ナイスネイチャ、チームカノープスのリーダーだ。彼女は、ある異名を持っていた。ブロンズコレクター。それは、彼女が出走するレースの大半が、3着から由来する。周囲には、3着の順位を気にしていないと言っていた。彼女は、GⅠで優勝する名家のウマ娘と違い、お抱えの専属トレーナーがいない、庶民出身だった。そんな自身が強豪と戦い、1着は取れずとも、入賞できていることに満足していた。自分は、脇役であり、主役では決してないと考えていた。
ネイチャは、カノープスチームのコンテナ小屋の掃除をしていた。
「はぁ…脇役でも輝きたいなぁ…」
彼女は、呟きながら、小屋に飾られている、大量の3着記念のメダルとトロフィーを見た。
「…リギルへ移籍した2人は、元気かな…」
ネイチャは、約1年前までいた、同期のメンバー2名に思いをはせた。あの2人が2032年の3月にカノープスから脱退。チーム結成下限人数の4人を下回った時は、焦った。その後、ターボとイクノが入り、解散は回避できた。
「でも…トレーナーには、相談してほしかったな…」
朝日が、カーテンの隙間から差す。スペシャルウィークは、目を覚まし、体を起こした。彼女は、隣のベッドを見た。そこには、誰もいなかった。元ルームメイトが、別のチームに移籍し、そのチーム専用の寮へ引っ越したのだ。
「…もう1年経つんだ…」
スぺは、壁に掛けられたカレンダーを見て呟いた。
春の温かい日差しが、満開に咲き誇っている桜を照らし、艶やかに輝かせている。
時間の流れは早く、マックイーンたちは中等部2年となった。
始業式のため、体育館に全校生徒が集まっていた。パイプ椅子が用意されており、学年、クラスごとに座るようになっている。式が始まるまで15分ほど余裕があり、テイオーは、いつもの3人を探していた。その時、彼女に話しかけてくるウマ娘がいた。
彼女の名は、マヤノトップガン。テイオーのルームメイトで、鹿毛の髪をツーサイドアップにしてまとめており、テイオーより小柄だった。
「テイオーちゃん!久しぶり」
「マヤノこそ久しぶり!あれ?また綺麗になった?」
「そ!最近お化粧を練習しているんだ~、テイオーちゃんもやってみる?」
マヤノは、綺麗と言われ上機嫌だった。
そんな2人のもとにマックイーンが来た。
「お久しぶりですわね」
マヤノは、マックイーンを見るやいなや、彼女の手を取った。
「マックイーンちゃん!ホープフルステークスの時すごかったよ!マヤ、あんなにリードしていたのに、びゅーんって抜かされちゃったもん!」
マヤノは、マックイーンを尊敬していた。彼女は、スポーツマンシップを重視しており、たとえ、勝とうが、負けようが、相手を尊重するウマ娘だった。後、お嬢様に憧れているのもある。
「ありがとうございますわ、貴女も強かったですわ」
互いに称賛しあった。
その後、イクノも合流し、同じ寮同士会話をしていた。
そこにターボも来た。しかし…
「どうしたのですか?ターボ…」
イクノが心配そうな声で尋ねた。ターボは、ほぼ白目で、足取りはフラフラだった。
「ウン、ターボ、ダイジョウブ」
「片言やん…」
テイオーは、思わず呟いた。
『まもなく、始業式が始まります。生徒の皆さんは着席してください』
『今年、URAファイナルズに次ぐ新たなイベントレースを考案します』
生徒たちがざわめく
『その名はトリニティオレース!』
『現在所属しているチームは問わず、4人で1つのレース用のグループを組みます』
『1度のレースに出場するのは3名、全6グループ』
『なお、コースは芝、中距離です。』
『そして、予選、準決勝で上位2チームが次のレースへの出走権を得られます』
『順位の決め方は、点数式を取ります』
『1着は19点、2着は18点、3着は17点…18着は2点という形で、各メンバーの合計点数により順位が決定します』
…トリニティオレース。概要は、
個人の戦績には、含まれない。
4人で1つのグループを作る。内3名がレースへ出走。
1レースで争うのは、6グループ、計18名
順位は、点数式。
