プッチ in 亜総義市   作:男漢

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#2 スタンド

 スタンド。

 強靭な精神力を持つものが自由に扱える、いわゆる超能力の類である。生まれつき持っている者や、スタンドの()に射抜かれて目覚める者。また血縁者がスタンドに目覚めたことにより因果的に目覚める者もいる。

 

 スタンドの姿、性能は個々人によって全く異なる。人型や獣、ロボットのような見た目をしているスタンド。鋼鉄を容易に曲げ目に捉えることすら難しい速度で動くスタンドや、路傍の小石すら持ち上げることもできないのろまなスタンド。だが、非力で鈍重なスタンドだろうと決して弱いということにはならない。

 

 スタンドの強さの大部分を占めると言ってもいいのが、()()()()()()と呼ばれる特殊能力である。

 筋肉を糸に変化する、気象を操る、地面に潜る……。

 その場での対処が簡単な能力から、相性次第では絶対に打ち破れない能力、一見しただけでは対処どころか何が起きているのかすらわからない能力。これらは本人の、無意識下で信じていること。つまり、鉛筆を指でへし折れて当然と思うような、このぐらいは自分のスタンドにはできて当たり前という考え方が肝要である。

 スタンド能力はスタンド使いが持つ究極の個性。一つとして全く同じものはない。誰しもが自分の能力に向いた場所と役割を持ち、簡単にスタンドの優劣をつけることはできない。

 適材適所。スタンドが弱いのではなく自分が活かせる場所を見つけられていないのだ。

 

 

 

―――――

 

 

 

 

「ねークマ、英語話せるの?」

 

「……学校で学んだレベルくらいには。ネイティブ相手に完璧に話せるかはわからない」

 

「虎太郎。翻訳機とかつくれないの?」

 

「いやいや、さすがに無茶だろ……」

 

 足と手を後ろで縛られ、目に黒い布を巻き付けられた私。

 ソファーに杜撰に寝かされている私を前に、四人の少年少女が並んでいる。虎のような縞々模様の髪の男に、昨日実銃を発砲していたフードマフラーの男。今はフードを脱いでいるが。そしてその横に、チェーンソーを持っていたピンク髪の少女と、例の白髪の少女が立っていた。以前の煽情的な、ほぼ裸のような恰好はしておらず、風通しのよさそうな純白のワンピースを着ている。

 

 目に布を巻き付けられているのにこれらの情報を得ている理由は、ひとえにホワイトスネイクを出しているからだ。私のスタンドは私と視界を共有することができ、脳内にあるモニターを見るような感覚でホワイトスネイクの見ている景色を見ることができるのだ。

 スタンドはスタンド使いにしか見ることができない。私のホワイトスネイクに微塵の注意も向けていない彼らは、スタンド使いではないのだろう。

 

 私はあの大通りで壁に頭を打ち付けたとき、気絶したらしい。その後、彼らにここまで誘拐されたらしい。中々に乱雑に物が散らかっていて、お世辞にも清潔とはいいがたい場所だ。室内にある階段で一階と二階に分かれており二階の方はまだ綺麗である。頭に比較的、とはつくが。

 ただ物が散らかっている割にはすえたような臭いはしない。せいぜいがネジやパイプからくる鉄の匂いだ。物は散らかっているが、決して掃除をしていないというわけではないらしい。

 

 話を戻す。

 誘拐された理由についてだが、そもそも私のような男を攫う理由などたかだか知れている。身代金か、もしくは何かの情報を聞き出したいかだ。

 そして十中八九、私から聞き出したいことというのは……。

 

 

「ザッパがいないが……。まあいい、始めるか。もし英語がわからなかったらどうするかだが……」

 

 先ほどから()()と呼ばれているマフラー少年が私の前にパイプ椅子を置き、腰掛ける。

 私の意識が先ほどから覚醒しているのはわかっているようだ。私の体を揺さぶって起こすなどということもなく、話しかけてくる。

 

『……こっちの言葉、わかるか?』

 

『ああ。少し聞き取りづらいが』

 

『許してくれ、スピーキングまでは完璧じゃない。……それで、アンタに聞きたいことがある。うちのキラキラ……チェーンソーを振り回してたピンク髪の少女だが。彼女のチェーンソーを弾いたらしいが、一体どうやったのかを聞きたい』

 

