道へ第1歩踏み出した!』

 

 マックイーンは勝った。初のGⅠで勝利したのだ。

 全力疾走したせいか、胸のドキドキが止まらない彼女は、緊張と興奮でそうなっていると思っていた。応援に来ていたトウカイテイオー達のもとへ向かう

 足が重い。

 視界が暗い

 みんなの声がなぜか聞こえない

 前へ進みたいのに進めない

 何かがおかしい

 マックイーンが自身の異常に気付いたその時

 視界が暗転した。

 雨が降り始めた。

 

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