プッチ in 亜総義市   作:男漢

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#15 ベリーハード サンホー工業2

 狭い密室の中で、山積みにされた死体。

 靴にまで広がる紅い液体、鮮血。足を上げて歩くたびににちゃぁっと粘着質な音を立て、血液が靴と床の間で糸を引いて伸びる。

 プッチは背後を振り返り、同じく部屋に入ってきたクマとザッパの方を見る。しかしザッパは顔を青くして口元を押さえ、クマは眉間に深いしわを刻み冷や汗を滝のように流している。二人とも部屋の中に入ることが精一杯で、死体に近づいて色々と調べる、なんてことはできなさそうだ。

 ホワイトスネイクでシケイの死体を一つ、山から引きずり出して目の前に転がす。糸の切れた人形のように力なく倒れた死体は、もはや人間の残骸というよりは肉塊と呼称した方がいいだろう。その様子を見てさらに吐き気を催したようで、少し前かがみになったザッパに向かって言い放つ。

 

「……これは私が調べておく。キツイなら部屋から出ていてくれてもいい」

「ま、待ってくれ。もう少ししたら慣れて……オエッ」

「……私のいた刑務所では死体を見る機会が何度もあった、ここまでは酷い物ではなかったがな。むしろここで無茶をされて、後で動けなくなる方が問題だ。……この後に、何があるか分からないのだからな。」

「そうか……。わ、悪いな……」

 

 プッチの言葉に、ザッパは軽く返事をして部屋から出て行った。扉をパタンと閉めると、部屋の中に残るのはプッチとクマの二人。

 クマは顔から冷や汗を流しつつも、倒れた死体の方を力強く見つめている。

 そんな様子の彼に、声をかけた。

 

「やるのか?」

「犯人のことを知るには、被害者を調べるのが一番合理的で手っ取り早い。四の五の言ってられる状況でもなさそうだしな」

「そうか」

 

 ぶっきらぼうにそう返し、死体の方に目を戻す。

 クマもそんなプッチと同じように、彼の横に腰をかがめて死体を観察し始めた。死体の山からフラットの構成員のものも引きずり出し、二人で会話を交わしながら調べていく。

 

「全員心臓を一突きで殺されているな。死んだのは……少なくとも今夜中だろう。」

「銃のゴム弾は全員一割程度しか残っていない…………。それと、シケイの防弾チョッキに何発かゴム弾が挟まっているな」

「同士撃ちでもしたということか?」

「自分に向けて発砲したとも考えづらい。恐らくはそうだろう」

「こっちのフラットの死体には複数のゴム弾の痕、それに背中に背負ったリュックに工場内で集めただろう資材が入っている」

「資材集め中に殺されたのか……」

 

 一通り死体の散策を終え、死体を元の場所へ戻す。血を吸って紅くなってしまった白手袋を外して力強く絞ると、ドボドボと滝のように鮮血が流れ落ちる。血液で少し冷たくなった手袋を再びはめ直し、ゆっくりと立ち上がった。

 死体から得た情報で分かったことは、『おおよそ人間技とは思えない犯行』ということであった。人体を容易く貫く一撃を人間が放てるとは思えない、我がホワイトスネイクが万全の状態であったとして、人を殺すことは簡単でも人体を貫くというのは容易ではないのだ。

 

 フラットにゴム弾の弾痕があったことから、恐らく犯人はフラットと交戦中にシケイと遭遇したのだと思われる。

 そして犯人はシケイの発砲を無視あるいは回避しながらフラットを殲滅し、シケイも殲滅。おそらく防弾チョッキに挟まっていたゴム弾は、犯人の攻撃に恐れて焦ったシケイが誤って味方を撃ってしまったものだろう。

 その後、死体をこの部屋に運びこの惨状に至った、というのがこちらの予測だが……。

 

 改めて考えを整理しても、人間とは思えない所業をいくつもこなしている。

 先ほども考えた通り人体を貫くのがまず無理だ。

 そしてシケイの銃を、ゴム弾とはいえ物ともせずにフラットを全員殺害するなどかなり厳しいだろう。

 更に、今の厳戒態勢が敷かれた亜総義市で警戒レベルが限界にまで引きあがっているシケイが誤って味方を撃ってしまうような、恐ろしい相手。

 

 一体どのような相手であればこれらの所業を行うことができるのか、見当もつかない。

 

 唯一考え着くとすれば、承太郎のスタープラチナやDIOのザ・ワールドのような、桁違いの性能を持ったスタンドを操るスタンド使いだが……。

 

 私がそんな風に考え込んでいると、クマが扉の方にチラリと目線をやり、私に言葉を発した。

 

「とりあえず、出ないか? これ以上ここにいる意味がない」

「……それもそうだな」

 

 ゆっくりと立ち上がり、扉を開け、血まみれの部屋から出た。靴の裏に付着していた血液を床に擦り付けつつ、扉の外で待っていたナユタの面々の方に顔を向ける。

 ザッパが材料置場に置かれている物を漁っていたのか、山の様に積まれた資材の向こうから頭にゴミを乗せながらヒョコッと顔を出した。

 

「おう、二人とも。大丈夫だったか?」

「問題ない。が……今回は撤退した方がよさそうだ。()()がここに来ている可能性がある」

「……呂布の奴が…………?」

 

 呂布?

