照り付けるような日差しの中、人気の少ない通りを歩いていると。
いくつかのベンチとそれを覆う草屋根、赤と青の自動販売機に、公衆トイレがひとつついている公園があった。公園の中に入り、ベンチにつもる土を払ってから腰かけた。
息を吸い込み、脳に酸素を行き巡らせる。草屋根の隙間から漏れるあたたかな日差しを眺めつつ、目下私が直面している問題について考え始める。
私がなぜ、今、ここで生きているのか。エンポリオによって殺された私がなぜ存在を保ち、スタンドがメイドインヘブンからホワイトスネイクに変わっているのか。悩まなければいけないことは数えきれないほどにあった。
(……亜総義重工、か……)
クマという少年から貰ったパンフレットを開くと、まず真っ先に目に入るその名前。世界的に有名な大企業で、日本国内や海外にも複数の支社を置いているらしい。一企業がひとつの市に名前を刻んでいるという時点で、恐ろしい規模の企業だということはわかっていたが。
しかし。
亜総義重工など、生まれてこの方聞いたことがない。社会の情報を一切手に入れることができないほど浮世離れした生活を送っているわけでもなかった。
そして、アメリカのGd.s.t刑務所でエンポリオに殺されたはずの私が日本にいるという事実。
まるで異世界にでも来たかのような怪奇現象。これらを加味して考えるとすれば……。
(メイドインヘヴンによる完全な一巡の前に私が死んだことで……。運命が千切れ飛んだか……?)
思いついたのは、二つ。
一つ目は、エンポリオが私を殺したことで、私を含む全人類が全く未知の、別の運命を歩み始めたというもの。何らかの理由で、私だけが日本に漂着してしまった。
二つ目は、私だけが別の世界に飛んできてしまったというもの。エンポリオやその他の人類とは全く違う運命に交わってしまったというものだ。
…………どちらの可能性もある。もしかしたら全く別の理由かもしれない。
この二つの大きな違いは、憎き『エンポリオ』が存在しているかどうかということ。しかし……こういう感覚に頼るのは何だが、一つ目の案の可能性は少ない気がする。エンポリオが持っているはずの我が弟のスタンド『ウェザー・リポート』の波長を感じない。奴が何らかの方法で捨てていたり、不完全な一巡の影響で消えてしまっているといえばそれまでだが。
私の感覚が正しければ、この世界での私の行動を黄金の精神を受け継いでいるとかいう彼奴等に邪魔されることはない。
(......だが、それがどうしたというのだ……。)
額に流れる汗を裾で拭う。鬱陶しいほどに鳴くセミの声もまだ聞こえないような季節であろうに、じとっとした高温多湿の気候が私の体力を想像以上に奪っている。ベタつく服を指で摘んでパタパタと中に風を送り込む。暑さよりも湿気で参りかけるという初めての経験ではあるが、それのおかげで少しぼーっとした頭は、これから受け止めなければいけない現実を少しだけやんわりキャッチさせてくれるだろう。
エンポリオがこの世にいようといまいと、天国に至る方法は搔き消えた。DIOの骨と罪人の魂を吸収した緑の赤ん坊がいない。DIOという心の底からの友もいない。我がホワイトスネイクも、死の記憶で衰弱した私の精神に引っ張られて明らかに力が落ちている。ホワイトスネイクに近くに転がっていた石を力強く握らせるも、握りつぶすどころかヒビすら入らない。徐倫と戦った時の私なら砂粒になるまで砕けていただろう。
私にはもう、天国に至る方法も、それを行うスタンドの資格もない。
(……これから、どうするか。)
一度アメリカに戻るのもいいかもしれないが、私はパスポートや身分を証明するものを持っていない。そもそもここが新しい世界だとすると、私は国籍すら持っておらず文字通り存在しない人間ということになる。どうにかする手段はいくらでもあるが、未来が限りなく暗いのはたしかだ。
私の横に立つホワイトスネイクを見上げる。体の至る所に微細なヒビが入り、そこからさらさらと風に乗って砂粒のようなチリが流れ出て行っている。チリの流れる方向は公園の出口であり、ホワイトスネイクに一切指示をしていないにも関わらず、彼はじっとその方向を見つめていた。
心が何処かに、引き寄せられている感覚がする。膝を両手で押さえ、ゆっくりと立ち上がった。するとホワイトスネイクは私の体に重なるように平行移動し、姿を消す。
「ホワイトスネイク……。」
何もかもがなくなった今、私が頼れるのは私だけだ。その
