プッチ in 亜総義市   作:男漢

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#27 ベリーハード 美術館4

 

 

 

 プッチが品須の連れていた東雲派の若衆を、監視カメラの破壊に向かわせた頃。

 壬生菊千代率いる別隊の東雲派たちがナユタと交戦を初めていた。

 

 雑多な足音と数多の呼吸音が交差する中、クマが拳銃にマガジンを込める音が心地よく響く。

 両手で構えた銃の筒先が向かう場所にいるのは勿論東雲派である。彼は何のためらいもなくトリガーを引いて発砲を数度行うが、直後に眉間にしわをよせ不満げに呟いた。

 

「……当たらん」

「そんなのいつものことでしょ! それより、あのきくちよ……?って子をホントに止めないとまずいって!」

 

 さらりとクマの心に刺さる言葉を言い放ったのは、ピンク色の髪を振り乱しながら冷や汗を垂らし焦った様子のキラキラ。普段は快活にチェーンソーを振り回す彼女だが、今は腕に鈍りでもついているかのように動きが鈍重だ。

 

 それもそのはずである。

 抗亜きっての武闘派である東雲派の頭領という称号は決して伊達ではなく、ナユタが東雲派の若衆たちと同時に対応しきれる相手ではない。

 よって壬生菊千代一人を相手に『ザッパ、虎太郎、ポルノ』が当たり、残りの東雲派の四人には『クマ、キラキラ、メディコ』の三人が当たっているのだ。

 

 メディコは今日ヒトカリに加わったばかりの非戦闘員に近い存在であるし、刀よりもリーチが圧倒的に長い銃を持つクマも刀の間合いにまで近づかないと銃弾が命中しないという極端っぷりだ。

 なのでガスグレネードとチェーンソーを用いた遠距離と近距離攻撃の両方をこなせるキラキラに、実質的に東雲派2人の相手をするというとてつもない労力がかかっているのである。

 そんな中でもクマと協力しながら4人の内、2人を倒すことには成功したのだが……。

 

「ハァー……ハァー……マッジ、ホントにきついんだけど……!」

「キラキラ、無理そうなら下がっても……」

「いやいやいや、全然大丈夫だから…………!」

 

 2人倒すだけでもかなりの体力を削ったのに、まだ2人も残っているという絶望感が背中に重くのしかかった。

 膝を突きかける彼女にクマが気づかわしげな声を掛ける。

 が、そんな彼に右手でサムズアップを返すキラキラ。地面に垂れ水たまりのようになった汗の量から、一目で無茶をしていることがわかると言うのに。

 

「仕山医院の時、クマがシケイの波に突っ込んでったことあったでしょ?」

「……確かにあったが……」

 

 キラキラの質問に、クマは過去の記憶を脳裏に浮かばせる。

 おそらく彼女が言っているのは、階段でシケイの進行を食い止めるために、無理やり突っ込んだ時の話だろう。確かに自分でもかなりの無茶をした自覚はあるが…………。

 

「あの時もそうだけどさ。これからも、クマにもしってことがあったら、私……。だから、ちょこーっと辛いし危ない状況だけど、クマのためにもここは踏ん張り時かな~?って」

「…………そう、か………。まあ……合理的、だな」

「うん、合理的っしょ? えへへ」

「うおおおおおおおおおい!! んなことやってる場合かお前らーーーー!!」

 

 キラキラとクマの間に流れ始めたほんのり甘酸っぱい空気を切り裂くように、ザッパが悲鳴にも近い絶叫を上げる。

 

 疲労が著しく溜まるのはキラキラの方であるが、命の危険が著しく高いのは壬生菊千代の相手をするザッパ達の方であった。

 何せ一撃一撃が目視すら困難なレベルの居合斬り、当たり所によっては大怪我では済まない事態になる可能性もある。おまけに本人の足も異常なまでに早いので、ほぼほぼ逃げることは不可能である。

 虎太郎が壬生菊千代の斬撃に髪を1、2本持っていかれながら、棍を片手に叫ぶ。

 

「うおおッッ!? ざ、ザッパ! 真剣白刃取りで止めてくれ!!」

「できるか、そんなもーーーーーん!!」

「ザッパ、がんばって」

「無茶言うなァーーーーーッ!!」

 

 壬生菊千代の必中必殺の攻撃を前にザッパと虎太郎が騒々しくわめきながらも無事でいられるのは、白ベルトによる緊縛を何よりも得意とするポルノの存在が理由であった。

 ベルトを用いた足首や手首を狙う設置型のトラップを作ったり、力を籠めれば籠めるほど強く締め付けられる縛り方をされたりなど、壬生菊千代があまり得意ではない絡め手ばかりをポルノは使うのだ。

 体にダメージこそ入らないものの、相手を仕留める決定的な一撃が後少しの所で届かなかったりするなど、菊千代に大きなフラストレーションがたまり始めていた。

 

(……くッ、小癪な……ッ!)

