月光が差し込む大穴を見上げた状態で、体を強張らせている品須、ザッパ、壬生菊千代の三人。状況が状況で衝撃を受けるのも致し方ないが、だからと言っていつまでも体の動きを止められていては困る。
私は件の穴の調べるべく、未だ呆けているザッパの肩を軽く手で叩き、声をかける。
「私が穴の向こうに跳ぶ。手伝ってほしい」
「ッ――……あ、ああ。わかった」
ザッパがあらぬ方向で揺れ動いていた目の焦点を戻し、サングラスの中に手を突っ込んで瞼ごしに目をマッサージしつつ、私の背後を着いてくる。
シャッターにぶち抜かれた巨大な穴は、地上から2メートルは高さがある場所に開いている。私でも登れないことはない高さだが、穴の端が無理やり開けられたせいで鋭利な刃物の様に尖っており掴むことができないのだ。スタンドを品須と壬生菊千代の前で使う訳にもいかない。
「よし、ドーンと来い!」
「この状況でよくそんな明るい声を出せるなッ……!」
ザッパがシャッターに背中をつけ、腰かがみになり、右手の上に左手を乗せて前に突き出す。腕力の自信のあるザッパのことだ、手の上に足を乗せて私を穴の向こうに投げ飛ばすと言うつもりだろう。
迷いなく手の上に足を乗せると、ザッパの腕に血管が浮き上がると共に力が籠もり、プッチの体が勢いよく穴の向こう側へと投げ飛ばされた。
約七十キロ前後あるプッチを二メートル半ほど、軽々投げ飛ばす彼の膂力に畏怖の念を抱きつつ着地する。着地した際に地面に着いた手のすぐ傍らにあった機械の部品らしきものを拾い上げ、ゆっくりと立ち上がって周囲を見回した。
搬出口から出たサンホー工業の外には生暖かい風が吹いており、プッチは仮面の中にツーッと一滴、汗を流す。空に浮かぶ満月のおかげか周囲は非常に明るく、シャッターの外に広がっていた惨状をありありと観察することができた。
シャッターの外には、機械らしき物体が地面に黒煙をあげつつ転がっていた。らしきと表現したのは、ほとんどのパーツがグチャグチャになって周囲に散乱しており、元々一つの機械だったのか機械の部品を乱雑にばらまいただけなのか判断が殆どつかないほどになっていたからだ。
元は一つの機械だとプッチがかろうじて判断できた理由は、散らばったパーツの中心に転がっている黒焦げた機械の塊のような物のおかげだ。近づいて拾い上げると、非常に硬い白の強化プラスチックのようなものがブラブラと揺れながら引っ付いている。恐らくはこのプラスチックが機械の外殻で、唯一形を残していたこれは機械の中でも最も堅い……動力部位に相当する部品なのだろう。
プッチが両手に収まりきらないほどに大きい、中型剣ほどの大きさの部品をクルクルと回しながら調査していると。背後から甲高い声で話しかけられる。
「どうだ、何か分かったか?」
「…………殆ど何も、だ。これが何かわかるか?」
背後に振り返ると、黒髪を顔の動きで振り払いながらこちらに歩いてくる壬生菊千代が見えた。プッチは突然現れた少女に警戒を払いつつ、手に持った黒焦げの部品を渡す。
片手で受け取った彼女は、意外に重いその部品を軽々と持ち上げながら観察する。
「……ふむ。これは恐らく…………亜総義市でシケイによく随伴している、
「警備ロボット……まだ見たことがないな。それより、恐らくとはどういうことだ?」
「私が今まで見ていた警備ロボットの部品にしては、サイズが大きすぎるのだ。私がいつも斬っているのは、こう、これぐらいの……」
壬生菊千代が部品を持っていない方の手で手刀を作り、空中にスッスッと四角形のようなものを描いてサイズを表す。が、彼女自身その警備ロボットとやらのサイズをよく覚えていないのか、「あれ?」と時々呟きながら何度も何度も四角形を描き直していた。…………もう少し良い伝え方があるだろう。
「すまない、少し記憶が曖昧でな……。いつも一刀の内に斬り伏せて終わりで、詳しく見たことがないのだ」
「…………そうか。つまりは、その警備ロボットとやらは全長50センチほどの物体ということでいいか?」
「ああ、大体そのぐらいだ。その大きさに、銃などの武装が積み込まれている」
ロボットというものは刀の一太刀で斬り伏せることが可能なのか? いや、彼女には可能なのだろう……。
気にしていても無駄だと悟った私は彼女から部品を受け取るが、それをこれ以上調べる必要もないので、地面に落とす。今落とした部品の全長は約40~50センチ、大して壬生菊千代が普段目撃しているシケイの警備ロボットとやらの全長が50センチほどだ。警備ロボットという名目上武装も積んでいるのは当然だろうが、動力部とロボットの外殻がほとんど同じでは武装を積む隙間などない。
よってこの周囲に散らばっている警備ロボットの部品は、何の目的で製造されたかは分からないが、通常の警備ロボットよりも
プッチは足元に転がった黒焦げの動力部を足で遠くに転がし、頭の中で状況を整理する。
――――シャッターにあるあの大穴は一体何だ?
