プッチ in 亜総義市   作:男漢

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#10 ナユタ新規加入メンバー エンリコ・プッチ

 仕山医院の騒ぎから一晩が明けた、ナユタのアジトの中で。

 ガラガラと震える、やかましい扇風機の音だけが響く。

 およそ室内に七人もいるとは思えないほどの静寂が、辺りに広がっていた。

 

「……それで」

 

 静寂を打ち破るように、クマが口を開く。

 

「プッチ……さん」

「呼び捨てでいい」

「ならそうさせてもらう。プッチ、アンタは一体何が目的なんだ?」

 

 

 今現在ナユタのアジトでは、プッチと緑髪の少女に対する尋問が行われていた。

 といっても少女の方は暴れぬようベルトで縛られたまま椅子に座って眠っており、プッチにだけ焦点が当てられているのだが。

 プッチは立ったまま、こちらを尋問するクマとその背後にいるナユタの面々をじっと見つめる。

 

「一度助けてもらった恩があるだろう。それを返しに行ったまでだ」

「建前の方じゃあない、本当の目的の方だ。早く言った方が、こちらとしても色々と相談する時間も増えて合理的だ」

「……なるほど」

 

 プッチが一度言葉を止める。

 そして息を静かに吸ってから、再び話し始めた。

 

 

「亜総義重工本社の中に入りたい。だが、一人では入れない。それだけだ」

「……なんのために亜総義重工に?」

「人々を()()に押し上げるためだ。これ以上は言わない」

「…………?」

 

 プッチが真剣な顔で、そう言い放つ。

 彼はまだ、天国関連の話題について話すつもりはなかった。スタンドすら知らないような相手に、DIOとの高尚な思い出を軽々と晒したくなかったのだ。

 さがそんな事情を知ったこっちゃないクマは、天国などというあるかどうか分からない物のために、超危険箇所である亜総義重工に入りたいという奇々怪々極まる目的に少し困惑する。

 それは彼の背後にいた虎太郎やキラキラにとっても同じであった。

 

「なぁ、やっぱアイツやべーぜ……」

「ちょっと虎太郎、声デカいって……」

「だってよ、真面目ぶった顔で天国とか、そのために亜総義重工に入りたいとか……死にに行きたいって言ってるのと同じだぜ……」

 

 虎太郎とキラキラが声を落として話す。

 が、困惑した虎太郎の声は、自分が思った以上に小さくなっていなかった。

 彼の言葉が聞こえたプッチが『DIOと私の天国を馬鹿にされた』と怒りを感じ、虎太郎とキラキラを強く睨みつける。すぐにホワイトスネイクで始末しなかったのは彼の理性が「今ここで二人を始末してしまえば交渉は完全に決裂する」と考えたからである。

 クマがプッチの殺気に当てられた二人を下がらせ、口を開く。

 

「……亜総義重工に用があるが一人では入れない、だから俺達の力を借りるために仕山医院で助けた……でいいのか?」

「……ああ」

「わかった。少しいいか?」

 

 プッチがクマの言葉にうなずいて返す。

 彼の頷きを見てクマが振り返り、背後に居るナユタの面々と話し始めた。

 

 プッチはもし協力関係になれなかった場合、何をするかを考えていた。

 とりあえずDIOとの夢を馬鹿にした虎太郎を始末し、そこから他の抗亜に取り入る方法を考えなければいけないな……と思案していた。

 

 

 そんなプッチの姿を後目に、クマを含むナユタの面々が彼の語る目的についてどうするかを相談する。

 クマが真っ先に口を開くことで、会話は始まった。

 

「簡単に言えば、ナユタに加入もしくは協力関係になりたい……と、言っている」

「いやいや、どー考えても危険だぜ。さっきの殺気感じたろ……」

「アレは虎太郎が余計なこと言うからでしょ?」

「いやけどな、天国って……」

「どー考えても虎太郎が悪い。Q.E.D.」

 

 虎太郎がプッチの殺気について言及するが、キラキラとポルノの二人が彼を責め立てた。

 クマが三人から視線を外し、ザッパの方を向く。

 

