ウマ娘 彼の生きた証   作:ぽんきちたぬきまる

7 / 30
第7話

 2033年1月6日の夕方、メジロパーマーは、植物状態である夕凪光の元を訪れた。

「光、明日、URAファイナルズ決勝だよ。頑張ってくるね」

 彼は目を開けることはない。あれだけ活発だった彼を見ることが出来なくなった。そして、今度は彼の姿を見ることが出来なくなる。ついに明日、彼の心臓はメジロマックイーンに移植されるのだ。

 

 雨は予想以上に続いていた。

 2033年1月7日、URAファイナルズ決勝当日、予選、準決勝を1着で突破したパーマーは、レースに向けて精神を整えていた。

「今回のレースもしっかりと前に出て、爆逃げ。」

 いつも実行している作戦を思い出していた。

「大丈夫。私ならできる。できる。」

 パーマーは自身を振るい立たせていた。いや、奮い立たせなければならなかった。

 先日、光の父である、主治医から伝えられた言葉を思い返していた。

―もうマックイーンさんに時間がありません。彼女に、光の心臓を移植します―

 光とは、彼とは、2029年からの相棒であった。

 彼と2人3脚で練習、レースを乗り越えてきた。

 そして、2032年3月彼は事故に遭い、目を覚まさなくなった。

 彼女は毎週彼の見舞いに行き、1週間の出来事を眠る彼に話した。

 目を覚まさないと頭では、理解していた。だが、彼は生きていると心が否定していた。

『レース出場のウマ娘たちは、パドック前に集合をお願いします』

 案内が流れてくる。パーマーは立ち上がり、歩き出した。

 

『さあ、満を持しての登場!1番人気サイレンススズカ』

『実力は完全に上位ですね。彼女が得意とする逃げを、思う存分発揮してほしいですね』

 

 異次元の逃亡者、サイレンススズカ

 皇帝、シンボリルドルフ

 芦毛の怪物、オグリキャップ

 不死鳥、グラスワンダー

 怪鳥、エルコンドルパサー

 世紀末覇者、テイエムオペラオー

 白い稲妻、タマモクロス

 など、レースの出場するのは、此処まで勝ち残った強者たちだった。

 

 場所が移され、URAファイナルズレース場、レースに出場するウマ娘が集結していた。

『ついにここまで来ました。URAファイナルズ決勝戦!』

『ここに最強のウマ娘の座をかけた最終レースが今、始まります!』

『全ウマ娘ゲートイン完了。出走準備整いました』

 

