プッチ in 亜総義市   作:男漢

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#18 ベリーハード サンホー工業5

 品須が頭の横に長ドスを構え、尖らせた口からシッ!と鋭い息を吐きながらザッパに向かって素早い足さばきで踏み込み、上から下に向かって振り下ろすように斬りかかる。

 ザッパは腕を頭の上部でクロスさせるように防御し、腕部に巻き付けた鎖でドスを受け止めた。ギチギチと鎖と刃が力強くこすれ合う音が両者の間に響く。

 

 二人はその姿勢のまま視線を合わせ、言葉を交わす。

 

「おんどれザッパッ! アイツ(プッチ)は一体何者やねん!!」

「すまん旦那! 俺から詳しいことは話せない上に、厚かましいお願いだが……頼む負けてくれ!!」

「アホぬかすなボケぇッ!!」

 

 品須は叫び声と共にドスを勢いよく手元で回転させ、ザッパの両腕を左右に弾く。

 そしてがら空きになった胴に鋭い片足蹴り、俗にヤクザキックと呼ばれる攻撃を決めた。ドズンという鈍い音と共に内臓に深く重い衝撃が走り、ザッパが腹部を押さえ冷や汗を垂らしながら二歩三歩と後ずさる。

 

(……いってえェーーッッ……!!

 プッチーッ! 流石に一人じゃ品須の旦那をいつまでも抑えておくのは厳しいぞ……ッ! 何する気か知らねえけど、早めにな……!)

 

 

 

 

 ザッパと品須が争い合っている場所から、ほんの数メートル離れた場所で。

 トラックのバンパーに向かって吹っ飛ばされた壬生菊千代の方を、静かな瞳で注意深く眺めているプッチがいた。優に三百を超える素数を口ずさみながら、彼は自身の横に立つホワイトスネイクの方にチラリと視線をやる。

 

(右拳を奴の頭に当てたと思ったが…………『ディスク』を取り出すことができなかった。

 …………()()()()、か。)

 

 

 スタンド使いの間では常識中の常識である、『スタンドにはスタンドでしか触れられない』というルールがある。だが、このルールには一つだけ()()が存在した。

 

 それは、スタンドが何かの物体を攻撃する際である。ここでの物体とはスタンド由来の物ではなく、ごく一般的に世の中に溢れているような、非スタンド使いが認識し触れることのできる物のことを指す。

 スタンドが攻撃をする際、その破壊対象である物体に一瞬ではあるが触れていることになる。これがスタンドのルールに存在する唯一の例外である。

 

 しかしこれは至極当然のことを反芻しているだけで、むしろこの例外が一体何の問題になるんだ? 気にする必要があるか? と考える者もいるだろう。確かにこれだけでは何も問題はないのだが、スタンド使い自身の『()()』という物が加わってくると、非常に厄介な問題にと変貌してしまうのだ。

 

 例えば、スタンドで1メートル先にあるりんごを殴って潰したいと考える。

 60センチ、70センチ、80センチ、90センチとスタンドの拳が進んでいき……。そしてりんごの直前、99センチに到達した瞬間に、スタンドとリンゴの間に一瞬で鉄板が差し込まれたとする。そうすると不思議なことに、りんごを破壊することを目的にしていたスタンドが鉄板を殴ってしまうのだ。

 何を当たり前のことを? と思うだろう。これがスタンド使いの認識の厄介さ、引いては人間の脳の限界である。

 突然現れた鉄板に対し、壁と認識することしかできない。壁をすり抜けてりんごを殴る方が明らかに良い選択だというのに、壁を殴るという悪い選択を取ってしまう……。そしてそれを、スタンド使い自身が『()()()()()』だと認識してしまっていることが大問題なのである。

 

 スタンドの基本原理は『自身のスタンドにはこれぐらい出来て()()()()()と思うこと』だ。

 それを操る者自身が、『りんごを殴るには壁を破壊しなければならず、故に壁を殴るしかない』と思っている以上…………この問題は永遠に解消されることはない。

 

