ザッパが無理やりぶち破った扉の外に出る。
部屋の外には、抗亜クラン『東雲派』の一般構成員が約十五人。そして品須という体格のいいしゃがれた声をした男と、その品須にお嬢と呼ばれていた少女がいた。
東雲派の構成員たちは刀の柄に手を掛け、こちらが少しでも怪しげな動きをすれば即座に叩き切るという空気を漂わせている。とりわけ私はナユタの中でも背が高く顔に仮面を被り、何より手に付けている白手袋に絞り切れなかった血液が付着してしまっている。一挙一動、足先から頭の先まで他のナユタよりも注意深く観察されているのを肌に感じた。
品須がずかずかと大股で部屋の中から出てきたザッパを見て、手に持っていた長ドスを鞘の中にしまう。
そして仮面越しにこちらを睨みつつ、声を発した。
「なんやお前ら……ついに
「ナユタを疑うのはお門違いだぜ、品須の旦那。俺達がここに来た時には既にこんな風になってたんだ。今部屋の中にいたのは血の先を辿って調べてただけさ」
「ほーん…………。そら災難やったなぁって、信じられたらええんやけどな。今の亜総義市の状況が状況や、はいそうでしたかで簡単には終われんやろ」
ザッパが品須の前に立ち、気丈な様子で言葉を返す。
周囲の東雲派が、刀にかけた手に力を籠め始めたのが視界に入る。……まさかここで始めるつもりなのか?
「もし、簡単に終われなかったらどうするってんだ?」
「ここで拘束する羽目になるわな。もしお前らが犯人やったら始末もせなあかん。今の街の状況で平然と殺しをやる奴なんざ、無駄に亜総義を煽ってこっちの動きの邪魔にもなる上に――――…………危険すぎるわ」
品須がそこまで言ったところで、先ほど収めた長ドスを再び抜き、頭の横で構えた。
他の東雲派の男たちも次々と刀を抜き始める。どうやら本当にここで始めるつもりのようだ。こいつらが殺人を行った犯人だとは思わないが、刀を構えられて大人しく捕まるほどこちらも柔ではないし優しくもない。人数差は約三倍ほどだが…………般若の面を被った白和服の男達は銃を所持しているならばともかく、刀という武器しか持っていない以上どうとでもなるだろう。何より、こちらが警戒するほどの凄みがない。
問題は品須とかいう男と、先ほどホワイトスネイクのいる場所を確実に目で捉えたお嬢なる少女だ。この二人だけは明らかに身から発する空気の格が違う上に、少女の方はスタンドが見えていたのだ。スタンド使いの可能性がある、最優先で仕留めなければならないのはこちらの方だ。
ホワイトスネイクを出して周囲の歯牙にもかからない木っ端共を真っ先に仕留めようと、腕を少し動かしたところで――――。
「やめろ」
少女の鈴の音のような声が響き、全員の動きがビタリと止まった。
彼女が右手に持っていた刀を手の中でクルリと回し、カチンと心地よい音を立てて鞘に戻す。
「こやつらが犯人であろうとなかろうと、今ここで事を起こす必要もない」
「ですが…………」
「品須、今はナユタが殺人犯であるという確証もない。もしかすると、今どこかから真の不埒者が私達を虎視眈々と狙っている可能性もあるのだ。こんな下らぬ事に時間を割く暇はない」
「…………へい」
品須が刀身を鞘に納める。
それを見て、他の東雲派の面々も刀を鞘の中に収めた。その光景を見て、こちらも出しかけたホワイトスネイクをそのまま引っ込める。
虎太郎がいれば確実に突っかかったであろう少女の物言いだが、こちらとしてもこの場で事を始めるのは少しまずい。殺人犯の素性も目的も何もかもが分からない今、むやみやたらと争い合っていては、互いが疲弊したところを横から漁夫の利をされて全滅……なんてこともありえる。
もしも殺人犯が『
敵対関係にない人間が多い今の状況を保ち、とっとと退却するのが吉であろう。
クマが銃を懐にしまい、腕を組み、東雲派に向かって言葉を発す。
