夕日が地平線の向こうに沈みかけ、赤い空が世界に広がる時間帯。
二人の男が、人気のない道を歩いていた。
正式にナユタに加入したプッチ。
といっても、ナユタの一部からは警戒視されているので、メンバーではあるが仲間ではないといった位置づけだが。
そしてプッチの横には、ナユタの中で絶賛彼を警戒視しているクマがいた。
プッチがクマに話しかける。
「……あの、大相寺皆子という少女は?」
「結局ザッパが面倒を見るという話になった。『外』に戻す案も出たが、あの様子では父親の件に一区切りつくまでは帰らないだろう。今の緊張状態の亜総義で勝手に騒がれると、こちらにも何の流れ弾が飛ぶかわからない」
クマとザッパの間で、少女の面倒をどちらが見るかという争いが行われたのは秘密だ。正直彼女の面倒を見るのは面倒なのである。
だがプッチはけだるげに話すクマの方を横目で見ながら、言った。
「優しいな」
「……は?」
「弱者を救うことは素晴らしい美徳だ。大方、外の人間であるあの子がマトモじゃあない死に方を迎えないように保護したのだろう? 面倒を見るのは嫌そうだが」
プッチの言葉に、クマが黙って視線を逸らした。
確かに、今の亜総義市は萬像破壊による酷い緊張状態で、もしシケイに目を付けられ捕まってしまったら……。凌辱されるで済めばいい方だろう。おそらくは非人道的な実験の材料にされるか、体のパーツを売買にかけられて少しずつ取られて衰弱死するか……考えればキリがないほど残酷な方法で死を迎えるだろう。
クマが頭を振り、思考を切る。彼にはこのような考え事をしている場合ではない。プッチに目的地に向かう道すがら、話さなければいけないことがいくつかあったのだ。
「俺たちはナユタ、亜総義に反抗するクラン……抗亜だ。抗亜は亜総義市を支配する亜総義の作り出した、奴らに都合のいい常識や倫理を壊すことを目的としている。……ここまでは、いいか?」
「ああ、問題ない」
プッチがクマの言葉にうなずいて返す。
が、疑問に思ったことがあったようで、口を開いて質問を返した。
「……いや、少しいいか。この街では、警察などの国の公安機関はどうなっているんだ?」
「ほとんどないに等しい。亜総義市の中では警察すらも動きを止められ、亜総義の犬であるシケイ……亜総義グループ直列の警備会社の警備員が街の治安を維持している。警察は狭い事務所の中で、押す必要があるかも怪しい書類にハンコを押しているだけだ」
「……なるほど。まさに、亜総義市は独裁国家ということか」
クマが頷く。
そして再び口を開いた。
「それでこれからが俺たちの今向かっている場所につながる話だが、抗亜の活動といっても何もかもが略奪した物資で賄えるわけじゃない。ミストレスの店……抗亜専用の店の様に、やはりどうしても金が必要な場面が出てくる。
そこで亜総義市にある抗亜のクラン全てが行っている金稼ぎの手段が……『
「ハル……ウリ……?」
そのワードを反芻したところで、プッチが足をピタっと止めた。
何か、その単語の意味を知ってしまうとまずい気がしたのだ。だが彼のナユタに取り入って亜総義重工本社に入るという目的上、ここで頑なに知りたくないと否定をすることはできない。
再び歩みを始めるプッチに、クマが戸惑いなく言い放つ。
「ハルウリは、街で回収した
「……いや。それは言い方を変えただけの、誘拐と売春の元締め行為だぞ……!」
「別にどう思ってくれてもいい。アンタの仕事は行為に及んだ後の部屋の掃除だ」
プッチは困惑する。
いくら目的のためとはいえ、真っ向から神に背くような所業の一部に加担していいのかと。姦淫は重罪に当たるのだ。
だが……宗教上の都合だと言って、融通を効かせてくれるほど柔らかい性格の人物でもなさそうだ。特にこの街では、亜総義によって萬様という男を信仰するように住民のほとんどが洗脳されている。クマ……抗亜の宗教やそれに準ずるものに関しての嫌悪感は相当なものだろう。
俯いて数秒考え込み、プッチは顔を上げた。
「…………掃除、だけか?」
「ああ、部屋から客が出たタイミングもこちらで指示する。……ついたぞ」
クマがピタリと足を止める。