 

 話を戻すが……。

 この認識の問題とやらは、プッチにとっても例外ではない。

 だが幾度も死闘を繰り返し経験を積んでいるプッチにとっては、その問題は殆ど弱点ではないと言ってもいいだろう。たとえ壁が差し込まれたとしても、一瞬でスタンドの動きを切り替えて壁のない方から攻撃すればいいだけのことだ。そしてそれができるのがこの男であった。

 

 しかし全ての物事には例外が存在する。

 もしプッチが攻撃を咄嗟に切り替える暇すらないほど、攻撃の直前の直前、ギリギリまで引きつけたところで防御ができるような身体能力と運動神経の持ち主がいたら?

 そんなIFの世界の人物が、今彼の目の前にいた。

 

 

「……厄介な力だが…………どうやら、防げぬ訳でもないようだな」

 

 壬生菊千代が自身の刀を軽く振り回し、ヒュヒュッと素早く風を斬る音を鳴らしながら、刀身を鞘の中に戻す。彼女はあろうことかホワイトスネイクの気配から攻撃地点を完璧に予測し、刀で防御をしたのだ。まこと恐ろしき身体能力である。

 

「367…373…379…383……」

「先ほどから貴様が呟いているのは……素数か? 薄気味悪い心の鎮め方をする男だな…………」

「…………」

 

 プッチ口を閉じ、素数を数えていた声を止める。決して壬生菊千代の言葉にイラついたからではなく、もう数える必要もないぐらいに心の平静を取り戻すことができたからだ。

 仮面から解き放たれたおかげでよく空気の通る口から息を吸い込み、彼女に向かって言葉を放つ。

 

「5分だ」

「……何?」

「それ以上は差し支えが出る。あまり長く戻らないのも怪しまれるだろうからな」

「―――つまり、私を5分以内に始末すると……そういうことでいいのか?」

 

 プッチは言葉を返さない。が、口を閉ざしたまま壬生菊千代に向かって歩みを進め始めたことが、問いかけへの答えを雄弁に語っているだろう。

 ホワイトスネイクがプッチの前方に顕現し、トラックの前に立っている少女に向かって鋭い右フックを放った。彼女はまるでそれを見えているかのように自身の右側に転がって回避し、すぐに立ち上がって、プッチの周囲をグルグルと回転するように素早い動きで走り始めた。

 自身の周りを走り続ける少女から視線を逸らさぬよう顔を動かしながら、心中で思考を巡らせる。

 

(走る速度は目で追い切れる程度か………真に警戒すべきは攻撃時の踏み込みと、刀の振るう速度だな。武器の間合いに入らぬよう警戒していれば十分に対処できる)

 

 また彼の周囲を走り続ける壬生菊千代も、自身を目で追い続ける男について必死に頭を働かせていた。

 

(先ほど防御できたのは殆ど運のような物だった……! だが、私もここで引くわけにはいかぬッ! 奴の『超能力』についての情報を聞き出すまでは……ッ!)

 

 彼女がそう考えていた瞬間、プッチの体が突然宙へと浮きあがる。そしてそのまま何かに投げられたように、二トントラックの荷台の上へと飛んで行った。少女は驚愕の表情を浮かべながらも、それを追いかけるためにトラックのバンパーを踏んでジャンプし、二歩で荷台の上に飛び乗る。

 

 白い鉄製の荷台は、人が二人乗った程度ではビクともしない頑丈さだ。プッチはトラックの正面から最も離れた荷台の尻辺りで、登ってきた壬生菊千代を睨みつけるように立っている。

 少女はどこかからの罠を警戒するが、男が使用する超能力の気配がどこからも感じない。彼女からプッチまでの距離は約4メートル、全力で踏み込んでも一歩では届かないほどの距離だ。そしてこの男を相手に二歩もかけて踏み込むのは余りに遅く、危険すぎる。

 自身の間合いにプッチを入れるため、鞘に入れた刀を掴みながら、じりじりとすり足で近づいていく。あともう少しで間合いの中という所で、壬生菊千代の本能が警鐘を鳴らした。

 

(何かがおかしいッ! あと一歩で私はプッチとやらを斬り飛ばせるが……あのような殺気を放つ者が、私の間合いを見誤るなど馬鹿げたことをするはずがない! もしや私は、既に取り返しのつかない所まで進んでいるのでは…………!)