 ……まあ、おそらくその件だろうとは思っていた。

 スタンドというのは衆目に晒されているような力ではない。

 キラキラという少女のチェーンソーを、私は確かにホワイトスネイクで蹴り飛ばした。だがスタンド使いではない者にはスタンドの動きそのものが見えない。私の拘束をこのような簡単なもので済ませているところを見るに、スタンドについての情報も持っていないらしい。故に、私に何をしたのか聞き出そうとするのだ。

 

 ここで問題なのは、どのように話すか、である。

 私は手と足を縛られ、身をよじらせることしかできない。対して相手は四人、しかもその内の二人は実銃とチェーンソーという明らかな凶器を持っていた危険人物である。今は所持していないが、いつどこから取り出すかわかったものではない。

 我がホワイトスネイクが見えないというハンデをもってしても、拘束された状態から武器を持った四人を相手に逃げ出すというのは少し厳しいかもしれないのだ。

 

(スタンドについて話すのはいい……スタンド使いでなくとも知っている者は知っている。我がホワイトスネイクの能力についてさえ話さなければ何も問題はない。しかし……)

 

 果たしてスタンドについて話したところで、信じてもらえるかどうか、だ。相手が少年少女とは言え街中で実銃を発砲するような集団だ、テロ組織として考えた方がよい。つまらない冗談と判断され攻撃される可能性も考慮すれば、馬鹿正直にスタンドのことを話すのは悪手か……。

 

 私がどのようにして話すかを悩んでいると、目の前の少年が私の思考を読み取ったかのように言う。

 

『俺たちはアンタに危害は加えない。見るからにアンタ、亜総義市の()から来た人間だろう?』

 

『……亜総義市?』

 

『! 知らないのか? ……そういえば、聖職者らしい恰好なのに入市カードもつけていなかったな。一体どこから来たのかも気になるが……まあいい、こちらはアンタに対して危害は加えないし話を聞いたらすぐに開放する。必要なら亜総義市の出口近くまで案内しよう。これでいいか?』

 

 年端も行かぬ少年にしては、やけに鋭い眼光をしている少年。

 私の知らない単語が頻出しているが……亜総義市というのは、この町の名前のことだろうか。入市カードというのも聖職者の身分なら必要であるらしいが……。まあこの辺りはあとで聞けばいいだろう。

 

『私の名前はエンリコ・プッチ。神父をしていた。特に覚えてもらう必要はないがね』

 

『俺の名前は……クマだ。偽名だが、こちらで呼ばれることの方が多い』

 

『それで、君の質問についてだが……』

 

 

 それから私は、スタンドについての情報を彼に教授した。

 ところどころ言語の違いで戸惑ったところはあったものの、おおよそは伝えられたはずだ。もちろんホワイトスネイクのDISC能力の情報は省いた。

 

 クマくんが信じられぬといった表情をする。仕方のないことだ。

 彼を省く周りの三人は長く話し込む私たちに飽きたのか、それぞれ別の方向を向いたり、手の中で何かをカチャカチャと弄んだりしていた。

 

『…………にわかには信じられないが、嘘を吐いているようにも見えないな……。何か証拠……今手と足を縛っている拘束を解いたりはできるか?』

 

 彼の言葉尻の後に、ホワイトスネイクの手刀で手と足の紐を叩き切る。そこまで頑丈な紐ではなかったらしく、力がこもらないような特殊な結び方をされていただけのようだ。パラパラとかすかな音を立てて紐が落ち、ソファーから身を起こす。

 

「うわッ!?」

 

「クマ、離れろ!!」

 

 私の周りを取り囲むように立っていた三人が、各々どこかからか武器を取り出して私に向ける。

 パイプ椅子に座る少年が、立ち上がった私へ向ける武器を収めるように手を振った。私も目に巻かれた黒い布を外し、彼に渡す。

 

『外まで送ろうか?』

 

『必要ない』

 

『そうか……。なら、これを渡しておく』

 

 クマくんが差し出してきたのは、四つ折りにされた一枚のパンフレット。日本語、中国語、英語の三ヵ国語で書かれた、亜総義市という町の説明が描かれているものだ。表紙には不自然なまで笑顔な人々と、右腕を前に掲げた老人の銅像の写真が大きくプリントされていた。

 

『今日出されたばかりの最新版だ。地図も載ってる』

 