3人の合計点数で順位が決まる。
各レース、上位2グループが準決勝、決勝へ出走できる。
場所は、スピカのコンテナ小屋に移る。
「4人1組ですか…」
「4人1組かぁ…」
マックイーンと、テイオーは呟いた。
現在、スピカには、ゴールドシップ、スカーレット、ウオッカ、テイオー、マックイーンが所属しており、誰かが余ってしまう。2人は学年的にもテイオーもしくはマックイーンのどちらかが、グループ入りできないと考えていた。
「よう、どうした、マックイーン、テイオー?」
リーダーのゴールドシップだった。
「あぁ、ゴールドシップさんですか、実はトリニティオレースの件で、悩んでいたのですわ」
マックイーンは、彼女に悩みを打ち明けた。
「なぁ、マックイーン、テイオー、それだったら、いつも一緒にいるあいつらと、出走してみたらどうだ?」
チームスピカをガン無視する、とんでもない提案だった。
「そんなことをすれば貴女達は、チームスピカは、出走できませんわ!」
「そうだよ!人数だって3人じゃん!」
マックイーンとテイオーは、ゴルシに問いかける。
「大丈夫、アタシに良い考えがある」
ゴルシはにやりと笑った。
カノープスのコンテナ小屋にて
「やだぁー!!ターボは、イクノとテイオーとマックイーンで出走するのー!」
ターボは、駄々を捏ねていた。
「ターボさん、そんな事言わないでください…」
トレーナーである清峰は、困り顔だった。
その様子を見ていたネイチャは、
「仕方ない、あたしとスぺで別のグループを組みますかねぇ」
駄々っ子の意見を尊重した。
その日の夕方。カフェテラスに集まった5人のウマ娘がいた。
チームスピカ、ゴルシ、スカーレット、ウオッカ。
チームカノープス、ネイチャ、スぺであった。
「つーわけで、トリニティオレースのメンバーだが…」
「ちょっと待ってよ、リーダー!2名ずつってことは、あたしか、ウオッカの、どっちかが入れないってことじゃない!」
「そうだ!俺は、スカーレットより速いぞ!」
なんですって!?なんだと!?と、スカーレットとウオッカは顔を付け合わせた。
その様子を見てゴルシは、ため息をついた。
「落ち着け、グループを組むのはお前ら2人だ」
「「え?」」
「こういったレースはいい機会だろ?楽しんでこい。それに、アタシは今年のURAファイナルズに、出走できたからいいんだよ」
ま、準決勝でパーマーに負けたけどな、とゴルシは、肩をすくめながら言った。
「良いの?ゴルシ、こっちとしては、スぺを託そうと思っていたけど?」
ネイチャはゴルシに言う。
「ええ!?ネイチャさん、そういうつもりだったのですか!?」
まあね、とネイチャは、スぺにウインクした。
「ネイチャ、出走権はお前に渡す代わりに、頼みたいことがある」
ゴルシは、ネイチャに目線を合わせた。
「今年のオープンキャンパスの出し物、手伝ってくれ」
「分かったわ」
ゴルシとネイチャは、握手を交わした。
涼しい風が吹く中、テイオーは皐月賞へ出走し、1着を取った。
そして、トリニティオレースの日程が決まった。予選は8月中旬、準決勝11月上旬、決勝は12月上旬だ。出走登録は6月上旬から8月上旬までだ。
春の日差しが、暖かにトレセンの敷地や、建物を照らす。オープンキャンパス当日だ。
チームスピカ&カノープスは、出店で、焼きニンジンと、焼きそばを出す。焼きニンジンはスカーレット、ウオッカ、スぺが担当。焼きそば作りは、テイオーとイクノが担当。会計は、ゴルシとネイチャが担当になった。因みにだが、残り2名の担当は…
「安いですわよ!安いですわよ!スピカノープス特製焼きそば!安いですわよー!」
「出来立てのおいしい、おいしい、焼きそばがあるよー!今なら焼き人参もあるよー!」
客寄せだった。
「ターボ、ノリノリだな」
「最近のお嬢様って、ノリがいいのね」
ゴルシとネイチャは笑いあった。
「あのすみません、講堂はどちらですか?」
マックイーンは、老婆に道を尋ねられた。
「講堂ですわね?あ…」
彼女は、ゴルシとネイチャを見た。