 

 彼女の目が答えを探すために、ギョロギョロと動き回って周囲を観察する。

 

(……ッ、何もないッ! どこにも()()()()()ッ!

 駄目だ……視覚だけでは!! 私の五感全体を使って探す……!)

 

 刀を握る手から冷や汗を滝のように流しつつ、元から只人の倍は鋭敏な五感を更に鋭敏化させる。

 嗅覚は周囲の鉄の匂いを感じ取り、味覚は周囲の空気の味すらも感じ取れるほどに強化される。耳には私の手から地面に垂れる汗の音が大音量に響き、肌には私の吐いた鋭い緊張の息だけが当たり、ほのかな温度を持っていく。

 分からない。五感で感じ取った情報の中に答えはあるのだろうが、彼女にはそれを土壇場で見つけられるほどの『覚悟』が足りなかった。

 

 ――――壬生菊千代は初めて、死という物が背後に迫っているのを予感する。

 書物で幾たびか、背筋に氷柱が突き刺されたようなという表現が為されているのを見たことがあったが。今感じている予感は、背筋に氷柱を刺されたなどという生易しいものではない。

 

 脳が氷漬けになって思考がホワイトアウトし、全身から足を伝わって地面に体温が流れていく……。死体はただの肉塊だと言う者もいるが、まさにその通り、冷凍庫で宙ぶらりんになっている肉塊に自身が変わっていく様をゆっくりと体感するような感覚なのだ。

 

 

 だからだろうか。壬生菊千代は思考がホワイトアウトすることで、逆に自身の感じ取った五感をありのまま受け取ることができた。

 巡り巡っていく情報の中、彼女の思考の堰に何かが引っかかる。

 

(肌に私の吐息だけが当たる……?)

 

 彼女が引っかかったのは五感の内、触覚から感じ取った情報であった。

 記憶を頭の底から引っ張り出し、その情報と記憶を照合させていく。

 

 思い出してみれば。この搬出エリアに来るまでの間、そしてこの搬出エリアに着いてからも、ほんのわずかではあるが風が通っていた。

 どこから風が通っていたかと言えば、あのシャッターに開いた大穴だ。そして私は今搬出エリアにあるトラックの荷台の上に立っている。大穴のすぐ近くで鋭敏化した五感が風の流れを感知しないことなど『()()()()()』。

 

 

 何かがおかしい。風の流れが止められた……? いや、そんなことをしても何の意味もない。

 私の体温が急速に上昇していく。実際に上昇しているわけではなく、私の五感が僅かな体温の上昇を大げさに受け取っているだけだ。

 風の流れがない上に、体温が上昇する……。この体温の上がり方、まるで密室の中にでもいるような……。

 

(これは……。私が今いると認識している場所が、私の今いる場所じゃない……?)

 

 私の認識が歪められている…………。

 

 まさか、これは。

 …………『()()』…………!

 

 

 その答えにたどり着いた瞬間、視界の中心で閃光が走り、ハッと夢から醒めたような感覚になる。力の抜けていた体に血流が走り、筋肉が躍動する。どうやら地面に寝転がっているようだ。

 ままたいていた閃光の光が収まったと思ったその時、視界に広がっていたのは。濃密な超能力の気配を纏ったプッチが私の頭部に向かって腕を振り下ろしている瞬間だった。

 

「――ッせやァァッ!!」

「何ッ――――ッぐううっッッ!?!!」

 

 腰に携えてあった刀を抜き、その場で回転して飛び上がりながら男の胴を斬りつける。時間にして一秒にも満たない一連の動きだったが、男はその一瞬で胴への攻撃を防いでいたようで、→腕に付いた裂傷から白ローブを紅く染めながら血液をボトボトと流している。

 プッチは自身の右腕を左手で押さえつつ、壬生菊千代の方を憎々し気に睨む。

 

「私のスタンド能力を破るだと……ッッ!?