フラットとシケイを殺害した犯人が逃亡する際に開けたもので殆ど間違いないだろう。サンホー工業内に確認していない部屋はいくつかあるだろうが、犯人の立場で考えてみると、私達が居た場所からなるべく離れてからこの場所を撤退したいと考えたはずだ。
よって私達から離れられる限界の、工場の終着点であるここから逃げ出した、という理屈で大差ないだろう。
――――どうやって大穴を開けた?
にわかに信じがたいが…………この場に残された物から推察するに、2~3m程度の大型警備ロボットを投げてシャッターに穴を開けたようだ。何故そのような大型ロボットがこの場にあったのかは不明であるが、此度の件には関連性がない。必要なのはそこにあったという事実だ。
シャッターは厚さ一センチ程度の鉄板、警備ロボットが数十キロの鉄塊だと仮定して、一体どれほどの速度で投げれば穴を開けられるのだろうか。想像もつかない膂力だ。
――――なぜ殆どの人物が気づかなかった?
至極当然のことであるが、鉄板に撤回を投げて無理やりぶち壊すなどということをすれば、近辺に恐ろしいほどの轟音が鳴り響くだろう。同じ建物にいる人間は確実に全員気づくはずだ。
なのに気づいたのは私を含む四人だけ。しかも聞こえた音は決して轟音などではなく、逃げたであろうという当たりを付けて警戒を払い、ようやく聞こえるほどのわずかな物音だった。
こんな非論理的な現象は『
一体どのような能力なのかは検討もつかないが…………。
プッチが思考に一区切りをつけ、顔を上げて息を吐く。
これ以上ここに居ても進展はないだろう。シャッターの向こうに戻り、向こうに残したクマ達と合流して撤退することにしよう。資材を集めるという当初の目的はあまり達成できていないが……今後における重要な情報は手に入った。
「おい」
踵を返して足を一歩踏み出した瞬間、壬生菊千代が私に向けて声を掛けた。
背中に刺さるような、攻撃的な視線を感じる。大人しく彼女の方に振り返り、言葉を返した。
「ここで分かることはこれ以上ない。知りたいことは後に話そう」
「その件ではない。」
「…………」
彼女が刀の柄に手を掛け、カチッと音を鳴らし、数センチだけ鞘から刀身を抜く。鈍く光る銀色の刀が月光に反射し、プッチの鳥肌が思わず立ってしまうようなおどろおどろしさを放っていた。
話を聞かないと叩き斬るというこれ以上ないほど分かりやすい脅しだが、効果はあった。私が思わず身震いするほどの剣気を放つ剣の達人が、既に刀を握り数センチ抜いた状態で、一メートル半も離れていない場所に立っている。彼女の腕前の攻撃速度にもよるが、今の弱ったホワイトスネイクでは攻撃を防げるかどうかは非常に怪しいところだ。
今は大人しく、話を聞くほかないだろう。
「つい先日…………亜総義市の広場にある、
「……ああ。」
「私は、銅像が破壊された瞬間の映像を何度も何度も見直した……。だが、全くと言っていいほど、如何な方法を用いて破壊したのかがわからなかったのだ」
「そうか」
萬像破壊とは、とどのつまり、私が破壊したあの銅像の件のことだろう。
そして彼女は非常に重要な情報を口にした。『
これは『ホワイトスネイクが萬像を破壊した』という行為が見えなかったということを意味し、彼女が『スタンド使い』ではないという答えに繋がる。ホラを吹かれている可能性もなくはないが、そもそもスタンドが見えるならば私にこのような質問をわざわざしないだろう。
スタンド使いの正体が分からず、炙り出すために私に尋問をしているという線もあるが、それならば背後からわざとらしく斬りかかってみればよい。大抵のスタンド使いはスタンドで攻撃を防ぐだろうからな。
壬生菊千代が記憶の中の怒りを思い出したのか、刀を握る手に力が籠った。
だがすぐに呼吸を整えて心中を平静にし、落ち着いた声色で言葉を紡いでいく。
「しかし此度の件……今まさに目の前にある、あの大穴だ。一体どのような方法で開けたのかは分からないが、おそらく強大な力で無理やりこじ開けたのだろう。
そんなことをすれば激しい音が鳴ってしまうはずだが、そのような音は一切聞こえなかった…………」
「それが、一体どうしたと?」
「萬像の件、そしてこの大穴の件。共通しているのは、どちらも現実的にありえない
プッチは押し黙り、壬生菊千代の方をじっと、仮面の奥から見つめ続ける。
だが彼は、仮面の中で頬に一筋の汗を流していた。
「私はこの『
(……私のスタンドの方を一度向いたのは、気配を感じたからということか……!?