 そのパンフレットを右手で受け取る。

 彼は視線を下に向けて少し遼巡し、こちらに顔を向けて静かに呟いた。

 

『……用がないなら、この街から早く出て行った方がいい。それとスタンドとやらについての情報、感謝する』

 

 その忠告をありがたく受け取り、彼の幸福を願って胸の前で十字架を切る。

 背後に鋭い視線を受けながら、彼が指さした扉から外に出る。扉の先は路地裏のような場所で、先ほどまでいた建物は周りのビル等に紛れるようにして立っていた。まるでアジトのような場所だが……私をそのまま出してよかったのだろうか? しかし頭の回るあの少年のことだ。私が意識さえあれば周囲の景色を確認できることから結局意味がないと判断したのかもしれない。実に合理的な考えなことだ。

 

 

 路地裏の外に出る。太陽の光が空に爛々と輝き、今は昼ぐらいだと私に伝える。

 とりあえず、落ち着ける場所を探そう。

 この地に来てからどうにも精神が弱っているというか、何かに引っ張られているような感覚がする。一体何かはわからないが、考えなしにそれに近づくのは危険だろう。

 

 太陽が照り付ける人のいない通りを、安らげる場所を求めて歩き始めた。

 

 

 

 

 

―――― クマ ――――

 

 

 

(…………)

 

 エンリコ・プッチと名乗った男が出て行った扉を眺めながら、考える。

 明らかに眉唾ものな……スタンドという存在。話を聞いている限り、常人には見えない超能力という胡散臭いものだったが……。

 

「クマ、どうだった?」

 

「…たしか、あの男を縛ったのはポルノだったよな?」

 

「そうだよ。力を籠めれば籠めるほど締め付ける、蜘蛛の糸のように粘りつく淫猥な緊縛で……」

 

「も、もういい! とにかく、自分じゃ絶対に切れないように縛ったんだな?」

 

「ん、もちろん。クマも体験してみる?」

 

 白髪の少女、ポルノが右の手のひらを舐めながらそう言うのを視線を逸らしてスルーする。

 性技に関してはポルノは達人の域に到達している。その中には何かを縛る行為も含まれ、事実彼女に縛られた場合並の方法では抜け出すことができない。

 刃物等の危険物は持っていなかった。服の中に仕込んでいた可能性もあるが、ポルノの拘束で、しかも目の前で見ている最中ほとんど身じろぎもせずに手と足の紐を切るなど……。

 

「おーう、諸君! 今帰ったぞー!!」

 

 バタン!!と大きな音を立て、眺めていた扉が勢いよく開く。

 威勢よく笑いながら入ってきた、ちょいダサのサングラスをかけた男、ザッパ。俺たちのチーム『ナユタ』のリーダーである。艶の入った袖なしジャケットに黒い肌着をいつも着ている男だが、今日は赤いジャケットを腕に巻き、頬に汗を何滴も走らせている。

 

「いやーー!! 今日は本ッ当に危なかった!! シケイの車をひっくり返してたら、バイクで追っかけてきやがったんだ! 路地裏が後数歩分遠かったらまずかったなー!!!」

 

「えぇー? ザッパそんなに足速かったっけー?」

 

「そこじゃねーだろ……。一人で車ひっくり返してる方がやべーだろ、ふつーに……」

 

「……ちょっといいか?」

 

 全員がザッパに意識を向け、空気が弛緩し始める。落ち着くのもいいが、先ほどの話を一応共有しておかなければいけない。ザッパもちょうど帰ってきたことだしな。

 

「ザッパ、こっちの裁量であの男は帰した。聞き出した情報の共有をしたいんだが、いいか?」

 

「ん、おう!! んで、どんな方法を使ってたんだ? サイキックパワーか?? なんてな!」

 

 

 

 …………。

 

 

 

「……………そうだ。」

 

「……は、ハハハハハ! クマー、面白い冗談を言うようになったじゃないか!!」

 

 ザッパが豪快に笑いながら言う言葉に、沈黙で返す。

 周囲にいた虎模様の髪をした男『虎太郎』、ポルノ、キラキラ達も黙り、あたりがシンと静まり返る。換気扇がゴウンゴウンと回る鈍い音だけが響く時間が数秒続いたのち、ザッパが口を開く。

 

「マジか?」

 

