ウマ娘 彼の生きた証   作:ぽんきちたぬきまる

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第6話

 医師である夕凪宏は、病院へ搬送されたマックイーンの処置行った。その後、彼は家へ戻り、あることをずっと考えていた。

「どうすればあの娘を助けられるのだ…」

 宏は仏壇の妻の遺影へ声をかけた。宏が考えていたことは、マックイーンの心臓に関してである。彼女の心機能は、著しく低下していた。

 知り合いのウマ娘博士の双マに相談した。彼より、念のため、彼女の心組織の因子を確認したいと連絡があった。採取した組織を彼の研究所に送り、1日もかからないうちに結果が返ってきた。マックイーンの心臓は、因子を持たない人間のものであるとわかった。

 ウマ娘の強靭な肉体に、十分な血液を送るには、同じく強靭な心臓が必要だ。全力疾走をたとえせずとも、人間の心臓、それも弱った状態では、日常生活は送れない。

 おそらく、彼女は近いうちに亡くなる。

 彼は息子のアルバムを見ていた。少しでも、現実から逃避したかったからである。 写真を見るたびに、息子の声を思い出す。

―とうちゃん!みてみて!かにさん、つかまえたっ!―

―とうちゃん!かけっこでいちばんとったよっ!―

―持久走で1番だってよ!俺ウマ娘にかてんじゃないの?―

―成績は数学系以外、悪いけどよ、なんとかなるって!―

 そう言えばあの子は人にしては驚異的な体力を持っていたなと…

 宏は思い出に耽りながら眠りについた

 

「ここは…?」

 宏は広く、緑生い茂る草原に立っていた。おそらく、夢であると実感していた。不思議なものだと彼は思った。ふと、自分に歩いて近づく人影に気づいた。

宏は振り返った。そして驚いた。そこには息子が居た。

「よう、父さん、こうして会うのは半年以上ぶりだな、やつれてんな、食事とってるか?」

 息子は、依然と変わらない笑顔で挨拶をした。

「光なのか…?これは…ああ、夢だ。夢に違いない」

 宏は目の前にいる息子は自身の夢が作った存在と考えた。

「父さん、落ち着け。俺の肉体は、話ができる状態じゃない。だから、精神世界内で会話しようと思った次第だ。」

 光は父に説明した。自身が植物状態になってから、魂のみで行動していたこと、そこでマックイーンに出会ったこと、かつての自分の前世はマックイーンであったこと。など様々話した。

「光、事情は理解した。だが…なぜ…」

「こうした会話の場を設けたことだろ?」

 光はさらに言葉をつづけた。

「単刀直入に言う、俺の心臓を、マックイーンに移植してほしい。このままでは、あの娘が持たない」

「お前の言うことは分かる…だが、お前は目を覚ますかもしれないのだぞ!?」

 宏は知らずのうちに声を荒げていた。

 光は人工呼吸器によるサポートが必要である。しかし、今もなお、心臓は鼓動を刻んでいる。親であるならば、子供は今も生きており、死んではいないと考えてもおかしくはない。

 ウマ娘であるマックイーンに心臓を移植すれば彼女は助かるだろう。しかし、息子はその後どうなる?それこそ本当の死であると、宏は思考を巡らせた。

 その父の様子を見て、光は安堵の表情を浮かべた。

「やっぱり、父さんは優しいや、父さんの養子でよかったよ。本当に」

 光の姿が薄くなり始め、彼の後ろの景色が見え始める。

「光!!」

「やっべ、夢へ介入できる時間が残り少ねぇ。父さん、これだけは言わせてくれ!」

 光は最高の笑顔で父に伝えた。

―今までありがとう。そして、俺はウマ娘の役に立ちたい!―

 

 宏は目を覚ました。彼はベランダへ出た。冬のため、日の出が遅く、冷たい風と雨が宏にかかる。

「光、お前の決意は父さんに届いたぞ」

 覚悟を決めた顔だった。

 

 その2日後、雨粒は更に大きくなり、病院の外壁に打ち付けられていた。

 医師室に人影が2つあった。1つは医師である夕凪宏。もう1つは、ウマ娘の因子を研究している博士、双マ仁であった。

「あの子が言っていたことは本当だったのだな…」

 夕凪宏はつぶやいた。数日前にかけた植物状態の息子の心組織の因子検査結果がでたのだ。

「先生、いきなり、息子さんの心組織の一部を因子検査にかけてほしいといったときは、正気を疑いましたが…」

 まさか、このようなことがあるとは…ウマ娘博士、双マは呟いた。

「夕凪先生、何度も検査はかけましたが、結果はすべておなじでした」

 医師夕凪が持っている検査結果紙にはさまざまな数字が羅列していた。最終段には文字が書かれていた。因子がどのウマ娘か記載される部分である。

そこには【メジロマックイーン】と記載されていた。

 そしてと博士は付け足す。

「その検査結果がでてから、色々と考察しました。先生、因子とウマ娘の関係はご存じですね?」

「ええ、同じ時間軸に、同じウマ娘は生まれてこない、ですよね。」

「そうです。今回のケースは初めてです。そして、こう考えられます。」

―息子さんはマックイーンの心臓をもって生まれ

 心臓以外の因子を持つマックイーンが生まれたー

「念のため、マックイーンさんの各組織の因子と照らし合わせましたが、すべて一致しました」

 やはりと、医師夕凪は思った。

「先生、まさかとおもいますが…」

「そのまさかです。マックイーンさんを助けるには息子の心臓を移植させる以外ありません」

 医師夕凪は、宏は覚悟を決めた顔でいった。

「わかりました。先生、私はこれ以上、どうこう話すことはできません。貴方がどのような選択を取ったとしても、誰も責めないでしょう」

 博士は医師夕凪へそう伝えると部屋を後にした。

 