……引力を放つものは、そう遠くなかったどころか、なぜ初めから気づいていなかったかが不思議なほど巨大なものであった。天を穿つほど巨大なそのビルは、周囲に並び立つビルの倍以上の高さを誇っている。地上から七割ほどの高さのところに、ドーナツの様に飛び出した輪状の展望台のようなものがあった。
その建造物に近づくにつれ周囲に人通りが格段に増えていったため、今は日の光も届かないような路地裏からホワイトスネイクを介してそのビルを観察している。防弾スーツとゴム弾が装填されていると思われる銃で武装した者たちが隊列を組んであたりを歩き回っているため、下手に近づくことができなかったのだ。
四つ折りのパンフレットを勢いよく開き、地図の項目で例のビルの名前を調べる。黄色に黒ぶちの大きなフォントで、『亜総義重工 本社』と書かれていた。
パンフレットを懐に直す。あのビルの名前がなんだろうと実のところどうだっていいのだ。むしろその本社周辺におけるこの、台地から内臓が数センチ浮き上がるような感覚。重力が小さいとでもいえばいいのか。私はこの感覚に非常におぼえがあった。
「……これは……ケープ・カナベラル、の……。」
天国に至るための方法のピースの一つ、北緯28度24分西経80度36分。地球上でもっとも引力が小さい場所、ケープ・カナベラル。エンポリオに殺され、私がこの街に突如として降り立ち、同じ街の中にケープカナベラルと同じような引力の低い場所がある……。そしてその中心にそびえたつ、巨大な亜総義本社。
頭の中にピンッ、と白い線のようなものが走る。私の足元にガラガラと音を立て、運命という道が出来上がっていくのを感じる。
「ああ、DIO……。すまなかった、憎きジョースター家にやられて天国を作り出せなかったなんて……。それに加えて、精神をやられかけて自分を見失いかけるなんて。……だが、私は自らの歩むべき運命を見つけることができた。」
拳を硬く握りしめる。
「天国だッ!! 私はこの世界を一巡させ、人類を幸福に導いて見せるぞッッッ!!!」
精神が高揚感に包まれる。運命に正しく導かれる感覚はえてして、私たちを健やかにさせてくれるものだ。ホワイトスネイク
のひび割れがパキパキと小さく音を立て、修復していくのがわかる。
私が宣言をして数秒ほど経った後、背後から何者かの足音が聞こえてきた。どしんどしんと無遠慮に歩く音の鈍さから、かなり体格の大きな者であろうということがわかる。事実、振り返った先には私より頭一つ分背が高く、お世辞にもやせ型とは言えない体系の武装した男が立っていた。
「なんだぁ~~? うすらトンカチなことを路地裏でガンガン叫びやがって……」
「…………」
「何とか言ったらどうなんだ? あ? てめーその恰好聖職者だな? この街にお前みたいな宗教モンが入り込むってのはどういうことかわかってんのかよォ~~~??」
「……知らない、と言ったら?」
「ぶん殴られて鼻くそつけられてゴミみてーに打ち捨てられても文句言えねーッてことだよくそボケーーッッッ!!!!」
大柄な男がその巨大な手を握りしめ、私の頬をめがけて勢いよく殴りかかってくる。全くこの街の、シケイ?とか言ったか……。武装していかにも人を守っていますヅラをしているのに、一番治安を乱しているのは自分たちではないか……。
「『ホワイトスネイク』ッッ!!」
男の拳が私の顔に当たる寸前で、ホワイトスネイクがその攻撃の軌道を逸らす。体制を崩しよろめく男の側頭部に向かって、ホワイトスネイクが勢いよく手刀を決めた。手刀が男の頭へ小指、薬指、中指と順にずぶずぶと沈んでいき、頭の中から何かを引っ張り出した。
「私のホワイトスネイクは、人の記憶とスタンドを
大柄な男が勢いよく倒れ込むことで、少しだけ地面が揺れる。
「ホワイトスネイクは強力だが……私の精神が弱っていることで少しだけパワーとスピードが落ちているし、何より何十人もの武装した人間を単体で相手することは少し厳しい。だから、お前の記憶ディスクを少しだけ見せてもらうぞ。あの亜総義本社とやらにまつわる情報を手に入れるためにな……」
男の記憶ディスクを私の頭に差し込む。こうすることで、男が持っている記憶をまるで自分の実体験かの様に感じることができるのだ。
膨大なデータベースを、暗闇の中手探りで物を探すように色々なものに触れながら目的の情報を探していく。
チッ! この男、この路地裏に小便しに来ていたのか……。
萬様……? 亜総義グループを立ち上げた男か……。この街に住む者はこの男を信仰せねばならず、他宗教の者はその信仰を脅かす可能性があるため市内へ入る際に厳重な審査が必要……、まるで独裁国家だな。この男は萬様というのを全く信仰していないようだが。
男の作家?
