プッチ in 亜総義市   作:男漢

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#32 GO! GO! HUNTING!! ~その2~

 ネズミが走った時の平均時速は10km/h。

 対して人間が走った時の平均時速は16km/h。プッチは並の人間よりも身体能力が優れているため、これより僅かに速い。

 

 故に、こういった直線の追いかけっこでは、人間のプッチに軍門が上がるはずなのだが。

 

 

 

「キャッ!! ねッ、ネズ――――」

 

 私の2、3メートル前方を走っている虫食いもどき。

 偶々歩いていた見知らぬ女性の頭部を撃ち抜き、続けざまに脚部を撃つ。ガクンとよろめき崩れ落ちた彼女の亡骸は、プッチが今まさに走ってきている方向へと倒れ込んだ。

 

「くッ!!」

 

 全力で駆けていたプッチは女性の身体と正面衝突し、体の動きを止めてしまう。

 その隙に虫食いもどきは走り出し、ぐいぐいとお互いの距離を伸ばしていく。近くの建物の壁に向かって弾を撃ち、跳弾でプッチを狙うことも忘れない。

 

「何人殺す気だ……!」

 

 跳弾を避けつつ、プッチは再び駆けだす。

 

 ネズミが人間を殺害することに躊躇いを持つか? 答えはNOだ。

 

 

 あの糞ネズミは道行く人々を殺害し、障害物としてプッチの動きを阻害することを覚えた。

 ナユタのハルウリ所を出てから既に三人は殺されている。

 哀れな通行人の人生は、頭部をグズグズの煮凝りにされるというあっけない終わりを迎えた。

 

 何度もあんな死に方を見ていると、流石に私も腹に溜まる物がある。

 

 人がグズグズの煮凝り状になる殺され方など、神が御身をかたどって作られた人間という存在を侮辱する行為に他ならない。

 薄汚い、用水路を這いまわるのがせいぜいのドブネズミ如きがしていい行いではないのだ。

 

 虫食いもどきの乱射。

 咄嗟に左側へ飛び退き、弾を回避する。

 

 虫食いもどきは小さく素早く、そしてあの毒弾のせいで近づくことすら困難だ。

 私のホワイトスネイクとは少々相性が悪い。

 

(……しかし、あのネズミを殺す方法がないわけではない、だがこの方法は余りにも………――違う!)

 

「クソッ!」

 

 吐き出す呼気と共に悪態が漏れる。

 

 何故私は躊躇をする。

 久しぶりに残酷な死体を見たせいで知らずの内に動揺しているのか?

 

 戦闘の最中にこんな……躊躇を覚えるほど、私は甘い人間だっただろうか。

 

 完璧な人間ではなかった。完璧とはDIOの為にある言葉だ。

 しかし完璧ではないにしろ、天国へ到達する切符を持つだけの資格はあったはずだ。

 少数の犠牲をやむなしとし、人々を幸福へ導く覚悟を持っていたはずなのだ。

 

 それを高々、数人の死体を見たぐらいで思考を乱されるとは……。

 

 私の横を延々と付いてくるホワイトスネイクをチラリと見る。

 顔に二本のヒビが走る白蛇。彼は、手の届かない場所をそっと眺めているような、そんな目をしていた。

 

 

 顔を逸らし、正面に視線を固定する。

 息を大きく吸った。

 

「……2、3、5、7…………素数だ、素数は私に勇気を与え迷いを消してくれる……」

 

 ドブネズミは更に道を駆けていく。

 道路の脇にある側溝へ入り込もうとするたびに、側溝の入り口を破壊することで防いでいるが、それもどこまで出来るか……。

 

 

 

 プッチがいつか、虫食いもどきが自分では追い切れない側溝へ逃げるのではないかと焦っていたが。

 その実、虫食いもどきも彼と同様に焦っていた。

 

 側溝の入り口はネズミの彼にとってもやや狭い。

 その上、入ろうとすると後ろから追ってくる男が執拗に邪魔をしてくる。

 少しでもつっかえてしまえば、すぐに仕留められるのは目に見えていた。

 

 しかしこのまま追っかけっこを続けていても、先に体力が尽きてしまうのはネズミの自分。

 体の大きさがまず違うのだ。何より人間は哺乳類の中でも随一の持久走力を持っている。追いつかれるのも目に見えていた。

 

 いちかばちかで側溝に飛び込むべきか?