 開始を知らせるランプが点灯、ゲートが開く。

 集中力を発揮し、パーマーはスタートダッシュを決める。

『各ウマ娘、綺麗なスタートを切りました』

『これは位置取りが熾烈になりそうですね』

 彼女は先頭に立つ

『サイレントスズカとメジロパーマー、このふたりが競り合っているぞ』

 スズカも並んでくる

『サイレンススズカ快調にとばしていきます』

 パーマーは、彼との出来事を思い出していた。

『2番手の位置で先頭を窺うのはメジロパーマー』

 トレーナーになると言ってくれたこと。

『8バ身差オグリキャップ』

 苦手な本を熟読し、色々なトレーナーに聞いて回ったこと。

『4番手シンボリルドルフ』

 初めて勝利した新人戦、2人で抱き合って喜んだこと。

『すぐに続いてグラスワンダー』

 ホープフルステークスを1着でゴールしたこと。

『向う正面に入って、先頭からシンガリまでおより13バ身』

 皐月賞で圧勝したこと。

『さあ、ハナに立ったのはサイレンススズカ、このままリードすることができるか』

 日本ダービーは惜しくも2着で、その後のトレーニングが鬼の様に大変になったこと。

『続いて、メジロパーマー』

 そのおかげで菊花賞は1着でゴール板を駆け抜けたこと。

『1バ身離れてオグリキャップ』

 有馬記念は油断なく調整し、ぶっちぎりの1位だったこと。

『その外ならんでグラスワンダー』

 いつの間にか3番人気以内になっていたこと。

『シンボリルドルフ追走』

 そして、彼が事故で目を覚まさなくなったこと。

『スーパークリーク外からゆく』

 サイレンススズカとメジロパーマーの距離が、少しずつ離されてゆく…

『少し後ろからエルコンドルパサー』

 後続との差は縮まってゆく。

『テイエムオペラオーならんできた』

 パーマーの横にはオグリキャップが並ぶ。

『1バ身差エイシンフラッシュ』

 シンボリルドルフに追い抜かれた。

『後方2番手にタマモクロス』

 パーマーの順位が少しずつ落ちてゆく。

『サイレンススズカ先頭を進みますが、これは正解でしょうか?』

 パーマーは、スタミナのほとんどを使い果たしていた。

『サイレンススズカ彼女の脚質には合っていますね』

 スズカについていこうと、無理なペースで走ったためである。

『4コーナーへこの直線で勝負が決まるぞ』

 パーマーの脚が前を行かない。

『集団が1つにまとまって、混戦状態です。』

 パーマーは更に減速していた、スタミナが尽きたのだ。

『前に抜け出すのは容易じゃなさそうですね』

 気づけば前には5人もいた。

『さあ、外から先頭を窺うのはシンボリルドルフ』

 あぁ…もうだめだ、とパーマーはあきらめを悟った。

『サイレンススズカ、ハナを進む』

『誰が最初に仕掛けるのか!?』

『シンボリルドルフ2番手につけ、様子を見守る』

『最後のコーナー、最初に立ち上がってきたのはサイレンススズカ』

『残り400』

『サイレンススズカ、突き放す。』

『速い、速い、もはや独走状態!』

―パーマー―

『リードを開いてゆくサイレンススズカ!リードは5バ身差』

―最後に勝つのは―

『サイレンススズカ、ここで一気にちぎるか!?』

―諦めの悪い奴だ―

『残り200』

 彼の声が聞こえた。

『シンボリルドルフ食い下がる!』

 知らず知らずのうちに、脚が前を進んでいた。

『メジロパーマー並んできた!…並んできた!?』

 パーマーは、先ほど感じていた疲れを、何故か感じなかった。

『メジロパーマー抜け出した!』

 彼女の加速は止まらない。

『メジロパーマー、リードは3バ身!』

 ゴールは目前だった。

『1着はメジロパーマー!今ここに、URAファイナルズ初代チャンピオンが誕生した!!!』

 パーマーの頬を伝うのは、雨ではなく、枯れたはずの涙だった。

 

 メジロパーマーは勝った。

 その様子を光は見ていた。例え、彼女に姿が見えなくても、声が聞こえなくても、全力で応援していた。

 光は自身の姿が、徐々に薄くなっていることに気が付いた。今、病院では、彼の心臓は取り外され、マックイーンに移植されているだろう。マックイーンに移植されれば、自我は消滅してしまうと予測していた。

 その予測は当たっていた。今もなお、彼の姿は薄くなり続けていた。

―俺の夢、叶ったぞ…ウララちゃん―

 彼は、霊体としての活動限界を迎えた。

 

 パーマーはインタビューを終え、優勝会見に出るため、地下通路を歩んでいた。

「ねえ、光そこに居るの?」

 彼女は不意に声をかけた。近くに彼が居る気がしたのだ。

「私、勝ったよ、優勝したよ、君との約束を果たしたよ。それから…」

 彼女は、一呼吸をおいて言葉を続けた。

「ありがとう…私をずっと支えてくれて…最高のトレーナーだったよ!!」

 パーマーは会見場へ走り出した。

 地下通路には、彼女の走る音以外何も反響しなかった。

 

―パーマー、優勝おめでとう…―

 雨は止んでいた。

 

 流石冬空といえるほど雲1つない天気だった。窓から日光が差す。

 マックイーンは目を覚ました。手術は成功したのだ。心臓の鼓動が聞こえてくる。自身だけではない、彼の、光の鼓動でもあるのだ。

 彼の生きた証はここに存在する。

 

エピローグ

 第1回URAファイナルズから3週間後。

 トレセン近くの病院のリハビリセンターで、機能訓練を行っているウマ娘がいる。

 メジロマックイーンだ。

 心臓移植手術後の彼女は良好で、驚異的な回復をみせていた。

 そんな彼女の近くで、応援しているウマ娘がいる。

 トウカイテイオーだ。

 彼女は依然のやつれ具合が、嘘のように笑顔が溢れ、元気溌剌だった。友人であるマックイーンの手術が成功し、再び歩けるようになったからである。

 

 栗毛寮の部屋の一画を飾り付けしているウマ娘がいる。

 イクノディクタスだ。

 彼女はルームメイトであるマックイーンが1週間後帰ってくるため、歓迎の準備をしていた。ターボが書いた〈マックイーン退院おめでとう〉の紙を壁に張った。中々達筆であった。飾り付けを終えたイクノは、マックイーンが、好きだという銘柄のお菓子を彼女の机に置いた。彼女の目元のクマは無くなっていた。

 

 寒空の下トレセンの練習用コースで、走り込みをしているウマ娘がいる。

 メジロパーマーだ。

 彼女が参加予定の大会まで2か月程度あり、周りは少しぐらい休んでも問題ないのではと、心配していた。しかし、彼女は走りたくて仕方なかったのである。

 そんな彼女の前に、仁王立ちで待ち構えているウマ娘がいる。

 ツインターボだ。

 ターボを確認したパーマーは、彼女の前で止まった。

「ツインターボだっけ?どうしたの?」

 パーマーに声を掛けられた彼女は、フフフと笑った。

「メジロパーマー!!」

 ターボは腹から声を出した。元気が戻った様子だった。

「あんたの走りを見て、ターボは感動し、尊敬した!!」

 ありがとうとパーマーは笑顔で答える。

「だから、ターボは、あんたに弟子入りしたい!いや、する!!」

 元気のある娘だと、パーマーは思った。

「ターボ、私の練習はキツイぞ、ついてこられるかな?」

「ついていくさ!喰らいついてやる!」

 パーマーとターボは並んだ。今から共に走り出すからである。

「ターボ、弟子である君に、今から良いことを教えてあげる」

ー最後に勝つのは、諦めの悪い奴だー

 2人は走り出した。

 空はとても良く晴れていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。