「ザッパはどうだ?」

「俺か? 俺は別にプッチがナユタに入ってもいいと思うぜ。ナユタの基本理念は『来るもの追わず、去るものは追い回す』だからな」

 

 ザッパが自身のサングラスを右手で上げながらそう言った。

 彼の言葉に、先ほどまで騒いでいた三人組の中から虎太郎が声を上げる。

 

「マジかよザッパ!? どんな素性とか……信頼できるかもわかんねー危険な奴なんだぞ!」

「悪いが大マジだ。危険な奴なのは認めるが……おそらく、目的が合致さえすればこちらを裏切ることはないタイプだ。合致しなくなれば簡単に切るだろうけどな」

「なっ……クマ! お前はどうなんだよ!」

 

 虎太郎がクマの方を向いて話しかける。

 彼は今左腕と左足を骨折している。そんな状況でプッチの鋭い殺気に当てられたのがよほどキツかったのか、ナユタにプッチを加える流れになっているのに少し焦っていた。

 

「……人間の内面を見極めるのはザッパの方が得意だから、ザッパがいいというのならいい。それに奴のスタンドという力……シケイ相手には強力な武器になる。協力関係を結んだ方がこちらの戦力アップになって合理的だ」

「クっ、クマ……!? き、キラキラとポルノはどうなんだ!?」

 

 虎太郎が先ほど騒いでいたキラキラとポルノの方を向く。

 

「わたしー? ザッパを助けてくれたし、プッチがいなかったら全員で仕山医院から脱出できたかわかんなかったし……、信頼はまだできないけど賛成かな。案外、虎太郎より頼りになるかもねー?」

「私も賛成。クマとは違う系統でなかなか面白い。弄りがいがある」

「なっ、おっ、まっ……!!」

 

 クマが目を閉じる。

 虎太郎だけが否定しているが、メンバーの大半が賛成の上に、リーダーのザッパも賛成している。もう決まりだろう。

 目を開き、プッチの方を向いた。

 

「決まった。……これから、よろしく頼む」

「……速いな」

「そっちがすぐに話してくれたからな。こちらも早く話を済ませた方が、物事も早く進む。合理的だ」

「そうか。……なら、よろしく頼む」

 

 クマは握手をした方がいいかと思ったが、肝心のプッチが腕を組んで一切手を動かす気がないので、おそらくは向こうもこちらを完全に信用はしていないのだろうと思った。彼のスタンドとやらに関しても、見えない力というだけでもかなりの脅威だが、おそらくその他にも別の特別な力を持っているはずだ。自分たちを見限って裏切るときに、ナユタを敵に回しても相手できるような能力が……。

 ザッパは目的さえ合えば裏切らないタイプだとは言っていたが、クマはプッチに対しての警戒が未だに解けていない。彼と握手をする日は……来たとしても、随分と先の話だろう。もしかすると訪れないかもしれない。考えるだけ非合理的だとクマは断じ、そこで思考を切った。

 

 プッチがナユタの方に向き、自分の胸に右手を当てつつ、言う。

 

「改めて、私の名前はエンリコ・プッチ。Gd.s.t刑務所で教誨師(きょうかいし)をしていた。……以上だ」

「しつもん。童〇ですか」

「…………」

 

 プッチが糸の様に口を結び、押し黙った。

 

「クマは下ネタを振ると驚いて焦る、プッチは黙る。これは面白い違い」

「何を聞いているポルノ……ッ!」

 

 ポルノがプッチに対して卑猥な質問をしたのを、クマが諫める。

 ザッパはそんな様子を眺めながら、「案外クマとプッチは似てるかもな……」などと考えていた。

 

 

「で、プッチの方は片がついたんでしょ? じゃあ……こっちの子はどうすんの?」

 

 キラキラが、ベルトで縛られて寝たままの緑髪の少女の方を指さした。

 こんな風に縛られていてすやすやと寝ているのに、院長室で放尿して大騒ぎとは、肝が強いのか弱いのかがいまいち分からない人物だ。

 クマがポルノに目配せし、少女のベルトを解くように頼む。するすると拘束を外すが、未だに起きる気配がない。

 見かねたプッチがホワイトスネイクを出し、彼女の額に向かって軽くデコピンをした。パチン!と乾いた音がなり、少女がハッとよだれを垂らしながら目を覚ます。

 