「……中にはシケイの死体の他に、フラットの死体もあった。シケイはともかくフラットまで狙う意味がこちらにはない。ここはお互いに資材を回収して、戦闘もなく退却するのが合理的だと思うが」
「フラットの死体やと? …………そらまた変なモンがあるやないけ」
「穏便に行こうぜ、こっちはもう何もないんだ。死体死体って、このままじゃ俺もノイローゼになっちまう」
「ふん、ザッパ。お前はノイローゼっちゅうタマやないやろ。まぁええわ、今日の所は――――」
――その微かな音に反応できたのは、恐らく数人だけだろう。
会話の音に混ざり微かに聞こえた、工場の奥から響く音。パキリとガラス片か何かを踏んだような、コツッと小石が地面に落ちた程度の、本当に微かな音。ただただ風か何かで物が落ちたにしては、どこか不自然な――ウォークマンの電源がいきなり切れてしまったかのようなとしか表現できない、プッチとしても耳にしたことがない未知の音だった。
その奇々怪々な音に反応し、視線を動かしたのは。
プッチ、ザッパ、品須、お嬢と呼ばれた少女。その四人だけであった。
ザッパが品須との会話を止め、右手でガシガシと頭をかきながら、周囲を見渡して口を開いた。
「あー、クマ? 今の聞こえたか?」
「……何がだ?」
「聞こえてないか…………。この様子だと、俺とプッチと品須の旦那……あとそこのお嬢ちゃんだけか?」
「私をお嬢ちゃんなどと呼ぶな! ……しかし、その通りだ。私も今の不可思議な音は耳に入った」
ザッパがプッチの方を向く。
「プッチ、今の音についてお前はどう思う? 俺は確認しに行くべきだと思うが……今の音、確認しに行った方がいいと思うか?」
「…………」
今の不可思議な音。
一体全体どんな方法であんな如何とも表現しがたい音を発したのは不明だが、ある程度は推察することができる。
恐らく殺人犯はこちらのことを何らかの方法で観察していた。これは予想の範囲内だ。
シケイとフラットを皆殺しにした理由は未だ分からないが……恐らく観察していた理由とシケイ達を殺した理由には深い関連性があるだろう。死体の状況から見て、刑務所で稀に見たような薬で快楽殺人に目覚めたイカレた人間ではない、何かマトモな理由をもってあの所業を行ったこともわかる。
このマトモな理由というのは何か分からないが…………恐らく、こちらの人数を見て、シケイ達と同じように私達を襲うつもりではなかったのだろうか。
血痕で部屋におびき寄せられ、同じ箇所に集まった抗亜が出てきたところを襲撃するつもり算段のはずが、第三者の東雲派のせいで想定よりも人数が多くなり、退却した……。
あの音は、おそらく。
「おそらく先ほどの音は、こちらを観察していた殺人犯が『
「逃げた音、ね。逃げるときにあんな変な音がする奴は知り合いにはいないな」
「ふざけたことを言っている場合ではない。……私も、確認しに行くのは賛成だ。私とザッパだけ、が条件だが」
私の出した条件に、近くで構えるナユタが明らかに不平の声を漏らす。
「差別反対の旗を振ってもいいですか、レジスタンス隊長」
「誰がレジスタンスの隊長だ。……罠を警戒しているのか? キラキラを庇いながらでも動ける自信はある、東雲派の中心に置いて行かれる方が危険な気がするが」
「私のことはもう大丈夫だって! 確かに、ちょーっと……うぷっ……とはなったけど!」
プッチがクマの方に向き直り、若干の威圧をかけながら口を開く。
「先ほどの音も聞こえない者を連れて行き、私達ごと危険に晒されてしまったではすまないのだ。それに逃げたというのは予想であり、どこかに潜んでいる可能性もある以上、異変にすぐさま気づける者でないと同行は認められない。そしてキラキラは明らかに…………今回はもう無理だろう。無茶をせずクマとポルノに介抱してもらうといい」
「クマに? ……ま、まぁそれも、そうかもね………」
? もう少し彼女は突っかかってくるかと思ったが。クマの名前を出した瞬間髪を右手でいじり始め、顔を逸らしてしまった。一体どういうことだ?