 それともこのまま逃げ続けて、他の手段を見つけるべきか?

 

 二つの選択肢が浮かび上がる。

 長く走っていたせいで疲労が溜まり、腹の減っていた虫食いもどきが選んだ答えは。

 今浮かんだ二つのどちらでもない、最悪の三つ目であった。

 

 

 ドブネズミが突然方向転換をする。

 人がある程度通っている通りではなく、人が一人だけギリギリ通れるような狭い裏路地の中へと入っていった。

 

「狭い裏路地に……私の事を仕留める気か……!」

 

 細く長い一本道。横に回避することもできない。奴の砲台型スタンドが生きる絶好の場所だ。

 罠と言ってもいい。だが、ここから回り道をして奴を追いかけるなど不可能だ。

 

 例え罠と分かっていても入るしかない。

 足を踏み入れ、ネズミを追いかける。

 

 室外機とパイプの入り組んだ路地は非常に進みづらく、走ることすらままならない。

 心は急ぐものの、物理的な障壁が多く必然的にスピードが遅くなる。

 だが虫食いもどきはパイプの下をすいすいと潜り抜け、路地の向こう側へと楽に走っていく。

 

 

 ……おかしい。

 この場所は奴のスタンドにとって絶好の攻撃スポットのはず。

 なのに奴は攻撃をするどころか、前へ前へと行きたがっているように見える。

 

 私を殺すことを諦め、逃げに徹することにしたのか?

 

 何を企んでいるかは分からないが、奴を見失うことが不味いのは分かった。

 ホワイトスネイクの手刀で前方にある邪魔なパイプを全て叩き折る。

 断面からは熱い煙が噴き出すが、気にも留めず足を進める。

 

 日の差さない路地裏から日の当たる大通りに出るせいか、視界が一瞬真っ白に染まる。

 強い日光に目を細めながらも足を進める。

 

 真っ先にプッチに入ってきた情報は、音だった。

 大勢の人が歩き、会話をする、喧騒の音。

 次いで目に飛び込んでくるのは、いつか見た道の景色。

 

 

 私がこの亜総義市に来た時に座り込んでいた『()()()()()』だった。

 

 

「ッ……ここは!?」

 

 

 めぐみ通り。

 駅前から伸びる商店街で、平静以前は活気に満ちていた……と紹介されていたのを何処かで見た記憶がある。

 この文面から、普段は閑散とした商店街であろうことが伺える、のだが。

 

 なぜか今日、それも今、めぐみ通りには大勢の人が歩いていた。

 理由は分からない。だが、恐らく何かのイベントが行われていたりするのだろう。

 

 しかしここまで人通りが多いと、虫食いもどきにとってはかなり危険なはずだ。

 人間の体重はどれだけ軽くても40キロはあるだろう。

 そんな物が大量に歩いている場所を、するすると器用に進んでいける物だろうか? もし間違って踏まれでもすれば、ネズミの足や腕程度は簡単に折れる。

 

 それに何より。

 

 

「イヤ―――――ッ!! ネズミがいるわァァ――――ッ!!!」

 

 

 これだ。

 足元をするすると這っていく汚らしいドブネズミ。

 そしてこれだけの人間が居るのだ、一人ぐらい無駄にヒステリックで過剰な反応をする女性が居たっておかしくはない。

 彼女の声に呼応するように、ネズミの周りに居た人間が「おおっ」と声を漏らしながら距離を開ける。

 

