プッチ in 亜総義市   作:男漢

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#19 東雲派とナユタ

 

 

 サンホー工業の搬出エリアにナユタと東雲派が集結した後。

 

 両陣営同士の静かな睨み合いこそあったものの、戦闘は起きることがなく、どちらも撤退の一手を選択した。ナユタは搬出エリアのシャッターに開いた大穴から、東雲派はサンホー工業内を戻っていき入ってきた入り口からと、お互いにブッキングしないよう別々の場所から自らの拠点へと撤退した。

 

 

 そのサンホー工業から撤退した後に。東雲派のよく磨かれた板張りの道場で、黄金の満月に向かって白い制服姿の少女が木刀を振るっていた。傍目からでも酷く憔悴しているのが一目で分かり、肩を大きく上下させてハッハッと荒い呼吸を早いリズムで繰り返している。

 一太刀振るうたびに空を切る音が静寂の中に反響し、黒髪に滴っていた透明な汗が月光を反射させつつ前方に飛び散る。もう自身の体力の限界を優に超えているだろうに、何かに触発されたかのように、木刀を振る手を止める気配はなかった。

 そんな少女に、音もなく道場に入り声を掛ける男が一人。

 

「お嬢。」

「…………品須、か。」

「それ以上は本当に体を壊してしまいます。お休みを」

 

 少女、壬生菊千代が品須の声に反応し、動かしていた体を止める。握っていた木刀を地面にそっと置き、背後に居る彼の方に振り返った。

 品須が振り返った彼女の姿を見て、ふぅと少しだけ安堵と疲労が混じった息を吐き、声を発する。

 

「サンホー工業から帰ってきて、そのまま休憩もなしに二時間ぶっ通しで木刀を振り続けて…………もしかして、倒れるまで降り続ける気だったんですかい?」

「……その通りだ。目を閉じてもあの男との戦いを思い出して……眠気が来ぬ」

「睡眠薬でも飲みますかい? すぐに効く奴がありますさかいに」

「必要ない。この感情は……薬で鎮めたくはない」

 

 壬生菊千代が自身の右手を見つめる。

 

「私は最後……プッチとやらに追いつめられた時だ。品須が横から入ってこなければ、私は負けていただろう」

 

 彼女は、自身の眼前に白い手袋を被った手刀が迫ってくる光景を思い出した。

 一体何をするつもりだったのかは分からないが、あの戦況で止めとして私に放った一撃だ。当たれば無事では済まなかったのは確実だろう。

 見つめていた右手を固く握りしめる。

 

「もう二度とこのような悔しい思いはしたくない。故にこの感情は……心の内で暴れさせておくさ。今より更に強くなり、奴に勝利するまではな」

「…………そうですか」

 

 品須が力なく、そう答える。今でも人間の限界点と言えるほどの強さを誇っているのに、これ以上一体どこを伸ばすというのか。そしてそのお嬢に一対一で勝ってしまうプッチとやらの厄介さは一体どれだけの物なのか。そんな男が他抗亜クランに在籍し、いつか自分もかち合う可能性があるということに辟易する。

 在籍しているのが亜総義グループではないのだけが唯一の救いだ、もしそうであった場合確実に命を懸けた殺し合いをしなければならないのだから。抗亜同士である以上、多少のいざこざは話し合いで避けることができるためだ。

 ……そんな風に思っているが、一度ぐらいは仕合ってみたいのも本音である。今は亜総義討伐を目標に掲げ銭稼ぎなどの些事も行う品須だが、それでも強さを求める武士の端くれであった。

 

 ふと、思い出したように壬生菊千代が話す。

 

「……して品須、私に何の用だ? 素振りを止めに来ただけとは思えないが」

「へい。今回のプッチとやらの『()()()』と、フラットとシケイの殺人についての話し合いをしようかと。予め人払いは済ませておきやした」

「そうか。……あれは、実際に見ていない者にはいくら言っても信じられぬだろうからな。」

「今の所、東雲派で知ってるのはワシとお嬢の二人だけです」

 

 少女が品須の言葉を聞いて、空に浮かぶ月の方に視線を向けた。

 

「話す前に、少しいいか?」

「何ですかい?」

「――――萬像を破壊したのは、プッチだ。そして、ナユタを萬像破壊の犯人に仕立て上げたのも、あの男だ。」

 

 品須は目を少しだけ見開き、驚いたような顔をする。なんとなく彼も超能力を実際に目撃してから察してはいたものの、確信がなかった。だが彼女がそこまで確信して堂々と言い放ったのだ、もしかすると自身でも見つけられなかった証拠を奴と戦っている間に見つけたのかもしれない。

 

「お嬢。一体何を根拠に?」

 

 そう言うと、菊千代は口に手を当てながらクスリと笑いつつ、

 

「―――ただの、勘だ。」

 

 そう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナユタっ!! 全員集合だーーーッ!!!」

「叫ばなくても全員この部屋に居るっつーの!!」

 