しかし、クマの言い分にも納得はできる。この東雲派とか言う連中の中心に彼らを置いていくのは余りにも酷だ。部屋の中に戻れというのも、キラキラがあの鼻孔の奥にねばりつくような血の匂いで再び気分を悪くする可能性がある。
一体どうしたものかと考え込んでいると、周囲の白和服の東雲派に指示を飛ばしていた品須がこちらに近づいてきて、会話に混ざり込んできた。
「おう。ワシもその音の確認とやら、ついて行かせてもらうで」
「なんだと?」
「おいおい、どういう風の吹き回しだ旦那?」
「流石のワシにも、今この場で重要な情報を取り逃がすのがどんだけの損かは分かる。
それに、お前らにも得はあるんやで? ワシがお前らに着いて行くことで人質になるやろ、そしたら東雲派の連中はお前らんとこに手が出せなくなる。何てったってお前らが握る命は東雲派のナンバー2やからな」
般若の面の大きく開かれた口から、品須の大きな笑い声が響く。
プッチはそんな笑いを見て訝し気に眉間にしわを寄せ、男を警戒した低い声を出して返す。
「人質に、命を握るだと? 貴様がこちらに着いて来たところで、ナユタが攻撃されない保証がない。どう考えても貴様一人では割に合わない」
「それに人質になんて簡単になるタマでもねーだろ、アンタは。向こうで自分が俺らと戦ってる間に、東雲派の連中をこっちに引っ張ってきて突撃なんてされたらたまったもんじゃない」
「――――チッ、勢いで流せんかったか…………。確かに、そういう手を取ることもできる。やけど本当にワシにはその気はない。どうやって信頼してもらったもんか…………」
「なら、私も同行すればよいではないか」
再び会話に混ざり込んできたのは、例の少女。東雲派というのはいちいち会話に突然混ざり込んでくるのが得意な連中なのか?
自身の黒髪を手で背中の方に回し、刀に手をかける彼女。
「東雲派の頭領、『
「へぇ、嬢ちゃんが東雲派のナンバー1か…………」
「嬢ちゃんと呼ぶなと言ったろう! 叩き切るぞ!」
品須が少しだけ憂慮したように口を閉じた後、いやらしい笑みを浮かべつつ、私の方に顔を向ける。「これで文句はないやろ」とでも言いたげな顔だ。少しだけ腹の奥が湧きたつような顔である。
「……いいだろう。残していくナユタの安全は保障してもらう」
「ああ。東雲派の頭領、壬生の名に懸けよう。私たちは抗亜である前に剣の道に生きる武人だ、一度交わした約束を破るような不義理はしない」
壬生菊千代と名乗った彼女が私に向かってそう言った。この女は私のスタンドが見えていたため、要注意の人物だが……。こうして近くに立っていてもスタンド使いの気配が全くしない。
まさかスタンド使いではないのか? しかし、スタンド使いでもなくスタンドが見えるはずが……。偶々視界に捉えたにしても異常だ、一体どれだけの確率であればあのタイミングであの方向に顔を向けるのか。やはりスタンド使いであると仮定して警戒しておくのが一番だろう。
「白仮面の兄ちゃん、名前は?」
品須が私に向かって問いかける。
「エンリコ・プッチだ。」
「名前からして、この国の生まれやないみたいやな。何がどうしてこんな街の抗亜にたどり着いたのか……」
「話す義理はない」
「冷たい奴やな~、そんなんでよく自由至上気質のナユタに馴染めてるもんや」
「……いい加減口を閉じてくれないか? 私は馴染んでなどいない」
「ほう? ワシには中々うまいことやってるように見えるけどな」
「…………」
鬱陶しい言葉をペラペラと口から吐き出す男だ。
ナユタとはただの協力関係、名目上の仲間であって信頼を置いたことは一度もない。私の情報も最低限しか渡していない。そんな上っ面の関係しか持たない者同士を、何を思って「馴染んでいる」と表現したのか。東雲派という連中はつくづく私とは合わないらしい。
いつかナユタに見切りをつけた時、入るべきはフラットの方だな……などと考えつつ、四人で工場の奥へと歩み始めた。
加工ラインに沿って奥へ進んでいくうちに、周囲に静けさが満ち始める。
窓の外から響く微かな虫の鳴き声に、四人の息遣いと呼吸だけで完結した音の世界。各々が各々の感覚器官に集中を傾け、周囲を注意深く観察しながら一歩一歩踏みしめるように進んでいく。
ザッパは何を思ったのかズンズンと、一応周囲を警戒しつつ大股で歩いている。私は四人の殿を歩き、周囲のドラム缶や木箱の中、機械の隙間に何者かが潜んでいないかを確かめつつ進む。