 四十キロ以上の重りが無数に上から降ってくる上に、自分のおおよその位置が常にバレてしまう。

 無論、私も人ごみを掻き分けて進まねばならないというデメリットはあるが……それを加味しても不利になっているのは奴の方だ。

 

 ネズミが考えなしに逃げ込んだだけなのか、もしかすると、もっとおぞましい何かか……。

 

 

 奴が逃げるのを人ごみを掻き分けながら追いかけ、十数メートル進んだ頃だろうか。

 

「あれ? プッチじゃん。何だ、案外こういうの好きなの?」

 

 突然、背後から声を掛けられた。

 すぐに後ろへ振り替えると、そこに居たのは。

 

「――キラキラッ!! 貴様一体何をしているッ!?」

 

「え? いや、今日限定のスイーツがここで売られるっていうから買いに来ただけだけど…………」

 

 ピンク色の髪をツインテールにしているキラキラ。黄色の肩だし服にこれまたピンク色の上着を羽織っている。そして右手には茶色の紙袋。

 困惑した表情を見るに、本当に偶々ここへ訪れていただけのようだ。

 

 そのキラキラの後ろからすっと顔を出す、彼女よりもう一回り小さな少女。

 緑色の髪に特徴的なヘッドホン、そしてどことなく頬がやつれているように見える。生気がない、と言うべきか。どこかに毒を喰らったのか。

 

「おおプッチ、久しぶりであるな……。キラキラに付いて来たのはいいものの、物凄い人の数で目が回って、私は少しナイーブである……」

 

 ただ人酔いしているだけのようだ。

 そんなことはどうでもいい。

 

 少々強めにキラキラの肩を掴む。

 彼女は動揺した表情を見せるが、そんなことお構いなしに言葉を放った。

 

「今すぐアジトに帰るんだ。詳しいことは説明している暇がないが、とにかく―――」

 

 

 そこまで言ったところで、虫食いもどきが怪しげな動きをしていることに気づいた。

 足元を這うネズミに皆が気づいたのか。人々は汚らしいドブネズミから2歩下がり、人ごみの中に綺麗な穴が出来ていた。

 

「何あれ……ネズミ?」

 

 スタンドを持っていないキラキラにはただのドブネズミにしか見えないだろう。

 だが私には、今奴が何をしようとしているのかが、くっきりと見えた。

 

 

 

 ――――ガコンッ!

 

 

 

 虫食いもどきがスタンドの砲台を一回転させ、発射体勢へと変える。

 だが奴が撃てるのは一発ずつ。

 この人の壁で阻まれている以上、私たちに当たる訳が――――。

 

 

 

 ――――――ガコンッ!!

 

 

 

 虫食いもどきのスタンドの砲台が、両サイドから銃身を挟み込むように『()()()()()』変形した。

 先ほどのスナイパーライフルのような、一本の長い銃身ではない。

 

 緑がかった何本もの銃身が輪状に並んでいる。その姿はまるで『()()()()()()』だ。

 やがてそれは、『()()()()()()』と嫌な音を立てて回転し始め―――。

 

 

 

 バコンッ!と近くに会ったレストランのテラス席用のテーブルを蹴り倒す。

 

「こっちだッ!!」

 

 キラキラとアンテナの腕を掴み、倒したテーブルの影に飛び込むように身を隠す。

 周囲の人間に冷ややかな視線を向けられるが、どうでもいい。

 自身より小さなキラキラとアンテナを纏めて抱きしめるように三人で身を縮こまらせ、テーブルに背中をぴったりとつける。

 

 突然の行動に、腕の中の二人が抗議の声を上げる前に。

 

 

 

 

 ―――ガガガガガガガがガガッガガガガッガガガガ!!!