 

 壬生菊千代は苛立ちげに歯噛みをする。

 自身の身に触れたベルトはすぐに斬り飛ばし、その全長は確実に短くなっていっているはずだが、ポルノが攻撃の手を緩めることはない。まるで流れ落ちる滝をひたすらに斬り続けるかのような感覚に彼女の苛立ちはさらに加速していった。

 

 苛立ちは頭から冷静さを欠かせ、体の動きから正確さを奪う。

 

 重心移動に失敗したのか、わずかに体勢を崩す壬生菊千代の動きをポルノが見逃すわけもなく。瞬く間に刀を持つ右手を背後に回して縛り上げ、右の肩から下を1ミリ足りとも動かせないほど完璧に固定してしまった。

 まさかの失態に壬生菊千代が狼狽する。

 

「なっ、しまッ――」

「虎太郎! 今いって!」

「おうよ! 最近全然いいとこなかったからな、ここでガツンと決めてやるぜ!」

 

 達人もかくやと言わんばかりの棒捌きで、六尺ほどの棍を自身を中心に素早く回転させながら菊千代に走り寄っていく虎太郎。棒を何度も回すことにより遠心力を加算させ、強烈な一撃を放とうという魂胆だ。

 

 十分に加速させた棍は和弓で射られた矢のように、残像を描きながら壬生菊千代の頭部へと向かっていく。

 空を斬る音を響かせ迫る棍の切っ先を目の前にして、彼女は。

 

 

 右足で棍の切っ先を思いきり()()()()()

 

 カァン!! と甲高い音があたりに響く。自慢の一撃を防がれるどころか、カウンター気味に弾かれるなど想定外だった虎太郎は思わず後ろに体をのけぞらせた。

 

 

「はあ!? どんな体勢から蹴り上げてんだ、ちょっと待ッごげッ――――」

「――――ッ、舐めるなッッ!!」

 

 狼狽する虎太郎の顔面をフリーの左手で掴み、剣の傍らに習っていた武術の動きを思い出しながら、勢いよく投げ飛ばした。

 吹っ飛ばされた彼はザッパの手元の中にすっぽりと吸い込まれる。

 

 所謂お姫様だっこの形でザッパに抱かれた虎太郎は、ポルノからの強烈な視線に冷や汗を流した。

 

「何やってるの、虎太郎」

「いやこれはッ……その……。…………ほんと、ごめんなさい」

「そッれにしても……あの状態から虎太郎の攻撃を弾き飛ばすとなると、ホントに打つ手なしじゃないか?」

「じゃあどうするの? ザッパ」

「さあな……俺にもさっぱりわからん。ただ、そっちの方が面白そうじゃないか? ちょうど内にも衛生兵が出来たことだし、多少の切り傷はバッチコイってな!」

「多少の切り傷で済む相手じゃねーだろ、どう考えても……」

 

 虎太郎が地面に降り、ザッパが前腕に巻いた鎖を再び締め直す。刃物を腕で防ぐために巻いている鎖だ、といっても殆ど気休めのようなものではあるが。

 拳の音をパキポキと鳴らしつつ、ザッパを含む三人が構えを取った瞬間――――。

 

 

バガッアァァアアアアアン!!!

 

 

 美術館に鳴り響いた、床から天井まで全てを震わせるような轟音。天井からつるされたライトに積もっていたであろうホコリがパラパラと落ちるのを横目に、ザッパは周囲を見回した。

 その場に居合わせた全員が戦闘行動を中断し、彼と同じように周囲を見回している。

 

「い、今の音はなんですか……?」

 

 見回した全員の中、一番不安げな表情をしていたメディコが呟く。

 その小さな問いに答えを返す言葉はどこからも上がらなかった。

 

 

「音の方に向かうぞ」

 