 詳しくは知らないが三国志では最強の武将だと、有名な人物ではあるが……。どうやらその偉人の話をしている訳でもないらしく、同名の別人のことを指す名らしい。

 ザッパとクマが話し込み始めたので、近くでキラキラの介抱をしているポルノに問いかけた。

 

「呂布とは一体何者だ?」

「亜総義市でヒトカリをしている時にたまに来る、黒くてごついゴリラのこと。ぎゅっとしてバーンとして、ドカーンって感じのゴリラ」

「…………ぎゅっ、バーン、ドカーン?」

 

 ポルノがその呂布なる人物の強さについて説明してくれたのだろうが、いまいち擬音が多くてわからない。

 意味を理解するために口で擬音を反芻してみるが、更に意味が分からなくなった。そんな私の様子を見てポルノが、うーんと唸りながら考え、言葉を発する。

 

「ぶわーって空中で拳を振ったら、ドゴーンって風の衝撃が来て吹っ飛ばされる」

「…………人間の話かそれは?」

「一応、人間だとは思う。けど、詳しいことは誰も知らない」

 

 明らかに人間の話ではないぞそれは。拳圧だけで人を吹っ飛ばすなど、一体どれだけのパワーとスピードがあればできるのか。

 だが、この亜総義市にそのようなことができる人物がいるにはいるらしい。もしこの話通り拳圧で人を吹っ飛ばせるなら、確かに人の胴体を貫くなど容易いパワーを持っているだろう。

 未だ地面に倒れたままぐったりとしているキラキラの体をスタンドで起こしつつ、ザッパとクマの会話を聞く。

 

「呂布が来てるって……うーん……いや、アイツじゃあないんじゃないか?」

「状況的に、シケイとフラットを纏めて始末できるのは奴ぐらいしか思いつかないが……」

「アイツは混沌とした戦況が大好きで顔突っ込んでくる奴だろ? フラットとシケイが小競り合いした程度じゃ出てこないさ」

「それはそうだが……」

「まぁ別に呂布だろうがそうじゃなかろうがどうだっていいさ。撤退するんだろ?」

「……ああ。この資材置場から色々と頂けるだけ頂いて撤退する。もう少し奥に行くと完成済みの部品置場もあるんだが……」

「仕方ないさ。今の亜総義市の状況が状況だ、安全を優先した方がいい」

 

 ……どうやら今回は撤退することで方針が決まったようだ。

 その呂布とやらが犯人かどうかは不明だが……。かなりの危険人物であることに変わりはないし、もしスタンド使いだったとすれば、今の私の弱ったホワイトスネイクでは太刀打ちできない可能性もある。

 ここは撤退するのが一番良い手だろう。若干約一名、死体でグロッキーになり動けない人物もいることだからな。

 ヒトカリで資材集めに慣れているポルノからキラキラの介抱の番を代わり、撤退の準備を進めようとすると――――。

 

 

「――――! ―――――ッ!!」

 

 扉の向こうから、男が野太く叫ぶ声が聞こえる。扉と言っても死体のある部屋の方ではなく、加工ラインが設置されている工場本体部分の方の扉だ。

 その叫び声と共に、バタバタと何人もの足音がやかましく駆けていく音も聞こえる。シケイか、抗亜か……。一体どっちだ?

 

 ホワイトスネイクを出し、壁の向こうに送る。相手がスタンド使いの可能性もあるので、十分以上に警戒しながら扉の向こうにいる連中を観察した。

 

 人数は約十五人程度、中心で声を荒げている男以外は全員が白い和服を纏い、白い般若の面を被っている。腰から下げた刀に手を掛け、私たちが居る部屋に伸びる血痕と扉を睨みつつ、今にも突撃して来そうな構えで警戒していた。

 ただ一人、中心で声を荒げる男。下半身は黒い革ベルトを巻いた灰色のスーツズボン、上半身は赤い線が斜めに入り腕部に般若の模様が入った白のタイツを纏っている。他の人物とは違う、口が異様に大きく開いた般若の面を被っているのが特徴的だ。赤い長ドスを右肩に乗せ、じっと扉の方を睨みつけるように観察している。

 