「一緒に行って、案内してやれ」
ゴルシは、店から離れる許可を出した。
「はい、行ってきますわ。ターボ客寄せ、お願いしますわ」
「OK!」
ターボは、元気いっぱいに返事をした。
「すみません、いかんせん道がわからなくて」
老婆は、マックイーンに謝罪した
「構いませんわ、私もあまりの広さに迷う時がありますのよ」
マックイーンの言葉に、そうなのですね、と老婆は返したときに、あるものが目に映った。彼女の胸ポケットから飛び出ている物、手作りの御守りである。
「マックイーンさん…ですよね?その御守りをどこで?」
「こちらですか?この御守りは…少し、長くなってもよろしいですか?」
マックイーンは、老婆に出来事を可能な限り完結に伝えた。
「実は…その人が…庇ったのは、私の孫なのです」
マックイーンは、驚き、ある意味運命を感じた。
「そうなのですね…宜しければ、その娘の名前を、聞いてもよろしいでしょうか?」
「…サトノダイヤモンドです」
「彼女は…移植の件は、知っていますか?」
マックイーンが尋ねると、老婆は首を横に振った。
「あの娘には、まだ伝えていません…時期が来たら言おうと思います」
「あ!テイオーさんだ!」
黒髪の12歳程のウマ娘が、露店にやってきた。
「こんにちは!僕のことを知っているの?」
黒髪のウマ娘は、はい!と返事し、
「わたし、テイオーさんの大ファンなんです!皐月賞の走り凄かったです!」
「応援ありがとう、良ければ君の名前を聞いてもいいかな?」
「はい!キタサンブラックです!」
その様子をターボは、指をくわえて見ていた。
「こんにちは、お嬢ちゃん」
男性の老人だった。ターボは話しかけられていた。
「こんにちは、じいさん!焼きそばか、焼き人参いる?今なら安いよ!」
ターボはしっかり、売り込みをしていた。
「それじゃ2つずつ頂こうかね」
「まいどー!」
ターボは、注文の品を渡すと時に老人に尋ねた。
「じいさんって、どっから来たの?」
「わしか?わしは、京都からじゃ」
「京都って…職人の町ですよね?」
イクノの質問に、そうじゃ、と老人は答える。
「あそこには、鉄を打つことに関して、1番の奴がおるぞ」
鉄かぁと、ターボは呟いた。
「旨そうな、焼き人参じゃ、タンホイザとヘリオスも喜ぶかの」
老人は、袋に入った人参を見ながら、うれしそうに言った。
オープンキャンパスは、無事に終了した。
その日の夕方。癖の凄まじい芦毛の銀髪を靡かせたウマ娘が、学園内を歩いていた。チームリギル所属のビワハヤヒデ、高等部2年だ。彼女は、リギルメンバーが集まっている施設へ向かっていた。露店が畳まれてゆく様を見ていると、あるウマ娘が視界に入った。黒い髪をポニーテールでまとめた娘だ。彼女は、黒髪のウマ娘の元へ歩みを進めた。
「ブライアン…」
ハヤヒデは、そのウマ娘の名前を口に出す。彼女は、ナリタブライアン。ハヤヒデの親戚で、妹の様な存在だ。
「姉貴…久しぶりだな」
ブライアンは、彼女の方へ顔を向ける。
「君も、トリニティオレースの話は、聞いただろう?個人の戦績には、カウントされないらしい。気軽に参加できるイベントだ。良かったら…私と一緒に出走しないか?」
ハヤヒデの言葉に、ブライアンは顔を少し俯かせた。
「すまん…姉貴。誘ってくれたことは、嬉しい。でも…レースに、もう出たくない…」
ブライアンは、彼女とは逆方向へ歩いて去った。
スピカとカノープスメンバーは、露店の片づけを終え、寮へ帰ろうとしていた。
「マックイーンさん。少しだけいいですか?」
スぺが声を掛けた。
「はい、構いませんわ」
2人は、メンバー達から離れた場所まで移動した。
スぺは、一呼吸置いて口を開いた。
「貴女の心臓の事で、聞きたいことがあって…ドナーは、夕凪光さんですか?」
マックイーンは、頷いた。
「パーマーさんの話は、本当だったのですね…」
スぺは、顔を少し伏せた。
「彼とは、知り合いなのですか?」
マックイーンは、彼女に質問した。
「はい。彼は、私が入学した時、助けてくれた方です」
肌を撫でる風は、少し冷たかった。