 背後に縛られた右手の日本刀を左手に移し、右腕を拘束するベルトを器用に斬り落とす菊千代。

 クマ達と交戦していた2人が、既に倒された2人を無理やり叩き起こす。

 隊列を組みなおした菊千代含む東雲派の5人は、先ほどまで交戦していたナユタを置き去りに、音のした方向へと去っていった。

 

 

「……どうする。もし無事に撤退するなら、ここが最後のチャンスだと思うが」

 

 クマが銃のスライドを引き、銃弾の有無を確認しながらそう言った。

 音の正体を看破しに進む……それは消耗した今の状態で更なる危険に身を晒す行為に他ならない。安全に撤退をすることを考えるなら、体力が残っていて尚且つ敵のいない今が、正真正銘最後のチャンスなのだ。

 

 

 『()()()()()()()()()()()調()()()()()』か、『()()()()()()()()()()()』か。

 

 

 その選択に、全員が頭をひねらせた。

 

「多分、今の音って()()()だろ。別に行く必要ねえんじゃねえの? 導火線に火が点いてる爆弾に近づくようなもんだぜ」

「私はどっちでもいいかな、まだガスは余ってるし。体力の方は……ちょっとアレだけど」

「嫌な感じがする……ここに長居したくないけど、音が気になるのも本音」

 

 虎太郎、キラキラ、ポルノが口々に喋っていく。

 言い方に差はあれど、全員が『まだ迷っている』状態のようだ。クマも同じらしく、何も口を出すことはない。

 そして、撤退か進軍かの最終ジャッジは、ナユタのリーダーである『ザッパ』に託された。

 

 ザッパが腕を組み、「うーん」とわざとらしく唸り声をあげてから、にかりと歯を見せて笑った。

 

「よし、行くか!! あそこまで東雲派の頭領に無茶苦茶やられたんだ、品須の旦那に文句の一つも言ってやらないとな」

「おいおい……マジかザッパ?」

「マジもマジ、大マジだ。幸い衛生兵もいるし、多少の危険はどんとこいってな!」

「だから私は衛生兵でもナースでもなくて、ただの看護学生……というより、そこまで期待されても困ります!」

「やっぱザッパはこうだよね! 虎太郎はちょっと怖がっちゃってるみたいだけど~?」

「はあ!? 全然怖がってねえし!! なんなら先陣切って突っ込んでやるよ!!」

 

 リーダーの言葉により、全員の意思が一つの方向に固まったようだ。

 クマも拳銃に弾が入っているのを確認し、ホルスターに収める。そして、全員で東雲派が先に向かった音の方向へと進み始めた。

 

 ……そんなナユタの後方で、一人。ポルノが目に影を静かに宿らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 荒れる美術館内、轟音が鳴り響き、地面が揺れるような衝撃が鳴り響いている。

 そんな中、東雲派の若衆と思わしき人物が四人、虚ろな表情をしてふらふらと歩いていた。

 右手には機械のコードと思わしき物が絡まった刀を力なく握っている。彼らはみな、先ほどの轟音が鳴り響いた音源へと進んでいた。

 

「……? あの者達は……」

「アイツらは……品須さんについて行った四人ですね。一体何をしてんだ……?」

 

 四人の背後から近づいてきたのは、同じく音源に向かう壬生菊千代率いる東雲派たち。

 姿を現さない品須、そして品須についていったはずの仲間たちが虚ろな表情で歩いているのだ。不思議に思わないはずがなく、一人が彼らの元へと駆け寄り、肩を掴む。

 

「おい、お前ら何をして…………話を聞いているのか?」

 

 肩を掴むが、それを振り払う様子もなく、ただただ進み続けようとする彼ら。誰がどう見たって、明らかに正常ではない。

 無理やり体の向きを変え、自分の方に向かせる。そして見えた仮面越しの双眸には光がともっていなかった。

 

「大丈夫か? おい、話を……」

「……薬か何かでやられてしまっているのかもしれぬ。だが今は一刻を争う状況だ、一発気つけをしてやれ。私が許す」

「お嬢……わかりました。嫌なら防げよ……ッ!」

 

 壬生菊千代の言葉通り、握り固めた拳を一発、相手の頬に思い切り命中させる若衆。

 バキョッ!! と乾いた音が鳴り響き、殴られた若衆が力なく地面に倒れた。

 

 受け身を取ることもなく背中から倒れた男。

 倒れたままピクリとも動かず、まさか打ちどころが悪かったか……?と殴った若衆が冷や汗を一筋垂らした瞬間。

 

 