抗亜のハルウリが行われている場所は、意外にも人通りが比較的多い道のビルの中で会った。木を隠すなら森の中と言ったように、ビルを隠すならビル群の中に隠してしまえということなのだろうか。
プッチが周囲のビル群を見回す。大抵は企業などのテナントが入っていたり、そもそも空き室で明かりすら点いていなかったりなのだが……。
二棟、明らかに異質な空気を放っているビルがあった。企業が入っている様子もなく、カーテンも閉め切っているのに、明かりが点いている。そして何やら、中でもそもそと人の影が二つ動いているのが見えた。
(……まさかとは思うがこの辺り、抗亜のハルウリとやらの場所が密集して……)
プッチはホワイトスネイクをその二棟の中に潜り込ませることもできたが、やめた。
自分が恐ろしき所業に加担するだけで精一杯だというのに、周囲に二つも同様のことが行われているなどと……知りたくなかったのだ。
クマが目の前のビルに入っていくのを見て、彼もその背後を大人しくついていった。
廊下の電灯のスイッチを入れ、パッと明るくなった道を迷いなく進んでいく二人。数分ほど歩いたところで地下の階段にたどり着き、カツカツと足音を鳴らしながら降りていく。
階段を下りた先にあったのは、所々錆びついた古臭い鉄の扉。クマがドアノブに鍵を差し込み、蝶番からギギギッと嫌な音を立てながら開ける。
部屋の中にあったのは、蜂の巣の如く詰まれた大量のブラウン管テレビであった。クマがテレビの山に近づき、全てのテレビと乱雑に配線で繋がっている赤いスイッチをパチンと押すと、ブゥンと音を立てて暗い画面に光がともる。
テレビに映る映像はどれも角度こそ違うものの、全てが小さな部屋に置かれたベッドを俯瞰的に見下ろすように映していた。それぞれのブラウン管のテレビの縁に『201』や『202』などと律儀に書かれていることから、恐らくその映像全てが別々の部屋を映し出しているのだろう。
クマが部屋の隅からパイプ椅子を取り出し、テレビの山の前に陣取るように座る。
そしてどこからともなく取り出したタブレットを操作し、何かをぶつぶつと唱えていた。
「……ふー……」
彼の様子を横目に、頬にかいた汗をぬぐう。妙な緊張をしているようだ。
そういえば、この様に自発的に『
だが、今から加担する『ハルウリ』は真っ向から神に反する行為であった。真の幸福や運命についての問いの答えを探すため、聖職者の道に入ったが……。私が聖職者を目指さなければ、こういった『わるいこと』に手を染める可能性もあったのだろうか? 若きの至りで、親や社会にストリートでたむろするのチンピラの様に反抗したのだろうかと……、柄にもなくそんなことを考えてしまった。
私がそのようなことを考えて呆けているうちに、時計の針が随分と進んでしまっていたようだ。テレビの前に座るクマの方から声がかけられる。
「一人目の客が終わった。202の部屋だ、マスターキーと携帯を渡しておく」
彼からマスターキーと携帯を放り投げられ、ホワイトスネイクでキャッチする。
モニターの方では肌色の物体がうごめいていたような気がしたが、強引に顔を背けて見ないようにした。モニター室の外に出る。
「…………」
鍵と携帯を懐に押し込む。
私がこの業務を行うことは、やはりどう考えても難しい。
宗教者としても、私自身の性格としてもだ。
だがやらなければならない。亜総義重工本社にたどり着き、次こそ天国に到達するために。
ホワイトスネイクが右手を天井近くまで振り上げ、私の頭に向かって叩き落す。
ぐにぃっと皮膚がゆがむような感触がした後、ホワイトスネイクが私の頭から一つのディスクを抜き出した。
それは五感の内、人の認識の七割~八割を占めるといわれる『視力』のディスク。
その感覚を私の中から引き出すことで、一時的な盲目となるのだ。今私の目には何も映っておらず、ただひたすらの暗闇が広がっている。
だがホワイトスネイクの目は別だ。心の中に自らの目とは別の景色を移すテレビがあるといった感じで、我がスタンドの目を通した景色を感じ取ることができる。
ヘビー・ウェザーの時は見るだけでカタツムリになるという能力上、ホワイトスネイクの視界も切っていたが。視覚共有型のスタンドならばスタンドだけで物を見るということも可能なのだ。
――なぜこのような行動に出たのか?