 ―――しかもこんな、スタンド使いですらないような小娘が……ッ!!」

「マジックの種が割れたな、プッチっ!! これ以上続ける気か?!」

 

 壬生菊千代はプッチに向かってそう悪態を吐きながら、周囲に目を配って辺りの環境を確認する。どうやらここはトラックの荷台らしい。そして私の真上には人一人がギリギリ通れるような穴がこじ開けられている。

 

(……そうか。私はあの突然開いた穴から荷台の中に引きずり込まれて、さっきの幻覚をかけられていたのか……)

 

 少女は幻覚をかけられた際にぼやけてしまった記憶を引きずり出し、状況の概要を把握する。

 幻覚の発動条件を知らぬ彼女には、プッチが自身を嵌めた罠の全容を把握し理解することはできない。だがおおよその概要は掴むことはできた。そしてあのような穴からの不意打ちを用いた以上、発動条件に不意打ちもしくは時間の制約のような物があることも察する。

 プッチがギリギリと音を鳴らす歯の隙間から、心底憎々し気に少女に向かって声を放つ。

 

「舐めるなよクソガキ……っ!」

「貴様を舐めてかかるほど愚かではない!」

「下らん言葉遊びをしている暇は私にはないのだッ! ホワイトスネイクッ!!」

 

 ホワイトスネイクが壬生菊千代に向かって拳を振りかぶる。彼女は地面に一瞬体が沈んだのかと思うほどしゃがんでスタンドの攻撃を回避し、バネの様に勢いよく真上に跳ねて荷台に開いた穴から外へと脱出した。

 プッチは荷台の外に出ることはなく、トラックの運転席へとホワイトスネイクを飛ばす。ハンドルの下付近に手刀を差し込み、内部のケーブルをぶちぶちと引き裂きながらケーブル同士をスパークさせ、トラックのエンジンをかける。今日日映画でしか見ないような手法だが、どうやらここのトラックは随分と古いものを使っているらしい。

 アクセルペダルをスタンドの足で踏み込み、エンジンをブルルンといななかせながら、シャッターに二トントラックを突っ込ませた。轟音と共に搬出エリア全体が強い衝撃に見舞われ、当然トラックの荷台の上に居た壬生菊千代も体制を崩す。

 

「ッ――なりふり構わず、か!」

 

 その体制を崩した隙を突くように、ホワイトスネイクが運転席から飛び出して壬生菊千代に手刀を放った。

 

「クソっ!」

 

 彼女はその鋭い直観でスタンドの動きを把握し、手刀を自身の刀で防ぐ。しかしいくら弱体化したと言えど、元は相当に強力だったホワイトスネイクのパワーは生半可な威力ではない。ガギンと鈍い音がなり、壬生菊千代に腕全体が小刻みに震えるような、電流に似たビリビリとした衝撃が走る。

 

『ウシャアアアアアアアアアアア!!!』

 

 ホワイトスネイクが咆哮を上げながら、少女に人型スタンドの最大攻撃『ラッシュ』を仕掛ける。読みも戦法もクソもない拳の乱打だが、非スタンド使いの壬生菊千代にとっては視認することができないので自身の勘だよりに防御することしかできず、彼女の集中力すらも大いに奪っていく非常に有効な攻撃だった。幸いにして彼女の刀は特別に硬い金属で製作されておりホワイトスネイクのパワーでへし折れるようなことはなかったが、刀を扱う本人には徐々にダメージが溜まっていってしまう。

