時刻は午前12時。
照りつける太陽の光の下、プッチは小腹が空いたなどと考えながら、亜総義のとある大通りを歩いていた。
そんな彼の右手には『亜総義BOOK』と書かれたレジ袋が握られていた。
プッチはよく暇つぶし代わりに本を読む。そして今持っている本を全て読み終わってしまったので、書店に赴き、新たな本を数冊購入してきたという訳である。
他のスタンド使いも抗亜クランも、まだ真昼間から攻撃してくるほど過激な方法は取らないだろうと、周囲への警戒もそこそこに道を歩いていた時。
「あん? プッチじゃねーか」
「……虎太郎。クマ」
道の向こう側から歩いてきた、クマと虎太郎の2人と遭遇した。
クマが悩ましい表情で組んでいた腕を解き、プッチに話しかける。
「ちょうど良かった。少し、選ぶのを手伝ってくれ」
「? 何をだ」
「アンテナのご機嫌取りのプレゼントだよ。こいつ、この前のヒトカリでアンテナのコンピューターを捨てちまったからな」
それを聞いて、プッチは心の中で納得する。
芽生寮で一体どんな事があったのかは、当然プッチもクマから聞いた。そしてその際に、スタンド使いから逃げるために、アンテナの腕に付けていた機械を奪ってそこに置いてきたとも。
プッチは少しだけ考えた後、クマに言う。
「……私はそういう事に詳しくはないが。以前と同じ物を買って渡せばいいんじゃあないか?」
「それはもうやった。だが、俺が捨てた前の物には、アンテナの個人的な趣味のデータが色々と入っていたそうでな。まだ許してもらっていない」
悩まし気にそう言ったクマ。
状況が状況であったから仕方ないとはいえ、アンテナは年齢も精神面もまだ子供、それだけで溜飲が下がる物ではないだろう。プレゼントで怒りを鎮めるのは妥当な策と言える。
虎太郎が腰に手を当て、プッチに言葉を放つ。
「神父ならそういう、人の怒りを鎮める方法とか知ってるんじゃねーの?」
「神父とは人の悩みを解く助言をし、神の教えを広く人々に広める神職。怒りを鎮めるのは副次的効果だ。アンテナが私の前で1時間ほど、落ち着いて座っていられるなら神の教えを説いてもいいが」
「無理だな。絶対に途中で飽きる」
だろうな。今のはプッチもそう分かっていて言った。そもそも彼女は自分に罪など感じない性格、いくら説いても無駄だろう。
となると、彼女の怒りを解くために、プレゼントの内容を考える事になる訳だが……。
「……とは言うがな。私に相談されても、女性にプレゼントなど贈った事もない。余り力にはなれないぞ」
「女にプレゼントを贈った事もねーのか? これだから童■はッぐぉ―――」
にやけ面の虎太郎のみぞおちにホワイトスネイクのパンチを打ち込み、地面に沈ませた。
クマが内心で『今のは虎太郎が悪い』と腕を組み、頭を悩ませる。
「今は一人でも多くの意見が欲しい。悪いが、付き合ってくれないか?」
「……まあ、いいだろう」
顔を青白く染めて倒れ伏す虎太郎を無理やり持ち上げ、プッチはクマの後ろに続く。
この大通りには小物を売っている店も多かった。少し歩くが、大きなショッピングモールもある。大抵の物は買い揃える事が出来るだろう。
まぁ問題は、無数にある品の中から、アンテナの怒りを鎮める品を選べるかどうかだが。
3人は女性の怒りという古来から続く解決策のない問題を解決するため、歩いて行った。
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昼食も取らずに歩き回った男3人組は、結局、『これだ!』というプレゼントを決める事が出来なかった。
そこでプッチが代案を上げる。
『それぞれが貰って嬉しい物を、3つ全て贈るのはどうか?』と。
プッチ自身、プレゼントの極意は自分が貰ってうれしい物……という怪しい本からの受け売りを言っただけなのだが。
アンテナの怒りを鎮めるためなのに自分が欲しい物を贈ってどうするんだ、という葛藤はあった。
しかしこのままでは埒が明かないと、クマはその意見に同意するのだった。
そして現在―――空も寿色に染まり、カラスも寂しそうに鳴く、午後5時の頃。
ナユタのアジトのすぐ外で、虎太郎とプッチはこそこそと動いていた。
「で、中はどーなってんだ?」
「待て……上手く声が聞こえるところを探している」
ホワイトスネイクは感覚共有型のスタンド。
壁の外からスタンドを飛ばし、クマがアンテナにプレゼントを贈っているところを隠れて観察しようとしているのだ。