宗教者として、私はハルウリなどという行為に真っ向から加担することはやはりできなかった。だから苦肉の策として、私の感覚をできうるかぎりの範囲でカットした。そうすることで、私自身に降りかかる姦淫の罪を少しでも減らそうとしたのだ。
……もはや暴論に近い考え方であった。結局のところホワイトスネイクで物を見ているから同じではないかと。
だが考えてみてほしい。とある男が二人いたとして、その二人がそれぞれ同じ人間を包丁で刺したとする。一人目は被害者をめった刺しにし、瀕死まで追い込んだ。二人目はその瀕死の男を見て、包丁で止めを刺した。司法の世界ではこれは同じ罪だが、人の心理の世界になるとまた答えは違ってくる。二人目は被害者の苦しそうな様を見て、楽にしてあげようとしたのではないかと。人の考え方とは司法で縛られたところで確定されるようなものでなく、時の移ろいに合わせて変化していくものだと――――。
……――違うッ! 違うぞクソッ! 焦りすぎて思考が変な方向に飛んでいるッ!!
「素数だ……素数を数えて落ち着くんだ……。2……3……5……7……」
呼吸を整えながら、素数を数えて気持ちを落ち着かせる。素数は1と自らの数字でしか割り切れない孤独な数字、私に勇気を与えてくれる……。
ホワイトスネイクの視覚に頼りながら、廊下を歩き階段を登っていく。このビルは外見からは四階建てはあったように見えたが、三階への階段は青いビニールシートでぴっちりと塞がれていた。きっと使っていないのだろう。
階段の前で曲がり、部屋番号を確かめながら歩く。といっても『202』という階段から近い数字の部屋だったので、間違えようもないのだが。
202のプレートが貼られた部屋の前に立ち、先ほど受け取ったマスターキーで開錠する。
扉を数センチ開けただけでむわぁっとむせ上がる室内の、生理的な匂い、男女の匂いにおもわず顔をしかめた。だが扉を開けただけで立ち止まっていては掃除などできはしない。ホワイトスネイクにやらせればいいというのも考えはしたが……
覚悟を決めて扉を開ける。
裸の女性がベッドで座り込み、すすり声をあげていた。
扉を閉める。
懐に入れてあった携帯を取り出し、電話帳にポツンと一つだけ記載されていた番号に通話を掛ける。
ワンコールの内に繋がり、少し低めのダウナーな声が聞こえてきた。クマの声だ。
『……もしもし。何かあったか?』
「部屋の、中のベッドに、女性がいるんだが…………。しかも泣いていたぞ……」
『問題ない、こちらの想定通りだ。その部屋の客はシケイで少しひどい目にあったみたいだな。壊れるほどじゃなかったから、こちらも関与はしなかった』
「シケイが客……?」
私がそう問いかけると、電話の向こうから小さくため息を吐いたような音が聞こえた。
『
その言葉を最後に、通話がブツッと切れた。
……『気にするな』、か。なんとも合理的な考え方だな……。
目的のためには手段を選ばない……ということか。それはまるで――――
頭を振って思考を切る。そのようなことを考えている場合ではなかった。
息を軽く吸い込み、意を決し、ドアノブを握る。
心の中で素数を数えながら、扉を開けた。途端に鼻孔を貫く生ぬるい空気と匂いに耐えながら、部屋の中へと足を踏み入れた。
ベッドの上に居た女性が私の姿を見て肩を跳ねさせる。その衝撃ですすり泣く声もピタッと止まった。
目は見えていないのだが思わず顔を逸らしてしまい、壁の方を向いた。肌に視線を感じるのに、徐倫たちと戦っていた時とはまた別のタイプの冷や汗が流れる。
懐にあった携帯からピロン!と音が鳴り、メッセージが届いた合図を鳴らす。再び携帯を取り出しメッセージを開くと、クマから文言が届いていた。