 ガガガガガガガ!と非常に素早いテンポで金属同士の衝突音のような轟音が響く応酬。十数秒でラッシュを防ぎきれなくなった壬生菊千代がその場から飛び退き、荷台の下へ飛び降りる。

 

 4メートルはあろう高さを何の怪我もなく着地し、鞘に納めた刀に手を掛けつつ、荷台の中にいるであろう男に向けて構える。

 数秒も待つことなく、荷台の暗闇から淡い光の降る中へ、まるでストリートでショッピングしているかのようなゆったりとした歩みでプッチが現れた。荷台から飛び降り、壬生菊千代と同じ土俵に立つ。

 

「スタンド使いでもない者にここまでやられるとはな…………。貴様、本当に人間か……?」

 

 その言葉を皮切りに、プッチは壬生菊千代へとホワイトスネイクによる攻撃を始めた。

 少女は防戦一方の状況を変えるために、プッチへと多少のダメージを覚悟しての突撃を行う。一歩の踏み込みで3メートルの距離を進み、刀を横一文字に斬り払った。

 が、彼女の刀に何かを斬った手ごたえはない。それもそのはず、プッチはホワイトスネイクを脚部にまとい、2メートルほど上空へ飛び上がっていた。彼女自身も気づいていないことであるが、先程のラッシュを防御した際のダメージが、刀の振りを若干ではあるが鈍くしていたせいで回避されたのだ。壬生菊千代はすぐさま刀の向きを変え空中の男を迎撃しようとするが、全身を顕現させたホワイトスネイクの蹴りで刀を持った腕ごと弾かれる。

 ついに完璧な隙を見せた壬生菊千代を前に、プッチは自分自身の手を手刀の方にし、彼女の頭に向かって振りかぶりながら叫んだ。

 

「『どこへ行かれるのですか?(ドミネ・クオ・ヴァディス)

 おまえは『磔刑』だ───ッ!!」

 

(まずい――――)

 

 壬生菊千代が嫌な気配を感じ、身をよじって手刀を避けようとするが間に合わない。驚異的な集中力で世界がスローモーションになる中、ゆっくりと迫る白手袋の手刀だけが彼女の視界の中で大きくなっていって――――

 

 

 

「お嬢に何しとるんじゃボケェッ!!」

 

 突然横から現れた品須の飛び膝蹴りによって、プッチは右腕ごと体を吹き飛ばされた。咄嗟に地面と衝突する体の側面にホワイトスネイクを出してダメージを吸収させつつ、すぐに身を起こして立ち上がる。

 壬生菊千代による傷口を蹴られた痛みに顔をしかめつつ、憎々し気に言葉を発する。

 

「貴様は品須……! ザッパは何をッ!?」

「ザッパのアホか? 突然動き出したトラックに体かすめて吹っ飛ばされて、壁に激突して気絶しとるわ」

「…………ッ」

 

 プッチは自身の苛立ちを隠すこともなく、顔を怒りで歪める。壬生菊千代の一人を相手にするだけでも苦しいのに、品須まで纏めて相手にするとなると非常に厳しい展開になることは必至だ。だが……やらない訳にもいかない。二人相手では幻覚という使い勝手の悪い小手先の技ではなく、ディスク能力の本領を発揮させる必要がある。

 私は二人に向かってホワイトスネイクを飛ばそうとして――。

 

「待てや。今回は、お互いにこれで手打ちや」

 

 品須が鞘に納めた長ドスでポンポンと肩を叩きながらそう言った。

 

「何――――」

 

 私が言葉を紡ぎ終わる前に、この部屋に近づく大量の足音が耳に入る。恐らくトラックをシャッターに突っ込ませた轟音を聞きつけて、待機していた東雲派とナユタがこちらに走ってきたのだろう。東雲派の下っ端共まで相手するのは流石に不可能だ。舌打ちをし、腰に掛けていた白仮面を被り直す。

 