「……今、使ったのか?」

「ああ」

 

 クマの問いにプッチが軽く答える。使ったかというのはおそらくスタンドのことだろう。

 本当に何も感じないし見えないんだな……とスタンドの恐ろしさを改めて実感するクマ。

 

「なら、そのままスタンドで彼女の体を押さえていてくれ。……この前の様に暴れられると困る」

「……苦労するな」

「言わないでくれ……」

 

 哀愁を漂わせるクマ。

 個性あふれるナユタの面々を管理するというのは非常に大変なのだろう。その上このような突然暴れだす危険人物も相手にしなければならないのだからと、プッチは彼に対して同情した。プッチは自分もクマの悩みの種である警戒対象であることをド忘れてしていた。

 目覚め、辺りをキョロキョロと見回す少女にクマが話しかける。

 

「こ、ここは……?」

「うちの拠点だ。……頼むから、もう落ち着いてくれ」

「あッ、あなたは……!」

 

 少女がクマの顔を見て、眼鏡越しに目を大きく見開いた。

 プッチは彼女が暴れださないよう、ホワイトスネイクに力を籠めようとする、が。

 

「ご、ごめんなさい! あの時は私も、動揺していて……」

 

 彼女が暴れだす様子もなく突然謝罪し始めたのをみて、プッチは力を緩めた。

 

「……ああ。いや、うん。大丈夫だ……」

 

 クマもてっきり、彼女が暴れだすと思っていたものだから、身構えていた力が無駄になって間抜けな声が漏れる。

 キラキラとポルノは、彼女が汚した服を洗濯した物を取りに行くため、アジトの奥にある洗面所の方へと向かった。虎太郎はプッチがあっさりとナユタに加わったことで、そのまま近くにあったソファーに転がってふて寝した。

 ザッパが少女の近くに寄ってきて、パイプ椅子を立てて座る。彼女はザッパの大柄な体格に少しだけ怯えるが、クマの方に視線を向け直した。

 

「それでだが……色々と事情を聞きたいことがある。いくつか質問をするが、いいか?」

「は、はい……」

 

 クマが少女に、なぜあの仕山医院の二階に一人でいたのか。

 亜総義市に父親を捜しに来たのはどういうことなのか、など様々なことを質問していった。

 

 

 そうして彼女に質問をして、わかったこと。

 緑髪の少女の名前は大相寺 皆子。

 亜総義市の外にある奈良県に在住していた、『外の人間』であること。

 ノンフィクション作家で亜総義市に取材しに行ったまま姿を消した父親を捜しに来たとのこと。

 父親が取材に向かった先が仕山医院の院長であったため、話を聞くために向かおうとしたということ。

 

 

「……バッカでー」

 

 少女の話が終わったころ。

 恐らくふて寝のフリをしていただけで、先ほどまでの彼女の話を聞いていたのだろう。

 虎太郎が寝返りを打って、口を挟んできた。

 

「ノンフィクション作家でよ、取材のために一人で亜総義まで来たんだろ?」

「は、はい…………」

「自殺願望でも持ってたんじゃねーのか。お前の父親」

「じさつ、って……。でも、取材に来ただけで…………」

「亜総義があちこち嗅ぎまわる厄介者を生かしておくわけねーだろ。」

 

 虎太郎がそこまで言ったところで、少女が驚きを隠せないと言った風に目を大きく開き、みるみる顔色が青くなっていく。

 ふるふると唇を震わせながら、喉から絞り出したようなか細い声を出す。

 

「ひと、ごろし……。で、でも! 亜総義は慈善活動もしてる、クリーンな企業だって……」

「マジで言ってんのか?