 ザッパがアジトのリビングで大声を出し、虎太郎が突っ込みを入れる。

 時刻は深夜二時、サンホー工業から帰ってきて一時間ほどは経った。ヒトカリに出ていたメンバーが各々好きなように体を休めていたが、クマが早めに今回の情報について話し合っておきたいということで、ナユタ全員に緊急招集がかけられたのだった。

 

 キラキラは軽めの夜食を取った後に眠りかけていたが、緊急ということで寝ぼけ眼をこすりながら集まっている。ポルノはザッパと同じで深夜だろうが相変わらず元気そうだ。クマは疲労が溜まっているのか、普段よりも背中が猫背気味になっているように見える。

 プッチが台所の水道を止め、彼らの方に歩いていくと。クマが彼に近づいていって話しかける。

 

「プッチ。……右腕の傷はどうした?」

「焼いて閉じた。放っておくと失血死してしまうほどには出血していたのでな」

 

 そう言いながら、プッチが先ほどまで冷水で冷やしていた自身の右腕をクマに見せた。プッチの黒い肌とは全く違う、黄色ともピンク色とも取れない生々しい色の火傷の痕が大きく残ってしまっている。徐々に周囲の肌の色になじんでいくだろうが、それでもしばらくは火傷の痕が目立つことには間違いない。

 クマは迷いなく自分の腕を焼いたプッチの行動と覚悟に若干引きつつ、言葉を放つ。

 

「そ、そうか……。すまない、ミストレスに連絡が繋がったなら簡易で縫合した後に医者にかかれたんだが……」

「構わない。それに彼女が医療知識を持っているそうで、傷を閉じるときに手伝ってくれた。感染症のリスクもなるべく減らしてくれたらしい」

 

 プッチが背後に居るメガネの緑髪少女、大相寺皆子の方を向いた。プッチのやけど痕を冷やすため、今はビニール袋に氷水を詰めた冷やし袋を製作している。

 

「医者なのか?」

「看護学校の学生だそうだが」

「……マトモだな……。なおさら、ナユタに居るべきじゃない人物だ」

「犯罪シンジケートに参加させられるような人間じゃあない、ということか?」

「…………」

 

 クマとプッチが、大相寺皆子の方を見ている。お互いの姿を見ることはない。プッチはクマが先導で行っているハルウリに良い印象を覚えておらず、クマも抗亜活動のためにハルウリをやめることはない。近いうちにお互いの仲が拗れるのは目に見えていたが、何かのきっかけがない限り二人が争うことはないだろう。

 

 ザッパの付近にナユタの全メンバーが集まり、クマが中心の待機組とプッチ・ザッパの調査組の情報交換が始まった。

 プッチとザッパはお互いに見つけたことをクマ達に話す。

 

「間違いなく、私と同じスタンド使いの犯行だな。」

「マジか? プッチと同じくらいやべー奴が他にもいんのかよ……」

「一応言っておくが、相手は私よりスタンドの性能自体が強いからな。人体を貫通するパワーは私のスタンドにはない」

「いやそれってお前よりヤベーってことじゃねーかよ!! 知りたくねーってそんな怖い奴のこと!! いや知らねーのもこえーけど!!」

 

 虎太郎が頭を抱えてそう叫んだ。深夜で、ヒトカリに出ていたわけでもないのに、そんなに大声を出せるのは一種の才能だろう。何の役に立つのかは知らないが。

 とにかく、プッチ達の手に入れた情報は大まか共有し終わった。情報と共に語ったプッチの推理にはクマも()()納得する。念のためだが、音もなくシャッターを破った謎のスタンド能力のことは伏せた、ホワイトスネイクのディスク能力にまで突っ込まれる可能性があるからだ。

 クマも音もなしにシャッターを破ったことにだけ引っかかっていたようだが、プッチがわざと隠しているのに気づき、質問しても話すことはないだろうとそのまま流した。今は無駄なことに時間を割くよりも、先ず情報を共有するほうが合理的だと判断したからだ。

 テーブルの上にクマがゴトリと、何かが入った肩掛けのバッグを置き、話し始めた。

 

「……と言っても、こちらには新しい情報なんて物は全くない。東雲派が死体の調査をしていたぐらいだ」

「じゃあ、このバッグは何だってんだよ?」

 

 虎太郎がテーブルの上に置かれたバッグを指さす。

 その言葉に、キラキラが右の人差し指でくるくると髪を弄りながら答えた。

 

「クマと私とポルノの三人でちょろっと集めた、武器改造用の資材だよ。なーんも収穫なしじゃ~まずいかなって」

「ふーん。どんだけ集めたんだ?」

 

 ザッパが件の袋の尻を掴み、テーブルの上でひっくり返す。

 ガチャッゴトと金属の擦れ合う音を立てて中から出てきたのは、こぶし大程の何かの機械と、ねじ二本のみであった。

 

「…………」

「…………」

 

 プッチとザッパが言葉を飲む。

 別に期待していたわけではない。東雲派の下っ端に囲まれて下手に動くことができなかったのは理解していたので、何かしら手に入れているのが奇跡だと言えるのだが……。キラキラの言い方からしてもう少しあるのかと思い込んでしまっていた、これでは殆ど収穫なしと言っても差支えがないレベルだ。