『・シーツの交換(ベッド下の引き出しの中)
・ゴミ箱の中身の廃棄(同じく引き出しの中のゴミ袋で纏める)
・シャワー室内のシャンプー確認・少なければ補充(天井裏に予備)』
……真面目な男だ。カメラでこちらを観察しているであろうことは気に食わないが。
携帯を懐に直し、壁際に視線を寄せたまま、すり足でシャワー室の方に向かう。さすがにベッドの方は今は無理だ。
透明なガラスでできているシャワー室の壁が、湯気で白く曇ってしまっている。扉を開けると、温水の蒸気が全身に降りかかり、先ほどまでここが使用されていただろうことを察することができた。生々しい光景が頭に浮かび、そういうことに耐性がないため少しだけ胃の中の液がせりあがってしまう。
かなり狭いシャワー室の中、シャンプーの残量をホワイトスネイクで確かめる。どちらもボトルの半分以上は入っていて、補充する必要は全くなさそうだ。
シャワー室から出る。
ベッドの方から、私の姿を見て驚き止まっていた女性のすすり泣く声が、再び聞こえ始めた。
声の主の方を向かぬようにし、ゴミ箱を漁る。どれだけのゴミがあるのだろうかと思ったが、くしゃくしゃと丸まった白いティッシュがいくつか入っているだけだった。……私はこういったことにはあまり詳しくないのだが、普通、避妊具やそういった類を使うのではないのか……?
その疑問が頭の内に浮き上がり、その答えを求めるように、思わずベッドの上の女性の方をホワイトスネイクで見てしまった。そして瞬時に察する。
確かクマはこの店を『裏の店』と言っていた。シケイが利用していることからも、ここは亜総義内で保たれているある程度の秩序からは離れた場所だと考えられるのだ。
そのような場所での売春行為では、女性の人権などないに等しいものなのだろう。つまり……避妊やそれに準ずる行為など一切気にする必要がないということだ。秩序がなく、店側のルールにのっとる限り、自由が許されているのだから。
……ある程度は、分かっていた。闇に触れる以上、こういった行為があるだろうことも理解していたつもりでいた。
心の底では無視できるつもりだった。きっと、気にしないことはできたはずなのだ。
ベッドのシーツを交換する作業に入らなければならない。
だが、そのためにはベッドの上に座るすすり泣く女性をどかさなければならない。
「……すみません」
ベッドの縁に、腰かける。
女性がゆっくりとこちらを向いた。目のあたりは涙を流しすぎて赤く腫れている。
首から下の方には視線を向けぬようにしつつ、話しかける。
「な、なんですか……?」
「私の名はプッチ、聖職者です。お悩みの様ですからお話掛けさせていただきました。しかし、貴方には、私からは神のお言葉に乗っ取った救済や助けといった心の安寧を与える教えを享受させることはできません。君の行った行為は姦淫と言い、聖書の中にある罪の一つに当たってしまうからです」
「……強制的、でもですか? 私は、無理やりここに連れてこられて、こんなことさせられているのにッッ!!」
「はい。」
声を荒げる女性に、プッチは毅然とした態度で返す。
怒る彼女を横目に近くにあったバスローブを掴み、彼女の体を隠すように広げながら投げた。パサッとローブが舞い上がり、彼女の頭にぽすっと被さる。
頭にかぶったローブを体に羽織り直し、彼の突然の行動に怒りが少しだけ冷えたと言った様子でプッチの方を見る女性。そんな彼女に、プッチは右手を自分の胸に当てつつ優しく話しかけた。
「だから貴方には、私の心を落ち着けるとっておきの方法を教えてあげたいのです。さぁ、深呼吸をして」
「…………スーッ、はぁ…………」