ふと、加工ラインの中の一つ、とある機械の頭頂部に目が留まる。平均的な日本人の身長より一回りは大きい179センチの私でも、少し背伸びをしなければ目につかないような箇所だ。このような目につきにくい場所を真面目に掃除するものは余りいないようで、うっすらとホコリが積もってしまっていた。
そしてそのホコリの中に、足跡がポツンと一つだけ残っている。この女性にしては少し大きすぎる形から、足跡を残した人物は男だろうと仮定した。
(なるほど、加工ラインの機械上部に隠れてこちらを観察していたのか…………。
そして足跡の向きが工場の奥の方に向いている、犯人が撤退したという線はほぼ間違いなさそうだな。わざわざこんな発見しにくすぎる場所におびき寄せのための罠を設置する理由もない)
プッチは周囲にその情報を共有することもなく、力を抜いて軽く体を弛緩させる。このいっそ潔さまで感じる迷いのない撤退から、どこかに罠が仕掛けられている危険性は低そうだと判断したからだ。だがプッチも長らく集中を解いているわけではない、すぐに体に力を籠め直し目の前の少女と男の二人に警戒を向けた。
この二人が攻撃をしてこない確証はない。私が殿を務めて背後という有利な位置を取ってはいるが、そんなものは状況次第で簡単にひっくり返る。必要のない注意はこちらの者達に払うべきだ、意識というものは有限なのだから。
そんな風に思案しつつ、加工ラインで製作された加工品を次の工程へと運ぶコンベアの横を通り抜けると、二股に分かれた道に出る。
片方は品質管理室と呼ばれる、加工品の質や動作チェックを行う部屋に続く道だ。そしてもう片方の道はは少し進んだところで、セキュリティゲートにビッチリと閉じられてしまっている道。ゲートは電動式で動くものであり、扉に無理やり持ち上げたような跡はない。そもそもこれを持ち上げれば鉄と鉄が擦れ合うけたたましい音が鳴り、私たちは音に気付きすぐさまここに駆けつけていただろう。よってこちらの道はなしだ。
そうして品質管理室へ向かう道を進もうとした瞬間、突然ザッパが右手を空気中でぶんぶんと振り始めた。そして腕の動きを止め、振り、止める。そんな風な動きを何度か繰り返したところで、彼が首をかしげて言葉を発した。
「…………なぁ、なんか風通ってねーか?」
「風……?」
「おう。ちょっと確かめてくれないか」
プッチが東雲派の二人に注意を払いつつザッパの横に立ち、右手を肩のあたりにまで上げて指の隙間に風が通るよう五指を大きく開く。そして確かに室内で流れる物は思えない、前方から背後にかけて流れていく風を感じた。
「……確かにそうだな。」
「ワシも……ああ、通ってるな、こりゃ。こんなところに風が通ることなんてあるんか?」
「空調設備の回るようにに流れる風ならともかく、室内で一方向に流れていく風というのは十分異常だろう」
「それに、こんな閉じ切った道で微かとは言え流れちまってるのも問題だ。シケイさん方が窓を一つ二つ閉め忘れたじゃあ通用しない大穴があるぜ」
三人で無理やり話をまとめ上げ、プッチは再び殿に立ってから周囲へ警戒を払い始める。
「……品須。私は、不要だったか?」
「はい? ああ、いえそんなことは…………。話し合いに参加していないぐらいで不要かどうかの判断は尽きませんでしょう」
「そうか…………そうだな」
壬生菊千代は、先ほどの風云々の話に参加できないことを少しだけ懸念していたようだ。風の通り程度の話に参加できない程度で彼女の危険性は変わらない、寧ろ一歩離れて眺められている方が色々とやりにくいというのに。そういう意味の分からないところに思考を割く辺りから年相応の少女然とした、まだ成熟しきっていない部分があることが伺える。
四人で注意深く道を進み、品質管理室の扉が見えた。
ザッパが非常に警戒しつつ扉のノブを握り、音を一切立てないほどのろまな動きで扉を開け、中を覗き込む。
そうして覗き込んで数秒後、ひっこめた頭を横に振ってぶっきらぼうにザッパが言った。
「……外れだ。ここじゃあない」
私も念のため中を見るが、一切合切気になるようなところはなかった。鉄網入りが入った強化ガラスの窓は全て鍵のついていないはめ込み式の物であり、そのどれもに破壊を試みた痕跡すら残っていない。換気扇や隠し扉の線も考えて調査したが、全く何もない。確実にここから逃げ出したのではないということは分かった。
再び歩み始めると、加工ラインと似ているようで設置されている機械が微妙に異なる生産ラインがあった。三つ指の白い機械のアームがコンベアの両脇に立ち、そのコンベアを見下ろすようにがっくりと首をうなだれさせている。しかし、このラインは何だ……? 工場に来るという経験がないのであまり分からないが……。