 男の側頭部から、一センチほどの厚みがある透明なディスクらしき物が、ずぶずぶと飛び出してきた。

 異様な物体が頭部から飛び出してくるという異常現象に誰も反応できず。そのディスクが完全に飛び出して、コロコロと地面を転がり……。

 

「うッ……」

「ッ!? お、おい、大丈夫かお前!」

 

 倒れた男が目を覚まして動き始めた瞬間、全員が電池を入れたロボットの様にきびきびと動き始めた。

 

「俺……俺、品須さんに、なんてことを……!」

「待て、落ち着け! お前さっきまで様子が変だったんだぞ、それに何だ今の……!」

 

 体を震わせ今にも暴れだしそうな男を若衆の一人が取り押さえる。

 それの背後で壬生菊千代が、地面に転がった怪しげなディスクを指でつまむように拾い上げた。感触は市販のCDとは全く異なり、まるでゴムの様に弾力のある柔らかさをしていた。

 不快感極まりない触感に彼女が顔を歪める中、男が震えた声で何かの弁明を始める。

 

「違う、違うんだ……! 品須さんが黒い肌をした、『()()()』とか言う男と戦うのを後ろから見てたら、突然体が……ッ!!」

「何ッ!?」

 

 彼女が『プッチ』の名を聞き、勢いよく振り返る。

 右手を刀の柄に当てながら男の方に素早く詰め寄り、まるで掴みかからんかの如き勢いで問い詰め始める。

 

「プッチが、品須が一体どうしたと言うんだ!」

「あの男が品須さんと向き合った瞬間、俺達が品須さんのことを、う、後ろから……」

「くッ……他の者達のことも頼む! 私は先に向かうぞ!」

 

 

 恐ろしいほどの急加速で他の東雲派を置き去りにして進んでいく菊千代。

 バイク程度ならば追いつけそうなほどの速度で駆けていく彼女は、すぐにも目的の人物を発見することができた。

 

 

 

 

 

 ショーケースを突き破ったのか、頭部から血を流しながら、肩に乗った細かなガラス片を払うプッチ。

 薄めた瞳で真正面を力強く睨みつけていたが、自身の右側から聞こえる騒然たる足音に気付き、そちらに目を向ける。

 

「……何ッ!? 壬生菊千代……!」

「プッチィッッ!! 貴様ぁァッッッ!!」

 

 菊千代が咆哮を上げながら走りざまに刀を抜き放つ。

 煌めく白銀の刀身で風を切り裂きつつ、プッチの立っている場所に向けて光の線が残るほどの鋭い一閃を放った。

 

「ぐッ……」

 

 突然現れた彼女の、それも走り際の一閃を避けることなど流石のプッチにもできるはずもなく。

 すぐさまホワイトスネイクで自身の体を引っ張ったものの、胸部の薄皮がパックリと避け、紅い鮮血がパパッと咲き乱れる花びらのように舞い散った。

 

 踵を返して、すぐさま止めの二撃目を穿とうとする菊千代の刀をスタンドで弾き飛ばす。

 自身の胸の傷を右手で押さえながら、ぜーぜーと肩を大きく揺らして呼吸し、ぶつぶつと小さな声でつぶやき続ける。

 

「素数だ……素数は私に勇気を与えてくれる数字……素数を数えて落ち着くんだ……」

「相も変わらず気味の悪い癖だ……! その頭ごと二度と喋れぬよう叩き斬ってくれる!」

 

 壬生菊千代は激高した様子で刀の切っ先を彼に向けるが、ふと自身の体に突き刺すような敵意が向けられているのを感じた。

 咄嗟に飛び退いた瞬間、彼女がいた場所に土煙を上げながら突き刺さった巨大な黒の塊。地面を膂力のみで叩き割ったのか、ピシリと地面にひびが入るような音が微かに耳に入る。

 

 土煙を豪快に左手で払い、現れた黒塊の正体は。

 

「『()()』か……!」

 

 亜総義市に徘徊する最も謎多き人物であり、抗亜クランの中では関わることこそ自体がデメリットでしかない、と言われている『()()』であった。

 マスクのゴテゴテと露出している歯の隙間から息を漏らしながら、呂布が歓喜にも似た声を漏らす。

 

「いい混沌だ…………」

「うげっ! やっぱりさっきの音は呂布の奴じゃねーか……って、プッチぃ!?」

 