 場面はマックイーンのいる病室へ戻る…

「先生、それはほんとうですか!?」

 メジロ家、マックイーンの両親がうれしそうな声色で驚愕する。娘が助かる方法がある、喜ばないわけがなかった。

「はい、この病院に植物状態になった方が入院しています。その方の心臓を因子検査したところ、マックイーンさんの因子を持つことがわかりました」

 医師夕凪は答えた。

 マックイーンは嫌な予感がした。

「しかし、その方のご家族にその件は伝えないと…もし、拒否されたなら…」

 マックイーンの母、凛が尋ねる

「その必要はありません」

 医師夕凪の言葉に全員が顔を上げる

「その人物は、私の息子です」

 医師夕凪は更に続けた。

「マックイーンさんは助かります。おそらくですが、移植後、治療、リハビリを行えば、レースへ出場もできるでしょう」

「先生、本当によろしいのですか?確かに、私たちは、娘のマックイーンが助かってほしいと思っています。貴方の息子さんなのですよね?」

「私の息子は言っていました。ウマ娘の役に立ちたいと、今あの子の願いを叶えることができます」

 医師夕凪は凛へ返答した。

「先生」

 マックイーンの父、遥は医師夕凪に声をかけた。

「娘をよろしくお願いいたします」

 空は泣くかのように雨の激しさを増した。

 

 移植はURAファイナルズ決勝同日、急遽決まった手術、医療スタッフは緊急ミーティングを行い、当日の手術に備えた。

 

 冬の日の入りは早い。17:00を過ぎれば、辺りは暗くなり、街灯が道を照らしていた。

 マックイーンは薄暗い病室で体を起こしていた。

 彼女のいる病室に誰かが入って来た。ドアすら開けた音が聞こえなかった。だが、マックイーンは誰が来たかわかっていた。

「光」

 夕凪光だった。彼は霊体のためカーテンをすり抜けマックイーンの前まで来た。

「俺の父から話は聞いたか?」

「貴方は本当に良いのですか?」

 光は肩をすくめた。

「当たり前だろマックイーン、よく考えろ、目覚めるか不明な俺と、移植をすれば助かる君」

 間違いなく助かる方を選ぶだろ?

 マックイーンは彼が生きることに執着していないと感じた。

「なぜ…」

 マックイーンの声は震えていた。

「諦めているのですか?」

 マックイーン自身は助かりたいと思っていた。しかし、心臓を提供予定の光は植物状態ではあるが、こうして霊体でも活動している。移植のため、心臓を取り外された彼は、消滅してしまうのでは、と考えてしまった。

「マックイーン、俺は諦めていない。諦めが悪い人間でね」

 光はベッドで上体を起こしている彼女に、目線を合わせるため中腰になった。

「俺は死なない、君の心臓となって生きる」

 

 手術10日前、マックイーンの元にプレゼントが届いた。同じクラスの娘、チームスピカからの応援メッセージだった。もう1つ大きめの箱がある。彼女はそれを開けた。そこには、テイオー、イクノ、ターボからのメッセージ付きの小型の色紙だった。その他に立派な手作りマフラーが入っていた。マフラーに紙がついていた。そこには、〈寒くなるからこれでも巻いとけ、頑張って編んだぞ ターボより〉と記載されていた。どうやらターボは手先が器用らしい。

 マックイーンは、マフラーを広げた。マフラーには〈脳筋!〉という言葉も編んであった。彼女は笑みが零れた。そんなマフラーから更に小さい紙が落ちる。それには〈因みに、僕は脳筋という言葉には反対しました テイオー〉と書かれていた。

 マックイーンは、友人達の温かさに泣きそうになった。

 

 いまだに雨が病院の外壁に打ち付けている。とある病室にウマ娘がいた。メジロパーマーだ。彼女は今も尚、目を覚まさないトレーナー、夕凪光の傍にいた。

「光、URA予選突破したよ、君が言っていた通り、油断なく準決勝に行ってくるね」

 面会時間終了の音楽が流れる。パーマーは、荷物を纏め院外へ出た。傘を差し歩いていると、とある人物に声を掛けられた。

「あの…メジロパーマーさんですよね?」

 まだ11歳ほどのウマ娘だった。

「君は確か…サトノダイヤモンドちゃんだったよね?」

 光が身を呈して守り抜いたウマ娘だった。

「あの人は…まだ…」

 ダイヤは下を俯いた。

「大丈夫、ダイヤちゃんのせいじゃないよ」

 パーマーは、ダイヤの頭を撫でた。かつて彼がパーマーにしてくれた様に。

「あの人はどうなっちゃうんですか?」

 ダイヤはパーマーに尋ねた。パーマーは返答に困った。彼はURAファイナルズ決勝の日、2033年1月7日に移植手術のため、心臓を取り外される。まだ、この年齢の娘に話すのは残酷だと…

 

「…心配しないで、あの人は大丈夫だよ…」

 パーマーは嘘をついた。

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