 

 

 

 機関銃の音が鳴り響いた。

 恐らく、スタンド使いでないキラキラとアンテナには聞こえなかったろうが――その次に聞こえてきた人々の阿鼻叫喚の声で、すぐに異常事態を察したようだ。

 

 辺りに血の匂いが充満し始める。

 無数のうめき声も一緒に聞こえることから、ほとんど人間は死に至るほどの怪我は負っていないようだ。

 尤も、体の一部をグズグズに溶かされながらも生きるというのは、痛みも精神的なショックも計り知れないだろうが。

 

「今のって……も、もしかしてスタンド……? ひ、人が死……」

 

 キラキラが顔を青ざめながら言う。

 アンテナも先ほどの生気のなさから更に顔色を悪くし、まるで病人のようだ。

 

「スタンド使いだ。今の攻撃で人が死んだかは分からないが……少なくとも5人は既に殺されている」

 

「ぷ、プッチ……? キラキラ……? す、スタンドって……?」

 

「これ以上守っている余裕はない。早くここから去るんだ」

 

 アンテナが白い顔で疑問の声を上げるが、一から説明している余裕はない。

 腕の中から二人を離し、早く逃げろと手で促す。

 

 しかしキラキラは逃げようとせず、右手に持っていた紙袋をひっくり返した。

 中に入っていた色とりどりのスイーツが地面に散らばり、血液と絡み合う。

 そうして、茶色の紙袋を私に差し出してきた。

 

「これ、顔隠し用の袋……。多分、私、これぐらいしかできないから……」

 

「……十分だ。」

 

 紙袋を受け取ると、キラキラが腰の抜けたアンテナの腕を掴んで持ち上げる。

 悲鳴を上げて逃げる人の塊に上手く混じり、足早にこの場から去っていった。

 

 意を決し、テーブルの影から顔を出して辺りの様子を伺う。

 辺りは見るも無残な状況になっていた。

 十数人の負傷者がうめき声をあげながら地面に倒れ、グズグズの負傷した部分を手で抑えている。だが手で擦る度に肉が崩れ、そこから血が溢れ出してしまっていた。

 負傷者はすぐに気絶してしまった。まあ無理もない。

 死人もいる。

 運悪く頭に弾が当たってしまったのだろう。いや、運がいいと言うべきか。脳が一瞬で溶け、痛みは全く感じず死ねたのだから。

 

 その死人の近くに、虫食いもどきはいた。

 ドロリと地面に溶け出した脳漿を、口元を真っ赤に染めながら、ずるずると啜っていた。

 

 ネズミは、十数時間、何も食べなければ餓死すると聞く。

 つまり、常に何かを食べていなければならないのだ。

 だからネズミは何でも食べる。例えどんなに不味いゴミであろうと栄養があり腹に溜まるのならば。

 

 しかし、この少し太ったドブネズミは。

 人間を喰って笑っていた。

 散らばる脳漿を鼻でかき分け、中身を引き摺り出し、ネズミらしからな残虐な笑みを浮かべていた。

 

 思えばナユタのハルウリ所でも妙な殺し方をしていたのを思い出す。

 頭を潰し、そこから足、腕、胸を順にグズグズにして殺すような……。

 あの時は拷問でもして楽しんでいたのか?と考えていたが、そうではない。

 

 奴は…………

 人間の『最も美味い場所』を探していたのだ。

 

 

 そして今、人間で最も美味いと奴が判断したのだろう脳漿を啜り、笑みを浮かべている。

 

 ……ダメだ、こいつは。

 

 スタンド使いのネズミだからとか、そう言う問題じゃあない。

 

『自分の欲さえ満たせればいいという考え方をする生き物なぞ、この世に存在してはいけない。』

 

 

 

(………………私、のこと…………)

 

 

 

 脳裏によぎった余計な考えを踏みにじり、消し去る。

 ふざけたことばかりが頭に浮かんで仕方ない。今の考えの一体どこが……クソ。ふざけた考えだ。

 

 虫食いもどきが食事を終える前に、先ほど隠れていたテーブルを手に持つ。

 

 

 ともかく、奴のスタンドのおおよその種は割れた。

 