「これからうちの……東雲派の若い奴らが集まっても、お前らナユタに攻撃はせん。その代わり、お前も今回は引けや」

「…………」

「何が目的でお前みたいな奴がナユタに入っとるか知らんが……ここでナユタが全滅すんのは、お前にとっても都合が悪いやろ」

 

 プッチは仮面の中で小さく歯ぎしりをする。そして小さな声で

 

「わかった」

 

 と返した。

 気絶したザッパを搬出エリアの扉付近まで運んできたところで、ちょうどナユタと東雲派の待機組が部屋の中へと押し入ってくる。待機組は各々、搬出エリアの惨状に目を丸くした後に、自クランの仲間の元へと駆け寄っていく。

 

 

「お嬢! 品須さん! この惨状は一体…………」

「あー……。まぁ、偶々や。気にすんな」

「偶々でこんなことにはならないですよ! あっちにいるナユタの奴らにやられたんでしょう、俺達が――」

「――やめろ」

 

 勢いづこうとした東雲派の若衆を、壬生菊千代が言葉で収める。仮面で顔を隠し鼻から下しか見えない彼女だが、悔し気に唇を嚙む様からは強い屈辱と怒りの念がありありと感じ取れた。圧倒的な実力差から来る圧力に、若衆は般若面の中で冷や汗をかきながら押し黙った。

 

(あーあー………こりゃ、納得行ってないって感じやな……。帰ったら話すこともあるし、そん時に少しだけ慰めるか…………)

 

 品須はこの後の苦労をあれこれと考えながら、後頭部を右手でがしがしとかいた。

 

 

「プッチ! さっきの音に、その右腕の傷は一体…………」

「私のスタンドのことが知られてしまった。始末しようと交戦したが……この有様だ」

「ちょっと……マジぃ!? そんな重要なこと知られるって、一体どんなポカやらかしてんの?!」

「プッチも案外抜けてるところがあることに、驚愕を隠しえません。ね、ザッパ」

 

 クマが搬出エリアの惨状に困惑しつつ問いかけ、プッチは冷静に言葉を返す。スタンドが東雲派の主格二人にバレたことは隠すことではなく、寧ろ共有すべきことだからだ。勿論東雲派の若衆に聞こえぬよう小声で言っているが。

 そして超重要な情報が東雲派にバレたことに驚愕する、いつの間にかグロッキー状態から回復しているキラキラ。そして明らかに誰がバラしてしまったかを感づいた上で、自身の頬を両手で押さえて驚愕!といった顔を作りながら、ぴゅーぴゅーと顔を逸らしつつ口笛を吹くザッパに話題を振るポルノ。

 そしてポルノのわざとらし気な物言いに、ナユタの中では物事への気づきが少し鈍い方であるキラキラでさえも、誰がバラしたのかを察する。全員の冷ややかな視線がザッパに突き刺さり、滑らかに吹かれていた口笛の音が段々乱れていき、やがて。

 

「す、スマーーーーン!!!!」

 

 ザッパがその場で勢いよく土下座した。

 その様は、のちのポルノ談であるが、『後世に伝え残すほどに完璧な土下座』であったらしい。

 

 

 

 

 

 そんな風に騒ぐナユタの中、プッチは内心で東雲派の主格二人を睨みながら、心中で自身への戒めを呟く。

 

(人が敗北する原因は…『恥』のためだ。人は『恥』のために死ぬ……

 私のスタンドが奴らに知られてしまったことは決して恥ではない。これは神が与えし、試練なのだ……。この失敗を次の勝利へ生かせばよい…………)

 

 自身への慰めともとれる戒めを吐き続けるプッチだが。

 非スタンド使い相手すら仕留めきれなかったという事実に、プッチは「早く弱体化したホワイトスネイクの力を取り戻さねばいけない」という現実を、強く意識し直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も長くなっちゃった

途中作者自身も「よくわからん」状態で書いている部分があるので、色々かいつまんで読んじゃって下さい。
そもそも菊千代とプッチの勝負自体が元のプロットになかったものですし……多少のガバは勘弁してください。

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