「良い感じだ。その状態で目を閉じて、自分の呼吸と言葉だけに集中して、素数を数えるんだ。素数は1と自分でしか割り切れない孤独な数字、私たちに勇気を与えてくれる……」
「2、3、5、7……」
「良い調子です。落ち着くまで続けて……」
プッチはゆっくりと腰を動かし、ベッドの上を擦りながら彼女に少しずつ近づいてく。
そうして彼女との距離が三十センチほどになった時、プッチが見えない目でじっと監視カメラの方を見つめた。数秒ほどで視線を外した後、プッチは彼女にさらに近づく。
女性は女性の方で、素数を数えるという慣れないことに夢中になっているのか、気配を消したまま近づくプッチに気づく様子はない。
ホワイトスネイクが女性に近づき、手を振り上げる。
「その調子です、その調子……」
そう言った瞬間、ホワイトスネイクが一気に手を振り下ろした。
ずぶっと手が頭に埋まり、一つのディスクが女性の頭から抜き出される。プッチは飛び出たディスクを一瞬で掴み、監視カメラの向こうの男に見えぬようすぐに懐にしまった。このディスク化の能力は、信頼のおけない連中にまだバレるわけにはいかなかった。
女性が素数を数える声を止め、ハッとした表情で目を開ける。そうしてプッチの方を向いた。
「……え」
「どうかしましたか?」
「あ、いえ……。あ、ありがとうございます、すごく落ち着きました。
まるで、『
「それはよかったです。……ところでですが、私はこの部屋の清掃を頼まれていまして、このベッドのシーツを交換しなければいけません。少しだけお立ち頂いてもよろしいでしょうか?」
「は、はい! す、すみません」
そうして、彼女が立ち上がる。
私が今行ったのは、ホワイトスネイクの能力の応用の一つだ。記憶をディスクにして抜き取るという能力を応用し、特定の記憶だけを抜き取る技術だ。
このような精神カウンセリングのような使い方をしたのは初めてだが、存外うまく行くものだ。
私の懐には、彼女から抜き取った、先ほど相手したシケイの客とやらの記憶が入っている。長期間の記憶を抜くと記憶喪失に陥るが、一~二時間程度ならば、一晩寝ればすぐに都合のいいように記憶が補完されるだろう。
ベッドのシーツを変える作業はなぜか彼女が協力してくれたおかげで、すぐに終わった。
教誨師の時に学んだ、囚人を逆上させない丁寧でありつつ謙遜しすぎない、軽めの礼をしてから部屋を去った。
廊下を数メートル歩いたところで、どっと汗が噴き出す。頭から抜いていた視力のディスクを戻し、自身の視界を取り戻す。
「……私は、なぜ……」
懐から取り出した、先ほどの女性から抜いた記憶ディスクを眺める。
監視カメラの向こうではクマがこちらを監視していただろう。そしてまだナユタには、私のこのスタンド能力であるディスク化をバレるわけにはいかない。いざという時の手札なのだ、この能力は。
だがそのナユタにバレるかもしれないという危険を犯してでも私は、彼女から辛い記憶をディスクにして 抜き取った。
――――なぜ、そんなことをした?
……私は元の世界で、人はなぜ出会うのかという問いを持った。
そして元の世界で、その問いに対する答えも出た。人は重力に引かれ、出会うべくして出会う。
私の左足の指は生まれつき曲がっていた。歩くのには問題なかったが、DIOに会って私の左足の指を治してもらったことを切っ掛けに、我が親友DIOとの関係が始まった。私の足の指が曲がっていたことは偶然ではなく、DIOとの出会いのために必要なものだったのだ。一見無駄や何でもないようなものにも、存在する理由はある。
……だから。
私のこの葛藤と悩みから来る奇行も、何らかの運命の導きによるものなのだろうか?
何か理由があるのだろうか?