 あの二段階目の変形機構……『ガトリング砲』が奴のスタンドの正体だろう。

 

 詳しくは分からないが、秒間50発はくだらないだろう連射力。

 そして、その全ての弾には勿論毒が含まれている。

 

 人、生き物の密集しやすい栄えた街では無類の強さを誇るスタンドだ。

 

 しかし、一発一発の威力はそう高くはないらしい。

 この大理石でもない安っぽそうなプラスチックテーブルですら十数発の弾を受けても、ヒビすら入っていない。

 

「つまり、回避するか物で弾を受け止めれば問題ない……か。クソ、結局対処方法は変わっていないじゃあないか……!」

 

 

 余りに強力すぎる連射力に歯噛みする。が、そうも言ってられないようだ。

 虫食いもどきが食事を終え、口元から「ジジッ」と声を漏らしながらこちらを向いた。

 

(あの糞ネズミを殺すのに、もはや手段は選んでいられない、か……!)

 

 奴の連射力はホワイトスネイクには対処不可能、反則技に近い。

 ならばこちらも、多くの犠牲者が出るが……『()()()』を使うほかない。

 尤も、人が軒並み逃げてしまった今では使えない方法ではあるが……。あの間抜けどもが来るまで待つしかあるまい。それまでに倒せるのが一番いいのだが。

 

 

 虫食いもどきがガトリング砲を構える。

 それと同時にテーブルを盾代わりに前に持ち直し、奴の背後に回るように大きく円をかいて走り始めた。

 

 瞬間、走る轟音。

 すさまじい勢いでテーブルに突き刺さる毒弾。防げないほどの衝撃ではない。

 そのまま円を描くように走り続ける。

 私の後を追いかけてくる毒弾の嵐。連射力だけは大した物だが砲身の旋回速度はそうでもないらしい。

 

 ネズミの後ろに回り、ホワイトスネイクで殴り殺そうと襲い掛かる。

 

 白蛇でラット本体を叩こうとした瞬間、あらぬ方向に向かって放たれる毒弾の嵐。

 悪あがきと無視しようとしたが、すぐに上半身を引く。

 私の身体が先ほどまで会った場所に降り注ぐ毒弾。こいつの弾は跳弾をするのだった。

 

 一歩二歩後ろへ引くと共に、ガトリングの先をこちらへ向ける虫食いもどき。

 テーブルで弾を受けようと前へ構えたその時。

 

 弾が発射されると共に、奴がスタンドの砲身を勢いよく振り始めた。上下左右、滅茶苦茶にだ。

 

「何をしている……違う、跳弾狙いかッ!」

 

 無茶苦茶に振られた砲身から放たれる弾は勿論、無茶苦茶な方向に飛んでいき。

 100は楽に超える毒弾の全てが地面、建物の壁、あるいは重力に負けて自由落下をしてくるなど、360度あらゆる方向から迫ってくる。

 まるで鳥かごの様だ。

 虫食いもどき自身は小さい体を生かし、人間の死体の影へと隠れている。

 

「運命と神は時に人へ試練を与えるッ! そして私がこれを突破できない道理はないッ!! 分かったかこの糞便にも劣るドブネズミがァ―――ッッ!!!」

 

 

 手に持っていたテーブルの足をへし折る。

 机の部分を本体の私が上に構え、更に二つに割った足をホワイトスネイクが両手で持つ。

 

 全力で射程距離外の後方へ跳ね飛びながら、上から迫る弾は机で防ぎ、それ以外から迫る弾は足で弾く。

 100発以上と言っても大半は私と関係のない場所へ放たれた弾だ。

 私に向かってくるのはせいぜい30~40発、それが数秒以内に迫って来るだけだ。ギリギリ弾けないほどではないッ!