 ……仕山医院で大量のシケイがぞろぞろ攻めてきたの見ただろ。この街のシンボル像が破壊されたってだけで、冤罪の俺達にあんだけやってくる奴らだぞ。下手したら俺達も殺されてた。……それでも亜総義がクリーンだって信じんなら、これ以上言わねーけどよ」

「…………そ、んな…………」

 

 彼女が絶望した様相で、口から過呼吸ぎみに息を吐きだしながら体を震わせる。

 亜総義のことを全く知らない、もしくは裏の部分に少し触れた程度ならば虎太郎の言葉を信じることなどしなかっただろう。

 だが大相寺皆子はあまりにも急激に、亜総義の裏に深く足を踏み入れてしまった。亜総義の犬であるシケイが数十人単位で隊を連ね、鼓膜を潰すような銃声を放ちまくっていた光景を知ってしまったのだ。平和で銃の『じ』すら味わうことのない日本で暮らしていた彼女にはあまりにも衝撃的な光景だった。

 半ばトラウマ気味に刻まれたその音は、彼女に『()()()()』という信じがたい事実を頭から離れなくなる程度に想起させるには充分であった。

 

 

「その辺にしとけよ虎太郎。『外』の人間だってのはもう十分わかった」

「ああ。……なんか、俺。…………ちょっと席外すわ」

 

 ザッパが虎太郎を諫める。

 話を止められた彼も、さすがに少女がここまで衝撃を受けるとは想定していなかったのか、居心地悪そうに頬をかく。そして自身のいる椅子の近くにあった松葉づえを取り、ザッパに軽く言葉を発してから、アジト内にある自室へと入っていった。

 パタン、と扉の閉められる音が響く。

 地面に崩れ落ちた少女の、鼻をすする音だけが静寂に木霊していた。

 

 

「…………」

 

 あまりに重い空気の中、ザッパとクマがどう会話を切り出そうとかと顔を見合わせていた時。

 プッチは考えていた。

 

 この亜総義市というのは、小さな独裁国家のようなものだ。

 戦中のドイツにて、国内を支配していたナチ党の暗部をあちこち探りまわるなんて行為をすれば、当然始末されるだろう。彼女の父親もそれと同じような結末に至った可能性が非常に高い。

 

 そんな風に冷酷に考える一方で、心に何かが引っかかる点もある。

 はて。最近、どこかで作家や取材などという単語を聞いたような、と……。

 男、作家、父親……大相寺……?

 プッチが記憶を探り当て、ぽつりとつぶやいた。

 

「大相寺、博…………」

「ッ!?」

 

 ガバっと、先ほどまで俯いていた少女が突然顔を上げた。

 クマとザッパも彼女の視線につられるように、プッチの方を見る。

 

「私の父の名前、一体どこで……!? 私、さっき父の名前までは言ってませんでしたよね?!」

「……いや。申し訳ないが、おそらく期待しているような情報を持っているわけではない。話しても大して変わらないとは思うが……」

「お願いします! 今は、何でもいいので父のことが知りたいんです……!!」

 

 少女が土下座をし始めそうになったのを見て、土下座が日本流の最大の謝罪や嘆願の姿だと知っていたプッチは彼女の行動を諫める。彼自身、本当に大した情報を持っていないのだ。

 プッチがこほんと咳ばらいをし、話す。

 

「大相寺博という男が、どこか……研究所のような場所の、地下へ連行されたのを知っている。それだけだ」

「一体どこの研究所なんですか!」

「わからない」

「……そう、ですか。それは、一体いつぐらいの……?」

「それもわからない。ただ、そこまで古いことでもないはずだ」

「じ、じゃあ! 父は生きてる可能性があるかもしれないんですよね!?」

「それもわからない。……すまない」

 

 あからさまに元気が出始めた彼女を見て、プッチは話すべきではなかったかと後悔する。

 人は未来にある絶望に対し覚悟を持つことで、真の幸福を得ることができるというのが彼の持論だ。だが今の少女は目の前に降って表れた希望にすがりつき、それ以外の絶望の未来を考慮に入れようとしていない。非常に不味い傾向だと、口の中で誰にも聞こえぬよう小さく歯ぎしりをした。

 そんな風なところまで会話が終わったところで、キラキラとポルノが洗面所からプッチたちのいる大部屋へと戻ってくる。

 キラキラが周囲を見回し、言った。

 

「……なに、この空気?」

 

 

 

 

 

 




展開が……展開が重い!
次からは空気を明るくします。絶対。
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