「マジだ」

 

 ザッパが息を大きく吸い込み、両手で頭を押さえ、叫んだ。

 

「――――何ィィィィッ!!?!!? そーーんな面白そうな奴を、俺が帰ってくる前に帰したってのか!!?」

 

「もう聞くことがなかったからな。外の人間をそれ以上捕まえておく理由もない」

 

「サイキックパワー! 超能力!! な、何か動画とか撮ってないのか!?!」

 

「撮っていない」

 

「ぐおおおおおおおおおおッ!!!!」

 

「あんびりーばぼー。あめーじーんぐ」

 

 

 騒ぐザッパと、それに便乗して騒ぎ始めたポルノを横目に、虎太郎とキラキラが話しかけてくる。その顔色は明らかな懐疑の念が混じっているものだ。

 

「ねークマ、今のマジ? 超能力とか……」

 

「そりゃあ、あったらかっこいいだろーが……流石にホラ吹かれたんじゃねーか?」

 

「……エンリコ・プッチと名乗ったアイツは、ポルノの拘束を、目の前で、ほとんど身を動かさずに解いた。一緒に見ただろう、突然立ち上がったあの男を」

 

 キラキラと虎太郎が未だ腑に落ちない様子で、「そうだけど……」とでも言いたげにうなずいた。

 

「キラキラのチェーンソーを弾いた件も、突然自分から勢いよく壁に激突して気絶した件も……。目に見えない力を操れると考えれば、非現実的だが……つじつまは合う」

 

「そりゃー、そうかもしんないけどさ?」

 

「……たとえ超能力だろうと、またこちらの想像も及ばないほどの超人的な体捌きをする人物であろうと。あの男は亜総義市の外の人間で、こちらは亜総義市の中の()()のチームだ。奴の不可視の攻撃手段がシケイに渡らないものであると分かった以上、これから関わることもない」

 

 そう。

 いくら非現実的で、合理的に考えるのがバカバカしいことであろうと。亜総義市の中と外の人間では常識、文化、考え方が丸っきり違う。あの攻撃手段が亜総義の兵隊(シケイ)に渡らないということ。これさえわかればもう関わる必要もない、その程度の関係なのだ。

 それよりも今は、これから関わらぬ人物のことを考えるよりも先にやらねばならぬことがある。

 

「ザッパ、ハルウリの件だが……」

 

「なんだ!?」

 

「そろそろ、ピルの在庫がなくなりそうでな。当てはないか?」

 

「おー……薬なら、いつもの病院でいいんじゃないか?」

 

 興奮しすぎたザッパが虎太郎に向かってラリアットをする。引き倒された虎太郎の上にポルノが飛び乗り、ぐえっと潰れたカエルのような声が響く。キラキラはどこからか持ち出した長い鉄の棒で、苦悶する虎太郎の脇腹をつついて遊び始めた。

 

「いつもの病院……仕山医院か。今夜、ヒトカリに出れるよう準備しておく」

 

「おーう。頼んだぜ、クマ!」

 

「……おッ……俺もヒトカリに行くんだけど!? なんで今シメられてんの俺?! 行く前に怪我すんぞ!!」

 

「次回、虎太郎死す。デュエル、スタンバイ」

 

「死なねーっつーの!! 適当なこと言うなよポルノ!!」

 

 

 ……まぁ、楽しそうで何よりだ。

 薬の在庫確認作業とヒトカリの準備に集中するため、虎太郎のことを思考の中から外した。

 

 

 

 

 

 




――<<ドーナドーナ 頻出単語集>>――

ヒトカリ:街中で女性を誘拐する行為。あとお店から色々と物を永久に借りていく行為。本編中で詳しく書くとハーメルン運営による死が訪れる。

ジンザイ:街中で誘拐した女性のことを指す。本編中で詳しく書くと死が訪れる。

ハルウリ:誘拐した女性を使って行うこと。はるうりで変換すれば大体わかる。後書きだろうと詳しく書くとハーメルン運営による死が訪れる。


――――――――――――――――――――


かなりぼかしてますけどやってることがロシアンマフィアですよ。
なおこれらの単語の本当の詳細はドーナドーナ本編にてご確認ください。詳しく説明すると本当にBANされる……!


活動報告にて細かい捏造設定や原作解釈、その他謝罪等を書き殴っております。
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