 

『ウシャァァアアアアァアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

 ホワイトスネイクが雄たけびを上げる。

 だが弾ききれなかった毒弾が左腕を掠め、一瞬で肉が服ごとグズグズの肉塊になってしまった。

 

「ぐぅあっ……」

 

 コンクリートの地面に背中から叩きつけられる。

 左腕が火で炙られているかのように熱い。右手で軽く触れるとボロッと肉が崩れ、血がしとやかに流れ出る。

 左手が動かせるので、骨までは達してはいないようだが……。

 

「この……ネズミ如きが……!」

 

 先の一斉放射で、気絶して地面に倒れていただけの人々も全て死んだようだ。

 虫食いもどきは汚らしい笑みを顔に浮かべ、ガトリング砲をプッチに向ける。

 痛みに耐えながらも回避行動を取ろうとした瞬間。

 

 

 すさまじい勢いで突っ込んでくる、何台もの黒塗りの装甲車。

 そして中から飛び出してくるのは、銃を構えたシケイ達。

 

「シケイだ! 一体何が起こった!!」

 

 すぐに近くで倒れている、紙袋を被ったプッチに近づいてくる一人のシケイ。

 虫食いもどきはまだ笑みを浮かべている。所詮装備を固めた所で人間は人間。目の前の男と同じ、自分の前に這いつくばる生き物でしかない、と考えているのだろう。

 

「ここで何が起こったたか、だと……?」

 

 プッチは、近づいて手を差し伸べてくるシケイの手を掴み。

 ぐいっ、と自分の方へ引き寄せた。

 

「違うな。今から『()()()』んだ……」

 

 ホワイトスネイクの右手にいつの間にか握られていたのは、空のディスク。

 『それ』が、シケイの頭部へと差し込まれた。

 

 一度、大きく体を痙攣させるシケイ。

 明らかに様子は普通ではない。両手で構えていた銃はだらんと下げた右手だけで持ち、しかしトリガーに指は掛けている。

 

「!? おいお前、一体そいつに何をッご――」

 

 続いて二人目。ホワイトスネイクによって空ディスクが差し込まれた。

 

 三人目。

 四人目。

 五人目。

 

 虚ろな目をして、だらんと銃を持つシケイが次々と増えていく。

 

 虫食いもどきは背筋をつーっと這い上るような悪寒を感じ始めた。

 

 すぐさま余裕を解き、プッチに止めを刺そうとするが――いつの間にか、彼の姿は忽然と消えていた。

 

 

「ネズミ如きに私の言葉が理解できるとは思えないが――念のため説明しておこう。

 私の能力には、空ディスクに命令を書き込み、対象に差し込むことで、その命令通りに相手を動かせるというものがある」

 

 

 どこからか声だけが聞こえてくる。

 

 全てのシケイにディスクが差し込まれた。

 おおよそ30人程度だ。

 

 

 最後の一人が痙攣を終えた瞬間、ネズミの居る場所に向けて、銃の一斉放射が行われた。

 いくらゴム弾と言えど、30人以上の一斉放射だ。

 虫食いもどきが隠れていた崩れかけの死体など一瞬で吹き飛び、彼は慌ててその場から飛び出し逃げ始める。

 

 近くの金網が張られた用水路の中へ逃げ込もうとするが、何処からかテーブルの足が投げられ突き刺さった。

 間一髪で回避したネズミ。

 

 

「私が書き込んだ命令は『痛みを感じず、何も考えず、ネズミを殺せ』だ。これ以上なくシンプルな命令だが……

 貴様にとってはこれ以上なく厄介だろう」

 

 

 シケイの銃弾が切れた。

 彼らはマガジンを変えるでもなく、かといって新しい銃に持ち帰ることもなく。

 その場に銃を投げ捨て、虫食いもどきに向かって一斉に駆け始めた。

 

「ヂッ!?」

 

「貴様のスタンドの弱点はもう一つあったな。それは……連射力にスタンドパワーを裂きすぎたが故の、一発一発の威力の低さだ。

 今まで殺してきた人間は全て、最初に頭を溶かして即死させていたな。しかしそれは裏を返せば……即死させないと反撃される程度には威力が低い、ということでもある」

 