そんな風に思いつつ周囲を眺めていると、先頭に居たザッパが私の横にまで後退し、話しかけてくる。
「ここは組立てラインだな。前に作ってた加工品をここで組み立てて、ちゃんとした商品にするんだ」
「………なぜ私の考えていることがわかった?」
「そりゃー、アレだ。俺はエスパっ…………とと、悪い悪い。顔だ、顔の表情。絶妙な角度で見えたもんでな」
この男今エスパーと言いかけなかったか? 私がスタンドという力を使えることは黙っておくように重々釘を刺しておいたはずだし、そもそも誰かの前で超能力と言った物を連想させるワードを出すなとも言っていたはずだが……。
そしてそのあからさまにわざとらしい誤魔化し方も悪い。唇を突き出して、口笛をぴゅーぴゅーと鳴らしながらあらぬ方向を向いている。それでは疑ってくださいと言っているようなものだろう。
プッチがズレかけた仮面を手で直し、ため息を吐いてザッパの肩を押しのけ、歩き始める。
「頼むから口をつぐんでいてくれ。……進むぞ」
「あいよ」
といっても、ザッパが言う組立てラインとやらが本当ならば、この工場の終着点は近いだろう。なぜなら工場で生産される完成形の商品が組み立てられる場所にいるのだから。これ以上必要のない設備でいたずらに建物を拡大する必要もないだろう。
そのプッチの予想通り、すぐに工場の終着点『搬出エリア』へと四人はたどり着いた。
搬出エリアには工場の生産エリアとは違い、夜間には照明が消灯されているようだ。だが不思議なことに搬出エリアは淡い光で包まれていて、足元がぼんやりと見える程度には明るい。
外に物を運ぶための物なのだろう、二トントラックが何台も並べられている。トラックの尻が工場内部から搬出所に出た私たちの方に向けられるように並んでいて、3、4メートルは高さがある荷台の上に登ることはできず、いささか危険ではあるがトラックの隙間を通るしかないと考えていたのだが。
「私は上から行こう。品須は下から頼む」
と壬生菊千代が言い残してから、彼女は地面を蹴って飛び、荷台を開けるハンドルを再び蹴って飛び上がり、たったの二歩で荷台の上にひょいっと飛び乗ってしまった。
スタンドを使った気配はせず、純粋な身体能力だけで数メートルの高さを軽く飛んだらしい。化け物か……?
ザッパも横で少しだけ驚いている様が見えたが、すぐにその驚きは笑いへと変わったようで、「面白い奴だな~」とでも言いたげにくつくつと口の端から笑いを漏らしている。どういう思考回路をしているんだ、敵に回るとこの上なく厄介な相手になんだぞ。
考えても仕方ないことに腹の底でぐつぐつとマグマのような怒りを溜めつつ、トラックの間を通る。
隙間を抜けた先にはトラックの上に登った壬生菊千代が既に地面に降りていて、何か信じられぬようなものを見るような目でとある場所を見つめていた。私たちもその視線につられるように、彼女の顔が向いている方向に視線を向ける。
「…………ッ」
思わず口から声が漏れる。
搬出エリアと工場の外を分ける搬出口は、電気で動く厚さ一センチの鉄板できたシャッターであり、そうそう簡単に破れるようなものではない。我がホワイトスネイクであろうと、今の弱体化した状態ならば人一人が通れる穴を作るまでにかなりの時間がかかってしまうであろう頑丈さだ。
そのシャッターの頑丈さを嘲り笑うように、厚さ一センチの鉄板が内側から外側に向かってめくれ上がるようにして。
シャッターを上げるどころか、こんな大穴を無理やり破り開ければ、確実に工場内に響き渡るほどの轟音が鳴り響く。
なのに、サンホー工業に訪れていた抗亜のほとんどが気づかなかったという現実。
現実と非現実が混じり合った奇々怪々な『真実』を見た感覚は、常人の精神を少なからず削ってしまうほどの衝撃が走るはずだ。だがプッチはその非現実を日常的に操り、幾度も目撃し、体験している。よって四人の中でプッチだけが唯一、目の前の光景についてある『
(シケイとフラットを殺した殺人犯は――――『
最近忙しくて遅れてごめんなさァい!!
前回も遅れて今回も遅れてしまい、本当に申し訳ありません。反省しています。
そして今回の話、キリのいいところまで書いた結果まさかの9000字近くになるというアクシデント。そしてオチはスタンド使いという分かり切っていたアレ。話が進まねえ……!
次は、次はもっと……早く投稿を……