いつだって運命というものは気まぐれで、私には予測することもままならなかった。
この行動にどんな理由があるのかわかるのは……きっと、ずっとずっと先になってみなければわからないのだろう。
記憶ディスクを懐に戻し、クマのいる地下のモニター室に向かって歩き始める。
静かな廊下に彼の足音だけが、コツン、コツンと響いていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
クマは、一つのテレビに映る映像をじっと眺めていた。
その映像は、『202』号室の室内を映す監視カメラの映像である。
「…………」
腰かけているパイプ椅子の背もたれに体重をかける。ギギギッとサビた金属がこすれる音が静かに響いた。
あのプッチとかいう男。聖職者を名乗っているがどこか尋常ならざる殺気を纏い、スタンドという超能力を使う男。そして、やけに頭もキレる男だ。
どこからどうみても怪しさ満点である。
奴が語る目的『人々を天国に押し上げるために亜総義重工本社に行く』というものも全く意味が分からない。なぜ天国に到達するために本社に行く必要がある? というよりも、なぜ人々を天国へ押し上げる必要がある? そんなものは自分だけで行けばいいだろう。
どこから来たのかも詳しく話さない。Gd.s.t刑務所の教誨師だとは言っていたが、そんな刑務所は
要するに、謎。謎に謎をトッピングした、謎の人物なのだ。
奴がほとんどの事柄をぼかしているせいで、奴という人間がうまく読み取れない。天国というよくわからないものを人に勝手に押し付けようとしている点から、独善的で自己中心に物を考えたがる節があるということは予想できているのだが。
だから、今回は少しカマをかけてみた。
わざとシケイによって被害を被ったジンザイの元へと清掃へ向かわせる。
俺の見立て通りならば、萬像を破壊したのは奴だ。
これでジンザイの女性に何の反応を示さない、もしくは関与しようとしないような奴であれば、プッチが独善的で自己中心的だという予想が当たっていることになる。
……だが、プッチは予想外の行動に出た。
なんとジンザイに向かって簡易的なカウンセリングを施し、精神状態を回復させてしまったのだ。ますます意味が分からない。
人に考えを押し付ける癖に、困っている人物がいたら助ける? その後に何か自論や説法でも解くのかと思えば、何も言わずにシーツの交換だけして立ち去る。
何かがブレている。奴の掲げる目的と今の奴の性格に若干の相違がある。
結局。プッチの評価は『
そう結論づけて他の部屋の監視カメラ映像に目を移そうとした瞬間、ふと何かが引っかかった。
それは、プッチがジンザイにカウンセリングを施した時間だ。
ジンザイのメンタル維持というのは、実は非常にシビアな作業である。心が壊れたジンザイは客が取れなくなるので、そのまま廃棄処分をするしかなくなってしまう。
壊れたジンザイの代わりをヒトカリでいちいち回収して、教育をしてとするのにも労力がかかるし、何より合理的ではない。だからこちらとしても、テクニックやルックスの維持よりもまずメンタルの方に注意を傾けるのだが……。
奴は時間にして三分足らずと言ったところで、ジンザイの下がりきっていたメンタルをあっという間に治してしまった。
こちらが非常に時間をかける作業を、たった三分で?
クマの目に懐疑の色がともる。
もしかしすると。ジンザイのメンタルがすぐに回復したことと、プッチが隠しているスタンドの秘密の力には、何か関係があるのでは――――
そこまで考えたところで、思考を切った。
教誨師というのは刑務所内の囚人のよりどころとなる宗教を説くことを職業とする人物のことだ。当然素人のオレよりも、メンタルケアやカウンセリングというものには通じているはずである。つまり、人の精神を見ることのプロなのだ、プッチは。多少のメンタルケアなどお手の物なのだろう。
なんでもかんでも疑ってかかるのは悪いことではないが、それのせいで思考がおかしな方向に飛んでしまったら本末転倒だ。
考えを改めるように自らに戒めを込めて、監視カメラの映像を映すテレビの山の方に目を向けた。
明るいタイトルからは読み取れないほどの文字数と重さ。
なぜこうなったんだ。
ナユタの中でプッチさんが仕事してないのは何かあれだから、何かやらせようと思って、面白そうだからハルウリさせようと思ったら、何か色々混ざって変な方向に......。
こんな重い話ばっかだと胃もたれしちゃうよ.......。
次は、次は絶対に明るくします。とりあえずザッパと虎太郎さえぶち込めば明るくなるはず!
(……宗教関連のことがいくつか書いてありますが、何か変な齟齬があるかもしれません……。作者は聖書エアプなんです……)