 

 虫食いもどきがガトリング砲をシケイに向かって放った。

 シケイの持つ装備がいくら頑強と言えど、防げない箇所はある。腕と首と足だ。

 腕と首に毒弾が突き刺さり、肉が一瞬で溶けていく。

 

 だが、プッチが書き込んだ命令は『痛みを感じず、何も考えず、ネズミを殺せ』だ。

 彼のディスクは五感の一部である痛覚すらも遮断できる。

 

 そして痛覚がないシケイは特にうろたえることもなく、自身の怪我がまるでない物のように、ネズミに向かって突進し続けてきた。

 

 焦る虫食いもどき。

 咄嗟に足を潰し、動きを止めさせる。

 スライディングの要領で突っ込んでくるシケイを横っ飛びで回避し、上を見上げた。

 

 今と同じ、痛みを感じず突っ込んでくるシケイが、まだ30人以上――――。

 

 

「ヂッ、ヂィィィイィィイイイアアアアアアッ!!!!」

 

 

 ガトリング砲で先頭のシケイの足を潰す。

 しかし、そいつは腕で這ってでもこちらに近づいてくる。頭を撃つがヘルメットで弾かれて仕留められない。諦める。

 

 次は二人突進してくる。

 全身をくまなく掃射して人の形をした肉塊に変貌させ、動きを止める。

 が、彼らが倒れ切る前に、次の者たちが突っ込んできた。

 

 図らずとも彼らの死体を盾のように構え、突進してくるシケイ達。

 

 虫食いもどきは走り回り、シケイを翻弄するように、弾を発射し続ける。

 足を潰される者。腕を潰される者。首を潰される者。はたまたその全てを潰される者。

 

 しかしシケイ達は死を迎えるまで、どこを攻撃されようが止まらない。

 圧倒的な数の暴力。

 先ほどプッチと一対一で追いかけっこをしていたのとは訳が違う。

 

 それに、用水路の中へ逃げ込もうとすると、何処かからテーブルの脚や金属片が投げつけられる。逃げることはできない。

 

 

 そうして何度も何度も逃げ回りつつシケイを撃っているうちに。

 先ほど自分が殺した人間の肉片で、後ろ脚を滑らせてしまった。

 滑らせると言うことは、自身の回避行動が1、もしくは2秒ほど遅れてしまうと言う事。そして、この場での1、2秒とは、生死を左右するには十分すぎる時間だった。

 

 ネズミの脇腹に、足の甲が叩きこまれる。

 体重差数十倍以上の生き物から放たれる蹴り。本体はただのドブネズミである虫食いもどきに耐えられるはずがない。

 

 あばらが折れ、壁に叩きつけられる。

 奴が血をぼたぼたと吐くも、シケイ達は一切止まらない。傷だらけの身体を引きずり、全員が虫食いもどきに飛び掛かった。

 

 虫食いもどきの最後は、案外とあっけない物で。

 シケイ達のひたすら殴り、蹴り続ける音に紛れ、悲鳴すら聞こえなかった。

 

 

 さて。

 負傷したシケイ達はみな、何処かしらの体の重大な器官に傷を受けている。

 腕と太ももに走る大動脈、首の何処かだ。そしてそれらの器官に傷を受けるということは、簡単な話、致命傷という訳で。

 

 数分も経たぬうちに。

 命令を遂行し動きを止めたシケイ達は、失血の余り地面に倒れ、そのまま永遠に動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

「…………ッ……はぁ……はぁ……」

 

 虫食いもどきとプッチが戦っていたすぐ真横にあったレストラン。

 その裏に置かれていた青いプラスチック製のゴミ箱の中に、プッチは隠れていた。

 

 ホワイトスネイクの視線越しにすべてが終わったことを確認し、ずるずると、ゴミ箱の中から這い出る。

 