品須(しなず)さん。この扉、どうしますか」

「ああ? 阿呆、こんなもん調べる他にないやろうが」

 

 品須と呼ばれた男は肩に置いていた長ドスの鞘を抜き、ギラリと鋭く光る刀身を光の下にあらわにした。

 これ以上時間を空けると本当に突撃してきそうだ。4~5人程度ならどうにでもなるが、流石に二桁になると話は変わってくる。

 

 スタンドで奴らを観察しつつ、部屋の中にいるナユタの面々に向かって話しかけた。

 

「白い和服に刀、そして般若の面の集団が外にいる」

「…………()()()か。」

 

 クマがプッチの言った特徴をもとに、その集団の正体を一瞬で看破した。元々向こうも隠す気はなさそうなので、当然と言えば当然なのだが。

 

「マジかよ!! こんな状況で東雲派の連中とかち合うとか、つくづくついてねーなぁ……」

「うーん……東雲派ぁ……? マジぃ……?」

「最近は本当に運が悪い。一度クマはお祓いに行くべき」

「なぜ俺なんだ…………!」

 

 こうやってふざけた会話をしている状況でもなさそうだが。

 一種の膠着状態に陥った状況で時が固まっていた時、扉の向こうに居たホワイトスネイクがカツコツと、どこかから人が足音を立てて歩いてくる音を耳にした。

 扉の向こうにいる東雲派と共に、音のする方向に視線を向ける。

 

 周囲にまとう空気が全て凍っているかのような、張り詰めた雰囲気の人物。顔の上部だけを覆う白狐の面を被り、腰に下げた赤鞘の刀にまで届く黒の長髪、そして黄色い菊の髪飾りを付けている少女だった。背後に二人の白和服に般若の男……東雲派の一般構成員らしきものを連れている。

 凛とした歩き方で力強く優雅に地面を踏みしめて歩き、品須と呼ばれた男の前で止まり、声を発する。

 

「これは何の騒ぎだ、品須。」

「へい。この扉の向こうにおびただしい量の血痕が続いているので、幾人かの死体があるのではないかと警戒をしていたところで……」

「なるほど、殺しか……。…………私が入ろう」

「いえ、しかし、お嬢…………」

「問題ない。もし中に不埒な輩がいたとしても、切り捨ててやればよい」

 

 そう言って、少女が腰に下げた刀から刀身を引き抜く。恐ろしく滑らかで思わず見入ってしまうような抜刀に、薄霞が一直線に引かれた気品を感じる刀身。品須がこの集団のリーダーかと思っていたが、どうやら本当のまとめ役はこちらの方らしい。本能がガンガンと警鐘を鳴らしているのが聞こえる。

 

 この女を真正面から相手にするのは少し厳しいと思い、ホワイトスネイクで不意打ちを入れようと思ったのだが――――。

 

 

「――――ッ!!」

 

 

 突然グリンと、少女が何かに弾かれたかのように顔の向きを変える。

 極限まで見開かれた赤混じりのその双眸は、扉の近くで東雲派を観察していた()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()

 

「……――『()()()()()()()()()()』ッ……!! こいつ、スタンド使いかッ!!」

 

 プッチは苦悶の表情でつぶやき、臨戦態勢を取る。

 その瞬間。

 

 

「オーラよっと!!」

「ザッパ、もう少し考えて……!」

「膠着状態で止まってたってしょうがないだろ? クマが何も思いつかないなら俺の出番ってわけだ!」

 

 ザッパが右足で扉を蹴り飛ばし、勢いよくぶち破る。

 扉と壁をつなぐ蝶番から激しい衝撃音が鳴り響き、こちらと向こうを隔てていた扉が数メートルは吹っ飛んだ。一発で役立たずの鉄塊と化した扉は地面で何度かガンゴンとバウンドしながら、加工ラインの機械に突き刺さった。

 

 ……何をとち狂ったことをしているんだこいつは……!?

 

 扉をぶち破った張本人は鼻歌でも歌いだしそうなほどリラックスした状態で、ずかずかと大股に歩いて部屋の外へと出ていく。

 左手で仮面を押さえながらため息を吐き、ホワイトスネイクを内側にひっこめ、キラキラをポルノと二人で持ち上げながら仕方なしに部屋の外へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




よっしゃいい感じの設定も結構あるし気合入れて書いたろ!!

ん? 何かおかしいな……

ちょっと何書いてるかわかんない。


という風に、自分でも何を書いているか途中でよくわからなくなって超難産になってしまった一話です。変なところで区切っちゃったし。
設定を入れたい入れたいと思って盛り込みすぎると逆にわけわかんなくなるということが分かりました。

そしてよくよく設定表を見直すと、サンホー工業編は気合を入れた割にはそこまで長くならないという悲劇。悲C。
次の話はもう少し早く投稿します……。

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