ふざけた理由を根拠にした予測だが、殆ど命中させているぞこの女ッ……!! )
内心で彼女への警戒レベルをもう一段引き上げつつ、ホワイトスネイクで先制攻撃を入れるかを思案する。しかし、その気配とかいう訳の分からないものでスタンドを感知し、攻撃を回避されたら? この距離でもし避けられてしまえば、刀による致命傷を受けてしまうだろう。
白を切って押し通す他はない。
「なぜそのような事を私に話す? ふざけた妄言を聞いている暇はなッ――――」
――――ピッ、と。
空気を斬る音がコンマ一秒に凝縮されたような、間抜けな音が聞こえたと思った瞬間。プッチが被る仮面の数ミリ前に、刀の切っ先が突きつけられていた。
攻撃を防ぎ、反撃するどころか。刀を鞘から抜いてこちらに突きつけるという動作の一片すら視認することができなかった。焦りから、呼吸が一瞬乱れる。
「ナユタに萬像破壊の疑いが懸けられていたという情報は掴んでいる。火のない場所に煙は立たぬと言うだろう、貴様らが何かしら関わっているのは確実なのだ。
――――知っていることを全て話せ」
死という概念を体現した死神が、背後で冷たい息を吐いているのが分かる。エンポリオに頭をすりつぶされた時の記憶がフラッシュバックする。頬に伝う汗が首元にまで流れ、白ローブの襟がじわっと湿っていくのが分かる。
こんな小娘に刀を一本、突きつけられた程度でここまで感情が突き動かされるなど……。私があの
だが…………。
私とて、たかだか刀一本を前にして動きが完全に止まるほど柔ではない。今まで幾度も死線を潜ってきたのだ、天国へと到達するために。
そしてこの状況も、神が私に与えたもう試練の一つなのだ。試練は私を成長させてくれる、恐れることなど何もない。
鬱陶しいほどに流れていた汗がピタっと止まる。
プッチは仮面の奥から壬生菊千代の双眸を睨み、力強い声色で言葉を発した。
「もう一度言っておこう。……私には、ふざけた妄言を聞いている暇はない。そのような下らぬ妄想を栓の取れた蛇口のように垂れ流すのは金輪際やめておくことだな」
「…………何も知らないのか?」
「知らん」
プッチが低い声色でそう言うと、壬生菊千代は刀を引き、鞘に戻す。
そして瞼を閉じ、一切反省などしていなさそうなすました顔で「すまなかった」と小さく言った。
その声に強く反応することもなく、シャッターの穴に向けて再び踵を返す。
思い返してみれば、壬生菊千代がスタンド使いであるかどうかを知ることができた辺り、少しは意味のある時間であった。
ホワイトスネイクが弱体化した原因……私の精神が衰弱した理由を改めて見つめ直すこともできた。エンポリオに植え付けられた死への恐怖をどうにかしない限り、ホワイトスネイクの性能は戻らない。死の瞬間の記憶をディスクにして抜くこともできるが、あの場面は非常に重要な記憶が紐づけされている可能性が高く、死の恐怖は消えるが別の要因で私の精神が壊れる可能性が高い。
確かにそう言ったものを色々と再認識または知ることができて、意味のある時間ではあったが……。
ただこの壬生菊千代とか言う女は、後々厄介な相手になる可能性がある。恐ろしいほどの身体能力に、スタンドを感知できるほどの勘の鋭さ。剣の道を進めていくうちに、敵意というものを敏感に感じ取れるようになったのだろうか? いつか隙を見て始末しておきたいところだ。
いくらスタンドが感知できようと、私が
穴の真下までたどり着き、中指でシャッターを叩いてゴンゴンと音を鳴らす。
「おう、プッチか! こっちで脚立を見つけたんだ、今からそっちに投げるから離れていてくれ!」
「分かった」
五歩後ろに下がり「いいぞ!」と声をザッパに掛けると、ぼよーんとバネで跳ねたかのような緩やかな軌道で向こう側から折りたたみ式の脚立が投げこまれた。地面に転がったそれを拾い上げ、十秒もかけずに組み立てる。
組み立てた状態でも2メートルはあった脚立に登り、穴を軽々と越えて工場の中へと戻る。
品須とザッパは軽く搬出エリアの中を探索していたのか少しだけ汗をかいていた。ザッパが右手で親指をビッと立てつつ、左手に持った何かの資料らしき紙束を渡してくる。