スタンドから声と視界がプッチに伝わる。
『アンテナ。その……少し、いいか』
『……………ぷいっ』
彼女はクマのことを見るなり、わざとらしく、プイッと顔を背けた。
たまに虎太郎に叫ぶように怒っているところを見るに、どちらかというと、怒っているより拗ねていると言った感じだが……。
『この間のヒトカリで、無理矢理コンピューターを奪ったのは……本当にすまなかった』
そう言って、クマが包装された3つの箱を彼女に差し出した。
アンテナはチラリと彼の方を向き、その箱に視線を落とす。
彼女は3つの箱を受け取り、クマの顔の方をチラッと見やると、A4用紙ほどのずっしりとした重みのある箱のリボンをしゅるるっと解いた。
壁の外で、プッチから中の状況を聞いている虎太郎が尋ねる。
「誰のを一番最初に開けたんだ?」
「あの箱は……私が選んだものだな」
ペリペリと箱を開けた中に入っていたのは。
赤や緑などの色とりどりの装飾が美しい、クッキーの詰め合わせだった。20枚以上は入っており、これを全て食べきるのには一苦労かかるだろう。
「クッキーか……。ド定番って感じだな」
「貰って嬉しくない物ではないだろう。いくらでも使い道はある」
小腹が空いたときに自分で食べる、来客用に出す。食べ物なだけに賞味期限が心配だが、それも大して問題はあるまい。
アンテナは箱の中身に少しだけ目を輝かせた後、ぶんぶんと首を横に振り、再びツンとした表情で顔を背けた。
好感触だった気はするが、どこかお気に召さなかったらしい。
次に彼女が手に取った箱は、12~14センチほどの縦長の箱だった。
虎太郎は静かに顔を横に振っているため、どうやらアレはクマが選んだプレゼントのようだ。私も中身は知らないため、ホワイトスネイクを近づけて注視する。
リボンが解かれ、パカリと開けた中に入っていたのは。
シックな黒の色が美しい、細身のボールペンであった。見た目の美しさでなく、使いやすさを優先させた一種の機能美を感じさせるそれは、クマらしいプレゼントとも思えた。
アンテナはそのボールペンを見て、少し眉間にしわを寄せ、ギュッと口をすぼめた。
『…………むむ』
『気に入らなかったか?』
『そういう……訳じゃないのである……』
彼女は少しだけ気まずそうに顔をそらしたが、やがて決心したような表情で、クマの方に向き直り。
『ご、ごめんなさい!!』
と頭を下げたのだった。
突然の謝罪により困惑しているクマに、アンテナは説明を始めた。
曰く。
コンピューターを奪われた事に、最初は本当に怒っていたこと。
でもクマから謝られた時に怒りは消え、そのあとは自分の感情に振り回される彼の姿が面白くて、わざと怒り続けているフリをしていたこと。
しかしそんな演技を続けるうちに罪悪感と、騙している事がバレたら怒られんじゃないかという不安が芽生え、演技の辞め時が分からなくなっていたこと。
それらの事を説明し終わった後、アンテナは再びクマに向かって、少しオーバー気味に頭を下げた。
『……そういう事だったのか。』
『申し訳ないのである……』
『いや、あの時は非常事態とはいえ、一言断るべきだったのは確かだ。――――こちらこそ、すまなかった』
両者の間に和解の空気が流れ始めたのを確認し、意識をホワイトスネイクから本体の方に戻すプッチ。
横にいる虎太郎が少し呆れた様子で首を振りながら、愚痴をこぼした。
「何時間も選びまくって、結局オチがこれかよ。これじゃあ歩き損だぜ」
「……そういえば、虎太郎。お前は一体、プレゼントに何を選んだんだ?」
プッチがふと思い出したように、彼に尋ねた。
アンテナが持つプレゼントの箱は3つ。そしてプッチと、クマの分は既に開封された。自ずと、中身不明の最後の1つは虎太郎の物になる訳だが……。
「俺の奴? そりゃあ、俺が貰って嬉しいもんだよ」
「だからそれが何だと聞いている」
虎太郎がやけににやけ面で話すので、プッチは少し、嫌な予感がした。
アジトの中ではクマとアンテナが和気あいあいと話し、最後のプレゼントの封を開けようとしている。
「おいおいプッチ、男が貰って嬉しい物なんて1つしかねーだろ? 『淫乱年上お姉さんの■■■■■■■』っつービデオ―――――」
「―――――ホワイトスネイクァァ―――ッ!!!」
ホワイトスネイクの手刀が、一瞬でアンテナの持つ長方形のプレゼントをバラバラに叩き折った。
特に伏線もないコミュ回。
虎太郎は暫く下ネタを口にするのが憚られるほど酷い目に合わされました。