様々な情報が倒錯する中、ついに目当ての情報を発見する。亜総義本社内の警備についての情報だ。
総警備員数は低く見積もっても百人は超えている……。四~五人単位で動き、自動操縦型の銃を装備したロボットも脇に連れているな……。
一企業の警備にしてはあまりに厳重すぎる。真正面からぶつかり合うのが不可能なのは分かっていたが、この様子ではこっそりと忍び込むのもかなり厳しそうだ。
それでも何かないかと重箱の隅をつつくように記憶を探し回っていると、鬱陶しいというワードと共に街中を暴れまわる集団の記憶を掘り起こした。
街中を般若の面をつけて刀を持った侍のような恰好で走り回ったり、ストリートにいるチンピラのような格好にピエロのメイクをした若者……。そして、チェーンソーや実銃等の凶器をためらいなく振り回し、シケイと呼ばれるこの男のような警備員たちをなぎ倒す少年少女。非常に見覚えがある人物達だ。
そういった、亜総義市に対して不埒な行為を繰り返す者たちを、
記憶ディスクを頭から引き抜く。ホワイトスネイクの指で私に会ったという情報をかき消し、地面に寝転がる男の頭に戻した。私のことを覚えてもらっていても困るし、記憶ディスクを抜いたまま放っておけば衰弱死してしまうのだ。
「……抗亜か。私一人ではあの亜総義本社に入るのは無理だ。だが、彼らを上手く利用すれば……」
抗亜には三つのグループがある。
ストリートチンピラにピエロの化粧をした若者たちが『フラット』。
白装束に般若の面、日本刀を持った者たちが『
そして最後の、今日というかつい先ほどまで会っていたクマたちのグループが『ナユタ』。
この中の三つのグループのどれかに加われればいいが、相手は街中で巨大企業と兵士然とした装備の警備員相手にテロ組織まがいの行為を繰り返す連中だ。適当な相手を選んで大人数で囲まれては逃げ出すのにも労力を使う。
やはり選ぶとすれば、わずかにでも繋がりのある『ナユタ』だろう。アジトの場所もちょうどわかっている。
「しかし、いきなり仲間に加えてくれ、ですぐに通じる相手ではないな。」
彼らにとって有益な手土産を持っていくか、騒動の最中に偶然を装って協力関係になるのがいいだろう。まぁもしそれで駄目ならば……他のグループにナユタの情報を売り込んで入り込む手もある。どちらにしろ、今はナユタと関わりを持つのが最善の手だ。
導いてくれる運命と、その運命を歩くための道を見つけたならば、行動しない理由はない。裏路地の外から聞こえる人々の喧騒に背を向け、暗い路地裏の奥に向かって歩き始めた。
プッチが何か変じゃね? まぁそういうこともあるか……。
というかやっぱり彼は何らかの目的を持った瞬間一気に輝きだしますね。黒い……どす黒い邪悪の方面に……。
シケイの性格も原作より悪くなってますは、理由は多分あります。今後の僕がうまいこと考えます。プッチは屑を相手にする時輝いている。
活動報告にて細かい捏造設定や原作解釈、その他謝罪等を書き殴っております。
追記
本編中のプッチさんのホワイトスネイクが弱体化しています。
これが超至近距離、ホワイトスネイクさんの全力が出せるときのステータスです。
破壊力A→C スピードA→C 射程距離?(半径20mくらい)→?(半径10mくらい) 持続力A→A 精密動作性?→?(変化なし) 成長性?→?(変化なし)