光は、薄暗い空間にいた。彼は、植物状態になり、霊体での活動ができるようになってから、不思議なことはいくつかあったが、このような場面は初めてだ。足元を見ると、瑞々しい草花が地面より生えている。ここは?と彼は疑問に感じた。このような所に来た覚えはない。彼はホープフルステークスに出場したマックイーンの倒れた場面を目撃し、その後暗転して、今に至る。
「何が起きている?」
―やっと会話ができますわね―
頭に誰かの声が響く。
「どちら様で?魂を回収に来た死神か何かか?」
光の前方、薄暗い草原から、誰かが歩いてくる。シルエットはウマ娘の様だった。彼は歩いてくる彼女を見ていた。そのウマ娘は光の近くまで来た。顔が見えた。
「マックイーン…?」
メジロマックイーンだ。
先ほど倒れたはずのマックイーンだった。
「君、どうして、さっき倒れたのに…体は大丈夫なのか!?」
―私は、貴方が知るマックイーンではありません―
は?何言ってんだ?と光は思った。
―そう考えるのも、無理はありません―
「驚いた、俺の心が読めるのか…?」
光の前にいるマックイーンは、言葉をつづけた。
―単刀直入に伝えます。私は貴方の前世です。―
光は、驚愕した。彼は輪廻転生のことを、作り話と思っていたからだ。
―いえ、正確には…貴方は私の半分に分かれた存在―
「半分だと?その話が本当だと言うなら、もう1つの片割れはどこにいる?」
光は相手が心が読めるとわかっていながら、疑問を口にした。
―貴方の片割れは、貴方が出会ったメジロマックイーンですわ―
彼女は一呼吸を置いた。
―先ほどの質問に答えますわ。貴方と、マックイーンは2つの魂に分かれました。そして貴方は、メジロマックイーンの一部を持って生まれました―
一部?と光は、彼女にオウム返しで尋ねる。
―心臓です。―
光は胸に手を当てた。
―貴方は彼女の心臓を持って生まれ、マックイーンは心臓以外の因子をもって生まれた―
―あの娘が霊体である貴方を視認できたのは、互いが持つ因子が共鳴していたからですわ―
だから彼女は俺のことが見えていたのかと、光は納得した。
そして、と前世のマックイーンが続ける。
―あの娘はもうじき亡くなります。―
「助ける方法はあるか?大方予想はつくが」
―それは…―
「マックイーン!」
テイオーの焦った声が響く。彼女はマックイーンが倒れた瞬間、カバンを投げ捨て、観客席を脚力で飛び越え彼女のもとへ走った。そして、お気に入りの服が汚れることも気にせず膝を付けた。雨でぬれた地面の冷たさが伝わってくる。
テイオーは、学園で学んだ応急処置を必死に思い出していた。
首元に指を当て、頸動脈を蝕知する。まったく触れない。
耳を彼女の胸にあてつつ口元見て、鼓動と呼吸を確認する。心臓も呼吸も音が聞こえなかった。
レースに出場していたウマ娘は、事態の衝撃さに動けずにいた。
救護スタッフでさえ、状況が吞み込めていなかった。
「AEDと救急車を早く!!」
テイオーは叫ぶように救護スタッフへいうと、マックイーンへ心臓マッサージを行った。
「マックイーン!マックイーン!しっかりして!」
テイオーは彼女に必死に呼びかけた。彼女の顔は雨とテイオーの涙で濡れていた。
彼女は、すぐに病院に搬送され、処置を受けた。
病院の待合室にて、4人のウマ娘と男性が1人が居る。
トレーナーである姫倉は電話で、マックイーンの家族へ説明している。
「マックイーンが何で!?どうしてだよ!」
いつも飄々としているウオッカが顔を青ざめさせていた。
「わからない、レース前はあんなに元気だったのに…」
共にレースを見ていたダイワスカーレットは、当時の状況を思い返していた。
「やめろ、2人とも、ここでマックイーンのことを言うな。」
ゴールドシップが、2人に釘を刺す。
「今、この場で1番つらいのはあいつだ」
ウオッカとスカーレットは、後ろのソファで膝を抱えて座っているウマ娘を見た。
トウカイテイオーだ。
彼女は食事をあまりとれていないのであろうか、やつれていた。
「マックイーン…」
テイオーは、弱弱しく友人の名前を口にした。
イクノディクタスは目を覚まし、時計を見た。深夜2時。彼女はあまり夜寝付くことができなかった。その証拠に、目元にはクマが浮かんでいた。顔を横に動かすと、隣にもベッドが見えたがルームメイトの姿はなかった。
ツインターボは、練習用コースを走っている。いつも走っているときは楽しいはずなのに、まったく楽しくなかった。いつも笑顔でいる彼女とは想像がつかない程、暗い表情をしていた。
マックイーンは一命を取り留めた。彼女が目を覚ましたのは5日後だ。白く、清潔感の溢れる病室だった。
その後、医師夕凪、メジロ家関係者たちはマックイーンの病室に来た。
「マックイーンさん、一命を取り留めてよかったです」
医師夕凪は彼女に声をかける。
「ご迷惑をおかけしました」
彼女は弱弱しく返答した。
「あの、先生、私に一体何が…?」
尋ねられた医師は、自身の眼鏡の位置を調整した。。
「マックイーンさん、そして御家族の皆さん、今からいうことをしっかり聞いてください」
医師夕凪は、マックイーンの目を見据えていった。
「貴女の心臓は…今も弱り続けています」
マックイーンは驚愕した。もう走れないのかと、ウマ娘として、メジロ家の使命を果たせないのかと。
「先生、私、頭が追いつきません、なぜ、心臓が…」
「マックイーンさん、念のため、各組織を1部取り、因子検査を実施しました」
「結果は…?」
「心臓のみ人間のモノです」
そして、と医師夕凪は言葉を続けた。
「マックイーンさん、貴女の心臓は近いうちに限界を迎えます」
彼女は嘘だと思いたかった。
「娘がもうじき亡くなる…本当なのですか?先生。」
彼女の父、遥が声を震わせていた。
「はい、彼女の心臓は人間そのもの、ウマ娘の肉体を十分に機能させることができません。既存の人に使用する人工心臓では彼女を補助すら困難です」
ですが、と彼は言葉を続けた。
「1つ、助かる方法があります」
外は雨が降り続いていた。