それを受け取り、パラパラとめくりながらザッパに問いかけた。
「これは何だ?」
「亜総義市の治安悪化に備えて、通常の3~4倍のサイズがある大型の警備ロボットが配備される予定だったみたいだな。その資料はロボットの配備予定日とかメンテナンス方法とかのヤツ。このサンホー工業にも一体だけサンプルとして送られてたみたいなんだが…………」
「……なるほど、そういうことか。そのサンプルのロボットとやらは、シャッターの向こうでゴミになっていたぞ」
「おいおいマジか? 重さ百キロはある上に頑丈さもガンガンアップ!って書いてたんだぜ……。帰ったら詳しいこと教えてくれよ、プッチ」
「教えるどころか、知ってもらわないと困るな」
ザッパとプッチが話していると、壬生菊千代が穴の向こうから工場の中へと戻ってくる。
搬出エリアに訪れた四人が全員合流した。品須が着地したばかりの少女に向かって近づき、話しかける。
「お嬢、外の様子はどうでしたか」
「うむ……、詳しいことは戻ってから話そう。そちらに収穫はあったか?」
「いえ、こちらはザッパの奴が見つけたもの以外は何も……。すみません、お嬢」
「問題ない。」
そんな会話が耳に入り、この資料はザッパが見つけたのかと内心で少しだけ感心する。この資料、特に警備ロボットの配備予定日は重要な目安になるだろう。他の施設でもこれと大体同じ日に配備されるはずだ、これからは更なる準備が必要という情報は非常に有用だ。
紙束を手で持つのは面倒だと、これを入れられる袋のような物がないか周囲を見回す。そんな折に、品須が私に向かって話しかけてきた。
「プッチ、とか言ったか。どうや、外で何か見つけられたか?」
「そこにいる彼女と大体同じだ。何を聞き出そうとしているか知らないが、情報を隠したりはしていないからな」
「んなこと一言も聞いてないやろ。ただの会話や、会話。今の亜総義市の状況や、抗亜同士でも多少のコミュニケーションは取っといた方がええんちゃうか?」
「…………」
突然何を言い出しているんだ、この男は?
いや、しかし……この適当な否定の仕方。これは明らかに、私の口から何かが漏れるのを誘っているな。大方、私が重要な情報を何か隠し持っていると思っているのだろうが……。
こちらが隠し持っている情報と言えば、スタンドが絡んでくる物だけだ。そして私からスタンドの情報を抜き出せるほど口が立ちそうな男でもない。何かあったとしても、最悪私がスタンド使いということさえバレなければよいのだから。
「しかし、プッチの兄ちゃん、よう丸腰でこんな活動を続けられてるもんやなぁ……。腕力がえろうあるってわけでもなさそうやし……なんか武術でも修めてるんか?」
もはや隠す気があるのかどうか疑ってしまうくらいの口下手さだ。他人と交渉する際に用いられる『褒め落とし』という方法で私の心を良い気分にさせ、ポロッと情報が出てこないかを狙ってきている。囚人相手に聖職者をやっていると時折非常に口達者なものが現れるが……品須の口の上手さはその囚人たちの足元にも及ばない。
こんな児戯に等しい口論にいつまでも付き合っている気も暇もない。適当に切り上げてさっさと元の場所に戻るとしよう……――――。
私がどのようにして会話を切り上げようか考えていると、ザッパが興奮した様子で品須との会話に割り行ってくる。
「何言ってんだ品須の旦那! うちのナユタに組する一人が、それも大型新人のプッチがッ! 素手だから武術を使うだなんて安直な枠組みに囚われる奴だと思うのかッ!?」
「素手で力任せにぶん殴る戦法のお前が言うことじゃないと思うんやけどな…………。そんじゃ、何で戦うんじゃい?」
「そりゃもちろん、すんげえパワーの『
「――――『
「あッ」
ザッパが「しまった!」という風に両手で自身の口を防ぐ。だが一度出した言葉は飲み込めず、壬生菊千代が目ざとく会話の内に走った不穏な単語に目を付け、反芻した。
……いや……。……は? ザッパ、今、何を……まさか、言ったのか……?
