ウマ娘 彼の生きた証   作:ぽんきちたぬきまる

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第5話

 光は、薄暗い空間にいた。彼は、植物状態になり、霊体での活動ができるようになってから、不思議なことはいくつかあったが、このような場面は初めてだ。足元を見ると、瑞々しい草花が地面より生えている。ここは?と彼は疑問に感じた。このような所に来た覚えはない。彼はホープフルステークスに出場したマックイーンの倒れた場面を目撃し、その後暗転して、今に至る。

「何が起きている?」

―やっと会話ができますわね―

 頭に誰かの声が響く。

「どちら様で?魂を回収に来た死神か何かか?」

 光の前方、薄暗い草原から、誰かが歩いてくる。シルエットはウマ娘の様だった。彼は歩いてくる彼女を見ていた。そのウマ娘は光の近くまで来た。顔が見えた。

「マックイーン…?」

 メジロマックイーンだ。

 先ほど倒れたはずのマックイーンだった。

「君、どうして、さっき倒れたのに…体は大丈夫なのか!?」

―私は、貴方が知るマックイーンではありません―

 は?何言ってんだ?と光は思った。

―そう考えるのも、無理はありません―

「驚いた、俺の心が読めるのか…?」

 光の前にいるマックイーンは、言葉をつづけた。

―単刀直入に伝えます。私は貴方の前世です。―

 光は、驚愕した。彼は輪廻転生のことを、作り話と思っていたからだ。

―いえ、正確には…貴方は私の半分に分かれた存在―

「半分だと?その話が本当だと言うなら、もう1つの片割れはどこにいる?」

 光は相手が心が読めるとわかっていながら、疑問を口にした。

―貴方の片割れは、貴方が出会ったメジロマックイーンですわ―

 彼女は一呼吸を置いた。

―先ほどの質問に答えますわ。貴方と、マックイーンは2つの魂に分かれました。そして貴方は、メジロマックイーンの一部を持って生まれました―

 一部?と光は、彼女にオウム返しで尋ねる。

―心臓です。―

 光は胸に手を当てた。

―貴方は彼女の心臓を持って生まれ、マックイーンは心臓以外の因子をもって生まれた―

―あの娘が霊体である貴方を視認できたのは、互いが持つ因子が共鳴していたからですわ―

 だから彼女は俺のことが見えていたのかと、光は納得した。

 そして、と前世のマックイーンが続ける。

―あの娘はもうじき亡くなります。―

「助ける方法はあるか?大方予想はつくが」

―それは…―

 

「マックイーン!」

 テイオーの焦った声が響く。彼女はマックイーンが倒れた瞬間、カバンを投げ捨て、観客席を脚力で飛び越え彼女のもとへ走った。そして、お気に入りの服が汚れることも気にせず膝を付けた。雨でぬれた地面の冷たさが伝わってくる。

 テイオーは、学園で学んだ応急処置を必死に思い出していた。

 首元に指を当て、頸動脈を蝕知する。まったく触れない。

 耳を彼女の胸にあてつつ口元見て、鼓動と呼吸を確認する。心臓も呼吸も音が聞こえなかった。

 レースに出場していたウマ娘は、事態の衝撃さに動けずにいた。

 救護スタッフでさえ、状況が吞み込めていなかった。

「AEDと救急車を早く!!」

 テイオーは叫ぶように救護スタッフへいうと、マックイーンへ心臓マッサージを行った。

「マックイーン!マックイーン!しっかりして!」

 テイオーは彼女に必死に呼びかけた。彼女の顔は雨とテイオーの涙で濡れていた。

 

 彼女は、すぐに病院に搬送され、処置を受けた。

 病院の待合室にて、4人のウマ娘と男性が1人が居る。

 トレーナーである姫倉は電話で、マックイーンの家族へ説明している。

「マックイーンが何で!?どうしてだよ!」

 いつも飄々としているウオッカが顔を青ざめさせていた。

「わからない、レース前はあんなに元気だったのに…」

 共にレースを見ていたダイワスカーレットは、当時の状況を思い返していた。

「やめろ、2人とも、ここでマックイーンのことを言うな。」

 ゴールドシップが、2人に釘を刺す。

「今、この場で1番つらいのはあいつだ」

 ウオッカとスカーレットは、後ろのソファで膝を抱えて座っているウマ娘を見た。

 トウカイテイオーだ。

 彼女は食事をあまりとれていないのであろうか、やつれていた。

「マックイーン…」

 テイオーは、弱弱しく友人の名前を口にした。

 

 イクノディクタスは目を覚まし、時計を見た。深夜2時。彼女はあまり夜寝付くことができなかった。その証拠に、目元にはクマが浮かんでいた。顔を横に動かすと、隣にもベッドが見えたがルームメイトの姿はなかった。

 

 ツインターボは、練習用コースを走っている。いつも走っているときは楽しいはずなのに、まったく楽しくなかった。いつも笑顔でいる彼女とは想像がつかない程、暗い表情をしていた。

 

 マックイーンは一命を取り留めた。彼女が目を覚ましたのは5日後だ。白く、清潔感の溢れる病室だった。

 その後、医師夕凪、メジロ家関係者たちはマックイーンの病室に来た。

「マックイーンさん、一命を取り留めてよかったです」

 医師夕凪は彼女に声をかける。

「ご迷惑をおかけしました」

 彼女は弱弱しく返答した。

「あの、先生、私に一体何が…?」

 尋ねられた医師は、自身の眼鏡の位置を調整した。。

「マックイーンさん、そして御家族の皆さん、今からいうことをしっかり聞いてください」

 医師夕凪は、マックイーンの目を見据えていった。

「貴女の心臓は…今も弱り続けています」

 マックイーンは驚愕した。もう走れないのかと、ウマ娘として、メジロ家の使命を果たせないのかと。

「先生、私、頭が追いつきません、なぜ、心臓が…」

「マックイーンさん、念のため、各組織を1部取り、因子検査を実施しました」

「結果は…?」

「心臓のみ人間のモノです」

 そして、と医師夕凪は言葉を続けた。

「マックイーンさん、貴女の心臓は近いうちに限界を迎えます」

 彼女は嘘だと思いたかった。

「娘がもうじき亡くなる…本当なのですか?先生。」

 彼女の父、遥が声を震わせていた。

「はい、彼女の心臓は人間そのもの、ウマ娘の肉体を十分に機能させることができません。既存の人に使用する人工心臓では彼女を補助すら困難です」

 ですが、と彼は言葉を続けた。

「1つ、助かる方法があります」

 外は雨が降り続いていた。

 

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