「私が、ゴミ箱の中に、入る羽目になるとは……ぐぅッ……!」

 

 ホワイトスネイクがシケイ達にディスクを差し込んでいる時。

 虫食いもどきの視線が一瞬逸れたことをプッチは見逃さず、咄嗟に近くに会ったゴミ箱の中に隠れたのだ。

 

 私は隠れ、ホワイトスネイクはネズミの上空に配置。

 そうして、先ほどのシケイと虫食いもどきの戦いを全て見守っていた。ちなみにだが、戦闘中に声を出していたのはホワイトスネイクだ。

 

「クソ……。ホワイトスネイクが本来の状態であれば、こんな力押しで倒す必要などなかったものを……!」

 

 今回プッチがやったことは、結局、数の暴力に物を言わせた力技だ。しかも非スタンド使いを使った、死を前提とする作戦の。

 

 結果として50人以上の死人を出したこの戦いは、亜総義市全体に少なからずの影響を与えるだろう。

 

 それがどんな影響なのかは分からないが……。

 

 

「今は、ここを去るか……」

 

 

 どんな影響を与えるかを考えるのは、腕に包帯を巻いてからでもいいだろう。

 負傷した左腕を抑えながら、プッチは、ゆっくりとその場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




攻略方法がゴリ押しすぎんだろ……
スタンドバトル3話続けるつもりだったけど2話で終わったし……



虫食いもどき――
人間に捕まる程度なので、本家虫食いより知能は低い。
普通のドブネズミより少しふとっちょなネズミ。都会である亜総義市で暮らし、レストランなどの廃棄などを漁って食べていたため、舌がかなり肥えている。
相当なグルメであり、人間の一番おいしい部分を調査するため、グズグズの肉にする部位を次々増やしていくという残忍な殺し方をしていた。腐った肉は勿論、腐りかけた肉も口につけない。
スタンド使いになったことで思考が変質したのか、自分より弱い人間は自分の腹に美味しく収まって当然というクソの塊のような考えをしている。
生態系を全て破壊しつくしかねないネズミであり、自分さえよければ他は全てどうでもいいと考えている。この世に存在する生き物がしていい考え方ではない。
食べる時に抵抗されると面倒なので、特別な理由がない限り最初に人間の頭を溶かして殺す。(一発で行動不能にできるほど毒の威力が高くないため)

スタンド ラットもどき――
【破壊力-C/スピード-C/射程距離-D/持続力-B/精密動作性- E/成長性 - C】
本家虫食いのスタンドよりも銃身が短い。射程距離も短い。銃の旋回速度も低い。一発ごとの毒の威力も若干低い(原作虫食いは数発で左半身全てを溶かせるが、本スタンドは数発打ち込んでも左腕を全て溶かすのが精々)。
だがガトリング形態にスタンドを変化させることで、弾の連射が可能である。
その速度は凡そ秒間50発。ミニガンと呼ばれる機関銃とほぼ同じ弾速だ。
そしてスタープラチナなら、真正面から完封できる速度でもある。
結局のところ、このスタンドに対してはゴリ押しが一番の正攻法なのかもしれない。
このスタンドが原作虫食いと違った形で発現したのは、きっと、タチの悪い人間の三人組に捕まったからだろう。
「この三人を纏めてぶち殺してやりたい」という強い気持ちが、異様な連射力を持つスタンドを発現させた理由かもしれない。






~お知らせ~
8月に大切な予定があり、最近はそれに向けての準備で忙しく、本作品を書く時間が中々取れない状況にあります。
このまま時間が取れなければ、段々と投稿期間が空いていき、文章の質もより低下していってしまいます。
ですので、一度8月まで完全に更新をストップし、その予定の方へと全力を注ぎたいと思います。
予定が終わり次第すぐに更新を再開しますので、今から3か月ほどの更新停止を、どうかご容赦くださいますようお願い申し上げます。
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