 呂布の見据える先に、騒々しい声と共に現れたのは『ナユタ』であった。

 ヒトカリで幾度も相まみえたことのある呂布の姿と、なぜか呂布と一緒に居るプッチの方に目を向け、全員が驚愕の表情を浮かべる。

 ザッパが頭をぼりぼりとかきながら、クマの方に顔を向ける。

 

「おいおいおいおい。一体どーなってんだこりゃ?」

「……とにかく、呂布と戦ることが非合理的すぎるのは確かだ。撤収できるなら撤収したいところだが……」

「そりゃ無理じゃねえか? 元々突っ込むって決めて背水の陣切って来たんだし、それによ……」

 

 ザッパが呂布の方に目を向けた。

 

「多分、(やっこ)さんもその気になっちまったみたいだ。逃がす気はないみたいだぜ?」

 

 息を荒くし、やけに興奮した様子で体を震わせる呂布。

 赤き瞳を更に紅く染め、周囲にいる者全員に向けて無差別的に殺意をまき散らした。握り固めた拳からギチギチと筋肉の擦れ合う音を響かせながら、口を開く。 

 

 

「混沌……! いいぞ、この強者が入り乱れる混沌こそが俺を更に強くする……! さあ、示してみろ!!」

 

 

 プッチ、壬生菊千代、ナユタの三勢力を前にして怯むどころか、更に戦意を高め始める男。

 菊千代は鞘に納められた刀に手を掛けながら、一瞬プッチの方に視線を向けた後、呂布の後方に視線を向ける。

 

(呂布の背後に倒れているのは……品須か! しかもかなりの出血をしていると見える、いくら奴が並外れて頑丈と言えどこれ以上の放置は些か不味い……。品須を連れての撤退が最善手か……)

 

 自身の近辺で呂布に意識を向けているプッチを仕留めることもできるが……今はそんなことをしている場合ではない。奴はこの先も幾度となく立ちはだかり、斬るチャンスはいくらでもあるが、品須の命はこれ限りだ。

 総毛立つような白刃の光を室内光の下へわずかに晒しながら、菊千代は今自らがすべきことへ意識を一辺倒に捧げた。

 

 

「……プッチ」

「…………」

 

 クマが銃を構えたまま足を前に進め、プッチの背後から彼に話しかける。

 スタンドを前方に顕現させたまま呂布の方を睨む彼は振り返ることもしない。

 

「色々ありはしたが、今だけは協力関係を結び直すのが一番合理的だ。呂布の厄介さが並外れているのは分かっただろう」

「……仮初の関係を結ぶ必要はもうない。私は貴様らを生贄に捧げてでも離脱するからな」

「撤退できるチャンスがあれば俺達だって逃げる。協力関係とは名ばかりの、利害が一致しただけの敵同士だからな。変に気を使ってもらう必要もない」

 

 そこまでクマが言ったところで、プッチが肩越しに彼の顔を一瞥し。

 眉間にしわを寄せ、イラつきげに前方に視線を戻した後、静かに舌打ちを鳴らした。

 

「…………勝手にしておけ」

「ああ」

 

 返答したクマの短い声を遮るように、呂布の野太い咆哮が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





「ただ、私に情けを掛けたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。
私は自身の家に帰り、『亜総義市 in プッチ』の次話を書き上げ投稿しなければならないのです。
三日の内に、私は次話を投稿し、必ずここへ帰ってきます。」

「ばかな。とんでもない嘘を言うわい。逃がした小鳥が帰って来るというのか。」暴君はしわがれた声で低く笑った。

「そうです。帰ってくるのです。」メロスは言い放った。

「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。
 そんなに私を信じられないのであれば、よろしい、この市にセリヌンティウスという男がいます。私の無二の友人だ。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰ってこなかったら、あの友人を絞め殺してください。たのむ、そうして下さい」

王は残虐な気持で、そっとほくそ笑んだ。

「願いを、聞いた。その身代わりを呼ぶがよい。3日目には日没までに王城に来い。おくれたら、その身代りを、きっと殺すぞ。」


2021/09/23

――12日経過――

2021/10/5


「セリヌンティウス……」使い古したキーボードを胸に抱き、メロスは静かに涙を流した。






本当にすみませんでした。
投稿がまさかここまで遅れるとは……。
次はもっと、もっと早く投稿します。この宣言は一体何度目だろう……?





追記
現在の各キャラの心情
プッチ→逃げたい
壬生菊池代→品須を回収して逃げたい
ナユタ→逃げたい
呂布→全員と戦いたい

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