…………。
「……プッチとかいう奴から何か抜き出そうと思うとったら、お前から出てくるんか……」
…………………。
「すまん、プッチ…………」
………………………。
プッチが自身の顔につけた仮面を外した。そしてローブの腰から垂れたフックに、乱雑に仮面をひっかける。
現れた黒い肌の顔面には透明な汗が何滴も走り、眉間には深いしわが刻まれている。ギリリと音が聞こえてきそうなほど強く歯を食いしばり、目はふらふらと地面を彷徨っていて……そしてやがて、何かを決意したように、品須と壬生菊千代をその黒い双眸で捉えた。
「素数だ……素数は1と自身の数でしか割り切れない孤独な数字……私に勇気を与えてくれる…………」
超能力などという常識の中では非現実的な物、普通の状況ではふざけた妄想だと言い張ることができる。実際、そんなことをマトモに取り扱う人間もいないだろう。
だが今は……壬生菊千代に異常現象について問い詰められたすぐ後だ。それに私は、彼女が疑っていたナユタの一員……。ナユタのリーダーが自チームの1メンバーの武器を『超能力』だと公言した今、先ほどの言葉をただの妄想だと彼女が唾棄するだろうか? 絶対にしない。
必ず疑い、確信するはずだ。私にスタンドという能力があることを。
そしてそれが広まると……この街のどこかにいるスタンド使いに、私がスタンド使いだということがバレてしまう恐れがある。いずれスタンドのことが広まるのは覚悟しているが、この時期に広まるのはまだ時期尚早すぎるのだ。
「2…3…5…7……」
広められたくない、バレたくもない。
ならば、今、ここで。
口封じをするほかはない。
幸いにして私のスタンド能力は、特定の記憶を抜き取ることができる。
壬生菊千代と品須の記憶を抜いた後、ザッパの記憶も抜く……。ザッパに関しては、私のスタンド能力『ディスク』に関することだけを抜く。
問題ない、私なら十分に可能な範囲だ。そう時間もかからずに終わる。
「59…61…67…71……」
プッチの精神と呼応するホワイトスネイクは、品須と壬生菊千代に向かっておどろおどろしい、身にまとわりつき関節が締め上げられるような殺気を纏っている。
弱体化しているとはいえど、一度世界の理を捻じ曲げ新たな世界を作り出そうとした男のスタンドだ。並のスタンド使いが放つ殺気とは、まさに格違いと表現するのが相応しいものである。
「――――ッ!! 貴様、その気配ッ!!」
壬生菊千代がホワイトスネイクの殺気に当てられ、刀の柄に手を掛ける。
そして先ほどまでスタンドの気配など欠片も感じ取れなかった品須も、プッチ本体が放つ殺気にただならぬ物を感じ、手に持っていた長ドスを鞘から抜いて構える。
「ザッパ、品須とかいう男の方は任せたぞ……」
「あ、ああ。」
プッチがザッパに声だけで指示をして、壬生菊千代が立つ方向へと歩みを進めた。
「ッ………ハァァッ!!」
少女が部屋全ての物体に数倍の重力を与えたかのような殺気に耐えきれず、目にも止まらぬ速度でまだ三メートルは離れているプッチに向かって踏み込み、刀を横薙ぎに振るう。
「…103…107…109……」
壬生菊千代は刀を振るった体勢のまま、自身の横から聞こえたその声に驚愕する。人間の動きという物には限界があり、彼女はそれを知り尽くしている。故に先ほどの攻撃も、プッチの動きを予測した上で放ったものだったのだが……。
彼女はスタンド使いという存在との戦い方を知らなかった。プッチが攻撃を回避した理由は至極単純、ホワイトスネイクで自身の体を引っ張っただけだ。ただそれが、只人の動きを予測している者には決して読めないような動きであっただけのこと。
プッチが距離を取ろうとする壬生菊千代の片足を払い、スタンドの右腕を天井にめがけて掲げるように持ち上げ、勢いよく壬生菊千代の顔面へと放った。
右拳に走った何かを殴る確かな衝撃。プッチは口角を数ミリ上げる。壬生菊千代は不安定な姿勢ゆえに勢いよく吹き飛ばされ、二トントラックのバンパーへと思いきり背中を打ち付けた。
世界を回した男のスタンドは、未だ留まるところを知らない。
凄く長くなっちゃった
そして私事なんですが、評価数が一気に上昇しました!
どうやら日刊ランキングに乗せていただいていたみたいで、嬉しい限りです。
これからも引き続き、よろしくお願いします!