 ザッパが咳ばらいをして、机に広げた収穫達を再びバッグの中にしまい直す。

 

「あー……おほん。まぁ、雀の涙ほどでも収穫はあったってことで。クマ、もういいか?」

「……ああ。もう特に話すことはない」

「んーじゃ、これで解散ッ! 俺は明日のパキュミリに備えて寝るッッ!!」

 

 そう言うと、ザッパはすぐさまアジト二階にある自室へと走っていった。キラキラとポルノとクマもそれに続いて自室に戻り、虎太郎は近くのソファーで寝っ転がる。どうやらリビングで眠るようだ。

 私も今日は例の女のせいで必要以上に疲労が溜まり、休息を取りたいところだ。他の者と同じく二階への階段を登ろうとすると、背後から大相寺皆子に呼び止められる。

 

「プッチさん」

「……何の用だろうか?」

「これ、氷嚢です」

 

 そう言って、彼女から結露のせいで水滴の滴っている氷嚢を受け取った。もう冷やす必要もないぐらいに痛みは引いているが、一応右腕の火傷痕に乗せておく。

 だがどうやら、少女の要件とはこの氷嚢だけではないらしい。何かをためらうように顔を伏せがちに、口をパクパクと動かしながら言葉を選んでいる。時間も時間だ、あと数分ほど起きていたところで夜更かしの度合いが大して変わるわけはないだろうと、彼女の言葉を立って待つことにした。

 

「………その、ヒトカリ、って。そんな怪我を負うほど、辛いんですか?」

「……今回の場合は、私が少し特殊な輩と出会っただけだ」

「そ、そうなんですか……」

 

 彼女の怪我とは、私が壬生菊千代に付けられた傷のことを言っているのだろう。

 私の言葉を聞くと、ホッとしたように胸をなでおろす少女。そしてぼそっと、小さな声で言葉を紡ぐ。

 

「私、お父さんを探しにこの街へ来たって言ったじゃないですか」

「……そうだったな…………」

「このままナユタの皆さんのアジトに居させて貰っていても、お父さんは見つからないと思うんです! だから、私もそのヒトカリに―――」

 

 少女の言葉を遮るように、私は右腕に乗せていた氷嚢を彼女に突き返した。突然体に感じた衝撃に大相寺皆子はヒュッと息を吐いて言葉を止める。

 

「私にそれを決める権限はない。クマに話せ」

「…………で、でも」

「今日人が死んでいた、六人だ」

「―――ッ」

 

 少女が六人という数字に息を呑む。

 人の死という物には、只人よりも多く触れてきたつもりだった。看護学校に通っている以上、死体の解剖実習がある……解剖生理学という物を修めなければならない。当然彼女も顔を青ざめながらではあるが、死体やその中にある内臓にはある程度触れた経験を持っていた。

 だが、今感じる。とっくの前に死亡した冷たい死体に触れるのと、つい先ほどまで生きていた暖かい死体に触れるいうのは訳が違うのだと。そしてそんな死体に触れた人物が放つ言葉には――――文字通り、重さを感じてしまうのだと。

 

 プッチは大相寺皆子の目を見ながら、低く語り掛けるような口調で話し続ける。

 

「今、息を呑んだろう? ……自身の食料も取れぬ獣が辿る運命というのは、自ずと決まっているものだ」

「……」

「たとえ話だよ。自分の食料も取れぬ獣は、親に食料を求めるしかない。だが親もいずれは死に絶える、そんな時に最低限の食い扶持も稼げぬようであれば――」

「餓死するって、ことですか?」

「―――この先ヒトカリとやらに出ていれば、死体を見る機会など山の様にあるだろう。そんな時、私達が君を守れるとは限れない。いちいち死体を見て恐慌状態に陥り、動きが固まっているようでは『死ぬ』ということだ」

 

 ……この話はキラキラにも当てはまるが、彼女に私は口を出すことができない。アレにこのことを言うのは今ではないし、私でもないのだ。

 だがこの少女が、今私たちが行っているヒトカリとやらに参加する気なのならば言っておかなければならない。……このようなアドバイスを一体なぜしてしまうのか。以前なら、放っておいたものを。……『死』か。

 

 大相寺皆子が何も言わなくなったので、踵を返し、自室への道を再び進み始める。

 これから先は彼女が考えることだ。この街から出るのも、父親を探すために危険を犯すのも勝手にすればいい。私からすればナユタは亜総義重工本社に入るための踏みがかり、情も何もないただの協力者なのだから。

 

「…………」

 

 少女の静かな息遣いと男の足音だけが、平静のアジトの中に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




すごく遅くなってしまって申し訳ありません。
見事にキーボードを打つ指が動きませんでした。

そういえばジョジョ六部アニメのPVが公開されましたね。PVからでも素晴らしい出来のアニメだと言うことがほとばしっていました。
ジョジョ六部、見よう!
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